歯科用語集
2025年10月28日

歯科訪問診療

「歯科訪問診療」とは?歯科用語の解説と症例を紹介

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定義・語源

歯科訪問診療とは、患者が通院できない場合に、歯科医師が直接患者の居住地や施設に出向いて行う診療を指す。主に高齢者や障害者など、移動が困難な患者を対象としている。この診療形態は、患者の生活の質を向上させることを目的としており、訪問診療の重要性が高まっている背景には、超高齢社会の進展がある。語源としては、「訪問」は「訪れること」を意味し、「診療」は「医療行為」を指す。したがって、歯科訪問診療は、患者のもとに訪れて行う歯科医療を意味する。


臨床における位置づけ・判断基準

臨床において、歯科訪問診療は、患者の状態に応じた適切な判断が求められる。具体的には、患者の口腔内の健康状態や生活環境、社会的背景を考慮し、訪問診療の必要性を判断する。診療内容には、口腔衛生指導、虫歯治療、義歯の調整などが含まれ、これらは保険点数に基づいて評価される。訪問診療は、患者のニーズに応じた柔軟な対応が求められ、医療チームとの連携も重要である。

関連用語・類義語との違い

関連用語としては「訪問歯科診療」や「在宅歯科診療」が挙げられるが、これらは基本的に同義である。ただし、「訪問歯科診療」はより広範な意味を持ち、歯科以外の医療行為も含む場合がある。一方、「在宅歯科診療」は、特に在宅での医療提供に焦点を当てているため、訪問診療の一部として位置づけられる。これらの用語の違いを理解することで、より適切なコミュニケーションが可能となる。

