医科歯科大、嚥下関連筋の加齢変化を解析 サルコペニア予防に光か
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の山口浩平特任助教と戸原玄教授の研究グループは、加齢における嚥下関連筋量の変化とその関連因子をつきとめた。研究成果は、国際科学誌 Journal of the American Medical Directors Association (JAMDA)に、2020年11月20 日にオンライン版で発表されている。 嚥下に関わる筋は加齢変化する?嚥下障害は様々な因子で起こるが、舌、舌骨上筋群などの嚥下関連筋の加齢による衰えもその一因であると考えられている。加齢に伴う筋量や筋力の低下、つまりサルコペニアは、転倒や入院などのリスク因子になり、嚥下障害との関連も報告されている。これまでの研究では摂食嚥下障害患者の舌や舌骨上筋群の筋力や機能にばかり注目が集まり、「筋量」自体の調査は進んでいなかった。嚥下障害がない場合、舌や舌骨上筋群はどう加齢変化し、どんな因子が関連するのかは未開であった(図 1)。研究グループは嚥下障害でない成人と高齢者の舌、舌骨上筋群(オトガイ舌骨筋、顎二腹筋前腹)の筋量に着目し、それらの加齢変化と関連する因子について調査した。 男女間の差が明らかに20代から40代までの成人、65歳以上の高齢者合わせて146名を対象者とし、超音波診断装置を用いて、舌、オトガイ舌骨筋、顎二腹筋前腹を観察、さらに専用のソフトウェアで筋断面積を計測した(図 2)。また筋断面積に関連しうる因子として、歯の欠損、体格指数(BMI)、四肢骨格筋量指数を記録した。四肢骨格筋量計測は生体電気インピーダンス法と呼ばれる、ジムなどでも使われている非侵襲で簡易な計測法を用いている。成人群と高齢者群でそれぞれの筋肉の断面積を比較し、加齢、歯の欠損、BMI、四肢骨格筋量指数が当該筋の断面積に関連するかどうかを男女別で統計的に解析した結果、舌断面積は高齢者群の方が成人群よりも大きくなる傾向にあり、舌骨上筋群は加齢で明らかに萎縮していた。男性の舌断面積の解析では加齢以外に、BMI、四肢骨格筋量指数といった全身との関連も認めたが、女性の舌断面積の解析では統計的に有意な結果を得られなかった。顎二腹筋前腹は男女ともに加齢とBMIの関連を認めた。一方でオトガイ舌骨筋は男女ともに加齢のみの関連であり、全身因子の関連は認めず、歯の欠損はいずれの筋量にも関連しなかった。また嚥下関連筋量の意義を検討するために、当該筋の筋力の指標である舌圧、開口力との関係を検討した(図 3)。舌圧は舌筋力の指標、開口力は舌骨上筋群(特にオトガイ舌骨筋)筋力の指標であり、それぞれの圧力を計測。嚥下関連筋と開口筋はおおよそ同じなので、開口力の計測がそのまま嚥下機能の指標としても使えると考えた。高齢者群においては、嚥下関連筋量と舌圧、開口力は相関関係にあることがわかった。一方で成人群においては、嚥下関連筋量と筋力の間には如何なる関係性も認めなかった。つまり高齢者に対する超音波診断装置による筋量評価が有用である可能性と、それぞれの筋肉の加齢変化や関連因子の違いが示される結果となった。 嚥下障害の予防に期待加齢によって舌が大きくなり、舌骨上筋群は明らかに萎縮した。一般的に筋量は加齢によって減少する。筋量低下、筋力低下、身体機能低下を示すサルコペニアは超高齢社会日本における解決すべき課題の一つだ。舌骨上筋群の加齢変化はそのほかの全身の筋肉と同様だが、舌の加齢変化は他の筋肉と明らかに異なり、今後の更なる研究が必要になるとしている。いずれの筋量にも加齢の関連を認め、舌と顎二腹筋はBMIなど全身の因子も関連することがわかった一方、歯の欠損はいずれの筋量にも関連しなかった。これらの点を踏まえると、全身因子が関連する筋肉の筋量を維持するためには、筋肉そのものに対するトレーニング以外にも栄養状態や全身骨格筋量の維持が必要と考えられる。つまり摂食嚥下リハビリテーションの一環として、栄養指導や運動指導が必要になるだろう。一方でオトガイ舌骨筋のように、加齢による関連が強く全身からの影響を受けづらい筋肉は、当該筋に対するトレーニングを集中的に行えば十分に筋量を維持できるのかもしれない。高齢者においては嚥下関連筋肉量の維持が筋力の維持にもつながりうるので、嚥下機能低下の予防となる。摂食嚥下に関わる筋肉の特性を明らかにすることで、筋特異的でオーダメイドな機能低下予防法や摂食嚥下リハビリテーションの確立が期待されている。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる参考文献「 嚥下に関わる舌、舌骨上筋群の加齢変化と関連因子を解明 」― 嚥下関連筋と全身は深く関係する ―, 東京医科歯科大学プレスリリース, 2020.11.24 [PDF]