エアスケーラーチップの誤飲も。歯科治療中の異物誤飲ケースを見る
前回の記事では、医療事故が起きた際の患者心理と適切な謝罪に関して取り上げた。今回の記事では「歯科治療中に異物を誤飲・誤嚥した事例」について取り上げていきたい。1Dでは9月1日(木)に『歯科医院における死亡事故ケーススタディ』セミナーを開催する。歯科医院における実際の死亡ケースを題材に、医療安全に関して法歯学者・佐藤慶太先生が解説する。1Dプレミアムなら無料である。ぜひご参加いただきたい。セミナーの詳細を見る<前回の記事>【医療安全】医療事故が起きた際の患者心理と「謝罪」の効用歯科治療中に異物を誤飲・誤嚥した事例医療事故情報として報告された歯科治療中に発生した事例を過去に遡って検索し、事例の概要を整理した報告書の分析対象期間(2016年7月~9月)に、歯石除去中にエアスケーラーのチップが破損し、チップの先端を患者が誤飲した事例が1件報告された。スケーラーのチップを誤飲する例はやや珍しいが、歯科治療中に患者が異物を誤飲・誤嚥した事例は少なくない。実際、医療事故情報収集等事業が2011年〜2016年に受けた報告全155件のうち30件が誤飲・誤嚥だった。なぜその事故が起きたのか、要因と背景をみながら今後防ぐにはどうしたらいいか考える。誤飲・誤嚥した異物報告された異物は以下の表の通り。誤飲・誤嚥した異物の多くは金属であり、エックス線画像で確認できるもので、胃で最も多く発見されている。事故発生を受けて実施した検査はまずX線画像、その後必要に応じてCT撮影を追加することが多い。1件だけCT撮影のみ行った事例があり、治療中に患者が根管治療用器具を誤飲したことに歯科医師が気付かず診察を終了、患者は治療当日夕方より腹痛を自覚し、翌日救急外来を受診した際にCT撮影し発見された。また多くの事例で患者への影響・障害はなく、処置としては内視鏡による摘出が多く、次に自然排出が可能と判断され経過観察となっている。異物を誤飲・誤嚥することになった背景と要因誤飲・誤嚥の要因はほとんどが「把持・装着していたものの落下」である。物としては試適中のメタルコアや補綴(修復)物、固定用のワイヤー、除去中の補綴(修復)物が多く報告されている。なぜその事故は起こったか、報告書でまとめられた考えられる背景・要因をいくつか紹介する。患者の状態の把握に関すること高齢者の反応の鈍さなどの特性の理解が不足していた患者の嚥下機能障害等の把握が不十分であった上記のようにアセスメントの不足と配慮の部分で事故につながったと考えられる。治療部位の状態・判断に関すること固定源の歯牙や金属が予想以上に脆い状態であった破折の危険性を過小評価したすぐに顔を横に向けることが必要であった金属冠の咬合調整で何度も問題なく出し入れができていたため、最後の調整で注意力が散漫になった脱離するかもしれない、滑落するかもしれないといった予測的な注意不足が要因にあることもある。使用した歯科用医療機器や歯科材料に関すること必要以上に多く使用した経年劣化を考慮する必要があった治療時間の短縮のため、破損しやすい種類のバーを使用した形成用バーを下に向けて空回しして、外れないことを確認しなかったいずれもアクシデントとはいえ、ちょっとした不注意や緩慢から発生したことが疑われる。事故防止と改善策国家試験レベルの基本事項だが、咽頭部に異物が入った場合は「速やかに患者の顔を横に傾ける」ことを忘れてはいけない。そして異物の所在・位置を確認し、可能であれば適切かつ慎重に口腔外に取り出す。また処置の前に術者がそのリスクを意識して一挙一動確認を徹底することや、患者に対し事前に起こりうる可能性を説明、口腔内に落下した場合は吐き出してもらうよう指示するなど、未然に防ぐ環境作りもすべきだろう。事例が発生した医療機関の改善策では、誤飲・誤嚥の予防対策として座位で治療を行うことやガーゼやラバーダムで口腔内を覆うことなどが挙げられている。物理的に誤飲・誤嚥を防ぐ状況を作り出すことも有用な対策になる。治療時は可能な限り予防対策を講ずることや、患者が誤飲・誤嚥した際には速やかに対応できるようにすることが求められている。医療事故のセミナーが開催決定!1Dでは9月1日(木)に『歯科医院における死亡事故ケーススタディ』セミナーを開催する。歯科医院における実際の死亡ケースを題材に、医療安全に関して法歯学者・佐藤慶太先生が解説する。1Dプレミアムなら無料である。ぜひご参加いただきたい。セミナーの詳細を見る参考文献公益財団法人日本医療機能評価機構『歯科治療中に異物を誤飲・誤嚥した事例』医療事故情報収集等事業第47回報告書, Ⅲ-2【2】, 2016佐久間 泰司『歯科医療の安全を考える』日歯麻誌, 2022.山崎 祥光『医事紛争と謝罪 第3回 謝罪が訴訟に及ぼす影響』医療安全, 2007.和田 仁孝, 中西 淑美『医療メディエーションーコンフリクト・マネジメントのナラティヴ・アプローチ』シーニュ, 2011.