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現在、高齢者の要介護者は75歳以上の5人に1人となり、そのために通院が困難になり、多くの歯科クリニックで高齢者の来院数が減少している。患者の減少を防ぐために、歯科医院経営においては外来診療だけでなく、訪問歯科診療を活用することが重要だと考えられるが、訪問歯科診療の導入はハードルが高いと感じる歯科医師も多く、なかなか活用できていない現状がある。そんな中、2024年4月24日にデンタルサポート株式会社歯科事業部コンサルティングチームの丹澤淳二講師より、訪問歯科診療での”勝ち方”についての講演が行われた。本記事では、訪問歯科診療のおける患者を増やし医業収入を伸ばす方法として、認知度を高める介護サービスの理解連携を図るなど、講演で語られた重要なポイントをかいつまんで紹介する。訪問歯科診療で勝つ=患者が集まる歯科医院ビジネスにおいて、売り上げを上げるための考え方は次の公式で表せる。集客×成約×単価=売上訪問歯科診療に当てはめると、「集客=認知を高める必要がある」「成約=紹介を受けて問い合わせに繋げる」「単価=結果として診療をすることになる」と理解する必要がある。まず、集客の部分でもっとも大切な「認知」だが、訪問歯科診療を全く知らない患者に向け、どう情報提供し認知度を高めるかがポイントになる。外来と訪問の違いを理解する認知度を高めるためには、私たち歯科医療従事者が「対象患者・診療場所・患者説明・保険種類・ 診療点数」の5つを例に、外来と訪問の違いを理解しておく必要がある。外来対象患者・・・通院できる人診療場所・・・院内治療説明・・・患者本人保険種類・・・医療保険診療点数・・・初診再初診(267点・58点)訪問歯科診療対象患者・・・通院できない人診療場所・・・介護施設、病院、自宅など治療説明・・・患者本人、家族、施設のスタッフや本人を取り巻く関係者保険種類・・・医療保険、介護保険など診療点数・・・歯科訪問診療料(1,100点・410点・310点・160点・95点)異なる点も多いが、まず「診療場所」と「治療説明」に着目してほしい。介護施設や病院であれば、施設長や生活相談員、ケアマネジャー、医師や看護師、自宅であれば、他医療従事者や介護事業者など、患者(ひとり)に対し、歯科の必要性を理解してもらわなければならない。また歯科医療者側は患者に提供されているサービスを個別に把握する必要がある。そしてそれぞれに合った歯科医療の提供と他職種との連携が必須だ。介護サービスの理解前述の通り、訪問歯科診療における患者は基本的に介護サービスを受けており、その理解は非常に重要になる。主に提供されている介護サービスは大きく3つに分けられる。居宅施設地域密着型それぞれの詳細は以下の通りだ。居宅サービス訪問サービス訪問介護訪問入浴介護訪問看護訪問リハビリテーション居宅療養管理指導通所サービス通所介護通所リハビリテーション短期入所サービス短期入所生活介護短期入所療養介護施設サービス介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)介護老人保健施設介護療養型医療施設(2024年3月末に廃止、4に統合)介護医療院特定施設入居者生活介護地域密着型サービス訪問・通所型サービス小規模多機能型居宅介護夜間対応型訪問介護定期巡回・随時対応型訪問介護看護認知症対応型サービス認知症対応型通所介護認知症対応型共同生活介護(グループホーム)施設・特定施設型サービス地域密着型特定施設入居者生活介護地域密着型介護老人福祉施設入居者生活介護(地域密着型特別養護老人ホーム)その他のサービスとして、福祉用具貸与特定福祉用具販売住宅改修費支給居宅介護支援(ケアプラン)がある。このような多種多様なサービスを個々の要介護者が利用している。全てを把握する必要はないが、患者として訪問する対象者がどういったサービスを受けているかを理解し、それぞれの対応が求められる。介護サービスを理解し、複数のサービス事業者へ広報することで認知を広がり、集患につながるため訪問歯科診療を始めるにあたって欠かせないポイントだ。集患の鍵は多職種との連携サービス事業者等の認知を獲得できたとして、どう紹介してもらうかが集患の具体的な鍵になる。「多職種に歯科の必要性は理解されているか?」この課題に対しては歯科医院からの情報提供不足も原因だと考えられている。また厚労省調査より、歯科治療や口腔管理が必要だと判断された要介護高齢者は64.3%だったが、過去1年以内に歯科受診した要介護者はわずか2.4%に止まり、居宅系サービスにおいて歯科治療が必要な利用者57.8%に対し、73.8%は定期的に歯科を受診していないという結果がみられた。以上のことから、訪問歯科診療の必要性が理解されていない、歯科医院が多職種と連携できていないため需要に対して明らかに供給不足となってしまっていることが分かる。この課題を解消するために、外来で取り組める施策として院内掲示用ポスターの設置、告知用パンフレット、ダイレクトメールや情報交換誌などを活用することが大切だ。周囲との連携を図り、認知を拡大することで家族や知人を経由した紹介に繋がり、集患にレバレッジを聞かせることができる。認知を高める×連携を図る=患者紹介この効果を意識した対策をデンタルサポート株式会社では提案している。訪問歯科導入PLAN設定で売上up!これから訪問歯科診療を導入する先生及び、すでに訪問歯科診療を導入している先生が訪問歯科診療で他院との差別化し、どれくらいの売上を得られるか、デンタルサポート株式会社では緻密なシミュレーションのもと提案している。デンタルサポート株式会社では過去にも多くのシミュレーションと改善実績を誇り、様々なケースにおける歯科医院をサポートしてきた。本記事を読んで、もっと医院の売上を伸ばす方法を探したい訪問歯科診療における集患について学びたい施設・職員との連携や取り組みについて詳しく知りたいといった疑問や興味が沸いた先生は、ぜひ下のボタンからお申し込みいただきたい。無料で相談する
1D編集部
2024年8月15日
歯科訪問診療の実践と効果。臨床で役立つ症例と処置のポイント

