セラミック矯正の原罪:もうこれ以上、広めてはいけない
世間的にも認知されてきた”歯科的処置”であり、コマーシャルに用いる歯科医院も少なくない。美容外科的な分野として広まりつつあるが故に多くの議論を呼んでいる。あえて”処置”としたのは、言うまでもなくこれが”治療”であると認められないからだ。ほとんどの歯科医療従事者は同一の認識を持っていると思う。健全な歯質を切削し半ば強引に歯列を作り上げることで、審美的に求められるカタチを生み出している。再生できない器官に対して無闇な不可逆的処置を施すことは傷害にもなりかねない。この現況を憂いている方も多いのではないだろうか。今回はそのセラミック矯正というオフホワイトな処置について考察していこうと思う。ただ単に悪の所業であり傷害と同義なのであれば法律で禁止されているだろうが、実際に行なっている歯科医院、そしてそれを望んでいる患者がいる。この現実から見える真の問題点はどこにあるのだろうか。セラミック矯正とは?そもそも、セラミック矯正などという医学用語は存在しない。言及している論文もなければ教科書などもない。つまりアカデミックな用語ではなく、一般向けに作られた造語であり、その起源はセラミッククラウンと歯列矯正からきていると考えられる。ご存知だとは思うが、簡潔に処置の概要を説明するとすれば「セラミッククラウンで歯冠の歯軸を変える処置」ということになる。歯科医療従事者が聞けばただの支台歯形成であり補綴物がセラミックという話で、矯正の要素は1つもない。しかし一般的に見れば歯の傾斜が変わって歯列が変化している、つまり歯列矯正に当たるという感覚だろう。この専門家と一般人の間に生じる乖離が「セラミック矯正」という単語を生み出したと言える。歯科矯正分野ではないのにも関わらず、矯正と謳われていることが物議を醸し出していると考えられる。セラミック矯正の繁栄この単語のインパクトは大きい。実にキャッチーであり大衆の目を引くには絶大な効果が得られたであろう。実際に検索してみると約4,020,000件という膨大なウェブサイトが表示され、数多の歯科医院が診療メニューとして紹介している。そしてそのほとんどが有益な情報の紹介というスタンスで、批評的な記事などはあまり目につかない。とてつもない経済効果を生み出すファクターとなり得ているわけだ。検索結果の多くに「最短2回」など短期間で処置が終わるという謳い文句が添えられている。これが消費者に対して最も効果的なアピールポイントとなっているだろう。一般的な歯科矯正はマルチブラケット装置を用い、ワイヤーによる矯正力で歯を移動させることで不正咬合にアプローチしている。急激な歯の移動は当然障害をもたらし不可能に近いので、矯正治療にはおよそ2年ほどの期間を要する。その認識は一定数広まっており「矯正は時間がかかるものだ」と感じているだろう。それに加担して歯科治療というもの自体、何度も通院し長期にわたるというイメージが刷り込まれている。これは治療過程の必然であり、保険診療のルールであり、診療報酬と医院経営のバランスという問題がもたらしたものだ。致し方ないところではあるが消費者からすれば煩雑に変わりなく、歯科への漠然とした不満として存在している。「セラミック矯正」という魔力はその解消策として生まれてしまったのかもしれない。審美的に気になっている歯列を数回の通院、数日間で改善できると言われてしまえば、消費者が飛びつくのも理解できるだろう。ニーズに応える形で結果的に繁栄していったと考えられる。医療行為の定義前述の通り「セラミック矯正」は治療ではない。治療とは怪我や病気に手当することであり、歯軸が傾いていること自体が病気ではない。もちろん歯列不正によって引き起こされる咬合機能障害やカリエスリスクの増加は提言されているが、それに対する治療は歯科矯正が担っている。クラウンブリッジによる補綴はあくまでも欠損に対してそれを補う治療であり、歯を移動させることではない。視点を変えて、医科ではどうだろうか。審美的な要求に対して処置を施す美容整形というものが存在している。「美容整形」も学術用語ではなく、形成外科という分野の通称と言えるだろう。そして形成外科とは組織の異常や変形を形態的に正常にする分野であると定義されている。奇形や障害に対しての形成は治療と容易に判断できるが、形成外科分野では”整容的な不満足”に対してもその範疇と捕らえられているように受け取れる。だとすれば一重瞼がコンプレックスである人が受ける二重形成も立派な医療行為である。つまり元々ある技術を応用し病気でも怪我でもない組織を形成し変化させることが治療として確立している。前歯が突出していることや犬歯が転位していることがコンプレックスであるという主訴に対し、その歯を形成して位置を変えることが本当に”治療”ではないのか、少し考えさせられる。もちろん歯根歯軸と歯冠歯軸が一致していないことで生じる障害は予測でき、歯科矯正が望ましいことや健全歯質の切削を回避することは正しい。しかしQOLというのは人それぞれの価値観で存在し、どこに重点を置くかは個人の自由であろう。短期間で審美的なコンプレックスを解消することがQOLの向上に繋がるのであれば、それは治療になり得るのかもしれない。罪はその名称にある歯科医療従事者であれば直感的に「セラミック矯正」が罪であると考えやすいかもしれない。だがそれがもしセラミッククラウンによる審美的アプローチとして紹介されていれば、論点が変わる可能性がある。そのクラウンがどれだけ精密に作られているか、形成技術は優れているか、歯髄に対して適切なケアが施されているかなどアカデミックな議論になるだろう。クラウンブリッジ補綴は医療行為であり、求められる審美的要件を達成することに問題はない。実際の臨床でも歯を白くしたいという要求に対して同様の治療は日々行われているはずである。あくまでも矯正という単語を用いた名称に問題があるのではないだろうか。無闇に健全歯質を切削することは肯定できないということを重ねて伝えたい。それは修復や補綴でも同じで「セラミック矯正」にだけ特筆することではない。ただその行為が不満を抱える人の気持ちを晴れやかにするものであれば、一概に否定するのではなくより追求し議論を重ねることが必要だと考えている。これは臨床医学だけの話ではなく社会学的な観点からの考察も行われるべきだと感じ、問題提起として執筆した。医療従事者は何よりも患者に寄り添うことが求められていることを忘れてはいけないだろう。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献日本形成外科学会HP<URL>日本医師会「ヒポクラテスと医の倫理」<URL>