リンガルアーチ(舌側弧線装置)とは、持続的な矯正力を発揮することによって、歯の傾斜移動を行う矯正装置です。リンガルアーチ(舌側弧線装置)はMershon, J. V.が考案し、1918年に発表されました。舌側に装着し粘膜に沿っているので、外見的にあまり目立ちません。また、種々の付加物をろう着したり、デザインを多少変えたりしてさまざまな用途に用いることが可能であり、優れた拡張性を有します。リンガルアーチ(舌側弧線装置)は下顎第一大臼歯を固定源として、これに補助弾線を介して持続的な矯正力を作用させます。可撤式のリンガルアーチ(舌側弧線装置)と固定式のリンガルアーチ(舌側弧線装置)がありますが、歯の移動様式はどちらも傾斜移動です。
リンガルアーチ(舌側弧線装置)の構造は、以下のような要素からなります。
ダブルチューブタイプ:維持バンドに維持管をろう着し、それに脚部を挿入します。脚部の脱落を防ぐために、維持線(止め)を維持管の下に接触させます。取り外すときはスケーラーなどで、L字型の維持線下端を維持管の下端から外します。脚部の近心は第一・第二小臼歯の中間で主線とろう着され、主線と一体になっています。脚部の遠心はSTロックの形がデザインされ、脚部の二つの垂直部が維持管に挿入されています。
半円管と半円線のタイプ:維持管と半円線が、幅広の半円形になっています。
固定式: 主線と維持装置がろう着され、着脱出来ないが強固です。そのため、保定や保隙、加強固定(顎間固定装置の固定源など)に適しています。
リンガルアーチ(舌側弧線装置)の補助弾線の種類としては、以下のようなものがあります。
単式弾線:おもに切歯の唇側移動に用いられます。
複式弾線:歯の唇側・頬側移動に用いられます。折り返して二重に屈曲されるために、弾力を持っており持続的に作用します。
指様弾線:前歯や小臼歯の近遠心移動に使用されます。U字型に屈曲され、粘膜に接しながら歯の隣接面歯頚部に適合されます。
連続弾線:小臼歯の頬側移動に用いられます。丸みを帯びた長方形で両端が主線にろう着されます。
リンガルアーチ(舌側弧線装置)が適応されるのは、以下のような症例です。
1歯~数歯の位置異常
歯列弓狭窄(軽度)
顎間固定の固定源
保隙
保定
加強固定
リンガルアーチ(舌側弧線装置)は、ほぼ1か月に1回の来院ごとに、被移動歯が正常な位置に移動するまで、歯科医師が補助弾線の活性化を行います。患者は、リンガルアーチの補助弾線や主線を指で触ったり、食物の咀嚼時に変形させないよう注意し、また、不潔になることがないよう、日々丁寧にブラッシングを行っていく必要があります。
リンガルアーチ(舌側弧線装置)のうち、主線が維持装置のところで取り外しが出来るタイプは、来院ごとに歯科医師が主線を取り外し、補助弾線を活性化(※)してから再装着します。リンガルアーチ(舌側弧線装置)のうち主線がバンドにろう着されたタイプでは、口腔内で補助弾線を広げるように調整するか、あるいはバンドとともに主線を取り外し同様に補助弾線を調整して、バンドから再装着します。
※活性化:例えば複式弾線では、歯の移動方向(唇側・頬側)に補助弾線を広げるように調整し、装着時に広げたものを圧縮するようにして補助弾線を歯に接触させると、圧縮した弾線がもとに戻ろうとする復元力が矯正力として働くことを指しています。