【超解説】非歯原性歯痛のエビデンス【1万字】

【超解説】非歯原性歯痛のエビデンス【1万字】

1D編集部
2021年5月12日
患者の多くは、歯痛を主訴として歯科医院を訪れる。歯科医師であれば真っ先に歯髄炎や歯周炎を疑うところだが、近年では歯を疼痛の発生源としないにも関わらず歯痛を訴える疾患に脚光が集まってきた。

※ 非歯原性歯痛の診断・治療のレクチャーは こちらから詳細を見る

非歯原性歯痛とは、歯に原因がないにも関わらず、歯に痛みを感じる疾患である。非歯原性歯痛は、歯痛全体の2.1〜9%を占めると推定され、Nixdorfらのシステマティック・レビューによれば、一般の歯科医院での非歯原性歯痛の発現頻度は5.3%であると推定されている。さらには、年間で68万本の歯が根管に原因のない根管治療をされているという報告もある。

歯に原因が見つからないにも関わらず患者が痛みを訴えるため、歯科医師により抜髄や抜歯など効果のない不可逆的な歯科治療が行われることもある。当然抜髄や抜歯を行っても歯痛は継続するため、原因不明の痛みとして困窮している患者や歯科医師が、いまも日本全国に存在しているのだ。

口腔顔面痛は、歯学部の教育課程にあまり盛り込まれていなかった経緯があり、臨床上でも見過ごされがちだった領域である。本記事では、日本口腔顔面痛学会『非歯原性歯痛の診療ガイドライン(改訂版)』を下敷きとして、非歯原性歯痛のエビデンスを徹底解説する。

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    非歯原性歯痛の原疾患

    非歯原性歯痛を誘導しやすい病態としては、「筋・筋膜痛による歯痛」「神経障害性疼痛による歯痛」「神経血管性頭痛による歯痛」「上顎洞疾患による歯痛」「心臓疾患による歯痛」「精神疾患または心理社会的要因による歯痛」「特発性歯痛」などが挙げられる。

    筋・筋膜痛による歯痛
    筋・筋膜痛の関連痛として、歯痛が生じることがある。筋・筋膜痛による歯痛は非拍動性の疼くような痛みを特徴とし、歯原性歯痛と比べると痛みの持続時間が長いという特徴がある。筋・筋膜痛による歯痛は筋の酷使による疲労によって生じ、心理的ストレスによって悪化するとされる。

    筋・筋膜痛による歯痛の最大の特徴は「トリガーポイント」の存在である。トリガーポイントは骨格筋の疲労により形成される易刺激性の圧痛点であり、このトリガーポイントへの刺激によって口腔顔面部に関連痛を生じさせる。

    具体的には、咬筋や側頭筋、胸鎖乳突筋の触診によるトリガーポイントの5秒間の圧迫により歯痛が再現され、当該の筋への麻酔(トリガーポイントインジェクション)によって疼痛が軽減することが特徴である。

    筋・筋膜痛による歯痛の原因となる筋は、咬筋が約半数の47%、側頭筋が30%、胸鎖乳突筋が17%の順に多いと報告されている。

    神経障害性疼痛による歯痛
    神経生涯生疼痛による歯痛は、「発作性神経障害性疼痛」と「持続性神経障害性疼痛」とに分類される。

    発作性神経障害性疼痛は「三叉神経痛」に代表されるように、発作的に生じる電撃様疼痛が特徴である。誘発部位への些細な刺激で激烈な痛みが発作的に数秒間生じる。現に、三叉神経痛の患者の多くは歯痛を主訴として最初に歯科医院に来院している。

    一方の持続性神経障害性疼痛は、灼熱性の痛みが間断なく持続する症状を特徴とする。持続性神経障害性疼痛の発症前に外傷や外科処置などの既往歴があり、多くの場合に知覚鈍麻やアロディニアなどの神経障害性疼痛の特徴を伴っている。

    神経血管性頭痛による歯痛
    神経血管性頭痛の患者の多くは、歯痛を主訴として歯科医院を受診している。神経血管性頭痛とは、脳血管の神経原性炎症によって生じる一次性頭痛のことであり、これも歯痛を生じることが多い。片頭痛や三叉神経・自律神経性頭痛が神経血管性頭痛である。

    片頭痛では、臨床症状として上顎臼歯部の拍動性自発痛が一般的であるが、下顎犬歯に生じたケースもある。また群発頭痛では、上顎大臼歯部の持続性の激痛が15分〜180分間生じるが、突然消失するという臨床症状を持つ。

    上顎洞疾患による歯痛

    上顎洞疾患による歯痛は、文字通り上顎洞の疾患が原因で生じる歯痛のことである。急性上顎洞炎による歯痛が最も頻度が高いとされるが、上顎洞がんや真菌感染などの疾患との鑑別診断が必要である。

    上顎洞炎のうち、18%に歯痛が生じる。歯痛が生じる部位は、上顎洞が解剖学的に近接している上顎の小臼歯〜大臼歯に多い。また、上顎洞がん患者の36%は、病初期に上顎臼歯部の歯痛を訴えるという報告もある。冷水痛、咀嚼時痛が認められ、かみしめにより違和感を生じるほか、鼻症状や発熱などの感冒症状も認める。

    心臓疾患による歯痛
    狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に代表される、心疾患の関連痛として歯痛が生じることもある。

    虚血性心疾患の発作時に口腔顔面部に痛みが生じる割合は38%であると明らかにした研究があるが、38%のうちの5.9%は、口腔顔面部の痛みが唯一の症状であった。この場合の関連痛の特徴は、「圧迫痛」や「灼熱痛」である。

