歯科治療による死亡事故 File.02:訪問歯科での感染根管治療で...
超高齢化社会を迎え、訪問歯科診療のニーズは年々高まっている。これから更に高齢化が進み、歯科医院に通えなくなる患者も増えると予想される。しかし、訪問診療が患者のQOLを必ず上げるとは限らない。本記事では、訪問診療で感染根管治療を受け患者が死亡した一例を取り上げる。処置の詳細、なぜ死亡したか、今後私達はどう対応するべきかを考察したい。事故の経緯67歳の男性(以下、Bさんとする)。糖尿病による慢性腎不全で週2回の透析を受けていて、肝硬変の既往があった。平成15年12月某日、Bさんは下顎右側第一大臼歯の疼痛を主訴に訪問診療を受けた。診療に当たった歯科医師は所見から根尖性歯周炎と診断、感染根管治療を行った。診療時に異変は見られなかったが当日夜、右側顎下部に疼痛が生じた。その後Bさんは食欲低下、全身倦怠感を訴え、翌日に救急搬送された。救急搬送されたときの状態は以下の通りである。バイタルサイン体温:36.9°C血圧:86/60mmHg脈拍:90/分意識レベル:Japan coma scale(JCS) I-3 (刺激しないでも覚醒している状態だが、自分の名前、生年月日が言えない。)局所所見右側頬部から頸部にかけてびまん性腫脹があった。発赤なし。触診で同部に熱感があり、圧痛が著明であった。X線所見X線CTでは右側頬部から下顎部にかけて皮下軟組織の腫脹があった。下顎部の肥厚した皮下軟組織内にガス像を認めた。初診時の臨床検査所見白血球数:12074/mm3赤血球数:2.61万/mm3血色素量:8.0g/dlヘマトクリット値:25.1%PLT:19.2万/μlCRP:23.88mg/dlざっとみると、白血球数やCRPが高く炎症の所見がみられ、右側顎下部は腫脹し、X線でもガスが中に溜まっていることが分かる。<臨床診断>右側急性下顎骨骨炎ならびに頸部蜂窩織炎画像:日本有病者歯科医療学会雑誌よりBさんは即日入院となり抗菌薬が投与されたが、入院翌日には血圧低下、意識の混濁が見られた。動脈血ガス分析からpH:7.289、PCO2:23.2mmHg、PO2:91.8mmHg、代謝性アシドーシスを認めた。動脈血培養および閉鎖膿からMRSAが分離培養された。X線写真では右側顎下部のさらなる腫脹、ガス像の増大がみられ、右側耳下腺も変形していた。以上より臨床症状と合わせて敗血症と診断された。薬剤を変更し、透析の管理も行うために腎臓内科に転科となった。徹底した全身管理と局所洗浄、ドレナージを追加したがCRPは高いままで炎症は収まらなかった。これ以上の回復は見込めないと判断し、透析を中止、数日後Bさんは死亡した。死因はカリウム、尿酸の増加による心不全であった。訪問診療がゆえのリスク通常、感染根管治療で死亡するリスクは殆どないはずだ。神経の治療を前にして「遺書書いてなかったな…」などと思う患者はいないだろう。しかし、事実としてBさんは「歯の根っこの治療」のあとで体調が悪くなり、その1ヶ月後には死亡してしまった。健常者の場合一時的な菌血症に止まり敗血症に移行することは稀である。しかしBさんは糖尿病性腎症に罹患し、易感染状態であったことから重篤化してしまった可能性が高い。また早期にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたことから、処置による感染も否定できない。訪問診療は患者のベットサイドに往診し処置することが求められているため、衛生面に置いて良好な環境が得られるとは言えない。そして患者はBさんのように有病者であることが一般的とも言え、病歴の聴取と全身管理にはより一層の注意が必要だと、改めて考えさせられる例となった。要因が重なったことにより起こった悲劇かもしれないが、誰にでも遭遇し得る状況だということを覚えておきたい。根管治療と言えど観血処置である以上、徹底した問診と医科への対診、最大限の環境整備、全身疾患に配慮した処置と感染対策が求められる。そして何よりも”訪問診療”にこだわりすぎず、臨機応変に患者と向き合うことが大切ではないだろうか。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献藤井景介, 今井謙一郎, 都丸泰寿, 内藤実, 坂田康彰, 福島洋介, ... & 依田哲也. (2005). 訪問歯科診療における感染根管処置後に発症した敗血症の 1 例. 有病者歯科医療, 14(2), 81-86.