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歯科訪問診療の定義と目的歯科訪問診療とは、患者が通院困難な場合に、歯科医師が直接患者の自宅や施設に訪問し、診療を行うことを指す。この診療形態は、特に高齢者や障害者に対して重要な役割を果たしており、患者の生活の質を向上させることを目的としている。訪問診療の主な目的は、口腔内の健康を維持し、う蝕や歯周病などの予防、治療を行うことである。歯科訪問診療のメリットとデメリット歯科訪問診療には多くのメリットがある。まず、患者が通院することが困難な場合でも、必要な治療を受けることができる点が挙げられる。また、患者の生活環境で診療を行うため、より個別的なケアが可能となる。さらに、訪問診療は、患者の心理的な負担を軽減し、安心感を提供することができる。一方で、デメリットとしては、診療に必要な設備が整っていない場合が多く、処置の幅が制限されることがある。また、訪問診療のための時間やコストが増加する可能性も考慮しなければならない。訪問診療における処置と術式訪問診療では、一般的な歯科診療と同様に、さまざまな処置や術式が行われる。例えば、う蝕の治療や歯周病の管理、義歯の調整などが含まれる。特に、義歯の調整は高齢者にとって重要な処置であり、食事の質を向上させるために欠かせない。また、訪問診療では、口腔内の衛生状態を維持するための指導や、予防処置も重要な役割を果たす。これらの処置を適切に行うためには、患者の状態を正確に診断し、適切な判断を下すことが求められる。訪問診療の症例と注意点訪問診療における症例は多岐にわたる。例えば、認知症を患っている高齢者や、身体的な障害を持つ患者などが挙げられる。これらの患者に対しては、特に配慮が必要であり、コミュニケーションの取り方や、治療に対する理解を深める工夫が求められる。また、訪問診療では、感染症のリスク管理も重要であり、適切な衛生管理を行うことが必要である。さらに、患者の家族との連携も重要な要素であり、治療方針についての説明や、今後のケアに関する情報提供を行うことが求められる。歯科訪問診療の導入と今後の展望歯科訪問診療の導入は、地域のニーズに応じて行われるべきである。特に、高齢化社会が進む中で、訪問診療の重要性はますます高まっている。今後は、訪問診療を行うための体制を整え、専門的な知識を持つ歯科医師や歯科衛生士の育成が求められる。また、テクノロジーの進化により、遠隔診療やデジタルツールを活用した診療方法も注目されている。これにより、より多くの患者に質の高い歯科医療を提供することが可能となるだろう。
1D編集部
2024年6月1日
在宅療養支援歯科診療所(歯援診1)の届出が不要に

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厚労省は3月10日、在宅療養支援歯科診療所(歯援診1)を届出ている歯科医院が2023年4月以降も継続する場合、新たな届出の必要はないという通知を出した。2022年度の診療報酬改定において、歯援診1の施設基準の要件の一部が変更され、訪問診療1または2の算定実績が、過去1年以内に15回以上から18回以上へ引き上げられた。一方、歯援診2については、過去1年以内に10回以上から4回以上へ引き下げられている。この変更に伴い、2022年3月末までに歯援診1を届け出ている歯科医院は、経過措置が終了する2023年4月以降も歯援診1を継続する場合、歯援診1の施設基準を満たしていれば届出をする必要がなくなった。通知は、経過措置を設けた施設基準の取扱いについて明らかにしている。歯援診1の算定実績を満たせず、①歯援診2に変更する場合あるいは②歯援診1または2の要件をどちらも満たせず、訪問診療の割合が95%未満で引き続き歯科訪問診療料1・2・3を算定する場合は、2023年4月3日までに関東信越厚生局東京事務所に届出を行う必要がある。なお、歯援診2の届出をしている歯科医院が、2023年4月以降も歯援診2を継続する場合は、届出は不要である。今回の変更により届出の手続きが簡素化され歯科医院の負担が軽減されることが期待されるが、要件の変更があるため注意が必要だ。参考文献厚生労働省保険局医療課. 通知「令和4年度診療報酬改定において経過措置を設けた施設基準の取扱いについて」. 2023年3月10日(PDF)
1D編集部
2023年3月26日
【問】歯科訪問診療における口腔外科処置の適応はどこまでか?

