
一般歯科に比べて世間の認知度がまだまだ低い訪問歯科ですが、こちらの記事では訪問歯科や訪問歯科衛生士について解説していきます。
訪問歯科とは、身体的・精神的な理由で歯科医院への通院が難しい患者さんの為に歯科医療従事者が患者さんの元へ訪問し歯科治療や口腔ケアをする制度です。
訪問歯科では患者さんが歯科医院まで通院することが困難なケースが殆どの為、歯科ユニットは使用せず、訪問診療用ポータブルユニットを使用します。
訪問診療用ポータブルユニットとは、ハンドピース・スケーラー・バキューム・スリーウェイシリンジが搭載されたスーツケース程の大きさで持ち運び可能なユニットです。
ポータブルユニットを携えて介護施設や患者さんの自宅へ訪問し、ベッドや車椅子など、患者さんの治療の受けやすい姿勢で治療や口腔ケアを行います。
訪問歯科の対象者は疾病や傷病により通院が困難な患者さんと定められています。要介護状態区分に基づいて判断されるのではなく、歯科医師が個々の症例ごとに判断します。
患者さんの年齢層は主に高齢者で、有病者(通院困難)であり、疾病などにより意思疎通が困難な患者さんが多いです。
歯科医院での治療の際は、歯科医師+補助者の歯科衛生士または歯科助手のペアで施術を行うことが多いですが、訪問歯科ではこれらのペアに加えて、もう1つの役割を担うコーディネーターという職種があります。
基本的には歯科医師・歯科衛生士または歯科助手・コーディネーターのチームで患者さんの元に伺いますが、
治療内容によって、歯科衛生士のみ・歯科医師と歯科衛生士(歯科衛生士がコーディネーターの役割を兼任)のペアで訪問など、どのようなチームで訪問するかは歯科医院により異なります。
令和元年度の厚生労働省「
介護保険事業状況報告(年報)」から、要介護(要支援)認定を受けている人口は約669万人と報告されています。高齢化が続く日本では、要介護認定者数の割合はが増加すると推測できるでしょう。
高齢化率が増加する中、平成29年に実施された「
年齢階級別歯科推計患者様数及び受診率」によると70歳代後半をピークに歯科受診率が急速に減少していることがわかります。これは高齢者の歯科治療の多くが外来で行われていて、通院が困難になったことが原因とされています。
受診率が下がった高齢者はハイリスク群になり、う蝕や歯周病、伴う欠損歯の増加によって口腔機能の低下をもたらします。また元々義歯などで咬合回復していた患者さんはその義歯が使えなくなり、口腔機能、さらに摂食嚥下にまで影響が及んでしまいます。
このように受診が遠のいてしまった高齢者の多くは要介護者であると考えられます。要介護者の約90%が歯科治療または口腔ケアを必要とされているのに対し、何らかの治療を受けたのは27%と言われています(
在宅医療推進会議より)。
しかし、
平成29年11月に開催された中医協総会の報告によると訪問診療を実施している歯科医院は全国で約13,000件と全体の20%以下と、要介護者に対する歯科治療の受け皿が少ないことが見受けられます。近年の診療報酬改定から訪問歯科診療に力を入れていることは明らかですが、人材不足もあり歯科医院が対応しきれていないのが実情でしょう。
つまり需要に対して供給が足りないのが現状で、今後もその傾向は続く見込みとなっています。訪問歯科衛生士のニーズはますます高まると考えられるでしょう。
一般歯科と同じく歯周治療に加えて、専門的な口腔ケア・介助者への指導や書類の作成を行います。
患者さんのベッド・椅子などで無理のない姿勢で施術や口腔機能訓練を行います。ご家族などの介助者に対し、患者さんの日頃の様子をヒアリングして、それに基づいた口腔ケア・食形態などの指導をします。
病院や施設では入院・利用している多くの患者さんの口腔ケアを行います。その際、口腔衛生の専門家として、患者さんをとりまく医療従事者との打ち合わせや日常の口腔衛生についての指導を行います。
