顎骨吸収を抑制するメカニズムが解明される。治療薬の開発に光明
抜歯窩は自然に骨が添加されていくが、元の形状に戻ることは稀で、年月とともに顎骨の吸収が始まる。顎骨吸収が起きると、義歯の装着困難、インプラントの埋入困難、骨折のリスクの上昇といった弊害が生じる。北海道大学と慶應義塾大学の研究チームは、抜歯後の顎堤吸収をマウスで再現し、顎骨吸収のリスクを調べる研究をおこなった。その結果、卵巣機能の低下が抜歯後の顎骨吸収のリスク因子となることを証明した。また、抗RANKL抗体と抗Sema4D抗体の機能抑制により顎骨吸収の進行を抑えられることを発見した。これらの研究成果はScientific Reports誌にオンライン掲載されている。マウスの顎骨を撮影し続けること24週…研究チームは、全身麻酔下でメスのマウスの臼歯を抜歯し、小型動物用のCT装置を用いて抜歯後24週まで、顎骨の撮影を継続して行った。得られた画像から顎骨の形の変化、骨体積、骨密度を計測した。次に、卵巣摘出手術を行ったマウスを作製の上、抜歯し、同様に解析を行った。さらに、顎堤吸収の原因を明らかにするため、抜歯部位から回収した試料に存在するmRNA分子をPCR 法により調査した。その結果から、RANKLとSema4Dという分子が大きく変動していることがわかった。それぞれの機能を抑える中和抗体を卵巣摘出と抜歯を行ったマウスに処理し、顎骨吸収の抑制に有用であるかどうかを検証した。卵巣摘出をしたマウスの上顎骨のCT画像。抜歯直後(0日)と抜歯後16週の画像を重ね合わせ,抜歯後の形状変化を解析した。骨吸収は頬側,上顎洞底側,歯槽頂側(矢印)でおこり特に歯槽骨の垂直的な吸収が大きい。M1: 第1臼歯 M2: 第2臼歯 M3: 第3臼歯引用元:[1]卵巣機能の低下は顎骨吸収の要因になる健常な状態のマウスの抜歯では一時的な骨体積の減少が起きたものの、その後の骨体積はほぼ一定の値を示した。この結果は、全身疾患や口腔内病変がなく、健康的な口腔内環境を保っている状態では顎堤吸収は進行しないことを示しているという。一方で卵巣摘出手術を行ったマウスでは骨密度、骨体積ともに低い値を示したという。骨体積は長期間継続的に減少するというヒトの顎堤吸収とよく似た症状となっていた。よって、卵巣機能の低下は顎堤吸収が起こる要因の一つになることが考えられると研究チームは結論づけた。さらに、本マウスへと抗RANKL抗体及び抗Sema4D抗体を投与したところ、顎堤吸収の進行を抑制する効果を発見したという。顎骨吸収を抑制する治療薬の開発へ現在、顎骨吸収を抑制する根本的な治療法は存在しない。顎骨吸収を抑制すると証明した抗RANKL抗体は、すでに骨粗鬆症の治療薬として使用されているが、口腔領域への副作用として顎骨壊死を生じる可能性がある。この研究でのマウス実験モデルが今後の治療薬の開発に有用なツールになると研究チームは考えている。顎骨吸収が抑制できる治療薬を開発できれば、義歯の安定や、インプラントの適応症例の拡大にもつながるだろう。今後の研究に期待である。参考文献抜歯後の顎骨吸収を促進する因子を発見~顎骨吸収の進行を抑えるための新たな治療法の開発に向けて~, 北海道大学, <URL>, 2022年4月5日閲覧