小児に対する局所麻酔薬の安全使用量「HC/6ルール」を新提案
九州⼤学⼤学院⻭学研究院の⼀杉岳講師、東京⼥⼦医科⼤学⻭科⼝腔外科佐々⽊亮講師らは、世界中の⿇酔薬の最⼤推奨⽤量に準ずる基準を⾒直し、⽇本の⼩児⻭科治療に適した局所⿇酔薬の安全な最⼤推奨⽤量(maximum recommended dose: 以下MRD ※1)を⿇酔薬の種類を問わず簡単に求められる「体重6kg 毎に⻭科⿇酔薬の注射を半分ずつ増やす」ルール、「HC/6(Half Cartridge/6 kg)」ルールを新たに提案した。今回提案したルールは、安全な⼩児⻭科治療中の事故防⽌及び予防に役⽴ち、また⻭科医師側の不安も軽減することが期待される。研究成果は⽇本⻭科⿇酔学会雑誌に2023年1⽉15⽇(⽇)に掲載された。小児歯科における局所麻酔薬使用のリスク小児の局所麻酔薬使用上限量のエビデンスはいまだ整っておらず、現在「年齢、麻酔領域、部位、組織、症状、体質により適宜増減する」という記載にとどめられている。海外の報告ではあるが、約7割の医療者は診療時に局所麻酔薬の最大使用量を意識しておらず、小児歯科専門医と一般歯科医を対象とした調査では、回答者の69%が最大推奨用量(MRD)を知らず、87%がその計算方法を知らなかったという。日本歯科麻酔学会の「安全な歯科局所麻酔に関するステートメント」では、歯科用局所麻酔剤のMRDを提示しているがその計算は煩雑であるため、歯科医師が小児の治療時に際してMRDを遵守することは容易ではない。本研究では小児に対する局所麻酔薬中毒の予防に焦点を当て、現在世界で使用されているガイドラインの局所麻酔薬のMRDを検討し歯科用局所麻酔薬の安全な使用量についての新たな簡便なMRD基準についての提案が行われた。従来の簡略化法「ルール25」現在のガイドラインで使用されているMRDの算出方法を簡略化した「ルール25」があり、この方法は「局所麻酔薬の種類を問わず、MRDを算出するのに体重25ポンド(およそ11.34kg)ごとに局所麻酔薬を1カートリッジ(1.8 ml)分ずつ加算する」というものだ。この方法では最初からMRDをカートリッジの本数として計算するため簡便に求められる。さらに、局所麻酔薬の種類を問わないことも利点とされている。しかし、この「ルール25」は年代的に後発で提唱されたためか認知度や教育における採用度が低く、米国基準であるため患者体重はポンドとなっている。また世界ではカートリッジの容量の規格も異なるため統一規格にはならないことや、使用量がかなり抑えられていることも重なり普及が進んでいないという問題が残っている。改良を加えた新基準「HC/6ルール」同研究グループは「ルール25」をより実際の診療に利用しやすくするため、「体重をキログラム(kg)で表示」「体重の設定間隔を6kgとする」という2点を改良し日本での汎用性を高めた。「ルール25」では、体重およそ11kgおきに局所麻酔薬のMRDを1.8 mlカートリッジ1筒と設定されていたため、MRDの間隔が大きく実際の小児治療に細やかに対応できない。この新基準では、体重6kg当たりでカートリッジ半筒(a half cartridge)ずつMRDを増やすことになるため「HC/6ルール(Half Cartridge/6 kg ルール)」と仮称している。従来と同様に局所麻酔薬の種類を問わないため、国内で利用されている8万倍(7.3 万倍)アドレナリン含有2%リドカイン、3%メピバカイン塩酸塩、3%プロピトカイン塩酸塩いずれでも簡単にMRDを求められる。「HC/6ルール」はほとんどの場合AAPDG、MT‒MRD、Clark’sルールの3つのガイドラインで算出されるMRDよりも小さくなるため安全性は高い。この基準を採用することで小児の局所麻酔薬中毒のリスクが大きく軽減することが期待されている。※1 最⼤推奨⽤量(maximum recommended dose: MRD):現在⽣体における局所⿇酔薬の極量を改めて検討することは医療倫理上極めて難しい。そのため、数⼗年前の研究結果をもとにした最⼤推奨⽤量のガイドラインが伝統的に⽤いられている。しかし、それら存在する基準値は⼤きく異なり、また算出⽅法が⾮常に煩雑である。さらに、どのガイドラインを⽤いるかは、それぞれの国や教育機関(⼤学等)に委ねられている。参考文献一杉岳, 佐々木亮ら, 小児歯科治療における局所麻酔薬の最大推奨用量への新提案「HC/6ルール」, 日本歯科麻酔学会雑誌, 51巻1号, 2023(PDF)九州大学, 局所⿇酔薬の安全な最⼤使⽤量を⽰す新ルールを提案, 研究成果, 2023(URL)