アスピリン喘息による死亡。歯科医師の責任が問われた事例と問われなかった事例
歯医者から帰ってテレビ見ていたら、苦しくなって……平成2年3月のある日の午後2時半、福岡県のある歯科医院で左上の智歯抜歯が行われた。抜歯後には、ロキソニン(鎮痛抗炎症剤)、レクトーゼ(消炎酵素剤)、ケフレックス(抗菌薬)が処方され、患者はそれを服用した。患者は家に帰りしばらくはテレビを見ていたが、同日午後3時半ころ、喘息の発作を起こし始めたので、発作を鎮静させるための吸入を二回行った。しかし、発作はおさまらず、顔色が赤黒くなり始め、下腹部を両手で押さえながらトイレに駆け込み、しばらくして同所で意識を失い、「ドン」という音とともに転倒した。患者の妻は歯科医師に対して、すぐに連れて行くので見てくれと頼んだが、緊急を要するので近所の呼吸器専門の医師に往診を依頼した。呼吸器専門の医師が到着したときには、患者はうつ伏せで倒れており、顔面はチアノーゼを呈し、心臓は停止していた。心臓マッサージを施したが蘇生はしなかった。同日5時半、患者は死亡したと判断された。問診書には書いてあった患者は予診録にはきちんと喘息の既往を書いていた。「あなたの体質は?」の項については「特異体質 ぜんそく」に、「使えない薬は?」の項については「ピリン系薬剤」に各々丸印をつけ、さらに「今までにかかった病気は?」の項については「ぜんそく」と自ら記入した。予診録を見た被告は、患者に対して喘息の状態を問診したところ、患者は、自分には喘息の持病があり、ピリン系の薬剤で喘息の発作が起こる旨答えた。それにも関わらず、歯科医師はアスピリン喘息の概念、ロキソニンがアスピリン喘息を惹起すること及びロキソニンをアスピリン喘息又はその既往歴のある患者に投与してはいけないことについては全く知らなかった。それ故に、アスピリン喘息で患者は死亡してしまったのだ。当時の裁判所は担当した歯科医師がアスピリン喘息を知らなかったことについてこのように結論づけている。アスピリン喘息は、呼吸器やアレルギー疾患の専門医の間では既に昭和55年ころから注目されるようになっていたものであり、また、本件事故当時、ロキソニンの使用説明書や医学文献にアスピリン喘息についての記載があったことからすると、歯科医師であっても、アスピリン喘息に関する知識を修得することは容易であったと認めざるをえないばかりでなく、前記医師の業務の特殊性及び薬剤が人体に与える副作用等の危険性に鑑みれば、右認定のアスピリン喘息に関する知識が福岡市内の開業歯科医師の間では一般的に定着するに至っていたとはいえないなどの事情は被告に課せられていた研鑽義務を何ら軽減するものではないことは明らかである。投与における注意義務を怠って 漫然とロキソニンを投与したとして、歯科医師の不法行為責任が認められ担当歯科医師は約2000万円の損害賠償を命ぜられた。同じアスピリン喘息の死亡ケースで、歯科医師の責任が問われなかった事例先の事例とは反対に、歯科で処方された薬物をきっかけにアスピリン喘息により患者が死亡した事例でも、歯科医師の責任問われなかった場合もある。群馬県のとある歯科医院で平成10年同じ様に、歯科医師が処方した薬物がトリガーとなり発症したアスピリン喘息で死亡したケースの裁判の判決はこうであった。男性は非ステロイド性抗炎症薬の投与によって誘発される気管支喘息(ぜんそく)「アスピリン喘息」を患っている可能性があった。患者への解熱鎮痛薬ロキソニンの投与は禁じられているが、同診療所で治療後、処方されたロキソニンなどを服用。間もなく心肺停止状態になり21日後に死亡した。 判決で裁判長は、(1)男性はそれまでアスピリン喘息と診断されたことがない(2)以前、非ステロイド性抗炎症薬を処方され服用したと思われるが異常はなかったことから、ロキソニン投与によって重い発作を引き起こすことは予見できなかったとして、担当医師の過失を認めず、男性の死亡との因果関係も認められないと判断した。つまり、きちんと問診を取ること、予診録にしっかり記録すること、そして必要である医学的知識をきちんと学ぶことが歯科医師として求められていることであることがここから分かる。歯科医院における死亡事故セミナー開催歯科医院における死亡事故をケースから学ぶオンラインセミナーが開催決定。講師は法歯学者の佐藤慶太先生(鶴見大学歯学部教授)。興味がある方は、ぜひご参加ください。セミナーの詳細を見てみる参考文献福岡地方裁判所 平成2年(ワ)2216号 判決, 大判例, <URL>, 2020年8月23日閲覧前橋地裁平成24年8月31日判決,アスピリン喘息の可能性ある患者のロキソニン服用後死亡事案で請求棄却報道, 弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ, <URL>, 2020年8月15日閲覧後藤隆志, & 一戸達也. (2012). 気管支喘息を有する患者に対する歯科治療時の注意点を教えてください.