超人・室伏広治、下顎安静位でハンマーを投げていた
「スポーツ歯科医学」という分野があるように、近年スポーツと歯科の関わりは大いに注目され、研究されている。オリンピック開催国になったことも相まってスポーツデンティストの需要も高まっているようだ。対スポーツ以前から姿勢維持や筋力と咬合の関連は研究されてきた。その結果「食いしばると力が出る」という一般論が科学的に証明されている。さらにリサーチしていくと、興味深いものを見つけた。「食いしばる」だけでなく「開口」がスポーツで重要になっているという内容だ。咬合がアスリートの能力値を上げる「食いしばると力が出る」のは単純に筋力が上がるだけではない。クレンチング(噛みしめ)によって重心動揺が抑制され、静止状態の姿勢維持に関わることも認められている。顎関節を固定することで四肢の関節にリンクし、体幹に関わる関節もロックされるそうだ。リンクするのは関節だけでなく、咀嚼筋が収縮することで足の筋など他の筋肉もアクティベートされ緊張状態となることがわかっている。確かにフィジカルトレーニングの時は無意識で食いしばっているイメージがある。だからといってクレンチングで全アスリートの能力向上につながるわけではない。筋が緊張状態になり関節が固定されることで、動きが緩慢になると考えられている。力は出るがスピードに影響が出るということだ。スピードやバランスが重要となるスポーツにおいてはクレンチングが逆効果になることもありえるのだ。トップアスリートの顎位室伏広治は下顎安静位でハンマーを投げるハンマー投げ金メダリストの室伏広治選手は「渾身の投げの基本は歯を食いしばらないこと」と語っていて、実際に投てきの瞬間は全く咬合接触していない。強力な咀嚼筋の協調により下顎が固定されていると考えられている。”超人”と呼ばれるほどの筋力を持った人間の渾身は意外にも安静位に近い開口位で発揮されていた。錦織圭はフォアハンド時に顎位が右側方に変位する世界的テニスプレーヤーの錦織圭選手は、フォアハンドの時必ず右側方に顎位を移動させている。テニスでは、フォアハンドとバックハンドで顎位が異なることが知られている。内川聖一は舌を出したバッティングフォームで首位打者を獲得福岡ソフトバンクホークスの内川聖一選手は、バッティングのインパクト時に舌を上下顎前歯部で挟み込んで下顎を固定することにより、首位打者のタイトルを獲得している。前田健太はリリース時に切端咬合位になるメジャーリーガーで現在はミネソタ・ツインズに所属する前田健太選手は、投球のリリースのタイミングで下顎を前方にスライドさせるようにして、切端咬合位で投げている。さまざまなスポーツのさまざまなシチュエーションで、トップアスリート達は適切な顎位で最高のパフォーマンスを出していると考えられる。しかしどれもクレンチングによる咬合力に依存していない。今まで当然と思われてきた力の出し方とは正反対とも言える方法で、トップアスリートのパフォーマンスは保たれている。スポーツ歯科医学のこれからアスリートと歯科の関係は密接だ。長年に渡って、特にコンタクトスポーツにおけるマウスガードの役割は重要で歴史とともに進化を遂げてきた。それだけでなくこれからは咬合・顎位にも注目しトレーニングに参与していくことが求められている。強化選手やトップアスリートともなればスポーツデンティストの帯同や定期的な歯科検診は当然だが、それに満たない選手にも同じ対応は必要だ。歯の喪失や歯科疾患によってパフォーマンスが低下してしまえば選手生命の危機にもなりかねない。スポーツ歯科医学の発展と認知の向上が多くのアスリートの力になる。歯科界がスポーツ界により一層貢献する未来を期待している。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献日本歯科医学会,アスリートの最大能力発揮支援に歯科界が動く!,2017[PDF]山田 健久,畠 賢一郎,澤木 佳弘,藤内 祝,上田 実,スポーツ選手における重心動揺に関する研究,日本口腔科学会雑誌,1998年47巻3号p.380-384[PDF]三浦 寛貴,咬合接触状態が安定域と重心動揺に及ぼす影響,日本顎口腔機能学会雑誌,2016年23巻1号p.17-22[PDF]