歯科用語集
2025年10月28日

筋痛

「筋痛」とは?歯科用語の解説と症例を紹介

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定義・語源

筋痛とは、筋肉に生じる痛みを指し、一般的には筋肉の過度の使用や損傷、炎症によって引き起こされる。語源は「筋」と「痛」であり、筋肉の痛みを直接的に表現している。筋痛は、急性と慢性に分類され、急性筋痛は運動後や外傷によって生じることが多く、慢性筋痛は長期間にわたる筋肉の緊張やストレスが原因で発生することがある。歯科領域においても、顎関節症や歯ぎしりによる筋痛が見られることがあるため、歯科医師や歯科衛生士はこの用語を理解しておく必要がある。


臨床における位置づけ・判断基準

臨床において筋痛は、患者の訴えとしてしばしば現れる。特に顎関節や咀嚼筋に関連する筋痛は、歯科診療において重要な要素である。判断基準としては、痛みの部位、強度、持続時間、誘因などが挙げられる。これらの情報を基に、適切な診断や治療方針を決定することが求められる。また、筋痛が顎関節症や歯ぎしりと関連している場合、これらの疾患に対する治療も考慮する必要がある。歯科医師は、筋痛の原因を特定し、適切な治療を行うことで、患者のQOL(生活の質)を向上させることができる。

関連用語・類義語との違い

筋痛に関連する用語としては、筋肉痛、筋緊張、顎関節症などがある。筋肉痛は一般的に運動後に生じる痛みを指し、筋痛よりも広い概念である。一方、筋緊張は筋肉が過度に緊張した状態を指し、筋痛を引き起こす原因となることがある。顎関節症は、顎関節や周囲の筋肉に関連する痛みを含む疾患であり、筋痛がその一部として現れることがある。これらの用語を正確に理解し、使い分けることが、臨床現場での診断や治療において重要である。

