歯科用語集
2025年10月28日

下顎運動

「下顎運動」とは?歯科用語の解説と症例を紹介

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定義・語源

下顎運動とは、下顎が上下左右に動くことを指し、咀嚼や発音、呼吸などの機能に重要な役割を果たす。語源は「下顎」と「運動」の組み合わせであり、下顎の動きに関連する生理的な現象を示す。下顎運動は、主に咀嚼筋の収縮によって制御され、顎関節の可動範囲に依存する。下顎運動の分類には、開口運動、閉口運動、左右運動、前後運動が含まれ、これらは臨床的な評価や治療において重要な指標となる。


臨床における位置づけ・判断基準

臨床において下顎運動は、咀嚼機能や顎関節の健康状態を評価するための重要な指標である。下顎運動の異常は、顎関節症や咬合不全などの問題を引き起こす可能性があるため、歯科医師は患者の下顎運動を観察し、適切な判断基準を設ける必要がある。具体的には、下顎の開口量や運動の滑らかさ、痛みの有無などを評価し、必要に応じて治療計画を立てることが求められる。これにより、患者の咀嚼機能の改善や痛みの軽減を図ることが可能となる。

関連用語・類義語との違い

下顎運動に関連する用語には、顎関節運動や咀嚼運動がある。顎関節運動は、下顎が顎関節において行う動作全般を指し、下顎運動はその一部である。咀嚼運動は、食物を噛み砕くための特定の下顎運動を指し、より狭義の意味を持つ。これらの用語は、下顎の動きに関連するが、それぞれの文脈において異なる側面を強調しているため、使用する際には注意が必要である。

