7割が超過労働、8割が後継者不在... 歯科技工業界に、未来はあるのか?
歯科技工士の就業環境は、種々の問題を抱えたまま、昭和の時代から変わっていない。長時間労働、低賃金、学生の減少などがその代表例である。これらの問題は、四半世紀以上も改善されることなく現在に至っているのが実情だ。厚労省や歯科技工士会をはじめ、様々な組織が解決策を見つけようと状況把握に務めている。本記事は、令和3年1月13日に東京歯科保険医協会のHP上に公開された歯科技工所アンケートについてまとめてみよう。なお、50ページほどのボリュームがある資料のため、筆者が注目すべきと感じたものをピックアップする点をご了承いただきたい。 概要【調査期間】2020年9月11日~9月30日【送付先】都内23区保健所等に届出が行われている歯科技工所1,239カ所(2020年8月1日現在)【送付件数】1,139件(うち113件が不達のため、送付が確認できたのは1,126件)【返信数】211件/1,126件【回収率】18.7%【送付および回収方法】 封書で送付し封書で回収(無記名返送) 回答者の年齢分布は?回答者の年齢分布は20代30代合わせて10%に満たないが、40-60代で75%と3/4を占めている。開業年数は均等に分布しているようだが、30〜40年の間が少し多い。これは60代の回答者が29%と一番多いところとの裏付けとも言えるだろう。このことから、若手よりも現役世代の中でも年長者側の声が反映された結果と読むことができる。83%は「後継者がいない」各年代の開業区分(個人・法人)の比率を年代別に見ていく。全体的には年代が上がるにつれて個人の比率が増えているように見える。アンケートの順番では後方にあった設問だが、後継者の有無が問われていた。これによると、83%は後継者がいないと回答していた。個人開業では「子どもに跡を継がせない」ということであり、法人では「社内から生え抜きの新役員が出てこない」ということであろう。後継者がいない原因については後述するが、労働時間や収入の面でネガティブな部分が多いことが原因といえるだろう。 労働時間がまともなのは1/3程度だけ1週間の労働時間をみると、ノー残業と読める42時間以内は20%のみであった。法定労働時間内と読める50時間/週以内の比率はおよそ1/3(35%)である。また、ほぼ同じ比率で週休2日を取得していると回答があった。つまり、まともな歯科技工所は1/3程度だけということである。一方、2/3は長時間労働で休みも少ないという状況で、歯科技工士の就業環境の悪さが結果として現れている。 歯科技工所の売上にまつわる「負のスパイラル」次に、開業区分に分けて売上別にその比率を見ていく。法人の規模が定かではないため、個人と法人の比較は意味をなさない。そのため、個人の売上高分布に注目する。40%近くが500万円以内という結果であった。単純計算で40万円/月の売上ということになる。休みが少ないということを考慮し、稼働日25日として、一日1.5〜2.0万円の売上ということになる。仕事の中身がどういうものかは定かではないが、2万円/日の売上を立てるために長時間労働を強いられているということになる。次のグラフは開業区分別に保険と自費の受注比率を示したものである。法人と比べると、個人開業のほとんどが保険の仕事を主として受注していることがわかる。つまり上記にある2万円/日の仕事の中身は保険が主体である。保険点数の増額が歯科技工士の就業環境改善の対策といえるが、保険点数の10割をもらっていればそうだと言えるが、実際は7割すらもらえておらず、営業ラボの下請け担った場合には3割程度になる場合もあると聞く。一方で法人の場合は、自費率が高くなる傾向にある。仕事の半分が自費となっている法人ラボは60%以上あることがわかる。この理由を推測すると、昨今はジルコニアが主流となっていることから設備投資が一因と考えられる。また人員的余裕も生まれるため営業力の差も出てくると考えられる。資金や時間に余裕があればあるほどよい事業環境が構築できている。一方、余裕がない歯科技工所は負のスパイラルに陥るものと推測する。「歯科技工料金の均一化」は実現しうるのか?続いて、「これから保険診療制度がどのように変わってほしいのか」という設問に対する回答をみてみよう。保険医協会が用意した選択肢(「7:3の徹底」、「直接請求」、「技工料明確化」、「現状維持」の4つ)から回答を複数選択するというものである。これらの選択肢の意図するところは、歯科技工料金の均一化であると読める。 最も多い回答は「直接請求」であり、他の回答についても半数近くが希望すると回答していた。つまり、技工料金を均一にしてほしいとの声が多かったというわけだ。前述、保険の仕事を主体とする個人ラボの売上が低かったことを考えると技工料は歯科医師に請求するのではなく、保険点数を直接受け取れる制度を作ることが解決策と期待しての結果であろう。直接請求は一見して良いようにも見えるが、反対の意見も耳にする。具体的には入金までのリードタイムが長いことで資金繰りが悪化しやすくなることや事務手続きの煩雑さなどを心配しての意見だ。良いも悪いもある制度改革だが、これまで四半世紀以上変化がなかったことをどうやって変えていくか、そこの議論が欲しいところだ。 歯科技工士の職域は拡大するのか?歯科保険医協会では歯科技工士に対する診療報酬上の新しい評価の導入の推進を考えており、これまで点数化されてこなかった保険でのシェードテイク等の技術料を診療報酬で評価することに対して希望を問うものだ。 いずれも半数近くが賛成という結果だった。個人的には、これらすべてに診療報酬がつくに越したことはないと思う。また、シェードテイクの技術料と出張料という経費が別として評価されている点は合理的な考え方であり、このように実態に則した評価を期待したい。 厚労省での検討委員会においても、歯科技工士の職域拡大が議論に上っている。しかし、診療報酬の部分に関する検討はこれからである。その際には今回のアンケートが参考にされる可能性もあるだろう。もし次にどこかの組織団体がアンケートを実施するならば、希望する点数を問うところまで踏み込んだ設問を用意していただきたい。最後に最後まで読んでいただきありがとうございました。ボリュームのある報告書の一部を紹介したにすぎず、詳細な内容はぜひ報告書を直接確認いただきたい。一部の技工料金については実態調査の報告もある。今回は記事として長くなるため取り上げなかったが、本年は日本歯科技工士会の実態調査が報告される年であるため、技工料金に関する内容はその機会を利用して皆様に詳細をお届けしたいと思う。参考文献1. 東京歯科保険医協会 歯科技工所アンケート 報告書(URL)