    虚血性心疾患の患者が、歯痛を唯一の主訴として歯科医院に来院する可能性があること、それを見逃してしまうと患者の命に関わる結末になりかねないことを、歯科医師は知っておく必要があるかもしれない。

    精神疾患または心理社会的要因による歯痛
    シェイクスピアは、妊娠した妻を持つ夫が歯痛を訴えることがあると書き残した。妊婦の夫は、妻の出産が不安で非歯原性歯痛を訴えることがある。

    また、うつ病や双極性障害、身体症状症、妄想性障害身体型、パーソナリティ障害によって非歯原性歯痛が生じることも報告されている。心身医学的な歯痛では、病理所見が疼痛部位に存在しない。こうした精神疾患または心理社会的要因による歯痛は、患者の訴える歯痛の部位が解剖学的な整合性を欠くことから推測できることが多い。

    特発性歯痛(非定型性歯痛を含む)
    特発性歯痛は、1本以上の歯または抜歯した後の部位に生じる持続性疼痛で、通常の歯科的原因が全く存在しないもの、と定義されている。その病態は現在でも解明されていない部分も多い。

    非定型性歯痛の病態も未解明の部分が多い。神経障害性疼痛であるとする説や心理的な要因が原因で生じるとする説、中枢性感作によるとする説、脳内の疼痛処理過程の変調で生じるとする説など諸説ある。

    非定型性歯痛の70〜83%が歯科治療をきっかけに発症するとされ、これらの患者は医療への不信感や怒り、不安などが見られることがある。精神疾患の既往があるケースが多いことを考えても、非定型性歯痛の患者は精神状態や心理社会的な状態を総合的に考える必要がある。


    非歯原性歯痛はなぜ起こるのか?

    前章では、非歯原性歯痛のそれぞれの原疾患について解説した。それでは、非歯原性歯痛はどのような原因で生じるのだろうか。非歯原性歯痛の発生機序は、「関連痛」「神経障害による痛み」「器質的異常が認められない慢性疼痛」の3つに分類される。

    関連痛
    前章で解説した筋・筋膜痛による歯痛、神経血管性頭痛による歯痛、心臓疾患による歯痛、上顎洞疾患による歯痛が「関連痛」による非歯原性歯痛に含まれる。

    例えば筋・筋膜痛による歯痛では、疲労が蓄積した筋に形成されたトリガーポイントからの関連痛により生じる。トリガーポイントにトリガーポイントインジェクションを行ったところ歯痛が消失するということも根拠となっている。

    神経障害による痛み
    神経障害による痛みは、末梢神経性疼痛と中枢神経性疼痛とに分類され、神経障害性疼痛による歯痛の発生機序とされる。

    末梢神経性疼痛は、末梢性感作、神経腫、エファプス伝達、交感神経の関与、表現形の変化により生じる。また中枢神経性疼痛は、発芽、ワインドアップ、長期増強、中枢性感作、内因性痛覚抑制機構の失調により生じる。

    器質的異常が認められない慢性疼痛
    精神疾患や心理社会的要因によって歯痛が生じているケースなどが、この「器質的異常が認められない慢性疼痛」に含まれる。

    これらはこれまで原因不明と考えられてきたが、脳科学・神経科学の発展とともに、中枢における神経伝達物質などの生化学的変化や情報処理過程の変調などによるものと解明されつつある。

    非歯原性歯痛に有効な薬物療法
    非歯原性歯痛に対する治療法として、薬物療法が挙げられる。原疾患ごとに適用されるべき薬物は異なるため、歯科医院としては適切な診療科を患者に選択させることも重要である。

    筋・筋膜痛による歯痛に対しては、鑑別診断目的を含めてトリガーポイントインジェクションが有効である。他にもNSAIDs(イブプロフェン)、低用量のアミトリプチリン、アセトアミノフェン、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠、混合ビタミンB群、ジクロフェナクナトリウム、塩酸チザニジン、リン酸コデイン、ベンゾジアゼピン、漢方などが有効であったとする報告があるが、いずれもエビデンスレベルが十分なものは少ない。

    その他の原疾患に対する薬物療法に関しても、原疾患ごとに有効な薬物が異なり、その有効性をそれぞれで評価する必要がある。

    非歯原性歯痛に理学療法は有効?
    非歯原性歯痛に対する治療として、理学療法は有効だろうか。結論から言えば、非歯原性歯痛に対する理学療法の科学的なエビデンスは十分ではない。筋・筋膜痛による歯痛にはストレッチやマッサージ、ホットウォーターバスなどの理学療法の有効性が報告されているが、いずれの研究もエビデンスレベルは高くない。

    理学療法は可逆的で侵襲が少ない治療法であり、多くの疾患に対して経験的に有用であると評価されているため、今後の研究が待たれるところである。

    非歯原性歯痛に抜髄・抜歯は有効か?
    非歯原性歯痛に対して抜髄や抜歯といった不可逆的的な処置は無効である。なぜなら、歯に原因が無いからである。非歯原性歯痛に対して抜髄や抜歯を行っても疼痛が改善されなかったケースや、むしろ増悪したケースが多数報告されている。

    同様に、咬合調整や義歯調整などの治療も効果は無いため、非歯原性歯痛では不必要な可能性のある歯科治療を行うべきではない。

    非歯原性歯痛にスプリント療法は有効か?
    非歯原性歯痛のうち、筋・筋膜痛による歯痛に関しては、スプリントによる一時的な疼痛軽減が期待できる。しかし、その他の原疾患に対してスプリント療法を行うことには理論的な根拠は無い。