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「カクッ」と鳴っていた顎の音が、いつの間にか鳴らなくなった。患者からそう聞けば、良くなったと受け取りたくなる。1Dの「25分間」ミニセミナー「【矯正治療】顎関節と矯正治療の関係を一挙解説します」で、矯正歯科の講師が示すのは逆の可能性だ。関節円板が前にずれたまま、口を開けても元の位置に戻らなくなると、口を開けても閉めても音は鳴らなくなる。講師はこれを、治ったように見えて円板がさらに前に落ちた状態だと説明する。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、顎関節症の基礎知識と診査の手順を、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。顎関節は、骨と骨のあいだに円板を挟んだ関節講師はまず、関節は骨だけでは動かず、骨に付く筋肉が働くことで動く、という基本から入る。そのうえで顎関節の特徴として、骨と骨のあいだに関節円板があること、左右の関節が下顎でつながっていること、関節面の軟骨が他の多くの関節と違って線維性の軟骨であることを挙げる。講師によれば、円板は口を開けても閉じても常に下顎頭と下顎窩のあいだにあり、骨を守るように下顎頭の動きに合わせて動く。この「円板が骨のあいだにある」という前提が、後半の病態の話につながる。円板の位置がずれれば音が鳴り、ずれが進めば口が開かなくなり、さらに関節の骨そのものが変わっていく。講師の説明は、症状を音や痛みの有無で見るのではなく、円板と骨がいまどういう位置関係にあるかで見る、という順に組み立てられている。なぜ矯正歯科で顎関節を学ぶのか講師は、顎関節症は20代・30代の女性に多いと紹介し、その年代で矯正治療を受ける成人が増えていることを、矯正と顎関節を同時に学ばなければならない理由に挙げる。講師が示す大学病院矯正歯科の患者の年齢分布でも、以前は子どもが中心だったところに成人の割合が大きくなっているという。講演の目的を示すスライドには、顎関節症患者の診療に必要な基礎知識を示し、矯正歯科臨床で実践できる対応を提案すること、さらに最近注目されている特発性下顎頭吸収を伴う患者の診断と治療方針にも触れることが掲げられている。なお講師は、顎関節症状を持つ人の割合や、治療が必要な人の割合、年齢別の頻度、患者数の推移についても厚生労働省の調査などを引いて数字を示す。編集部ではこれらの原典を確認できていないため、本稿では数字を載せない。特発性下顎頭吸収の診断と治療方針は、YouTubeで公開されている前半部分には含まれていない。痛みはどこから来るのか:4つの病態に分けて考える講師が紹介するのは、日本顎関節学会の病態分類である。咀嚼筋痛障害(I型)、顎関節痛障害(II型)、顎関節円板障害(III型、a 復位性・b 非復位性)、変形性顎関節症(IV型)の4つで、編集部で確認したところ、同学会は2013年にこの分類を公表し、その後改訂を加えている。I型は、咀嚼筋の痛みとそれによる機能障害が主体のものだ。講師は、鈍い痛み、顎がだるいといった訴えで、痛いのは顎関節ではなく筋肉の側だと説明する。ここを押すと痛いという確かな痛みがある場合に診断されるが、まれに線維筋痛症のような全身の疾患が紛れることもあるので鑑別は必要だという。II型は顎関節そのものの痛みが主体で、関節内の炎症が関わる。講師によれば、外傷の後に痛みが出た場合は原因と結果がはっきりしているが、そうでない場合も多く、診断が難しくなる。「音が消えた」は、治ったとは限らないIII型の顎関節円板障害は、関節円板の位置異常などによって起こる障害で、スライドでは、関節円板は前方ないし前内方に転位することがほとんどだと示される。講師は、円板の位置が口を閉じた状態ですでに前にあり、口を開けると下顎頭が前に出ても円板がさらに前に押しやられてしまう画像を示し、これを非復位性の円板前方転位として説明する。スライドには、顎関節症の中で最も発症頻度が高い病態だとも書かれている(割合の数字は原典を確認できていないため載せない)。ずれた円板が口を開ける途中で元に戻る復位性の場合、開口時に音が鳴って円板が下顎頭の上に乗り、閉じる途中で再び落ちてもう一度音が鳴る。講師はこれを相反性クリックと呼び、開口のごく初めに音が鳴るものと、開口の後半になって鳴るものを区別する。後者は円板がなかなか戻らない状態で、講師はこちらのほうが重い状態だと考える。それがさらに進んだものが、円板が戻らなくなったクローズドロックだ。講師は、この場合は口を開けても閉めても音が鳴らなくなり、治ったかのように見えるが、実際には円板がさらに前に落ちていると説明する。編集部の言葉で言い換えれば、クリック音の有無だけを経過の指標にすると、悪化を改善と読み違えるおそれがある、ということだろう。音が消えた時期に口が開けにくくなっていないか、開口時に下顎が片側に寄らないかといった点と合わせて見る必要がある。IV型の変形性顎関節症について、スライドは、下顎頭の軟骨層の破壊や骨の変形、円板の穿孔などの退行性変化を主な特徴とする病変で、主な症状は関節の痛みと下顎運動障害だとまとめる。発症要因としては、年齢、自己免疫疾患などの全身疾患、性ホルモンなどの内分泌の異常、精神的・肉体的ストレスといった全身的な要因と、咬合異常・咬合治療・矯正治療、顎関節内障、頬杖や歯ぎしりなどの習癖、外傷といった局所的な(力学的な)要因が並ぶ。ここで講師は、咬合治療や矯正治療は「要因」ではあっても「原因」にはならないとしたうえで、引き金になる可能性はあると述べている。講師は11歳の女の子で下顎頭が平坦化し、周囲の皮質骨が失われつつある画像も示し、こうした変化が進むと下顎頭吸収も疑う必要が出てくると話す。診査の物差しは「30日」「2mm」「押す強さ」臨床での診査について、講師は国際的な診断基準であるDC/TMD(Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders)に沿って説明する。スライドに示された手順は、症状が出ている部位の確認(痛みの部位、過去30日以内に生じた痛み、誘発される痛みならそのきっかけ)、下顎運動の検査(開閉口路、開口距離、側方・前方運動量の計測。開閉口路が直線的か、最大開口時などに2mm以上の偏位がないかを確認し、最大開口量は痛みのない範囲と痛みがあっても開けられる範囲の両方を測る)、顎関節雑音の検査(開閉口、側方、前方運動時に、クリックかクレピタスか)、そして咀嚼筋・顎関節の触診である。編集部でDC/TMDの診査プロトコル(2013年版)を確認したところ、診断の対象期間は過去30日、開口路の偏位は2mmを目安に区別すること、触診の目標圧は側頭筋・咬筋で1kg、下顎頭外側極で0.5kgとされている。触診の時間について、講師のスライドは「1.0kgで5秒間(推奨)」と示している。プロトコルでは最低2秒とし、関連痛を確かめる場合は5秒を勧めている。押す強さをそろえるための器具も紹介されるが、本稿では商品名は扱わない。講師は、クローズドロックが片側にあると、大きく開けたときに下顎がその側へ寄ることも示す。右端の患者例では、開口時に左へずれるので、左側の関節がクローズドロックになっている可能性が高いという。音が鳴らないことと、開口路のずれや開口量を組み合わせて読む、という前の章の話がここで診査の手順に置き換わる。画像検査は、パノラマエックス線写真(開口時と閉口時を含む4分割撮影)でスクリーニングし、異常を疑う像があればCTで確かめる、という順に講師は考える。スライドでは、多層断層撮影で見られる変化として、骨が硬く厚くなる、骨棘ができるといった増殖性の変化と、皮質骨が途切れる(エロージョン)、平坦になるといった吸収性の変化が並び、MRIは円板の転位や関節内の液体貯留を見るものとして示される。パノラマでは筋突起の過長症など、顎関節以外で口が開きにくくなる原因も確認しておくよう講師は付け加える。本稿で扱わないこと講師の名前、顎関節症の有病率・年齢別頻度・患者数の推移、円板障害が占める割合などの数字は、原典を確認できていないため載せていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった用語や、画像所見の細かな分類名も扱っていない。特発性下顎頭吸収の診断と治療方針、矯正歯科での具体的な対応は、前半部分には含まれていない。本稿は講義内容の整理であり、個々の患者の診断や治療方針を示すものではない。元動画を見る【矯正治療】顎関節と矯正治療の関係を一挙解説します(2024年3月12日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
1日前
下顎運動の理解と臨床応用。歯科医療における症例と処置のポイント

