膵臓がんの早期発見・予後と関連する口腔内細菌種が発見される
東京医科大学の研究チームは、日本人の膵臓がん患者に特徴的な口腔内細菌種・腸内細菌種を同定し、これらががんの予測にも有用であることを明らかにした。本研究の成果は、学術誌であるGastroenterologyのオンライン版に掲載されている。膵がんの新たな腫瘍マーカーとして利用可能膵がんは、最も致死率の高い悪性腫瘍のひとつだ。罹患率は世界規模で増加傾向にある。膵がんの原因解明や早期発見に有用な非侵襲的な腫瘍マーカーの同定は、喫緊の課題であった。人体の消化管には、数百兆個以上(種類としては1000種以上)の常在菌が生息しており、それら常在菌やウイルスの集合は総じて「マイクロバイオーム」と呼称され、ヒトの健康と病気を理解する上での重要な要素となっている。近年、動物実験から特定の腸内細菌種の存在が抗がん剤の効果を決定することがわかっているが、ヒトでは十分な研究が行われていなかった。そこで、膵がん患者において、マイクロバイオームが抗がん剤効果の予測に有用かも検証した。膵がんに特徴的な口腔内細菌種を発見日本人の膵がん患者と、年齢、性別、患者背景因子を1:5でマッチしたコントロール症例について、唾液と糞便をショットガンメタゲノムシークエンスで解析した。その結果、口腔細菌517種と腸内細菌1,151種を同定し、コントロール症例と比較することで膵がん患者に特徴的な口腔細菌18種と腸内細菌30種を発見した。また、重要なこととして、日本で同定した膵がん関連腸内細菌が、ドイツ人やスペイン人の膵がん関連細菌と一致することを見出した。ヨーロッパ・日本の共通菌5種のうち、膵がんで増加した4種は、通常は腸内ではまれな口腔の常在菌であること、一方、減少した1種は多くの病気でも減少が報告されており、免疫誘導と関わる菌であることがわかっている。さらに、膵がん患者で3か国に共通して増加していた4種を宿主とする新規バクテリオファージ58種を発見した。これらの結果は、特定の細菌の増加または減少が膵がんの発生やがん進行の原因となる可能性を示唆しており、今後それらの細菌を介した発がん機構の解明が望まれる。また、それら細菌が実際に発がんや進行の原因である場合は、それらをターゲットとするファージセラピーにより膵がんを予防または治療できる可能性があり、研究結果はその基盤データを提供したことになる。膵がんの予測に口腔内細菌種が有用続いて、膵がんに特徴的な細菌叢が、がんの早期発見のための腫瘍マーカーとして利用できるかを検証した。口腔細菌叢と腸内細菌叢の膨大な情報から機械学習法という解析法を用いて膵がんの予測能を調べたところ、特定の口腔や腸内細菌を数菌種用いると高い確率で膵がんを予測できることがわかった。さらに、従来の血液マーカー(例:CA19-9)と口腔や腸内細菌種を併用すると、血液マーカー単独よりも膵がんの予測精度が高まることを発見した。膵がんの診療における個別化医療の実現に期待今回の研究から、マイクロバイオームをマーカーとして膵がんの早期発見や抗がん剤の治療効果予測に利用できる可能性が明らかとなり、膵がんや予後のハイリスク患者の絞り込みから膵がん診療における個別化医療の実現が期待される。また、従来の血液腫瘍マーカーと唾液や糞便マーカーと組み合わせることで、より早期の膵がん発見が可能となり、治療率向上と予後改善が期待される。「膵がんに特異的な腸内細菌に感染するバクテリオファージの同定は、がんの発生や進行を抑制することを目指したファージセラピーの研究開発を促進させる」と研究チームは述べている。