    非歯原性歯痛の実際の臨床では原因が特定できていない場合が多く、スプリント療法などの可逆的な治療法を「とりあえず」で選択してしまいがちである。しかしいずれの病態の非歯原性歯痛に対しても、スプリント療法のエビデンスは十分とは言えない。

    非歯原性歯痛の予防
    非歯原性歯痛の予防法は、現在のところ研究されていないと言ってもよいほどに文献が少ない。例えば筋・筋膜痛による歯痛には生活習慣の改善が治療として行われるため、予防法としても有効なようだ。今後非歯原性歯痛の認知拡大に伴って予防法に関する研究も進んでいくだろう。

    今後さらなるエビデンスが求められる

    日本口腔顔面痛学会『非歯原性歯痛の診療ガイドライン』は、2011年に初めて発行された。2019年に大幅な改定が行われ、一般臨床家にも徐々に周知されてきている。

    冒頭で述べたように、非歯原性歯痛は出現度の低い疾患ではない。非歯原性歯痛が原因で歯痛を訴える患者に対して不可逆的な侵襲が行われないためにも、今後さらなるエビデンスの充実や、歯科医療者に対する情報の提供は必要不可欠である。

    非歯原性歯痛の診断・治療のプラクティス

    強い痛みを訴える患者に対し、原因が特定できないまま抜髄や抜歯をしてしまったこと、ないでしょうか。抜髄・抜歯に至らなかったとしても、投薬のみで経過観察していませんか?その歯、非歯原性歯痛だったかもしれません。

    単に非歯原性歯痛といっても、その原因やメカニズムは多様です。筋・筋膜痛、三叉神経痛、群発頭痛。どれも患者は「歯の痛み」を訴えて受診します。中には歯髄炎の症状と酷似しても、X線画像では異常が認められず、結果として中枢性の疼痛ということもあります。これら”非歯原性”の歯痛に対して、正しく診断し適切な治療ができなければ、なかなか治らない病に患者は不安を感じてしまうでしょう。

    オーバートリートメントを防ぐためにも、正しい知識を身につけ非歯原性歯痛に対応できるスキルを身につけましょう。


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    「売上を倍にしたい」で、新患集めから考えていませんか?――3つの事例のうち2つは、すでにある部屋の使い道の話だった

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    売上を倍にしたい、と院長が考えるとき、最初に浮かぶのはたいてい新患をどう増やすかである。1Dの対談動画「歯科医院の売上を倍増させる3つの戦略」で紹介される3つの医院を並べてみると、その順番が必ずしも自明ではないことが見えてくる。新患を増やした事例は3つのうち1つで、残る2つは、すでに医院の中にあった部屋の使い道を変えた話だった。売上は「客数×客単価」に分解される対談でまず置かれるのは、目標の立て方ではなく分解の仕方である。出演者は「客数×客単価ですよね」と言い、続けて「患者数×患者単価ですよね」と言い換え、さらに「保険診療の場合はレセプト枚数×レセプト点数ですよね」と重ねる。画面には「歯科診療所における売上の方程式」というテロップが出る。分解しておく意味は、打ち手を数えるのをやめられることにある。集患も、広告も、自費のカウンセリングも、並べれば無数にある。だが掛け算に直せば、動かせる変数は二つしかない。どれをやるかではなく、どちらを動かすつもりなのかが先に決まる。「保険診療の場合はレセプト枚数×レセプト点数」という言い換えは、単なる置き換えではない。枚数はその月に何人を診たかであり、点数は一人あたり何を算定したかである。そして点数は診療報酬の点数表で決まっていて、医院の側で値づけできるものではない。保険の範囲で単価を動かそうとすれば、算定できるものを漏らさないか、算定できる処置そのものを増やすか、という方向に限られてくる。対談が自費や物販の話へ進んでいくのは、この制約を前提にしていると読める。