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「カクッ」と鳴っていた顎の音が、いつの間にか鳴らなくなった。患者からそう聞けば、良くなったと受け取りたくなる。1Dの「25分間」ミニセミナー「【矯正治療】顎関節と矯正治療の関係を一挙解説します」で、矯正歯科の講師が示すのは逆の可能性だ。関節円板が前にずれたまま、口を開けても元の位置に戻らなくなると、口を開けても閉めても音は鳴らなくなる。講師はこれを、治ったように見えて円板がさらに前に落ちた状態だと説明する。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、顎関節症の基礎知識と診査の手順を、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。顎関節は、骨と骨のあいだに円板を挟んだ関節講師はまず、関節は骨だけでは動かず、骨に付く筋肉が働くことで動く、という基本から入る。そのうえで顎関節の特徴として、骨と骨のあいだに関節円板があること、左右の関節が下顎でつながっていること、関節面の軟骨が他の多くの関節と違って線維性の軟骨であることを挙げる。講師によれば、円板は口を開けても閉じても常に下顎頭と下顎窩のあいだにあり、骨を守るように下顎頭の動きに合わせて動く。この「円板が骨のあいだにある」という前提が、後半の病態の話につながる。円板の位置がずれれば音が鳴り、ずれが進めば口が開かなくなり、さらに関節の骨そのものが変わっていく。講師の説明は、症状を音や痛みの有無で見るのではなく、円板と骨がいまどういう位置関係にあるかで見る、という順に組み立てられている。なぜ矯正歯科で顎関節を学ぶのか講師は、顎関節症は20代・30代の女性に多いと紹介し、その年代で矯正治療を受ける成人が増えていることを、矯正と顎関節を同時に学ばなければならない理由に挙げる。講師が示す大学病院矯正歯科の患者の年齢分布でも、以前は子どもが中心だったところに成人の割合が大きくなっているという。講演の目的を示すスライドには、顎関節症患者の診療に必要な基礎知識を示し、矯正歯科臨床で実践できる対応を提案すること、さらに最近注目されている特発性下顎頭吸収を伴う患者の診断と治療方針にも触れることが掲げられている。なお講師は、顎関節症状を持つ人の割合や、治療が必要な人の割合、年齢別の頻度、患者数の推移についても厚生労働省の調査などを引いて数字を示す。編集部ではこれらの原典を確認できていないため、本稿では数字を載せない。特発性下顎頭吸収の診断と治療方針は、YouTubeで公開されている前半部分には含まれていない。痛みはどこから来るのか:4つの病態に分けて考える講師が紹介するのは、日本顎関節学会の病態分類である。咀嚼筋痛障害(I型)、顎関節痛障害(II型)、顎関節円板障害(III型、a 復位性・b 非復位性)、変形性顎関節症(IV型)の4つで、編集部で確認したところ、同学会は2013年にこの分類を公表し、その後改訂を加えている。I型は、咀嚼筋の痛みとそれによる機能障害が主体のものだ。講師は、鈍い痛み、顎がだるいといった訴えで、痛いのは顎関節ではなく筋肉の側だと説明する。ここを押すと痛いという確かな痛みがある場合に診断されるが、まれに線維筋痛症のような全身の疾患が紛れることもあるので鑑別は必要だという。II型は顎関節そのものの痛みが主体で、関節内の炎症が関わる。講師によれば、外傷の後に痛みが出た場合は原因と結果がはっきりしているが、そうでない場合も多く、診断が難しくなる。「音が消えた」は、治ったとは限らないIII型の顎関節円板障害は、関節円板の位置異常などによって起こる障害で、スライドでは、関節円板は前方ないし前内方に転位することがほとんどだと示される。講師は、円板の位置が口を閉じた状態ですでに前にあり、口を開けると下顎頭が前に出ても円板がさらに前に押しやられてしまう画像を示し、これを非復位性の円板前方転位として説明する。スライドには、顎関節症の中で最も発症頻度が高い病態だとも書かれている(割合の数字は原典を確認できていないため載せない)。ずれた円板が口を開ける途中で元に戻る復位性の場合、開口時に音が鳴って円板が下顎頭の上に乗り、閉じる途中で再び落ちてもう一度音が鳴る。講師はこれを相反性クリックと呼び、開口のごく初めに音が鳴るものと、開口の後半になって鳴るものを区別する。後者は円板がなかなか戻らない状態で、講師はこちらのほうが重い状態だと考える。それがさらに進んだものが、円板が戻らなくなったクローズドロックだ。講師は、この場合は口を開けても閉めても音が鳴らなくなり、治ったかのように見えるが、実際には円板がさらに前に落ちていると説明する。編集部の言葉で言い換えれば、クリック音の有無だけを経過の指標にすると、悪化を改善と読み違えるおそれがある、ということだろう。音が消えた時期に口が開けにくくなっていないか、開口時に下顎が片側に寄らないかといった点と合わせて見る必要がある。IV型の変形性顎関節症について、スライドは、下顎頭の軟骨層の破壊や骨の変形、円板の穿孔などの退行性変化を主な特徴とする病変で、主な症状は関節の痛みと下顎運動障害だとまとめる。発症要因としては、年齢、自己免疫疾患などの全身疾患、性ホルモンなどの内分泌の異常、精神的・肉体的ストレスといった全身的な要因と、咬合異常・咬合治療・矯正治療、顎関節内障、頬杖や歯ぎしりなどの習癖、外傷といった局所的な(力学的な)要因が並ぶ。ここで講師は、咬合治療や矯正治療は「要因」ではあっても「原因」にはならないとしたうえで、引き金になる可能性はあると述べている。講師は11歳の女の子で下顎頭が平坦化し、周囲の皮質骨が失われつつある画像も示し、こうした変化が進むと下顎頭吸収も疑う必要が出てくると話す。診査の物差しは「30日」「2mm」「押す強さ」臨床での診査について、講師は国際的な診断基準であるDC/TMD(Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders)に沿って説明する。スライドに示された手順は、症状が出ている部位の確認(痛みの部位、過去30日以内に生じた痛み、誘発される痛みならそのきっかけ)、下顎運動の検査(開閉口路、開口距離、側方・前方運動量の計測。開閉口路が直線的か、最大開口時などに2mm以上の偏位がないかを確認し、最大開口量は痛みのない範囲と痛みがあっても開けられる範囲の両方を測る)、顎関節雑音の検査(開閉口、側方、前方運動時に、クリックかクレピタスか)、そして咀嚼筋・顎関節の触診である。編集部でDC/TMDの診査プロトコル(2013年版)を確認したところ、診断の対象期間は過去30日、開口路の偏位は2mmを目安に区別すること、触診の目標圧は側頭筋・咬筋で1kg、下顎頭外側極で0.5kgとされている。触診の時間について、講師のスライドは「1.0kgで5秒間(推奨)」と示している。プロトコルでは最低2秒とし、関連痛を確かめる場合は5秒を勧めている。押す強さをそろえるための器具も紹介されるが、本稿では商品名は扱わない。講師は、クローズドロックが片側にあると、大きく開けたときに下顎がその側へ寄ることも示す。右端の患者例では、開口時に左へずれるので、左側の関節がクローズドロックになっている可能性が高いという。音が鳴らないことと、開口路のずれや開口量を組み合わせて読む、という前の章の話がここで診査の手順に置き換わる。画像検査は、パノラマエックス線写真(開口時と閉口時を含む4分割撮影)でスクリーニングし、異常を疑う像があればCTで確かめる、という順に講師は考える。スライドでは、多層断層撮影で見られる変化として、骨が硬く厚くなる、骨棘ができるといった増殖性の変化と、皮質骨が途切れる(エロージョン)、平坦になるといった吸収性の変化が並び、MRIは円板の転位や関節内の液体貯留を見るものとして示される。パノラマでは筋突起の過長症など、顎関節以外で口が開きにくくなる原因も確認しておくよう講師は付け加える。本稿で扱わないこと講師の名前、顎関節症の有病率・年齢別頻度・患者数の推移、円板障害が占める割合などの数字は、原典を確認できていないため載せていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった用語や、画像所見の細かな分類名も扱っていない。特発性下顎頭吸収の診断と治療方針、矯正歯科での具体的な対応は、前半部分には含まれていない。本稿は講義内容の整理であり、個々の患者の診断や治療方針を示すものではない。元動画を見る【矯正治療】顎関節と矯正治療の関係を一挙解説します(2024年3月12日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2日前
筋痛の診断と処置。歯科臨床で役立つ症例と術式の判断ポイント

