フッ化物塗布後30分の飲食禁止はマストなのか?
フッ化物塗布後の飲食30分禁止とよく言うが、これは正しいのだろうかとふと思った。確かに何となく長く置いてたほうが効果は高くなりそうだし、他の歯科医師も言ってるから間違いなさそうだが…30分というワードだけが独り歩きしているように感じた。フッ化物歯面塗布について フッ化物塗布はご存知の通り、米国・予防医療研究班による歯科疾患予防のガイドライン(1988年)においても齲蝕予防に対して、根拠の質Ⅰ、勧告の強さAと最高のエビデンスレベルを誇っている。 フッ化物洗口より費用対効果が悪いなどの議論の余地はあるが今回は触れない。飲食30分禁止は正しいのか?フッ化物塗布後の洗口について論文を二つほど見ていきたい。まずは1986年のThe American Academy ofPediatric Dentistryを見てみよう。At the conclusion of the 30-min period, the demineralized enamel from the patients who were not permitted to rinse, eat, or drink contained 13.85 ~g F/mm3. At this time, a significantly lower amount of fluoride (8.13 ~g F/mm3) was observed in patients who rinsed with tap water and were permitted to eat or drink during the 30-min postapplication period. This differential in the fluoride content of the demineralized enamel between the 2 treatment regimens persisted throughout the 21-day period and the differences were statistically significant at each sampling time.Conclusion Significantly greater amounts of fluoride deposition in demineralized enamel were observed when patients were not permitted to rinse, eat, or drink for 30 min following the fluoride treatment. This difference in fluoride deposition was apparent throughout the 3-week test period. An increase in the hardness of the lesions, indicative of remineralization, was observed with both fluoride application procedures.フッ化物処理後30分、 すすぎと飲食が許可されていなかった場合に、脱灰されたエナメル質に著しく多量のフッ化物沈着が観察された。 フッ化物沈着の違いは3週間のテスト期間全体を通して明らかであった。硬度の増加、再石灰化は両方のフッ化物塗布手順で観察された。とある。すすぎ、飲食をした場合のフッ化物の濃度は、30分群の58.7%の割合となっている。また、1997年の口腔衛生学会雑誌では、フッ化物歯面塗布に関する研究 : 塗布要領の再検討 第III報にてフッ化物歯面塗布術式のうち,塗布後の洗口・飲食禁止時間を再検討する目的で,in situモデルを用いてAPF溶液(9,000 ppm F^-,pH3.6)4分作用アパタイトペレットの口腔内浸漬実験を行った。その結果,8時間浸漬後のペレット中の残留フッ素量は,すべての群でAPF溶液作用直後群の半量に減少していた。浸漬群間では洗口開始時間が早かった0分群,10分群は他の群に比較して残留フッ素量は少なかったが,一般にいわれている洗口・飲食禁止時間の30分群を基準に残留フッ素量を比較すると,0分群でも表層から内層に向かって一様に30分群の80%の割合でフッ素が確認された。各浸漬群の酸抵抗性試験では,すべての群で対照群に比べて耐酸性獲得が認められた。また脱灰時間が長くなると,洗口開始時間が早い群は遅い群に比べてカルシウム溶出が多く認められたが,それらの群もAPF作用直後群との間には差はみられなかった。以上のことから30分間の洗口・飲食禁止時間短縮の可能性が示唆された。この研究では「洗口・飲食禁止時間の30分群を基準に残留フッ素量を比較すると、0分群でも表層から内層に向かって一様に30分群の80%の割合でフッ素が確認された。」とあり、「30分間の洗口・飲食禁止時間短縮の可能性が示唆された。」と結論づけている。なぜ30分が定着しているのか?そのルーツを探った。フッ化物応用は班状歯の原因調査からスタートしている。1920年代後半〜日本では、正木正らが斑状歯の流行調査を行い、西日本、温泉地帯、花崗岩と石灰岩の産地に多いこと、斑状歯の流行地域ではう蝕が少ないことを発見した。 1942年にフッ化物歯面塗布によるう蝕予防の有効性は、CheyneやBibbyにより、初めて報告された。 1969年にはWHOが加盟国に対してフッ化物応用を実施するように勧告した。その後、日本でフッ化物は1970年より日本歯科医師会が積極的応用を推奨するなど地域歯科保健施策の一環として取り入れられ始めた。 飲食30分禁止のルーツは1970年前後にあるだろうと検索し、 1966年の厚生省医務局歯科衛生課: 弗化物歯面局所塗布実施要領を見つけた。薬液の塗布塗布のねらいは、歯面をなるべく長く弗化物溶液に浸潤させることにある。このため歯面を三分間以上何回も薬液を十分浸した小綿球等でぬりつける。この際小窩裂溝や隣接面には特に注意する。塗布直後約三○分間は、洗口させないで、つばをはかせる程度にとどめるようにする。なお、使用器材としては別表(一)に示すものを用いる。とあった。この要領が日本のフッ化物塗布後30分の飲食禁止のルーツだといえる。しかしこの要領のルーツが海外の研究にもあるはずだ。もし見つけた人はコメント欄で教えてほしい。考察 フッ化物歯面塗布は0分より30分の方が効果が高いのは間違いない。 この記事のリサーチをするまでは、0分と30分の間にはもっと効果に差があると思っていた。しかしこの記事を書き終えた今、フッ化物塗布後30分の飲食禁止は、すべての患者にとってベストの飲食禁止時間とは言えないと考える。フッ化物塗布を嫌がる幼児や小児は多くいると思う。自分の子供の健康を願い、歯科医師、歯科衛生士に言われた30分の飲食不可の約束を守り、泣き喚こうが30分飲食させない親もいるだろう。そういった行為によって歯科嫌いな人間が多く生まれ、定期検診や口腔管理を怠るようになってしまっては、本末転倒である。30分の飲食禁止が”必ず”では無い事、患者によっては飲食禁止時間をアレンジする必要があるかもしれない。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献The effect of rinsing with water immediately after a professional fluoride gel application on fluoride uptake in demineralized enamel: an in vivo study George K. Stookey, PhD Bruce R. Schemehorn, MS Catherine A. Drook, LDH, BS Becky L. Cheetham, CDA <URL>弗化物歯面局所塗布実施要領について<URL>フッ化物歯面塗布に関する研究 : 塗布要領の再検討 第III報<URL>