回転を上げるレバーは、診療の質とぶつかるでは客数側から、と考えたときに出演者が指摘するのは、その道の窮屈さである。患者数を増やすには「(診療を)ぶん回すか」「というレバーしかない」と述べ、それは「診療の質の担保という点においてはあまり望ましいことでは必ずしもない」と続ける。メンテナンスを30分でできたとしても、それがベストとは限らない、という言い方をしている。だから「客単価に増収の活路を見出すっていうのは理にかなっている」と整理する。ただし対談は、客数を捨てろとは言っていない。少し後で「客数も客単価も、どっちも売上を上げる」「どっちも重要なファクター」と言い直している。退けられているのは客数そのものではなく、一人あたりの診療時間を削って枠を増やすというやり方のほうである。客数を伸ばした医院は、開業前の時間を使っていた1つ目の事例は、SNS運用で新患を集めた医院である。開業前からInstagramで「開業しますよ」という発信を続け、開業前の時点でフォロワーが増えていき、内覧会の時点ですでに新患の予約が入っていた、と紹介される。開業してから集め始めたのではなく、まだ患者がいない期間を使って積み上げていた点が、この事例の要点になっている。副次的な効果として、衛生士や助手の採用が採用費をかけずにできた、「Instagram見て応募しました」という応募があった、という話も添えられる。ただしこれらは出演者が伝え聞いた個別の事例で、編集部で裏づけたものではない。同じ運用をすれば同じ結果になる、という話ではない。出演者自身も「患者集めはローカルのビジネス」であり「グローバルではない」と断り、地図に紐づくMEOは「地域性がすごく絞られてくる」と、届く範囲の違いを区別している。残る2つは、部屋を増やさずに使い道を変えている2つ目は、カウンセリングルームである。経営を指南するセミナーで「自費率を上げるんだったらカウンセリングルームを作りなさい」と言われ、なかった医院が実際に作った、という事例として紹介される。注目したいのは売上側ではなく費用側で、出演者は「人にかかる費用ってそんなに増えてない」「休憩室だったところを潰してだったら増益ですよね」と言う。新しく人を雇ったわけでも、増築したわけでもない。すでにある面積の割り当てを変えただけ、という構図になっている。3つ目は、物販と待合室である。ここで対談が面白いのは、紹介された売上額をその場で検算していることだ。歯ブラシの単価を1,000円、500円と置き直し、「2000本ですね」「歯ブラシ2,000本、無理ですね」「どんなに歯がいっぱいあっても歯ブラシの本数は一定ですからね」と確かめていく。つまり一品目では説明がつかない。帰りに「ちょっと買っていこう」とフロスなども含めて選ばれる状態、「ちょっと微増かもしれないけれども、それが全部重なる」状態が、待合室という誰の医院にもある空間で起きているという話になる。なお、この回で挙げられる金額はいずれも出演者が「曰く」「らしくて」と伝聞として述べたもので、一次資料で確かめられる数字ではない。本稿で金額を書かないのはそのためで、いくら増えるかではなく、何が変わったのかだけを受け取っておきたい。金額の話の前に、自院はどちらを動かせるか3つを並べ直すと、動かした変数は客数が1つ、客単価が2つである。そして客単価側の2つは、新しい投資というより、持っているものの使い道の再配分だった。空間が余っている医院と、人手に余裕がない医院と、開業前でまだ患者がいない医院とでは、手をつけられる場所が違う。倍にするための正解が一つあるのではなく、自院で先に動くのはどちらか、という問いのほうが先にある。出演者も、戦略の紹介にとどめて「具体的にどういうふうにすべきか」は別に学ぶ必要がある、と述べている。この動画から持ち帰れるのは手順ではなく、掛け算のどちらを動かすつもりなのかを決めておく、という一手前の整理である。元動画を見る(2025年11月6日公開)
    1D編集部
    16時間前
    「患者が減るから」で、2040年を語っていませんか?――先に足りなくなるのは、診る側かもしれない

