金パラはどこから来て、どこへ行くのか?
昨今、金銀パラジウム合金(以下、金パラ)をめぐっては、実勢価格高騰や保険点数の減額改定(2020年10月〜)など話題が尽きない。そんな金パラは、どこからやってきたのか、読者の皆さんはご存知だろうか。現在はJIS規格に規定され保険収載もされている金属材料であるが、あまりにも日常的に接する材料であるために、その開発背景やこれまでの歴史について若い世代の歯科医療従事者は知らないのではないだろうか。本記事では、金パラの歴史を振り返るとともに今後の動向を考察してみたい。金パラ「誕生」前夜金パラは、第二次世界大戦中に金合金の代用金属として誕生した「銀パラジウム合金」が土台となっている。銀パラジウム合金は、下記のような利点があった。・銀は金に比べ経済的な材料であること。・抗菌作用を有すること。・鋳造性、加工性等の機械特性に富むこと。しかし、銀パラジウム合金を口腔内で使用するに当たっては、硫化によって表面が黒変するという致命的な欠点があった。この課題を解決した銀合金こそが、金パラである。理工学的な詳しい説明は省くが、金やパラジウムに代表される貴金属を一定量以上添加することで、銀の硫化を抑制することができる。そして昭和31年、初めて規格化された金パラ(鋳造用と板・線)が登場した。金とパラジウムを30%含有し、銀が主成分であることが条件として定められている。上図で注目したいのは、金パラの合金規格は一定というわけではなく、歴史上で数回の変更を経ている点だ。規格ができた昭和31年から昭和55年までの24年間で、金の含有量は2%〜20%と幅を持って変化して、現在の12%に落ち着いた。今の規格は40年もの間変化なく維持されている。これは信頼性が高いとも取れるが、裏を返せば簡単に変更出来ないとも取れるだろう。 世界情勢に左右される金パラ金パラの価格は、世界情勢に左右される。昭和55年には材料価格基準が1,383円/gとなり、昭和51年の690円/gと比べて2倍になった。この価格高騰の背景には、昭和54年のイラン革命、韓国朴大統領暗殺、ソ連のアフガニスタン侵略など、国際情勢が不安定になる出来事の数々があった。国際情勢が不安定になると、安全資産と言われる金の価格は高騰する。昭和55年当時の厚生省は、価格高騰に対する対応策として金の含有量を20%から12%へ減らし、材料価格を抑制する処置を取った。ずいぶんと思い切った対策であったと推察する。さて、ご存知のように直近の金パラ価格も上昇している。金の価格上昇もあるが、パラジウムの価格が金を超えている状況が原因だ。金 :6,897 円/gパラジウム:8,684 円/g(2020年11月20日現在)自動車業界に振り回される金パラ現在の金パラ高騰の原因は、自動車用ガソリンエンジンの排ガス規制だ。ガソリンエンジンの排ガスを浄化する触媒に、パラジウムが数g単位で使われている。以下のグラフによれば、パラジウムの需要の80%は自動車産業だ(※1)。そして、自動車メーカーは規制に対応するために排ガス触媒に多くの貴金属を担架せざるを得ない。過去30年で自動車販売台数は1.6倍に増えたが、パラジウムの使用量は約6倍に増えたことがそれを裏付けている(※1)。さらに2020年は、中国や欧州の排ガス規制が強化されるため、パラジウムの需要が激増した。その結果、金パラの価格は昭和55年のさらに2倍となる3,000円/gに迫るような高騰を見せているのである。ここで厚労省は、改定頻度を2回から4回へと増やし、実勢価格との乖離を減らす対策を試みた。過去に取った合金規格変更による抜本的な原価低減策ではなかった。今後の動向を予測するやや乱暴だが、今後の金パラ価格 ≒ 自動車の販売台数とした場合、以下の資料が参考になる。この資料によれば、目先の5年間は自動車の需要が増加する(※2)。供給量が変わらなければ、金パラの価格上昇は必至と予測できる。 その先はどうだろうか。最近は欧州で電気自動車への完全切り替えやエンジン車の販売禁止等のニュースが取り上げられている。2030年以降、パラジウムは需要の山を越え、価格が下落傾向になる可能性もあるだろう。厚労省の対応を予測する最後に、厚労省の今後の対応を予測してみよう。金とパラジウムの組成を変えて価格を1割低減 金パラの規格ができた当初は、金とパラジウムの合計が30%以上という規格であった。これを銀の耐硫化性を維持する下限と考えると、金を増やしパラジウムを減らせば、原価を低減できる。例えば、パラジウムを20%→13%、金を12%→17%にすることで、価格を1割減らすことができる。もちろん、理工学的な特性の検証や臨床での評価は必要であろう。金パラ完全撤退薬事工業生産動態統計によれば、2020年に金パラに費やされる医療費は1000億円を超えてくる。医療費高騰が叫ばれる中、妥当なものなのだろうか。材料に予算を当てるのではなく技術に当てていただきたい。実施にはそれ相応な政治力が必要になるだろう。ノーリアクション数年後に自動車需要のピークを迎えたあとはパラジウム価格は下落するかもしれない。大きなリスクは取らず、今はノーアクションが現実的なところだろう。CAD/CAM冠やチタンFMCなどの代替材料の利用を促すことで金パラの使用量を低減してこの数年間をやり過ごしたい、これが厚労省の本音なのではないだろうか。謝辞本記事を執筆するにあたり多くの助言を賜りました、石福金属興業株式会社 執行役員 蔭山雅晴様に心より感謝を申し上げます。参考文献『プラチナ投資のエッセンス パラジウムとは:プラチナ及びパラジウム投資への手引き(URL)』 World Platinum Investment Council, 2020.3.『FOURIN世界自動車統計年刊 2020(URL)』 FOURIN, 2020.