筋痛の診断と処置。歯科臨床で役立つ症例と術式の判断ポイント

筋痛の定義と歯科臨床における重要性筋痛とは、筋肉に生じる痛みを指し、さまざまな原因によって引き起こされる。歯科臨床においては、顎関節症や歯ぎしり(ブラキシズム)などが関連することが多い。これらの症状は、患者の生活の質に大きな影響を与えるため、適切な診断と処置が求められる。筋痛の理解は、歯科医師や歯科衛生士が患者の症状を軽減し、治療効果を高めるために不可欠である。筋痛の症状と診断方法筋痛の主な症状には、局所的な痛み、筋肉の緊張、運動制限などがある。診断には、患者の病歴聴取や身体検査が重要であり、特に顎関節の動きや筋肉の触診が有効である。必要に応じて、画像診断や筋電図検査を行うこともある。これにより、筋痛の原因を特定し、適切な処置を選択するための判断材料を得ることができる。筋痛に対する処置と術式筋痛の処置には、薬物療法、物理療法、そして場合によっては外科的介入が含まれる。薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や筋弛緩薬が用いられることが多い。物理療法としては、温熱療法やマッサージが効果的である。外科的介入は、重度の筋痛や他の治療法が効果を示さない場合に検討される。これらの処置は、患者の症状を軽減し、機能回復を促進するために重要である。筋痛の症例と治療のコツ筋痛に関連する症例としては、顎関節症による筋痛が挙げられる。患者は、顎の開閉時に痛みを訴え、食事や会話に支障をきたすことがある。このような症例では、まずは筋肉の緊張を緩和するための処置を行い、その後、顎関節の機能回復を目指すリハビリテーションを導入することが効果的である。また、患者への生活習慣の指導も重要であり、ストレス管理や適切な口腔習慣の確立が求められる。筋痛治療における注意点とメリット・デメリット筋痛の治療においては、患者の状態に応じた適切な処置を選択することが重要である。薬物療法には副作用が伴うことがあるため、長期使用には注意が必要である。一方、物理療法は比較的安全であるが、効果が現れるまでに時間がかかることがある。治療法の選択にあたっては、患者の生活の質を考慮し、メリットとデメリットを十分に説明することが求められる。筋痛の予防と今後の展望筋痛の予防には、日常生活における姿勢やストレス管理が重要である。特に、歯科医療従事者は、患者に対して正しい口腔習慣やリラクゼーション法を指導することが求められる。今後は、筋痛に関する研究が進むことで、より効果的な治療法や予防策が確立されることが期待される。歯科医師や歯科衛生士は、最新の情報を常にアップデートし、患者に最適なケアを提供することが重要である。
1D編集部
2024年6月1日
【超解説】非歯原性歯痛のエビデンス【1万字】