    「患者が減るから」で、2040年を語っていませんか?――先に足りなくなるのは、診る側かもしれない

    2040年問題という言葉が対談の主題に置かれます。画面に出る定義は「日本の少子高齢化や人口減少により2040年頃に深刻化すると予測される社会経済問題の総称」。出演者はまず、時間の近さを確かめます。まもなく2026年を迎える。つまり2040年まで15年を切った、と。この話題は、歯科医院では「人が減る」つまり「患者が減る」という形で受け取られがちです。ところが対談は、そこで止まりません。減るのは患者だけではない、という指摘から始まります。患者も減る。ただし、減り方が速いのは歯科医師のほうだ出演者が根拠に挙げるのは、厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師統計です。もう歯科医師が減る時代ですよ、と言ったうえで、一方で患者も減るんですよ、と続けます。そのうえで置かれるのが、この記事の背骨に当たる一文です。患者の減り具合に対して、歯科医師の減り具合のほうが大きい。理由として語られるのは、年齢構成です。歯科医師は一般の人口に比べて年齢の高い層が厚く、その層がこれから引退していく。だから歯科医師は足りなくなっていく、という順序になります。なお、動画のなかでは平均年齢の具体的な数値も語られますが、統計の数字とは一致しないため、ここでは数値としては扱いません。使えるのは「引退期に向かう層が厚い」という構造のほうです。構造そのものは確かめられます。令和6(2024)年12月31日現在の同統計で、歯科医師の総数は103,652人。前回の令和4年調査から1,615人、率にして1.5%の減少でした。歯科医師が増え続ける時代はすでに終わっており、減少は予測ではなく、直近の調査で起きたことです。画面には「特に地方における歯科医療の安定的な提供体制が揺らぐ可能性がある」というテロップが添えられます。足りなくなり方は、地域ごとに同じではない対談はここから地域の話に移ります。地方はそもそも歯科医師がいない、もうできていますもんね、という短いやりとりがあり、無歯科医地区の話が出ます。車を運転できなくなるといった事情も重なって、受療の機会そのものが失われることが起こる。もう本当にどうしようもないような状況がある、とも言われます。この点は一次資料で確認できます。厚生労働省の令和7年度の調査(令和7年10月末日現在)で、無歯科医地区は全国で750地区、そこに暮らす人は196,640人でした。前回の令和4年度調査は784地区・188,647人ですから、地区の数は34減った一方で、そこに住む人は7,993人増えています。地区が減ったから解消に向かっている、と読める数字ではありません。ただし、この数字は「地方で開業すべきだ」という話ではありません。対談でもそういう勧め方はされていません。ここで押さえておきたいのは、同じ「歯科医師が足りない」でも、都市部と無歯科医地区では意味がまったく違うということです。出演者はのちほど、東京の都心部と北海道の無歯科医地区では、という並べ方でこの差に触れています。「患者が減る」より先に起きるのは、「来られない患者が増える」対談の後半に、もう一段の言い換えが出てきます。外来に来られない患者さんが絶対に増えるわけですよ、という一文です。人口が減っても、高齢の人や持病を抱えた人の割合は増える。その人たちは歯科の必要がなくなるのではなく、歯科医院まで来られなくなる。出演者はここで、供給が足りていない領域だという見方を示します。後期高齢者や要介護の人も含めて、必要としている人の数に対して診る側が足りていない。だから放置されている患者さんがたくさんいるわけですよ、と。ここで語られているのは、需要が消えるのではなく、需要が外来という形では現れなくなる、という変化です。なお、対談のなかで有病者の割合を示す具体的な統計は提示されていません。この部分は出演者の見立てとして受け取るのが妥当です。ただ、見立ての向きは前半の話と一貫しています。診る側が減っていくところへ、外来では拾えない患者が増えていく。主戦場が変わる、という言い方その先で出演者が使うのが「主戦場」という言葉です。居宅における訪問診療の推進が政策のトピックになっていることに触れ、そこが主戦場になると思うんですよね、と言います。2040年になった時を想像すると、基本、主戦場は訪問ですよ、と。極端な言い方として、すべての開業医が訪問診療に行くくらいの心持ちで、という表現も出てきます。もちろん、若い人向けの治療も予防管理も大事だという断りは入っています。外来をやめるという話ではありません。変わるのは重心です。そしてこの重心の移動は、医院ごとの思いつきではなく、制度の設計に沿っているというのが対談の整理です。画面には「これからの時代は地域包括ケアシステムでしかないんですよ」というテロップが出て、すべての医療政策の根底にあるのは地域包括ケアという思想だ、と説明されます。団塊の世代が75歳以上となる2025年を目処に、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体で提供し、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるようにする。その枠組みに、歯科も参画する側として入っていくことになります。出演者が挙げる2040年以降の方策は、地域包括ケアシステムと訪問診療、そしてDXの三つでした。15年を、待つ時間ではなく準備する時間として使う対談の締めくくりで出演者が言うのは、この15年でしっかりと地盤を固めて、自分たちも含めて地域包括ケアに参画していかなければならない、ということでした。学生時代に覚えた用語として通り過ぎるのではなく、自院の仕事として置き直す、という意味です。2040年という数字は遠く見えますが、15年後に自分が何歳で、そのとき今の患者が何歳になっているかは、すぐに計算できます。今の患者のうち、通院がだんだん難しくなっている人は誰か。その人が来られなくなったとき、どこへ引き継がれるのか。近隣の在宅医療や施設と、名前の分かる関係があるか。地域で誰がどこまで担っているかを知っているか。こうした問いに答えを用意することが、訪問診療の件数を増やすことと同じではありません。対談も、訪問を始めれば医院が安泰になるとは言っていません。言われているのは順序のほうです。診る側が減り、来られない患者が増えるという前提を先に受け入れておけば、2040年が来てから慌てずに済む。15年という残り時間は、その前提に合わせて自院の形を変えるには十分な長さで、何もしないまま過ごすには長すぎます。元動画を見る【2040年問題】歯科医師が生き残るためには(2025年11月20日公開)
    1D編集部
    2日前
    「年収1億円」、それは年商の話になっていませんか?――1億円の手前にあるのは、腕ではなく医院の規模

