「歯科衛生士による局所麻酔」学会が出した声明の真意とは?
日本歯科医学会専門分科会の一角を占める日本歯周病学会と日本歯科麻酔学会が、歯科衛生士による局所麻酔行為に対する見解を示した。本記事では、そもそも歯科衛生士が局所麻酔行為を行っても良いのか、そこに取り巻く問題とは何か、今後歯科衛生士の業務はどうなっていくのかを深掘りしていく。日本歯周病学会が声明を発表日本歯周病学会(理事長:村上伸也先生)は先日、『歯科衛生士による局所麻酔行為に対する特定非営利活動法人日本歯周病学会の見解』という声明を発表した。これまで日本歯周病学会は、歯周病の予防・治療をベースにした歯科衛生士による国民の口腔と全身の健康管理を積極的にサポートしてきました。歯科衛生士は歯科医師とともに安全な歯科医療を提供していく上で極めて重要な職種であり、その前提として、必要な知識・技術・態度を卒前および卒後教育で十分に修得することが求められます。その上で日本歯周病学会は、日本歯科医学会専門分科会のひとつとして、浸潤麻酔行為を含む歯周病治療に積極的に関わろうとする全ての歯科衛生士の活動を支援すべく、求められる情報発信や必要とされる教育機会の提供にこれからも尽力します。端的に言えば、「歯科衛生士が局所麻酔を行うための諸々の機会を学会として提供していきたい」という内容である。【関連セミナー】『よくわかる歯周再生療法』講師:村上 伸也先生(日本歯周病学会理事長)日程:2021年4月8日 / 会場:オンライン(Zoom)日本歯科麻酔学会も声明発表歯科衛生士の局所麻酔に関する声明を出したのは、日本歯周病学会だけではない。日本歯科麻酔学会(理事長:飯島毅彦先生)も、『歯科衛生士のための浸潤麻酔講習会に対する一般社団法人 日本歯科麻酔学会の見解』という声明を先月に出している。(前略)本学会は、歯科診療における安全管理の推進と啓発を一つの重要な責務と考えています。歯科衛生士は歯科医師とともに安全な歯科医療を進めていく上で重要な職種です。日本歯科麻酔学会は、日本歯科医学会専門分科会のひとつとして、今後も局所麻酔に関する歯科衛生士の教育に積極的に取り組んでいきたいと考えています。こちらも端的に言えば、「歯科衛生士が局所麻酔を行うための教育を学会として積極的に行っていく」という内容である。局所麻酔は「歯科診療の補助」?歯科衛生士の業務は「予防処置」「歯科診療の補助」「歯科保健指導」の3つである。局所麻酔は「予防処置」でも「歯科保健指導」でもないから、「歯科診療の補助」として行われることになる。この「歯科診療の補助」という概念が曖昧だ。どこまでが診療の補助なのか、という線引きは、法律上はっきりと規定されていない。歯科医療の枠組みや歯科衛生士の卒前・卒後教育の水準は常に変化を遂げているわけで、その時代の社会通念に合わせて「歯科診療の補助」を解釈していく他ない。【関連記事】> 『歯科衛生士が照射ボタンを押すだけなら、診療の補助じゃないの?』1D(ワンディー), 2020年10月18日.歯科衛生士による採血や投薬が法に触れなかった事例どこまでが「歯科診療の補助」かという線引きは、主治の歯科医師の判断に委ねられている。2006年に神戸市歯科医師会が運営するこうべ市歯科センターにおいて、歯科衛生士が日常的に行っていた採血や投薬について厚労省に疑義が出されたことがある。その際、厚労省歯科保健課は「今回は条件が整っており法に触れないが、技能がない場合などは違法行為の可能性がある」との見解を示している。こうべ市歯科センターの事例においては、30代の歯科衛生士が全身麻酔をかけた患者から採血したり、点滴の輸液に抗生剤を混ぜ注入速度を調整したり、全身麻酔前に鎮痛剤を投与したりしていた。歯科衛生士の養成課程では習得し得ない処置をしていたにも関わらず、厚労省は「歯科医師の指示の下で行っている」「十分な知識と経験、技能がある」「患者の不利益になっていない」という理由で、歯科衛生士の行為は法に触れないという見解を示した。この歯科衛生士は当時キャリア10年で、同センター開設時から勤務しており、十分な知識・技術・経験を持っていると判断されたのである。「歯科衛生士の能力向上」が論点しかし、十分な知識・技術を持たない歯科衛生士が麻酔や採血を行い医療事故が起きれば、それは指示をした歯科医師の責任である。歯科医師は自らの指示の下で歯科衛生士が行う相対的歯科医行為について、その行為の患者への影響度合いや歯科衛生士の知識・技術を総合的に判断して指示を出し、その責任を取らなければならない。相対的歯科医行為の線引きがケースバイケースであるからこそ、指示を行う歯科医師の判断は時に難しいものとなる。だからこそ必要なことは、歯科衛生士の知識・技能を高め、それを学会等の機関が認定するような仕組みの整備ではないだろうか。日本歯周病学会や日本歯科麻酔学会は「情報発信」「教育機会の提供」といった一見抽象的にも読める声明を出したが、まさにそれが重要なポイントである。歯科衛生士は紛れもなく、良質な歯科医療を社会に供給する上で重要な役割を担っている。今後ますます、専門性の向上や職域の拡大が進んでいくことだろう。影響力の高い日本歯科医学会専門分科会から出された本声明の意義は、非常に大きいと考えられる。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献『歯科衛生士のための浸潤麻酔講習会に対する一般社団法人 日本歯科麻酔学会の見解』日本歯科麻酔学会, 2021年2月1日(URL).『歯科衛生士による局所麻酔行為に対する特定非営利活動法人日本歯周病学会の見解』日本歯周病学会, 2021年3月3日(URL).『歯科衛生士が採血、投薬 厚労省「技能なしは違法」 神戸の障害者向け診療施設 』共同通信, 2006年11月6日.『歯科衛生士業務(診療補助)に関する業務ガイドライン <2014年4月版>』日本ヘルスケア歯科学会, 2014年4月30日.