下顎運動の理解と臨床応用。歯科医療における症例と処置のポイント

下顎運動の定義と重要性下顎運動とは、下顎が上下左右に動く運動を指し、咀嚼や発音、呼吸など日常生活において重要な役割を果たす。下顎運動の理解は、歯科医療においても非常に重要である。特に、顎関節症や咬合異常の診断・治療において、下顎運動の評価は欠かせない。この運動は、顎関節や周囲の筋肉の機能に依存しており、正常な運動が行われることで、咀嚼機能や発音が円滑に行える。したがって、下顎運動の異常は、様々な症状を引き起こす可能性があるため、歯科医師や歯科衛生士はその理解を深める必要がある。下顎運動の評価方法下顎運動の評価は、臨床において非常に重要なプロセスである。主な評価方法には、視診、触診、運動機能検査が含まれる。視診では、下顎の動きや顔貌の対称性を観察し、異常がないか確認する。触診では、顎関節や周囲の筋肉の緊張や痛みを評価する。さらに、運動機能検査では、下顎の開口量や左右運動、前方運動などを測定し、正常範囲との比較を行う。これにより、下顎運動の異常を早期に発見し、適切な処置を行うことが可能となる。特に、顎関節症の診断においては、下顎運動の評価が重要な役割を果たす。下顎運動に関連する症状とその原因下顎運動に関連する症状としては、顎関節の痛み、開口障害、咀嚼時の違和感などが挙げられる。これらの症状は、顎関節症や咬合異常、筋肉の緊張などが原因であることが多い。顎関節症は、下顎運動に影響を与える最も一般的な疾患であり、ストレスや不適切な咬合が誘因となることが多い。咬合異常は、上下の歯の噛み合わせが不適切であることから生じ、下顎運動に影響を与える。これらの症状を正確に診断し、適切な処置を行うことが、歯科医療において求められる。下顎運動に対する処置と術式下顎運動に関連する処置としては、顎関節のマニピュレーションや咬合調整、筋肉のリラクゼーションが挙げられる。顎関節のマニピュレーションは、関節の位置を正常に戻すための手技であり、痛みの軽減に寄与する。咬合調整は、上下の歯の噛み合わせを改善するための処置であり、下顎運動の正常化に繋がる。また、筋肉のリラクゼーションは、緊張した筋肉をほぐすことで、下顎運動の改善を図る。これらの処置は、患者の症状や状態に応じて選択されるべきであり、適切な判断が求められる。下顎運動の改善に向けたコツと注意点下顎運動の改善に向けたコツとしては、患者の生活習慣やストレス管理が重要である。特に、ストレスは顎関節症の悪化要因となるため、リラクゼーション法やストレス軽減のためのアドバイスが有効である。また、咀嚼時の姿勢や食事の取り方にも注意を払い、患者に適切な指導を行うことが求められる。注意点としては、下顎運動の異常が他の疾患に起因している場合もあるため、慎重な診査が必要である。特に、顎関節症の症状が重篤な場合は、専門医への紹介も考慮すべきである。まとめ下顎運動は、歯科医療において非常に重要な要素であり、その理解と評価は、顎関節症や咬合異常の診断・治療において欠かせない。下顎運動に関連する症状や処置についての知識を深めることで、より良い患者ケアを提供することが可能となる。歯科医師や歯科衛生士は、下顎運動の重要性を再認識し、臨床における応用を考慮することが求められる。
1D編集部
2024年6月1日
側方下顎運動の理解と臨床応用。歯科医師・歯科衛生士が知っておくべき症例と処置のポイント