【超解説】非歯原性歯痛のエビデンス【1万字】

患者の多くは、歯痛を主訴として歯科医院を訪れる。歯科医師であれば真っ先に歯髄炎や歯周炎を疑うところだが、近年では歯を疼痛の発生源としないにも関わらず歯痛を訴える疾患に脚光が集まってきた。※ 非歯原性歯痛の診断・治療のレクチャーは こちらから詳細を見る非歯原性歯痛とは?非歯原性歯痛とは、歯に原因がないにも関わらず、歯に痛みを感じる疾患である。非歯原性歯痛は、歯痛全体の2.1〜9%を占めると推定され、Nixdorfらのシステマティック・レビューによれば、一般の歯科医院での非歯原性歯痛の発現頻度は5.3%であると推定されている。さらには、年間で68万本の歯が根管に原因のない根管治療をされているという報告もある。歯に原因が見つからないにも関わらず患者が痛みを訴えるため、歯科医師により抜髄や抜歯など効果のない不可逆的な歯科治療が行われることもある。当然抜髄や抜歯を行っても歯痛は継続するため、原因不明の痛みとして困窮している患者や歯科医師が、いまも日本全国に存在しているのだ。口腔顔面痛は、歯学部の教育課程にあまり盛り込まれていなかった経緯があり、臨床上でも見過ごされがちだった領域である。本記事では、日本口腔顔面痛学会『非歯原性歯痛の診療ガイドライン(改訂版)』を下敷きとして、非歯原性歯痛のエビデンスを徹底解説する。非歯原性歯痛の原疾患非歯原性歯痛を誘導しやすい病態としては、「筋・筋膜痛による歯痛」「神経障害性疼痛による歯痛」「神経血管性頭痛による歯痛」「上顎洞疾患による歯痛」「心臓疾患による歯痛」「精神疾患または心理社会的要因による歯痛」「特発性歯痛」などが挙げられる。筋・筋膜痛による歯痛筋・筋膜痛の関連痛として、歯痛が生じることがある。筋・筋膜痛による歯痛は非拍動性の疼くような痛みを特徴とし、歯原性歯痛と比べると痛みの持続時間が長いという特徴がある。筋・筋膜痛による歯痛は筋の酷使による疲労によって生じ、心理的ストレスによって悪化するとされる。筋・筋膜痛による歯痛の最大の特徴は「トリガーポイント」の存在である。トリガーポイントは骨格筋の疲労により形成される易刺激性の圧痛点であり、このトリガーポイントへの刺激によって口腔顔面部に関連痛を生じさせる。具体的には、咬筋や側頭筋、胸鎖乳突筋の触診によるトリガーポイントの5秒間の圧迫により歯痛が再現され、当該の筋への麻酔(トリガーポイントインジェクション)によって疼痛が軽減することが特徴である。筋・筋膜痛による歯痛の原因となる筋は、咬筋が約半数の47%、側頭筋が30%、胸鎖乳突筋が17%の順に多いと報告されている。神経障害性疼痛による歯痛神経生涯生疼痛による歯痛は、「発作性神経障害性疼痛」と「持続性神経障害性疼痛」とに分類される。発作性神経障害性疼痛は「三叉神経痛」に代表されるように、発作的に生じる電撃様疼痛が特徴である。誘発部位への些細な刺激で激烈な痛みが発作的に数秒間生じる。現に、三叉神経痛の患者の多くは歯痛を主訴として最初に歯科医院に来院している。一方の持続性神経障害性疼痛は、灼熱性の痛みが間断なく持続する症状を特徴とする。持続性神経障害性疼痛の発症前に外傷や外科処置などの既往歴があり、多くの場合に知覚鈍麻やアロディニアなどの神経障害性疼痛の特徴を伴っている。神経血管性頭痛による歯痛神経血管性頭痛の患者の多くは、歯痛を主訴として歯科医院を受診している。神経血管性頭痛とは、脳血管の神経原性炎症によって生じる一次性頭痛のことであり、これも歯痛を生じることが多い。片頭痛や三叉神経・自律神経性頭痛が神経血管性頭痛である。片頭痛では、臨床症状として上顎臼歯部の拍動性自発痛が一般的であるが、下顎犬歯に生じたケースもある。また群発頭痛では、上顎大臼歯部の持続性の激痛が15分〜180分間生じるが、突然消失するという臨床症状を持つ。上顎洞疾患による歯痛上顎洞疾患による歯痛は、文字通り上顎洞の疾患が原因で生じる歯痛のことである。急性上顎洞炎による歯痛が最も頻度が高いとされるが、上顎洞がんや真菌感染などの疾患との鑑別診断が必要である。上顎洞炎のうち、18%に歯痛が生じる。