「絶対に誰にも言うな」。歯科医師国家試験 "漏洩" 事件の真相
歯科医師国家試験は、2014年以降65%程度の合格率が続いており、下げ止まりの状態が続いている。合格率が低迷している私立歯学部も多く、そうした大学は高校生から敬遠される傾向にある。私立歯学部は生き残りをかけて、歯科医師国家試験の合格率競争に参加せざるを得ないという状況だ。本記事では、歯科医師国家試験問題の「漏洩」事件を詳細に取り上げる。1992年に鶴見大学歯学部で、2000年に奥羽大学歯学部で漏洩が発覚している。国家試験問題の漏洩は起きてはならないことであり、歯科医師という職種に対する国民の信頼を失墜させかねない事態である。だが、歯学部には漏洩が起こりやすい土壌があったというのも、また事実である。鶴見大学歯学部での漏洩事件最初に、鶴見大学歯学部での歯科医師国家試験問題の漏洩事件を取り上げよう。1992年、同大学補綴科で附属病院の病院長だったH教授(当時57)が中心となり、試験問題の一部を学生約140名に漏らしたことが発覚した。漏洩は国家試験の前日、「絶対に口外するな」と念を押された上で開催された「国家試験壮行会」での講義にて行われた。H教授は補綴分野における歯科医師国家試験の出題委員であった。H教授は漏洩事件の発覚後に歯科医師法違反で逮捕され、自らの容疑を認めた。先述の「国家試験壮行会」は大学が主催していたため大学側の関与も疑われたが、H教授は取り調べに対し「自分の判断だった」と延べた。同年3月末でH教授は鶴見大学を懲戒解雇となり、加えて厚生労働省の医道審議会でも歯科医業停止3年の処分が下された。ちなみに同年の鶴見大学歯学部からの歯科医師国家試験受験生の合格取り消しなどは行われていない。奥羽大学歯学部での漏洩事件次に歯科医師国家試験の漏洩が世間を騒がせたのは、鶴見大学歯学部での漏洩事件の8年後、2000年のことだ。奥羽大学歯学部で漏洩が発覚したのである。厚生省(当時)が漏洩発覚後の対応を「社会通念に照らしても極めて異例とも言える非協力的な姿勢」と批判するほど大学側の対応は悪く、メディアでも大きく取り沙汰されることになった。歯科医師国家試験が近付いてきたある日、口腔外科の講義を担当していたA助教授(当時)のデスクの上に、B5版の用紙4〜5枚が何の説明もなく置かれていた。用紙には30問ほどの問題が鉛筆で書かれており、筆跡は出題委員に選出されていた同講座のB教授(当時)のものだった。A助教授はこの用紙に書かれていた問題をもとに、学生約80名に対して講義を行った。この漏洩講義は薄暗い部屋で行われ、短時間に多くの内容を講義するため「メモを取らず、覚えるように」という指示があった。なおこの講義には留年生は出席することができず、また欠席者には講義内容を知らせないようにという通達があった。また同時期にも奥羽大学では国試問題の漏洩が発覚しており、これは同大学から出題委員に選出されていた教授が他大学の出題委員から問題を聞き出したというものだった。聞き出された問題は卒業試験にも複数出題されていた。こうした問題が表出した奥羽大学は当面の間、厚生省から医道審議会委員及び歯科医師国家試験委員として任命しないこと、歯科保健課関連の予算補助先として認めないこと、卒後研修複合施設は適当でないとされることを強いられることになった。OSCEでも課題の漏洩事件歯科医師国家試験ではないが、臨床実習前に行われるOSCE(客観的臨床能力試験)でも、長崎大学歯学部を舞台として漏洩が明らかになっている。2015年3月に行われた同大学のOSCE前日、大学病院内では当日の手順の確認が行われていた。そこで模擬患者役を務め試験課題を知った研修歯科医3名が、翌日にOSCEを受験予定だった学生3名に試験課題を漏洩したのである。学生3名はLINEを通じて他の受験者全員に試験課題を広めた。結果的にOSCEがやり直しになったばかりでなく、試験課題を聞き出した学生3名は留年、研修歯科医は戒告および研修期間延長、歯学部長(当時)には訓告の処分が下された。歯科医師国家試験ほど厳密な管理がなされておらず、合格率も高いOSCEと言えど、漏洩が明るみになれば大事になることは避けられない。歯科医療に対する信頼が失墜しかねない大問題本記事で取り上げたような漏洩の背景には、歯科医師国家試験の難化が一因として存在する。私立歯学部は受験生の獲得に奔走しており、受験生の獲得には歯科医師国家試験の高い合格率が必要である。教員陣にとっても、「合格至上主義」の歯学部の現状を鑑みても、学生を国試に合格させることは大きな関心ごとなのだ。出題委員の多くは各大学の教授陣から選出されるわけであるから、倫理観を持って取り組まなければ漏洩を容易に行ってしまう土壌があったとも言える。歯科医師は、高い倫理観と専門的な技術・知識を持つべき国家資格である。奥羽大学での漏洩事件発覚後、国民からは歯科医療に対する不信感が向けられた。歯科医師国家試験の問題漏洩は、歯科医院を受診する国民の、歯科医療に対する信頼を失墜させかねない問題だということを、いま一度認識すべきである。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献『奥羽大学の歯科医師国家試験問題漏洩に対する対応について』厚生労働省, 2020年7月18日閲覧(URL).『歯学系共用試験OSCE課題漏洩について』医療系大学間共用試験実施評価機構, 2015(URL).『第93回歯科医師国家試験問題(口腔外科一般)漏洩に関する調査(回答)』奥羽大学, 平成13年11月7日.