側方下顎運動の理解と臨床応用。歯科医師・歯科衛生士が知っておくべき症例と処置のポイント

側方下顎運動とは何か側方下顎運動は、下顎が左右に動く運動を指し、咀嚼や発音、顎関節の機能において重要な役割を果たす。下顎運動は、主に咀嚼筋や顎関節の動きによって制御されており、正常な運動範囲は個人差があるが、一般的には左右に約10mm程度の動きが見られる。この運動は、歯科臨床においても重要であり、特に咬合の評価や顎関節症の診断において不可欠である。側方下顎運動の異常は、顎関節の痛みや機能障害を引き起こす可能性があるため、歯科医師や歯科衛生士はその理解を深める必要がある。側方下顎運動の評価方法側方下顎運動の評価には、主に視診、触診、そして運動機能検査が用いられる。視診では、患者の下顎の動きや顔貌の対称性を観察し、異常がないか確認する。触診では、顎関節の動きや筋肉の緊張を評価し、痛みの有無を確認する。さらに、運動機能検査としては、下顎を左右に動かす際の可動域を測定することが重要である。これにより、咬合の不具合や顎関節症の可能性を判断することができる。また、必要に応じて、X線検査やMRIを用いて顎関節の構造的な異常を評価することもある。これらの評価方法を駆使することで、側方下顎運動に関連する問題を的確に診断し、適切な処置を行うことが可能となる。側方下顎運動に関連する症状と症例側方下顎運動に関連する症状には、顎関節の痛み、咀嚼時の不快感、顎のクリック音、さらには頭痛や首の痛みなどが含まれる。これらの症状は、顎関節症や咬合不全に起因することが多い。具体的な症例としては、側方下顎運動が制限されている患者が、咀嚼時に片側の歯に過剰な負担がかかり、結果としてその歯のう蝕や歯周病が進行するケースがある。このような症例では、側方下顎運動の改善を図るための治療が必要である。また、顎関節症の患者においては、側方下顎運動が正常であっても、痛みを訴えることがあるため、総合的な診査が求められる。歯科医師や歯科衛生士は、これらの症例を通じて、側方下顎運動の重要性を再認識し、適切な処置を行うことが求められる。側方下顎運動の改善に向けた処置と術式側方下顎運動の改善には、いくつかの処置や術式が考えられる。まず、咬合調整やマウスピース療法が一般的である。咬合調整では、歯の咬合関係を見直し、適切な咬合を再構築することで、側方下顎運動の改善を図る。マウスピース療法は、顎関節への負担を軽減し、筋肉の緊張を緩和する効果がある。特に、夜間に装着することで、無意識のうちに行う歯ぎしりや食いしばりを防ぐことができる。さらに、理学療法やストレッチングも有効であり、顎関節周囲の筋肉をほぐすことで、側方下顎運動の改善が期待できる。これらの処置を組み合わせることで、患者の症状を軽減し、機能を回復させることが可能である。側方下顎運動に関する注意点とコツ側方下顎運動に関する注意点として、患者の状態に応じた適切な評価と処置が求められる。特に、顎関節症の患者に対しては、無理な力を加えないよう注意が必要である。また、患者への説明を十分に行い、治療の目的や期待される効果を理解してもらうことが重要である。これにより、患者の協力を得やすくなり、治療効果を高めることができる。さらに、側方下顎運動の改善には時間がかかる場合が多いため、根気強く治療を続けることが大切である。定期的なフォローアップを行い、進捗を確認することで、患者のモチベーションを維持することができる。
1D編集部
2024年6月1日
ゴシックアーチってまだ使ってる?臨床現場で本当に必要なのか考察