訪問歯科では一般歯科での知識・技能の他に、高齢者の疾病や嚥下運動・介助などの知識・技能を求められます。一般歯科では経験することの出来ない業務を経験することが出来ます。
患者さんは歯科医院への通院が困難な高齢者です。意思疎通が困難なこともありますが、無理のない範囲でコミュニケーションをとります。施術時にお礼を言ってくれたり、「ありがとう」という感謝の気持ちを伝えてもらえるのが大きなやりがいになります。
訪問歯科はチーム医療とも言われており、医療・歯科・福祉従事者は各々の高い専門性を前提に、情報や目的の共有し、互いに連携し合い、患者さんの状況に対応した医療を届けなければなりません。調和重視な性格は業務を円滑に進める上で非常に重要な素質です。
患者さんへの施術はベッド上や車椅子など、患者さんに無理のない姿勢で行う必要があります。その為、一般歯科で歯科ユニットを使用している時のように施術者の身体に適したポジショニングにすることが困難になります。中腰・立て膝など施術者・補助者の身体に負担のかかる姿勢で、十分に光源が取れない状態で暗い口腔内を診なければなりません。
また、訪問先への機材搬入や片付けも身体に負担がかかることが考えられます。ポータブルユニットはメーカーにより異なりますが、8〜10キロ程あり、その他口腔ケア用品や歯科材料などを運ぶのも一般歯科とは異なる点です。
訪問歯科では意思疎通をとるのが困難な患者さんが多いため、コミュニケーションの取り方や口腔ケアを行う際に拒絶されることがあり、戸惑いを感じる場合もあります。
一般歯科と同じ感覚でのコミュニケーションは訪問歯科の患者さんには伝わっていないことも多々あり、マスクを外して顔を見せたり、声のトーンに気を付ける・手を握ってみる等、安心感を与えるコミュニケーションが取れるような工夫が必要です。
厚生労働省の資料によると、訪問診療の実績がある歯科医院は全国に約68,000中、約13,000医院と少なく、
一般歯科と比較して訪問歯科の求人は少ないことが分かります。訪問歯科衛生士の求人の特徴は以下の通りとなります。
一般歯科にて外来の患者さんを診療して、週に数回、訪問に伺う医院が多いようです。
また、業務未経験の歯科衛生士・歯科助手は一般歯科の診療で基礎的な知識・技能を身につけてから訪問歯科の往診に出てもらう歯科医院が多いです。
訪問歯科のみ実施している歯科医院でも、一般歯科勤務の歯科衛生士との給与に大きな差はないです。
訪問歯科の求人は週1〜勤務OKな医院が多く、自身の都合に合わせた働き方が可能です。また、診療時間は一般歯科よりも早い終業時間というのも訪問歯科の求人の特徴です。
訪問歯科診療の注意点は、居宅では当然ですが施設でもほとんどの場合ユニットがないことです。ポータブルユニットでの診療になりますので、まず使い方に慣れる必要があります。
また訪問歯科診療を受ける患者さんは日常生活動作(ADL)が困難な場合がほとんどで、長時間の開口保持ができないことも多いです。そして認知症や高次脳機能障害を持っている場合、意思疎通がままならず診療に対する協力状態を得ることが難しいこともあります。
そして居宅に訪問する場合、患者さんのご家族とやりとりすることもあります。歯科医院でも同じですがトラブルにならないようしっかりと説明、同意のもと診療を進める意識が必要です。
歯科医院とは違う環境の訪問歯科診療では、患者さんをよく観察してコミュニケーションを上手く取りながら診療をスムーズに進める力が求められるでしょう。
現状、高齢者への歯科診療は外来が中心に行われ、歯科受診率は75〜79歳をピークに、その後急速に減少しています。要介護者の約9割は何らかの歯科治療・専門的口腔ケアが必要であるのに対し、実際に治療を受けたのは約27%というのが実情です。
訪問歯科では一般歯科にプラスして求められる知識や技能が多いですが、多くの医療・福祉従事者と連携して本当の意味でのチーム医療を行うことができ、需要・やりがいがあります。
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