日焼け止めクリームが引き起こすエナメル質形成不全
MIH:切歯と大臼歯に限局したエナメル質形成不全小児歯科領域で症例の報告が増加している、MIH(用語解説)と呼ばれる病態を知っているだろうか。MIHは「Molar-Incisor-Hypomineralization」の略で、日本語にすると「臼歯と切歯の低石灰化」といったところだろう。MIHは第一大臼歯および切歯に限局して発症するエナメル質形成不全であり、2000年以降は論文の報告数がそれ以前より多くなっている。第一大臼歯と切歯は出生前後から歯冠の石灰化が始まることから、MIHの発症原因は分娩時の低酸素、低栄養、妊娠期間中の薬剤や低栄養などが考えられる。未だに詳しい原因は解明はされていないものの、ひとつの原因は「妊婦の日焼け止めクリーム」なのではないかという仮説を立てた研究がある。原因は日焼け止めクリームかもしれないなぜ日焼け止めクリームなのか、と思う方は多いだろう。ポイントは、日光によるビタミンDの生合成にある。ビタミンDは日光により皮膚で合成されるが、日焼け止めクリームはビタミンDの合成を阻害してしまう。活性型ビタミンD3は歯原性上皮細胞においてエナメル芽細胞への分化誘導因子であることから、日焼け止めによってビタミンDが不足し、エナメル芽細胞の分化が阻害され、エナメル質形成不全が起きるというわけだ。画像はマウスでの実験を撮影した写真で、左が正常なマウス、右がビタミンDが欠如した餌を与えられたマウスである。右のビタミンDが不足した方のマウスは、歯が白濁しているのがわかる。石灰化度は両者で変わらないものの、右のマウスは切歯の切端や臼歯の咬頭の摩耗が通常のマウスと比べ亢進していたという。東北大学の報告によれば、健康な妊婦は血中ビタミンDが正常より低下している場合が多い。つまり、エナメル質低石灰化症はヒトでも起こり得るため、日焼け止めクリームは塗らない方が良いのだろうか。結論、辞めなくても良いしかしながら、日焼けは痛みを伴うし、シミや皮膚がんにつながる可能性もある。また免疫抑制の作用もあることが、最近になって知られている。デンマークの大学の研究で、ビタミンD製剤を妊婦に投与した結果を示した論文がある。2009年に623人の24週目の妊婦の方を集め、約半分の妊婦が産後一週まで高用量のビタミンD製剤を服用してもらい 、もう半分の妊婦の方にはプラセボの錠剤を服用してもらった。子供が6歳になったときに歯の状態をチェックした結果、乳歯でも永久歯でもエナメル質の低形成の割合が少なかったのだ。つまり、日焼け止めクリームの使用を中止することではなくて、ビタミンD製剤を服用することでエナメル質形成不全は防げるかもしれないという結果が出たのである。予防は出産前から?これが示唆するのは「歯科疾患の予防は出産前から始まるかもしれない」ということだ。エナメル質低石灰化症は歯の色が変わるが特に切歯は審美領域なので、将来的に気にする子供も出てくるだろう。また、マウスの実験で分かるように摩耗が早く進むということは、第一大臼歯部が噛みにくくなる可能性もあるということである。これらの歯科的な問題を防ぐのは子供がお腹の中にいる時からと、診療室で指導する時代がこれから来るのだろう。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献科学研究費助成事業 研究成果報告書 「妊婦授乳婦の日焼け止めと子どものエナメル質低石灰化症発症との関連」,<URL>, 2020年3月19日閲覧Nørrisgaard, P. E., Haubek, D., Kühnisch, J., Chawes, B. L., Stokholm, J., Bønnelykke, K., & Bisgaard, H. (2019). Association of high-dose vitamin D supplementation during pregnancy with the risk of enamel defects in offspring: a 6-year follow-up of a randomized clinical trial. JAMA pediatrics, 173(10), 924-930.Nakamura, T., Jimenez‐Rojo, L., Koyama, E., Pacifici, M., de Vega, S., Iwamoto, M., ... & Yamada, Y. (2017). Epiprofin regulates enamel formation and tooth morphogenesis by controlling epithelial‐mesenchymal interactions during tooth development. Journal of Bone and Mineral Research, 32(3), 601-610.皮膚科 Q&A 日焼け, 日本皮膚科学会 , <URL>, 2020年3月21日閲覧