歯科医院は「認知症患者」にどう対応すべきか?
超高齢社会の我が国において、認知症は「身近な疾患」となっている。歯科医院においても、これまで通院していた患者が罹患する可能性も高く、対応に関する知識習得が必要だ。もし、認知症の患者が「義歯を盗まれた」と言ってきたら。もし、頻繁に治療日を勘違いしてしまったら。あなたは適切な態度で向き合うことができるだろうか。知っておくべき認知症のキソ知識まずはじめに、認知症について知っておくべき基礎知識を整理しよう。日本神経学会の『認知症疾患治療ガイドライン』によれば、認知症とは下記の疾患と定義される。認知症とは、アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう。認知症の主な症状は、下記1〜5の「中核症状」と、6の「周辺症状」とに大別できる。記憶障害見当識障害(時間や場所がわからなくなる)理解力・判断力の低下失語・失行(日常的にできていたことができなくなる)、失認(目の前のものが何かわからない)遂行機能障害(約束が守れない)行動・心理症状(BPSD)また認知症の分類は、脳細胞の変性のない「神経変形性疾患」と、変性のある「脳血管障害」、「混合型」、「その他(感染性疾患など)」に分けられる。また、認知症の検査には、改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、FAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer's Disease)など、スクリーニングを質問形式で行うものがある。その後、必要に応じて脳画像検査(CT、MRI、SPECT)を行う。なお、認知症に対する治療は基本的には対症療法となり、根本的な治療は現在のところない。認知症による歯科診療上の問題とは?認知症によって出現する歯科診療上の問題や臨床におけるポイントとしては、下記の6点が挙げられる。健常者よりう蝕・歯周病が多い義歯の取り扱い・管理ができなくなる開口拒否のため粘膜疾患の悪化が著しい咀嚼機能の低下により低栄養リスクが高まる摂食嚥下機能が低下する義歯未装着者は認知症を発症しやすい上記項目について、それぞれ詳しく解説していこう。健常者よりう蝕・歯周病が多い認知症患者は、自発的な清潔行動の低下、手指の巧緻性の低下、視空間認知障害により、セルフケアは困難となるため、歯周病や歯頸部う蝕が多発してしまう。義歯の取り扱い・管理ができなくなる義歯の着脱ができなくなり、支台歯や粘膜が不潔となり、口腔状態の悪化へとつながる。逆に新義歯を未装着のまま過ごすこともあり、栄養状態の悪化の原因ともなっている。開口拒否のため粘膜疾患の悪化が著しい認知症においては口腔清掃の必要性を理解できなくなり、開口拒否が目立つようになる。そのため、口内炎やカンジダが発生しやすく、難治性となってしまう。また潰瘍や腫瘍の発見も遅れ、重症化することもある。咀嚼機能の低下により低栄養リスクが高まる認知症患者は義歯装着困難により、機能歯数の減少が起き、咬合支持を失うケースが多い。そして廃用による筋機能の低下を引き起こし、摂食可能な食品が減少するため、低栄養となってしまう。摂食嚥下機能が低下する食具の使用の失行により、手づかみ食べとなり、一口量の調節ができないため、誤嚥や窒息のリスクが上がり、誤嚥性肺炎を合併しやすくなる。義歯未装着者は認知症を発症しやすい歯がなくても義歯装着している人と20本以上歯を有した人とで比較したところ認知症発症リスクに差がなかったという結果が出ており、認知症と咀嚼能力、歯の喪失、口腔衛生の関連を示唆する報告もある。いかにして認知症患者に対応すべきか?歯科診療上、認知症患者に対して気を付けるべきポイントは理解できた。それでは実際に、どのようにして認知症患者に対応するべきだろうか。ポイントは、下記の点である。歯の定期ケアをつづけ、関わりを途切れないようにすること信頼関係を築き、お互いの言いたいことを伝えあうこと急かさないこと。本人のペースを尊重し、イライラしない環境づくりをすること笑顔で接すること声かけは正面から目線の高さを合わせて一人で話しかけること被害妄想(義歯を盗まれた、など)への対応は否定せずに、共感してあげること感情のコントロールができず、暴力をふるう方への対応は同じ力で返すのではなく、その場を一旦離れ、冷静になってから、穏やかに対応すること服薬拒否や治療拒否への対応は、医師が処方した薬の写真やメモを書いて本人にあげることで改善することもあるが、まずは認知症の主治医に相談すること認知症患者の自立を助けるために些細なことでも早期に発見すれば、認知症患者の自立を支援する機会も広げることができる。例えば、急激にプラークコントロールが悪化したり、う蝕・歯周病が増えたなどの口腔内の変化や、会計や予約時の不安な様子、頻回の予約間違い、診療室内での挙動やユニットの移乗・うがいをする場面でのたどたどしさ、診療に対する不安を話してくるなどがサインとなってくる。口腔内に変化がなくても、行動から早期発見できることもあるため、歯科医師・歯科衛生士のみならずチームでの認知症に対する理解が必要だ。われわれ歯科医療者にできることは、認知症患者を見捨てないでサポートしていく、あたたかい世の中づくりへの担い手となることではないだろうか。参考文献『認知症患者の歯科的対応および歯科治療のあり方:学会の立場表明 2015.6.22版』日本老年歯科医学会, 2015.06.22.『認知症疾患診療ガイドライン2017』日本神経学会, 医学書院, 2017.07.31.『こころの病気を知る 認知症』厚生労働省, 2022年3月29日閲覧.『学研CoCofump 【専門家監修】認知症の方への対応方法 家族の接し方・収集癖やせん妄等の対処法を紹介』矢野大仁, 2022年3月29日閲覧.