乳歯・永久歯の「次の歯」生やす?先天性無歯症の治療薬開発から着想
「先天性無歯症」治療薬開発に光明か先天性無歯症は、その名の通り先天的に歯のすべてが欠如している状態のことをいう。6本以上の歯の欠損を認める症例が遺伝性とされ、その発症頻度は全人口の0.1%と報告されている。原因遺伝子としてはEDA、MSX1、WNT10A、RUNX2などが同定され、その多くがマウスとヒトで共通である。症候群性先天性無歯症である無汗性外胚葉異形成症は、10万出生あたり15.8人と希少疾患に該当する。先天性無歯症の患者は、顎骨の発達期である幼少期より無歯症となるため、成長期にオーラルフレイルの状態となりやすく、栄養の確保や成長・発育に悪影響を及ぼす。これまで、先天性無歯症には義歯やインプラントによる補綴治療が行われてきた。根治的な治療として、歯の再生治療が検討されているものの、細胞のリソースやコスト、安全性に関する問題で臨床応用までは至っていない状況であった。そこで京都大学や福井大学、愛知県医療療育総合センターを中心とした研究チームは、臨床応用において細胞を用いずに歯の再生が可能な治療薬として、USAG-1タンパクをターゲットとした分子標的薬の開発を試みた。研究成果は、国際学術誌「Science Advances」に掲載されている。フェレットでも第三生歯の誘導に成功先天性無歯症モデルマウスに、過剰歯の原因遺伝子のひとつであるUSAG-1を標的分子とする抗体を腹腔内投与することにより、無歯症が回復することが実験によって示された。また、野生型のマウスでも同じく抗USAG-1抗体を投与し、完全な形の新しい歯を再生することが確認された。USAG-1とは、Uterine sensitization associated gene-1の略語で、別名Sclerostin domain containing 1(SOSTDC1)、ectodin、Wnt modulator in surface ectoderm(WISE)とも呼ばれている。しかし、マウスは乳歯と永久歯の区別がない「一生歯性」で、切歯1本と大臼歯3本という、ヒトの歯とは異なる歯式を持つ動物である。臨床に応用するためには「二生歯性」、すなわち乳歯と永久歯があることや、歯式の近い動物での検証も必要であった。イタチ科の小動物・フェレットは二生歯性であり、歯式もヒトのそれに類似していることから、研究チームはフェレットにもマウス抗USAG-1抗体を投与した。その結果、永久歯の後に萌出する第三生歯を誘導することができたという。永久歯の "次の歯" 生やすゲームチェンジなるか超高齢社会における健康寿命の延伸に向けた先制医療への取り組みは、日本の医療・ヘルスケア戦略の重要な柱である。我が国における歯の欠損を有する患者は、高齢者を中心に約3,000万名以上と報告されている。言うまでもなく、ヒトの歯は大臼歯が一生歯性である以外は二生歯性で、歯数は厳密に制御されているから、一度永久歯を失えば、補綴処置に頼らざるを得ない。研究チームは、本研究から始まる技術を用いて、"永久歯の後継歯(第三生歯)を形成させる" という、歯科医療の常識を覆す「ゲームチェンジング」な治療法の確立を目指す、と語っている。これまで歯の切削や抜歯という行為は不可逆的な侵襲と位置付けられていたが、これが臨床応用されれば、「歯そのものを取り替える」という新しい治療概念が生まれることだろう。今後の研究に期待したい。参考文献Murashima-Suginami, A., Kiso, H., Tokita, Y., Mihara, E., Nambu, Y., Uozumi, R., ... & Takahashi, K. (2021). Anti–USAG-1 therapy for tooth regeneration through enhanced BMP signaling. Science Advances, 7(7), eabf1798.先天性無歯症に対する分子標的薬の開発 −USAG-1を標的分子とした歯再生治療−, 京都大学, <URL>『最新 口腔外科学 第5版』, 榎本昭二ら, 医歯薬出版株式会社, 2017.