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要介護状態になると、歯科医院の受診は困難となる。歯科医院の受診が困難となることで、口腔疾患が放置されてしまう。それにより悪化した要治療歯が、歯性感染症や全身におよぶ感染症につながるケースも少なくない。歯科訪問診療においても、認知機能や背景疾患に伴う全身の健康管理の観点から、口腔外科処置の適応を見極めることが重要である。特に、患者本人や介護者が管理しやすい口腔内環境を整備することは、これからの超高齢社会で歯科訪問診療を担う歯科医師・歯科衛生士にとって、重要な役割のひとつである。ただし、歯科訪問診療には独自の「制約」がある。本記事でこれから解説をしていくように、訪問現場という「環境」について、必ず考慮しておく必要があるのである。歯科訪問診療の外科処置として妥当な範囲は?厚生労働科学研究『地域包括ケアシステムにおける効果的な訪問歯科診療の提供体制等の確立のための研究』では、歯科訪問診療における口腔外科処置の適応について、高い技術度・正確性や厳密な滅菌処置を要する術式(歯肉剥離掻爬術など)については適応しないとしているが、歯性感染症や全身におよぶ感染症の一因となるリスクが高いと判断される場合、「その緊急性や術後侵襲を考慮した上で対応すべき」と述べられている。歯科訪問診療における外科処置として妥当と思われる範囲には、簡単な抜歯や歯槽骨整形術、歯槽膿瘍の口腔内消炎処置、口腔外消炎処置、顎関節脱臼非観血的整復術などが該当すると言われている。また、インプラント周囲炎により動揺をきたしたインプラント構造物の除去についても、インプラントからの感染症のリスクを考え、抜去するケースも考えられる。いずれの場合でも、患者の病態や認知機能などを総合的に考え、必要な設備の整った施設での治療が望ましいと判断した場合には、ためらうことなく病院歯科または歯科口腔外科での処置を勧めるべきであることには変わりがない。外科処置を行う時間はどれくらいが適正か?歯科訪問診療は、患者の状態が安定した時間帯に行うことが望ましい。1回の処置に必要な診療時間は、もちろん患者の状態にも依存するが、30分〜1時間以内が適切であると考えられる。診療の頻度は、これも当然ながら治療内容により変化するものの、安定した状態にある場合は、「1週間に1回程度」が目安であろう。また、外科手術後処置等30分以内での処置であっても、不必要に繰り返すべきではない。歯科訪問診療における「抜歯」術あれこれ歯科訪問診療の口腔外科処置において、最も頻出の処置は「抜歯」のケースである。要介護者に対する抜歯の適応は、大枠としては自立した成人と変わらない認識で問題ない。ただその上で、治療への理解度や新義歯装着時の受け入れなど、歯科治療の受療能力をはじめ、ADL(日常生活動作)、歯科受診の頻度といった生活環境などを勘案事項として、抜歯術を行うかどうかを慎重に検討する必要がある。歯科医学的な抜歯適応は「う蝕が著しく進行し保存・修復処置が不可能である歯」「動揺の著しい歯」「急性炎症症状をたびたび引き起こす歯」などである。しかし先述の報告書では、「歯科医師の本来の職務は歯の保存であり、安易な抜歯術の適応は戒めるべき」であると解説している。また、認知症の高齢者において、自然脱落してしまった歯を誤嚥し肺炎をきたした報告もある。その一方で、不明熱において未治療歯を抜歯し改善した報告もあり、口腔内環境の悪化は全身に及ぶ感染症の一因としても検討しなければならない。また、残存歯による口腔粘膜損傷(びらん,潰瘍,切傷,擦過傷など)を生じるケースも多く、特に認知症高齢者では、粘膜保護の面からも、抜歯の適応について考える必要もあるだろう。歯科訪問診療にスポットライトを超高齢社会における地域包括ケアシステムを構築するなかで、歯科訪問診療の推進が重要であることは自明である。しかし、歯科訪問診療に関しては、歯科医療者や学生に対する現行の教育が十分ではない場合も多く、また歯科訪問診療に関するエビデンスも十分であるとは言いがたい。歯科訪問診療に関するエビデンスの充実、教育体制の整備などをさらに拡充していくことが、今後も高齢化が進む我が国において求められていくだろう。参考文献厚生労働科学研究費補助金 地域医療基盤開発推進研究事業『地域包括ケアシステムにおける効果的な訪問歯科診療の提供体制等の確立のための研究(令和)元年度 総括研究報告書』研究代表者 戸原 玄, (令和)2(2020)年4月.歯科訪問診療における基本的考え方(2004年)日本歯科医学会2) 在宅歯科医療の基本的考え方 2016一般社団法人 日本老年歯科医学三宅正彦:15 口腔外科手術法,口腔外科学(大木秀郎,近藤壽郎,坂下英明,外木守雄,三宅正彦 編),第5版,p.348,学建書院,東京,2016高佐 顕之, 中山 雅之, 坂東 政司, 中曽根 悦子, 水品 佳子,平野 利勝, 右藤 智啓, 中澤 晶子, 鈴木 恵理, 間藤 尚子, 中屋 孝清, 細野 達也, 山沢 英明, 杉山 幸比古:気道異物症例の臨床的特徴 摘出に難渋した症例に関する考察. 気管支学, 34:6~10, 2012.小畑 真, 今渡 隆成, 飯田 彰, 石田 義幸, 小野 智史, 戸倉 聡, 川田 達:歯性感染病巣治療後不明熱が改善された要介護高齢者の一例, 老年歯医, 21:114~117, 2006.
1D編集部
2022年3月20日
歯科医師 × フレンチシェフによる、破壊的な「介護食」革命とは?