歯痛が生じる部位は、上顎洞が解剖学的に近接している上顎の小臼歯〜大臼歯に多い。また、上顎洞がん患者の36%は、病初期に上顎臼歯部の歯痛を訴えるという報告もある。冷水痛、咀嚼時痛が認められ、かみしめにより違和感を生じるほか、鼻症状や発熱などの感冒症状も認める。心臓疾患による歯痛狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に代表される、心疾患の関連痛として歯痛が生じることもある。虚血性心疾患の発作時に口腔顔面部に痛みが生じる割合は38%であると明らかにした研究があるが、38%のうちの5.9%は、口腔顔面部の痛みが唯一の症状であった。この場合の関連痛の特徴は、「圧迫痛」や「灼熱痛」である。虚血性心疾患の患者が、歯痛を唯一の主訴として歯科医院に来院する可能性があること、それを見逃してしまうと患者の命に関わる結末になりかねないことを、歯科医師は知っておく必要があるかもしれない。精神疾患または心理社会的要因による歯痛シェイクスピアは、妊娠した妻を持つ夫が歯痛を訴えることがあると書き残した。妊婦の夫は、妻の出産が不安で非歯原性歯痛を訴えることがある。また、うつ病や双極性障害、身体症状症、妄想性障害身体型、パーソナリティ障害によって非歯原性歯痛が生じることも報告されている。心身医学的な歯痛では、病理所見が疼痛部位に存在しない。こうした精神疾患または心理社会的要因による歯痛は、患者の訴える歯痛の部位が解剖学的な整合性を欠くことから推測できることが多い。特発性歯痛(非定型性歯痛を含む)特発性歯痛は、1本以上の歯または抜歯した後の部位に生じる持続性疼痛で、通常の歯科的原因が全く存在しないもの、と定義されている。その病態は現在でも解明されていない部分も多い。非定型性歯痛の病態も未解明の部分が多い。神経障害性疼痛であるとする説や心理的な要因が原因で生じるとする説、中枢性感作によるとする説、脳内の疼痛処理過程の変調で生じるとする説など諸説ある。非定型性歯痛の70〜83%が歯科治療をきっかけに発症するとされ、これらの患者は医療への不信感や怒り、不安などが見られることがある。精神疾患の既往があるケースが多いことを考えても、非定型性歯痛の患者は精神状態や心理社会的な状態を総合的に考える必要がある。非歯原性歯痛はなぜ起こるのか?前章では、非歯原性歯痛のそれぞれの原疾患について解説した。それでは、非歯原性歯痛はどのような原因で生じるのだろうか。非歯原性歯痛の発生機序は、「関連痛」「神経障害による痛み」「器質的異常が認められない慢性疼痛」の3つに分類される。関連痛前章で解説した筋・筋膜痛による歯痛、神経血管性頭痛による歯痛、心臓疾患による歯痛、上顎洞疾患による歯痛が「関連痛」による非歯原性歯痛に含まれる。例えば筋・筋膜痛による歯痛では、疲労が蓄積した筋に形成されたトリガーポイントからの関連痛により生じる。トリガーポイントにトリガーポイントインジェクションを行ったところ歯痛が消失するということも根拠となっている。神経障害による痛み神経障害による痛みは、末梢神経性疼痛と中枢神経性疼痛とに分類され、神経障害性疼痛による歯痛の発生機序とされる。末梢神経性疼痛は、末梢性感作、神経腫、エファプス伝達、交感神経の関与、表現形の変化により生じる。また中枢神経性疼痛は、発芽、ワインドアップ、長期増強、中枢性感作、内因性痛覚抑制機構の失調により生じる。器質的異常が認められない慢性疼痛精神疾患や心理社会的要因によって歯痛が生じているケースなどが、この「器質的異常が認められない慢性疼痛」に含まれる。これらはこれまで原因不明と考えられてきたが、脳科学・神経科学の発展とともに、中枢における神経伝達物質などの生化学的変化や情報処理過程の変調などによるものと解明されつつある。非歯原性歯痛の治療非歯原性歯痛に有効な薬物療法非歯原性歯痛に対する治療法として、薬物療法が挙げられる。原疾患ごとに適用されるべき薬物は異なるため、歯科医院としては適切な診療科を患者に選択させることも重要である。筋・筋膜痛による歯痛に対しては、鑑別診断目的を含めてトリガーポイントインジェクションが有効である。