歯を目に移植し、視力を回復させる手術がある
眼科領域の先進的な治療法に「歯を目に移植する」手術がある。ギョッとするような治療だが、実際に存在する手術だ。今回はそれに対する歯科的な考察をしていきたい。歯を目に移植する手術とは?正式名称を「歯根部利用人工角膜手術」といい、日本では現在近畿大学医学部の眼科でしか行っていない珍しい術式である。視力の回復に使われる手術であるが、単なる近視や遠視、老眼の治療法ではなく、角膜が混濁し失明に至った症例に使われる。混濁した角膜を人工的に制作する「人工角膜」の中では、難治症例に最も有効な手段とされていて、研究途上だが期待されている治療法だそうだ。具体的な術式は歯科と眼科のコラボレーションからなる。まず、歯と周囲の歯槽骨をブロック状に採取することから始まる。それを片面が歯根で片面が骨の薄い板となるようバーで形成し、歯の中央の部分にPMMA(義歯床に使われるレジンでもある)でできた人工角膜を挿入し歯科用セメントで固定、手術する目と反対の眼輪筋に埋入する。また頬粘膜を別に切除し、手術する目の角膜に縫合する。その状態で数ヶ月待った後に、再度手術を行う。2回目の手術は眼球表面で生着した頬粘膜のフラップを形成・剥離翻転し、虹彩と水晶体を切除、反対の目の眼輪筋に埋入した歯と歯槽骨を取り出して目に挿入、頬粘膜のフラップを戻して縫合する。長々と書いたが要するに歯科学と眼科学のコラボレーションによって人工角膜を制作する特殊な手術なのである。ちなみに目に移植できる歯は犬歯と決められているようだ。また生活歯であり、重度の歯周疾患がないことが条件とされている。移植その後「歯根部利用人工角膜手術」は成功すれば、片目だけではあるが視力は1.0程度まで回復する。中には1.5まで回復した症例もある。しかし頬粘膜を目に移植するため、目が充血したような外観になり審美障害が出てしまう。そしてその片目は目を閉じることが出来なくなる。したがって睡眠時は軟膏を入れて目に蓋をすることになるようだ。そしてもちろん犬歯は抜歯するので、補綴が必要になる。医師は抜歯していいのかここまで読んで、疑問に思った方は居ないだろうか。「歯科医師ではなく医師が抜歯をしていいのか」と。答えは医師でも抜歯は可能である。厚生労働省は昭和24年(当時は厚生省)に「抜歯、齲蝕の治療(充填の技術に属する行為を除く)歯肉疾患の治療、歯髄炎の治療等、所謂口腔外科に属する行為は、歯科医行為であると同時に医行為でもあり、従ってこれを業とすることは、医師法第十七条に掲げる「医業」に該当するので、医師であれば、右の行為を当然なし得るものと解されるから右御諒承の上然るべく指導せられたい」と医務局長通知を出している。つまり、抜歯は医師は法律上は可能である。更に言うと充填をしなければう蝕、歯周炎、歯髄炎は治療しても違法行為にはならないのである。ちなみに近畿大学医学部の場合は、眼科のウェブサイトにDENTAL DIAMOND2008年3月号への投稿で「歯根部利用人工角膜における眼科と口腔外科の協力を中心に解説した」とあるので、近畿大学医学部の口腔外科と一緒に手術を行ったようである。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献植村要. (2007). 変容する身体の意味づけ-スティーブンスジョンソン症候群急性期の経験を語る. Core Ethics: コア・エシックス, 3, 59-73.医師法第十七条による医業の範囲に関する件,<URL> 厚生労働省, 2020年2月29日閲覧近畿大学教員一覧,<URL>, 近畿大学, 2020年2月29日閲覧福田昌彦, 下村嘉一, 近畿大学医学部眼科学教室 , 眼科ケア 8(12): 1144-1148, 2006.福田昌彦, 近畿大学医学部眼科学教室, 医学のあゆみ 207(4): 274-275, 2003.