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1970年の男性の平均寿命は69.3歳ですが、2020年には81.6歳で、人生100年時代というフレーズも耳にするようになりました。社会の劇的な変化に応じて、歯科も大きな変革期にあるのではないでしょうか。次々と明らかになる歯周病と全身の関連、デジタルデンティストリーの普及、歯科訪問診療での摂食嚥下リハビリテーションなどがその一例でしょう。今回の記事では特に、摂食嚥下リハビリテーション専門の歯科医師が「食」の領域でどのような価値を生み出せるかについて書きたいと思います。破壊的な「介護食」革命筆者は現在、総務省の「異能vation」プロジェクトの破壊的な挑戦部門の挑戦者として、フレンチシェフと3Dフードプリンターを用いた介護食改革に取り組んでいます(図1)。「異能vation」は、総務省が2014年から実施しているプロジェクトで、その目的は「ICT分野において破壊的な地球規模の価値創造を生み出すために、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援」することです。総務省が「奇想天外でアンビシャス」という言葉を使っていること自体がすでにアンビリーバボーではありますが、その挑戦者として選ばれたことは大変光栄です。介護食は「安全」が最優先だった挑戦課題名は「介護施設で堪能、フレンチフルコース-3Dフードプリンターで実現する食のダイバーシティ-」で、目的は「介護食改革による食のダイバーシティ社会の実現」です。筆者が考える超高齢社会における食のダイバーシティ社会は、年齢も性別も宗教も機能も超えて食事を味わい、楽しみ、驚く体験を可能にすることです。現状、介護食で最優先されているのは、美味しさでも楽しさでも驚きでもなく、安全です。例えば、認知症などの先行期障害の患者で食事が進まない場合、まずい、見た目が悪い、お腹が減っていないなどとても単純なことが原因の場合も少なくありません。先行期障害がなければ、ペースト食で多少見た目が悪かったとしても「栄養のため」「あまりスタッフに迷惑もかけられない」と忖度してくれます。一方で、先行期障害の患者は忖度しない場合もあるので、美味しくないものは食べないわけです。だからといって食事介助で無理やりに食べさせるというのは介護拒否にもつながり、本質的な課題解決ではありません。これらの例からも分かるように、介護食に不足しているのは「おもてなし」の精神ではないでしょうか。お、も、て、な、しです。さらに、介護現場では、咀嚼嚥下機能と食形態が合っていない場合が多いことも報告されています(参考文献1)。介護食には課題が山積しているからこそ、課題先進国である日本からその解決策を発信していくことが重要だと思います。フレンチシェフと介護食を作ったらどうなるのか?今回、筆者はフレンチシェフと協力して、介護施設の摂食嚥下障害患者に3Dフードプリンターを活用したフレンチフルコースを食べてもらうことを一つの目標にしています。もちろん、美味しくて、見た目もワクワクするようなフレンチフルコースを目指しています。なぜ、フレンチ?と思われる方もいらっしゃるでしょう。フレンチはもともと、ピュレ、ジュレ、ムースなど多様なテクスチャーを駆使した調理法があるので、さまざまな機能の対象者に合わせやすいという利点があります。さらに、フレンチはソースをよく使います。筆者らはソースが認知症高齢者の食事摂取量増加に効果があることを報告しており、なぜフレンチをよく食べれるかもエビデンスに基づいて説明可能です(参考文献2)。