    「年収1億円」、それは年商の話になっていませんか?――1億円の手前にあるのは、腕ではなく医院の規模

    歯科医師は年収1億円に届くのか。対談でこの問いが出たとき、出演者の一人が「億単位のお金を稼ぎたい」と口にします。すると、もう一人がすぐに聞き返します。年商ですか、と。返ってきた答えは「所得が1億円になりたい」でした。
    わずか数秒のやりとりですが、この記事の論点はここに尽きます。年収1億円という言葉は、医院に入ってくるお金の話としても、自分の手元に残るお金の話としても使えてしまう。どちらで話しているのかを決めないまま「1億円は可能か」を論じても、答えは出ません。出演者はこの先、所得のほうで話を進めます。
    「1億円」を所得と決めた瞬間、必要な年商が決まる
    対談は、そこから逆算に入ります。出演者が置く前提はひとつだけです。年商のだいたい20%を自分の役員報酬にする、と設定した場合。これは業界の平均値として示されたものではなく、話を単純化するために出演者がその場で置いた仮の数字です。記事としてもそのまま持ち出すべきではありませんが、逆算の道筋を見るには足ります。
    この前提を置くと、年収1億円には年商5億円の歯科医院が要る、という結論が出ます。出演者はここで、あなたが超スーパードクターだったとしても、どんなに高く自費診療を売っても、と付け加えます。腕前の話をいったん脇に置いても、割り算の答えは変わらないからです。5億円という数字について、出演者自身が「5億円もなかなかいかない」と言っています。
    月4,000万円を診療日で割ると、1日いくらになるか
    年商5億円を月に均すと、だいたい4,000万円ちょっと。それを診療日で割ると、1日当たり約200万円になります。対談ではこの数字が出たところで「お〜」という声が上がります。年商5億円は遠い目標として聞こえますが、1日200万円に割り戻すと、自分の診療室の風景と比べられる数字に変わるからです。
    ここで出演者が挙げるのが、開業医が一人でユニット3台を回している状態です。その形で診療を続けているかぎり無理だ、というのが対談の結論でした。理由は腕でも診療単価でもなく、1日に確保できる枠の数です。逆にユニットが10台ある規模なら年商5億円は見えてくる、という見立ても示されます。ただしこれは、全員が歯科医師ではないこと、自費が上乗せされることを含んだ概算で、実際の点数や単価まで詰めた試算ではありません。
    腕を磨いて増えるのは、医療収入のほうである
    対談の終盤で、出演者は別の角度から同じことを言います。歯科医師は勉強して腕を磨けば自費の売上が上がる。医療収入を上げようと思えば、いくらでも上げられる仕組みになっている、と。
    これは、腕を磨く意味がないという話ではありません。ただ、腕によって動くのは医院に入ってくるお金のほうであり、それが自分の所得になるかどうかは別の設計に依存します。冒頭で年商と所得を分けた理由が、ここで効いてきます。自費が伸びても、そのぶん人と設備が増えていれば、手元に残る割合は変わりません。1億円を所得で語ると決めた以上、追うべき指標は売上ではなく、売上のうち何%を自分の報酬として取り出せるか、という構造のほうになります。
    「プレイヤーではなく経営者として」という言い方
    では、どうすれば規模のほうを動かせるのか。対談で示される道は、組織を大きくしていくしかない、というものです。特に地方で、人が定着し、定期管理が回り、必要な処置がきちんと自費につながる医院をつくる。そのうえで規模を積み上げる。画面には「プレイヤーではなく経営者として組織を大きくする力が求められる」というテロップが出ます。
    さらに上を見るなら、分院展開をして自分が理事長となり、役員報酬を上げていく方法もある、と出演者は言います。そして「経営者に脱皮しないと、年商10億円というものにはいかないでしょうね」と続けます。ここで語られているのは、より多く診療する話ではなく、診療する人を増やして、その全体から自分の報酬を取り出す立場に移る話です。対談では、そもそも開業そのものが最初の壁として一つある、とも確認されています。
    なお、診療者のままでも高い収入に届く働き方は存在します。対談では、週2日で来ているフリーランスの矯正医の例が挙がりました。ただしこれは出演者が人づてに聞いた金額で、一次資料の裏づけはありません。そういう働き方があるという範囲で受け取るのが妥当です。
    1億円を目指さない院長にも、この逆算は使える
    この対談が扱っているのは、年収1億円という極端な目標です。多くの院長にとっては自分の目標ではないでしょう。それでも、逆算の手順そのものは目標額を入れ替えれば同じように使えます。ほしいのは所得か年商か。所得なら、年商の何%を自分の報酬として取り出す前提なのか。その前提で必要な年商はいくらか。それを診療日で割ると、1日いくらになるか。最後に、その1日を今のユニット数と人員で受けきれるか。
    この順番で降りていくと、足りないのが腕なのか、枠なのか、人なのかが分かれます。出演者が繰り返し言っていたのは、どんなに高く自費を売っても割り算の答えは変わらない、ということでした。売上を伸ばす工夫の前に、自分がどの数字を目標にしているのかを言い直してみる。対談の出発点にあった「年商ですか?」という問い返しは、1億円を目指さない医院でも同じように効きます。
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    歯科医師は年収1億円稼げるのか(2026年2月5日公開)
    1D編集部
    3日前
    「衛生士がいないから」で、求人を出し続けていませんか?――応募が集まる医院が変えているのは、終わる時刻と昇給の道すじ