ゴシックアーチってまだ使ってる?臨床現場で本当に必要なのか考察

皆さんは、ゴシックアーチ描記装置を使用した経験はおありだろうか?義歯の教科書や歯科医師国家試験の問題で見たことはあるけれども、実際に使ったことがない方が大多数のはずだ。「臨床で見かけないということは、ゴシックアーチって実はあんまり必要なかったりする?」こう考える方もきっと多いはず。そこで今回は、ゴシックアーチが本当に必要なのか考察を行った論文について、早速解説していく。なお、紹介する論文は日本補綴歯科学会誌10巻1号にてオンライン掲載されている。義歯のスペシャリスト松丸先生によるセミナー開催1Dでは10月7日(金)、松丸 悠一先生による「咬合採得」のセミナーを開催する。プレミアム会員の方は無料で参加できるため、ぜひお申し込みいただきたい。セミナーの詳細を見てみるゴシックアーチをめぐる現状無歯顎患者の補綴治療では、インプラントオーバーデンチャーも選択肢に入ってくるものの、治療費用の問題などから全部床義歯による補綴が行われることが多いのは臨床実感と一致するところだろう。全部床義歯の治療では、垂直的・水平的顎間関係を術者が決定する必要があり、適切な咬合採得が重要となる。中でも特に水平的顎間関係の決定は難易度が高く、タッピング法や術者の手指による誘導が行われているものの、垂直的顎間関係の決定と異なり客観的な評価のための指標としてはやや信頼性に欠け、そこでゴシックアーチ描記法が用いられてきた。しかし前述の通り、臨床・教育の現場でゴシックアーチを見かける機会は少なくなってきている。世界で最も広く用いられている歯科補綴学の教科書 "Prosthodontic Treatment for Edentulous Patients"の最新版である第13版では、ゴシックアーチ自体の紹介がなされておらず、大きな変更点であるといえる。ではゴシックアーチは、義歯臨床にとって無用の長物と化してしまったのだろうか?本論文の著者である岡山大学病院 咬合・義歯補綴科の児玉らはこの疑問に答えを出すべく、ゴシックアーチの利点・問題点について検討を行った。ゴシックアーチの利点児玉らは水平的顎間関係記録の再現性について、正常有歯顎者20名を対象にゴシックアーチと術者の手指による誘導を用いて複数回水平的顎間関係記録を行い、ゴシックアーチと手指による誘導の測定誤差を比較した論文を紹介した。結果、ゴシックアーチは手指による誘導と比較して有意に測定誤差を減らすことができ、高精度に水平的顎間関係記録を行うことが出来ることが示されており、ゴシックアーチは術者のテクニカルエラーを減らすことが出来る点で有用であると考えられた。また、タッピングポイントとアペックスとの関係について「アペックスとタッピングポイントとの距離が大きいほど義歯の調整回数が増えて治療の難易度が上がる」との報告を紹介し、ゴシックアーチは全部床義歯治療における難易度判定に利用できることを利点として挙げている。問題点は?ゴシックアーチの問題点として、下顎運動を行うことが出来ないことが紹介されている。適切なゴシックアーチを描記するためには、患者が前方運動・側方運動・大開口運動およびタッピング運動を行うことが出来る必要があるが、これらの運動を即座に行うことが出来る患者もいれば、十分な顎運動練習を要する場合もある。何度も顎運動練習を行ったにも関わらずこうした運動を行えない患者や、不随意運動が多い、意思疎通が困難等の場合はゴシックアーチの適用が困難となる。ゴシックアーチは本当に必要か?全部床義歯治療時におけるゴシックアーチの使用状況を考慮すると、水平的顎間関係にゴシックアーチを用いることは必須とはいえない。また、次の表1に示すように、ゴシックアーチの実施には患者による顎運動の練習が必要であり、チェアータイムも延長されてしまう。しかしながら、前述の通りアペックスとタッピングポイントとの距離から患者の咬合の安定性を評価でき、その結果によって難易度判定が可能になる。さらに、術者の咬合採得時のエラーも減らすことができ、患者の下顎限界運動路を簡便に口腔外で確認できる点で非常に有用である。加えて、ゴシックアーチは単に下顎限界運動路を描記させるだけでなく、患者固有の下顎位を診断するためのツールとして利用可能だ。以上のことから児玉らは「ゴシックアーチは全部床義歯治療における水平的顎間関係の診断ツールとしてこれからも必要である」と結論付けている。これまでなかなか手が出なかった方も、この機会にゴシックアーチを義歯臨床に取り入れてみてはいかがだろうか?本論文の共同著者でもある松丸先生のセミナーを開催苦手意識を持つ先生が多い?咬合採得を攻略するためのポイントを、義歯治療のエキスパート松丸先生が解説。適切な垂直的・水平的顎間関係を決定するための理論的根拠や、ろう堤が付与された咬合床の調整のコツが身につけられる120分だ。プレミアム会員の方は無料で参加できるため、ぜひお申し込みいただきたい。セミナーの詳細を見てみる参考文献1. 兒玉 直紀, 熱田 生, 松丸 悠一, 松田 謙一, Back to the basics ~ゴシックアーチは本当に必要なのか~, 日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 10 : 16-22, 2018
Kasuchan
2022年9月30日

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