ディスクレパンシー(arch length discrepancy)とは、歯列弓の利用可能弓長(available arch length)と、個々の歯冠近遠心幅径の総和(required arch length)との差をいう。語源は英語の「discrepancy(不一致・差異)」であり、矯正歯科ではarch length discrepancyの略としてALDと表記されることも多い。利用可能弓長から必要弓長を差し引いた値がマイナスであれば叢生(crowding)、プラスであれば空隙歯列(spacing)と診断される。永久歯列と混合歯列の双方で算出され、矯正治療における抜歯・非抜歯の判断に直結する最も基本的な分析項目のひとつである。混合歯列期ではMoyersの予測法やHixon-Oldfatherの予測法を用いて未萌出永久歯の幅径を推定し算出する。
ディスクレパンシーの計測は矯正診断の出発点であり、セファロ分析・模型分析と並んで治療方針決定の根幹をなす。一般的な判断基準として、ディスクレパンシーが-4mm以内であれば非抜歯での治療が検討され、-5mm〜-9mmではボーダーラインケースとして側方拡大・IPR・前方拡大などの代替手段と抜歯が比較検討される。-10mm以上では抜歯が適応となることが多い。計測にはノギスまたはデジタルモデル分析ソフトウェアを使用し、歯列弓の弯曲に沿った弓長をブラスワイヤーやデジタルトレースで測定する。左右の第一大臼歯近心接触点間を測定区間とするのが一般的である。混合歯列期のディスクレパンシー分析では、Moyersの確率表(75%信頼水準)を使用して未萌出歯の歯冠幅径を予測する。
叢生(crowding):ディスクレパンシーがマイナスの状態を指す臨床的表現であり、歯が重なり合って配列不正を呈する。ディスクレパンシーは数値的評価、叢生はその臨床所見を表す。空隙歯列(spacing):ディスクレパンシーがプラスの状態で、歯間に隙間が存在する状態をいう。Bolton分析:上下顎歯冠幅径の比率を評価する分析であり、歯列弓内のスペース過不足を見るディスクレパンシーとは目的が異なる。Boltonは上下顎間の歯の大きさの調和を評価する。Moyersの予測法:混合歯列期に下顎切歯の幅径から未萌出の犬歯・小臼歯の幅径を予測する方法で、混合歯列ディスクレパンシー算出に用いる。