    「衛生士がいないから」で、求人を出し続けていませんか?――応募が集まる医院が変えているのは、終わる時刻と昇給の道すじ

    求人票を出す。反応がない。しばらく置いて、また同じ文面で出し直す。歯科衛生士の採用について、対談で最初に確認されるのは、この繰り返しがなぜ続くのかという点です。出演者は、採用を支援する会社は世の中にいくらでもあるけれども、歯科医療者を雇う採用はそれらと同じやり方では進まないと言います。免許を取ったうえで、あえて別の仕事を選ばなかった人だけが対象になるからです。声をかけられる相手は、最初から限られています。
    出演者の一人は、自分が分院長だったころを振り返ります。衛生士がいたので採用に力を入れていなかった、求人票がたまに届いて、それをたまに見る程度だった。そのうえで、あのとき本気で採りにいっても全然採れなかったと思う、と続けます。ここから対談が向かうのは、募集の出し方ではなく医院そのものの条件です。挙がるのは、給与、勤務時間、福利厚生の三つでした。
    入り口の給与は、思っているほど低くない
    対談はまず、歯科衛生士の給与は安いのか高いのか、という問い直しから始まります。出演者が置く目安は初任給30万円です。四年制大学を出て上場企業に就職しても、初任給30万円なら「ちょっといい」ほうに入る。専門学校や短期大学からその水準に届く職種は、そう多くありません。入り口の条件だけを比べるかぎり、歯科衛生士は不利な職業ではない、というのが出演者の見方です。
    ここは押さえておく価値があります。応募が来ない理由を「うちは給料が安いから」で片づけると、直す場所を間違えるからです。なお実際の相場は地域や雇用形態で動きますし、動画で出演者が個人的に調べたとする数字は出典が示されていないため、本稿では金額としては扱いません。
    上がらないのは文化ではなく、設計の結果
    では何が問題なのか。出演者が挙げるのは、入り口ではなくその後です。歯科医院の売上は保険診療が中心で、そこから払える給与には上限ができる。結果として、初任給は悪くないのに、そこから上がっていかない。10年働いて100円上がった、という例え方まで出てきます。出演者はこれを「昇給の制度が整っていない」ことがお金の課題なのだと整理し、給与が低いから辞めるというより、上がらないから辞めるのだと述べます。
    ただし出演者は、だから一生上がらないという話ではない、とも言います。衛生士が担う処置や継続的な口腔管理が医院の売上を生むのであれば、その分は返せるはずだ、という主張です。動画では、そうした管理を評価する算定の仕組みにも触れられます。ここは制度の要件まで説明されてはいないので、自院で使えるかどうかは一次資料で確かめる必要があります。それでも出演者の結論ははっきりしていて、衛生士の給与は上がらないというのは文化ではなく、経営と算定の設計で変えられるはずだ、まず院長が考えることだ、と言い切ります。
    金曜の夜に、その席にいてもらうということ
    二つ目は勤務時間です。夜7時半、8時まで働きたい人はいない、という当たり前のところから話は始まります。出演者は自分の経験として、いまも毎週金曜日は歯科医院での勤務があり、そのあと街に出ると、明日休みの人たちが飲んでいるのを見ることになる、と話します。歯科医師として働いていたころは、それがかなり応えたとも言います。
    歯科医院の週末は、一般の会社とずれています。土曜は朝が早いことが多く、衛生士は診療が終わってからも片付けが残る。同年代が休んでいる時間に働き続けるのが、この仕事の標準になっているわけです。給与の話とは別に、この負担は毎週効いてきます。求人票の文面を何度書き換えても、ここが動かないかぎり比較の土俵に上がれない、というのが出演者の見立てです。
    夜が長くなったのは、患者が望んだからとは限らない
    なぜ遅くまで開けることになったのか。出演者はその経緯を、次のように見ています。地域に歯科医院が1軒しかなければ手が回らない。そこに後から参入した医院が、あそこが閉まっている時間なら自分が開けようと考える。最初は患者への配慮でもあり、経営戦略でもある。ところが隣がやっているからと対抗が始まると、診療時間を延ばす競争になる。患者の側も、8時まで開いているなら7時に行けばいいと動きます。もし全国の歯科医院が5時までしか開けていなければ、患者はその時間に合わせて来るはずだ、というのが出演者の指摘です。つまり、伸びた分のうちいくらかは、患者の必要ではなく医院同士の事情かもしれない。
    これは出演者の見立てであって、検証された数字ではありません。夜の診療をやめろという話でもない点は本人が明言しています。昼間に来られる人を大事にする医院も、夜に来る人を狙う医院も、どちらも成り立つ。もったいないのは、どちらとも決めないまま漫然と遅くまで開けている状態のほうだ、というのが主張です。周囲には5時で予約を締める医院の例もあり、診療時間を短くしても売上が変わらなかったという話、求人に「早く終わる」と書くと応募が集まるという話も紹介されます。いずれも伝聞なので、確かめるのは自院の数字です。そして短縮するなら、どの時間帯の患者を手放すのかを先に決めておくことになります。
    戻ってくる枠があるか、黒髪でなければならないか
    三つ目の福利厚生で、出演者が具体的に挙げるのは復職の受け皿です。産休や育休の制度があったとしても、子どもは2時ごろには帰ってきます。だからフルタイムでの復帰は現実には難しく、時短やパートでの復職が実際には多くなる。そうした枠を当たり前のものとして持っている医院なら、と出演者は言います。歯科衛生士は離職したまま戻っていない人が多い職種で、業界としては戻ってきてほしい。その受け皿を先に用意しておけば、採用に困らなくなるはずだ、という順番です。
    もう一つ、身だしなみの規定にも話が及びます。最近はネイルをしていいか、髪を明るくしていいかと相談されることが増えた。出演者は、患者も普通の人であって、自分自身も見た目を大きく変えたときはむしろ好印象だった、と話します。ネイルについては診療で手袋をする以上そもそも影響しにくい、明るい髪を禁じているのは自費中心の医院のほうがむしろ厳しい、といった具体も出てきます。世の中が多様な見た目を受け入れる方向に動いているなかで、それでも黒髪しか認めないと決めているなら、その決まりが採用に見合っているかを考えるべきだ、というのが結論です。
    出演者自身は、最後に「だいぶ偏った個人の見解」と断っています。それでも三つに共通しているのは、いずれも他院の事情ではなく自院で決められることだ、という点です。求人票の文面を直す前に、何時に終わるのか、何年後にいくらになるのか、一度抜けた人が戻れるのかに、自分の言葉で答えられるかどうか。答えが去年と同じままなら、文面をどう変えても返ってくるものは同じかもしれません。
    元動画を見る
    【採用】歯科衛生士が「働きたい」と思えるクリニックの特徴3選(2025年7月10日公開)
    1D編集部
    2026年9月28日
    「誰かが出ればいい」で、電話を回していませんか?――歯科医院のDXで先に減らせるのは、担当の決まっていない仕事