他にもNSAIDs(イブプロフェン)、低用量のアミトリプチリン、アセトアミノフェン、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠、混合ビタミンB群、ジクロフェナクナトリウム、塩酸チザニジン、リン酸コデイン、ベンゾジアゼピン、漢方などが有効であったとする報告があるが、いずれもエビデンスレベルが十分なものは少ない。その他の原疾患に対する薬物療法に関しても、原疾患ごとに有効な薬物が異なり、その有効性をそれぞれで評価する必要がある。非歯原性歯痛に理学療法は有効?非歯原性歯痛に対する治療として、理学療法は有効だろうか。結論から言えば、非歯原性歯痛に対する理学療法の科学的なエビデンスは十分ではない。筋・筋膜痛による歯痛にはストレッチやマッサージ、ホットウォーターバスなどの理学療法の有効性が報告されているが、いずれの研究もエビデンスレベルは高くない。理学療法は可逆的で侵襲が少ない治療法であり、多くの疾患に対して経験的に有用であると評価されているため、今後の研究が待たれるところである。非歯原性歯痛に抜髄・抜歯は有効か?非歯原性歯痛に対して抜髄や抜歯といった不可逆的的な処置は無効である。なぜなら、歯に原因が無いからである。非歯原性歯痛に対して抜髄や抜歯を行っても疼痛が改善されなかったケースや、むしろ増悪したケースが多数報告されている。同様に、咬合調整や義歯調整などの治療も効果は無いため、非歯原性歯痛では不必要な可能性のある歯科治療を行うべきではない。非歯原性歯痛にスプリント療法は有効か?非歯原性歯痛のうち、筋・筋膜痛による歯痛に関しては、スプリントによる一時的な疼痛軽減が期待できる。しかし、その他の原疾患に対してスプリント療法を行うことには理論的な根拠は無い。非歯原性歯痛の実際の臨床では原因が特定できていない場合が多く、スプリント療法などの可逆的な治療法を「とりあえず」で選択してしまいがちである。しかしいずれの病態の非歯原性歯痛に対しても、スプリント療法のエビデンスは十分とは言えない。非歯原性歯痛の予防非歯原性歯痛の予防法は、現在のところ研究されていないと言ってもよいほどに文献が少ない。例えば筋・筋膜痛による歯痛には生活習慣の改善が治療として行われるため、予防法としても有効なようだ。今後非歯原性歯痛の認知拡大に伴って予防法に関する研究も進んでいくだろう。今後さらなるエビデンスが求められる日本口腔顔面痛学会『非歯原性歯痛の診療ガイドライン』は、2011年に初めて発行された。2019年に大幅な改定が行われ、一般臨床家にも徐々に周知されてきている。冒頭で述べたように、非歯原性歯痛は出現度の低い疾患ではない。非歯原性歯痛が原因で歯痛を訴える患者に対して不可逆的な侵襲が行われないためにも、今後さらなるエビデンスの充実や、歯科医療者に対する情報の提供は必要不可欠である。非歯原性歯痛の診断・治療のプラクティス強い痛みを訴える患者に対し、原因が特定できないまま抜髄や抜歯をしてしまったこと、ないでしょうか。抜髄・抜歯に至らなかったとしても、投薬のみで経過観察していませんか?その歯、非歯原性歯痛だったかもしれません。単に非歯原性歯痛といっても、その原因やメカニズムは多様です。筋・筋膜痛、三叉神経痛、群発頭痛。どれも患者は「歯の痛み」を訴えて受診します。中には歯髄炎の症状と酷似しても、X線画像では異常が認められず、結果として中枢性の疼痛ということもあります。これら”非歯原性”の歯痛に対して、正しく診断し適切な治療ができなければ、なかなか治らない病に患者は不安を感じてしまうでしょう。オーバートリートメントを防ぐためにも、正しい知識を身につけ非歯原性歯痛に対応できるスキルを身につけましょう。セミナー詳細を見てみる参考文献一般社団法人 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1D編集部
2021年5月12日

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