歯科医院で自閉スペクトラム症患児を診察する上で心がけたい6つのこと
自閉スペクトラム症(ASD; autism spectrum disorder)の方が、われわれの身の回りにどれくらい存在しているかご存知だろうか。弘前大学大学院が行った調査によると、5歳における自閉スペクトラム症の有病率は3.22%であるとされている。自閉スペクトラム症は、決して珍しいものではなく、日常臨床のなかで頻繁に遭遇する障害であるといえる。したがって、われわれ歯科医療者も自閉スペクトラム症の患者さんへの対応の仕方を十分に知らないままではいけない。本記事では、どうすれば自閉スペクトラム症の患者さんが歯科医院に通いやすくなるのかについて、詳しく紐解いていきたい。基本的に、歯科医院はニガテ自閉スペクトラムは、社会的なコミュニケーションが困難で、思考や行動が制限されたり反復されたりすることを特徴とする、一般的な発達障害を指している。日常生活の変化や新しい場所での行動が苦手であったり、感覚処理の違いがあったりなど、特定の行動特性を持っている場合があり、予防的な歯科治療や口腔内の状態の評価が特に難しくなるケースが多い。歯科医院では、明るい蛍光灯、治療機器の大きな音、慣れない処置などを体験する。強い匂いや味、感触に過敏な自閉スペクトラムの患児や、顔や口腔近くに人や物があるのを嫌がる患児にとっては、歯科医院での診察や治療は特に困難である。歯科医院のなかには、特別なニーズを持つ子どもたちへの対応の経験やトレーニングの経験が少なく、自閉スペクトラムの患児たちへの対応に消極的なところもある。予防と家庭での口腔衛生習慣が肝要自閉スペクトラムの患者さんは、感覚過敏のために、ブラッシングやフロッシングなどの歯科衛生習慣を身につけることが難しい場合がある。また、歯ぎしりをする、口腔内や歯を叩く、食べ物ではないものを噛む、甘いものを食べるなど、歯の健康に影響を与えるような習慣がある患者さんもいる。さらに、口腔内の問題を伝えるのが難しく、ケアが遅れてしまう方もいる。自閉スペクトラムの患児には、幼少期に口腔ケアの習慣をつけることをお勧めしたいものだ。ブラッシングは、最初の歯が萌出したらすぐに、フッ化物入りの歯磨剤を少しずつ塗って始める。味や食感に敏感な患児の場合は、さまざまな味のものや、無香料、無発泡の歯磨き粉(ラウリル硫酸ナトリウムを使用していないもの)などを試してみるとよい。歯ブラシは、例えば振動が好きなお子さんの場合、電動歯ブラシを用いるのも効果的だ。歯磨きを他の日課や入浴などの好きな活動と組み合わせるという方法もある。患児を柔らかいカーペットやベッドに寝かせ、本を読んでもらったり鏡を持ってもらうなどの作業と組み合わせることで、親御さんが歯に触れやすい状態になることが期待できる。歯科治療を成功させるためのヒントでは、自閉スペクトラムの患者さんと一緒に歯科治療を成功させる為にはどうしたらよいか考えてみよう。1. 赤ちゃんの頃に歯科医院デビューしよう子どもが1歳の誕生日を迎えるまでに、経験豊富で親身になってくれる小児歯科のチームと一緒に、自分のホームになるような歯科医院を確立することによって、子供は生涯にわたって良好な口腔内環境を維持する道を歩み始めることができる。早期訪問の利点は、短時間で痛みもなく、歯科チームとの信頼関係や歯科環境への慣れを確立するのに役立つことである。2. 歯科治療前に電話で相談する時間を設けよう治療前に事前に電話で、お子さんの具体的なニーズや好みについて相談する。ノイズキャンセリング機能付きヘッドフォン、音楽鑑賞、ウェイトブランケットやベスト、サングラス、天井の蛍光灯を消す、歯科治療中のおしゃべりを制限する、お気に入りのビデオを見るなどが効果的で、お子さんに手鏡を渡して治療を見てもらうのも効果的である。パノラマエックス線撮影は、従来の口腔内エックス線撮影に比べて、短時間で撮影でき、患児の口腔内に物を入れる必要がないため、より良く耐えられる可能性がある。エックス線を照射する際には、親御さんや介護者の方が、頭を支えてくれるように部屋にいてもらうことができる。3. 「視覚的サポート」と「手順の説明」を意識しよう視覚的なサポートを取り入れたり、治療の手順をはっきりと説明することを意識する(例えば「まず今日は、お口の中の歯の本数を数えます、それが終わったら、家に帰ります」といった具合に)。4. 頑張ったご褒美を用意しよう歯科治療中は積極的な強化を取り入れ、各ステップが完了した後や歯科治療の終わりに成功した場合にはご褒美を与える。ご褒美には、歯に粘着しやすい甘い食べ物ではないものを用意するとよい。5. ちょっとずつ出来るようになろう自閉スペクトラムの患児のなかには、一度に全てを達成しようとお子さんに頑張ってもらうのではなく、何度も通院して各々のステップを徐々に初めていくことが有効な場合もある。歯科医院によっては、口腔内清掃や歯科治療の準備のために脱感作を行うこともある。6. 薬剤の使用も視野に入れよう自閉スペクトラムの患児のなかには、上記の対応策を行ったとしても歯科治療が難しいお子さんもいる。そのような場合には、抗不安薬の使用や、軽度の鎮静法などを使用することを視野に入れるとよい。われわれには何ができるのか?自閉スペクトラム症が広く知られるようになった現在においても、歯科医療者がどのように対応すれば自閉スペクトラム症の方にとって歯科治療が辛いものでなくなるのか、その方法が十分に浸透しているとは言えないのではないだろうか。自閉スペクトラム症患者の対応は難しいからと諦めず、まずは相手のことを良く知ることからはじめよう。2人の間に信頼が生まれたら、苦しかった歯科治療も、きっと悪くないものになるはずだ。本記事が、自閉スペクトラム症の方の生きづらさを少しでも解消するための一助になることを願ってやまない。参考文献Making visits to the dentist easier for people with autism spectrum disorder, Harvard Health Publishing, 29 June 2021 <URL>Prevalence and cumulative incidence of autism spectrum disorders and the patterns of co-occurring neurodevelopmental disorders in a total population sample of 5-year-old children, Molecular Autism, 14 May 2020 <URL> 『スペシャルニーズデンティストリー障害者歯科 第2版』 , 白石泰夫ら, 医歯薬出版株式会社, 2017