    「誰かが出ればいい」で、電話を回していませんか?――歯科医院のDXで先に減らせるのは、担当の決まっていない仕事

    診療の途中で受付の電話が鳴る。受付に人はいない。衛生士は患者の口の中に手を入れている。結局、手を止められる誰かが出る。それが院長のこともあれば、その日いちばん経験の浅いスタッフのこともある。
    1Dの対談動画「歯科医師の仕事を劇的に減らすためのDX3選」は、予約・顧客管理、受付と電話対応、教育という三つの領域を順に扱います。ただ、製品を三つ並べた回ではありません。出演者が冒頭で「ただ単にデジタル化するんじゃないぞ」という話だと前置きし、世の中の変化と歯科の現場との「乖離を埋めるべく」三つを用意したと言うとおり、通っているのは道具の話ではなく、誰の時間が何に使われているかという話です。ここでは、その視点から三つを読み解きます。
    「手が空いている人」が、毎回同じ人になっていないか
    対談がいちばん具体的になるのは、電話の場面です。出演者は、自分がアルバイトをしている歯科医院では人が少なく、電話が鳴れば自分も出ると言います。誰も出られない状況になれば、衛生士が出ることもある。そして「クソ無駄なわけですよ、あんなの」と言い切ります。
    無駄だと言われているのは、電話応対という仕事そのものではありません。処置の途中にいる人間が手を止めて受話器を取る、という割り当てのほうです。電話番という役割が誰にも振られていないと、その仕事は「そのとき手が空いていた人」に落ちます。そして医院の中で手が空きやすい人は、たいてい毎回同じ人です。
    これは出演者自身の勤務先での経験談であり、医院一般の実態を測った調査ではありません。ただ、自院に当てはめて確かめることはできます。今週、診療を中断して電話に出たのは誰で、何回だったか。その回数を数えている医院は、あまり多くないはずです。
    待たせているのは、目の前の患者だけではない
    出演者は同じ場面で、この状態は「患者さんとしても良くないし」とも言い添えます。ここは見落とされやすい指摘です。
    人手の話は、たいてい院内の負担として語られます。スタッフが疲れる、院長の時間が削られる。けれど電話が鳴っている瞬間、待たされている人は二人います。処置を中断された目の前の患者と、呼び出し音の向こうで待っている患者です。手の空いた人が出るという運用は、この二人のどちらを待たせるかを、その場の成り行きで決めているのと同じことになります。
    対談が示す方向は、電話対応をAIに置き換えて「無人化」することでした。出演者はこれを「DXにもっと近づく」踏み込みだと位置づけています。ここからは編集部の整理ですが、置き換えを検討するかどうかにかかわらず、誰がいつ出るのかを決めること自体は、道具を入れなくても動かせる部分です。
    「漏れが怖い」で人に戻す前に、確かめられることがある
    自動で電話を受ける仕組みに対して出てくる反応も、対談は先回りして取り上げています。「アポ漏れ怖いから、もう人がやった方がいいです」。これに対する出演者の答えは、「やってみてください」でした。
    説明されている仕組みは、電話が来たら通知が届き、用件を尋ねる、という範囲にとどまります。留意しておきたいのは、対談が示しているのはここまでだという点です。導入した医院で予約の取りこぼしが何件減ったといった数字は出てきません。効果が測られて示されたのではなく、試す価値があると言われている段階の話です。
    そう読むと、判断の仕方も変わります。入れるか入れないかではなく、どこまでなら任せて確かめられるかを決める。時間外だけ、特定の用件だけを任せ、取りこぼしが起きたかどうかを人が見る。対談の「やってみてください」は、その意味でなら自院の手順に置き換えられます。
    置き換える順番は、動画の中で示されている
    三つのうちどこから手を付けるかについて、対談は明確です。予約と顧客の管理は「DXの一丁目一番地」であり、画面のテロップも「顧客・予約管理のDX化は最優先でやるべき」と示します。理由として挙がるのは、変えた効果を実感しやすい領域だという点です。
    同時に、出演者は移行の難しさも認めています。今のやり方に慣れているほど、従来のままのほうが楽だと感じてしまう。だから移行は「もう『エイヤ』でやるってことしか」ない、という言い方になります。踏ん切りの問題として語られているわけです。
    そのうえで対談には、導入が終わったかどうかを測る一文が置かれています。「紙からデジタルに置き換えただけではDXって呼ばない」「デジタルによってオペレーションが変わらないと」。つまり、システムが入った日ではなく、これまで人がやっていた手順のどれかが実際になくなった日が、区切りになるということです。入れたのに忙しさが変わらないと感じるなら、確かめるのはこの一点になります。
    院長が減らしたいのは、自分の仕事か、医院の仕事か
    三つ目は教育です。ここで対談の視点は、院長個人からスタッフ側へ移ります。画面には「セミナーに行かなくても勉強できる時代になった」とあり、出演者は院長側の目線では自分が学ぶことよりも、スタッフに何をどう学ばせるかの話になると整理します。衛生士がどう立ち回るとよいのか、歯科の知識がまったくない人が最初に見るべき基本的な内容は何か、といった具合です。
    そのうえで「『何を学ぶか』が大事なわけですよ」と続きます。見られる本数が増えること自体は、ここでは価値として扱われていません。何を選んで渡すかが院長の仕事として残る、という整理です。
    期待される結果として、対談はリコールが戻るようになる、勤務医や衛生士が自費の治療を担えるようになる、といった例を挙げます。これらは見通しとして語られたもので、学習を提供すれば得られると保証されたものではありません。ただ、教育を「受けさせたかどうか」ではなく「誰が何をできるようになったか」で見るという測り方は、そのまま自院に持ち込めます。
    予約管理、電話対応、教育。扱う場面は違いますが、対談が三つに共通して当てているのは、決まった担当のないまま誰かが引き受けている仕事です。電話は手の空いた人が取り、予約台帳は書ける人が書き、勉強は本人のやる気に任されている。何を買うかを考える前に、自院で担当の決まっていない仕事を書き出してみる。減らせるかどうかの判断は、そこからのほうが具体的になります。
    本記事は1D公式YouTubeの対談を要約・再構成したものです。見出しは逐語引用ではありません。「」内は動画の画面字幕の表記に沿っています。電話やAIの運用に関する具体的な進め方は、動画の論点をもとに編集部が整理しました。
    元動画を見る(2025年10月2日公開)
    1D編集部
    2026年9月27日

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