どことなく敷居が高いと思われがちなフレンチは、実は機能的多様性を受け入れ可能な懐の深い料理の一種だと言えるのです。3D「フード」プリンター3Dプリンターは多くの領域で普及しており、すでにお使いの方もいらっしゃるでしょう。しかし、3Dフードプリンターをご存知の方は多くはないのではないでしょうか。3Dフードプリンターは2016年ごろから一部実用化が始まっていますが、現状、普及していません。パティシエがスイーツのデコレーションに使ったり、一部の先進的なシェフが活用した事例があるくらいです。日本企業が機器を作っているにもかかわらず、用途開発が一向に進んでいない背景には、射出する素材の制限などスペックの問題もあるかもしれませんが、もっと大きな問題は「食」の領域では単一の職種だけではイノベーションが起こらないからではないでしょうか。現在、筆者は3Dフードプリンターのスープとデザートのプロトタイプの制作まで行なっています。食のダイバーシティ社会の実現へシェフだけでも、パティシエだけでも、研究者や医療者だけでも「食」領域でイノベーションを創り出すことは困難です。各々の専門職が有機的な連携をすることで、大きなイノベーションの芽が生まれるのではないでしょうか。しかし、これこそまさに「言うは易く行うは難し」です。摂食嚥下に関わる人間であれば、誰でも一度は介護食の課題を考えたことがあると思いますが、筆者も解決困難な課題が実に多いと実感しております。そのため、失敗をおそれずに挑戦する人を支援する「異能vation」プログラムの懐の広さは大変ありがたい限りです。しかし、フレンチシェフと連携した、3Dフードプリンターによるフレンチフルコースが食のダイバーシティ社会実現に直結するわけではありません。1分1秒に追われる介護の現場で、悠長に料理をしている時間もないでしょう。必要は発明の母です。現場のニーズに合っていないと技術は普及しません。3Dフードプリンターはデータを蓄積していくことができます。今回のもう一つの目的は、フレンチフルコースを作る中で3Dフードプリンターで現場負担を軽減させるような使用法を抽出し、オープンソースで共有することにあります。これはInformation and communication technology 、すなわちICTを使った取り組みになると思います。今回、作られるフレンチフルコースは、摂食機能療法専門歯科医師によるエビデンスの裏付けがなされたコンセプトに基づき、シェフのセンスや経験、日本企業の技術力が融合したものになるはずです。その中には、現場応用可能なヒントが数多く含まれているので、それを共有知として幅広く普及させていくことが食のダイバーシティ社会実現の一歩となるのではと考えています。参考文献服部史子、戸原玄、中根綾子ほか:在宅および施設入居摂食·嚥下障害者の栄養摂取方法と嚥下機能の乖離.日本摂食嚥下リハ会誌 2008;12:101-108.Kimura A, Yamaguchi K, Tohara H, Sato Y, Sawada N, Nakagawa Y, Matsuda Y, Inoue M, Tamaki K. Addition Of Sauce Enhances Finger-Snack Intake Among Japanese Elderly People With Dementia. Clin Interv Aging. 2019 Nov 14;14:2031-2040. doi: 10.2147/CIA.S225815. PMID: 31814715; PMCID: PMC6863177.
山口 浩平
2022年2月3日

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