ディスクレパンシー(英:discrepancy)とは、食い違い、相違、不調和といった意味で、歯科においては歯と歯列弓(基底骨)の大きさに不調和があることを指す。
ディスクレパンシーは、歯科矯正において歯列弓と歯槽基底弓の大きさの不調和(アーチレングスディスクレパンシー arch length discrepancy)を表し、利用可能な歯列弓周長(available arch length)から歯を排列するのに必要な歯列弓周長(required arch length)を引いたものと定義されている。つまり、歯を歯列内に調和よく排列するためにはどのくらいの長さの過不足があるかを表現するために用いられる。
利用可能な歯列弓周長 available arch length
第一大臼歯近心接触点から反対の第一大臼歯近心接触点まで歯列弓に沿って長さを測る。
歯を排列するのに必要な歯列弓周長 required arch length左右側中切歯から第二小臼歯までの歯冠近遠心幅径の総和を算出する。
アーチレングスディスクレパンシーは、
available arch length − required arch length = arch length discrepancy
の計算式で求められる。値がマイナスであればスペース不足となり、値がプラスであればスペースが余っていることを表す。
アーチレングスディスクレパンシーがマイナスの場合、叢生であることが多いため、歯列弓の拡大やスペース確保のため抜歯が検討される。逆にアーチレングスディスクレパンシーがプラスの場合は、空隙歯列であることを表す。
ディスクレパンシーの予測には、以下の2つの要素が必要になる。
顎顔面の成長発育がきちんと予測できること
歯列弓と歯の関係を正しく計測できること
ディスクレパンシーの予測において信頼できるものとして、CBCTを用いた歯冠計測法が挙げられるが、対象が小児であるため被曝線量の問題を考慮する必要がある。セットアップモデルを製作し計測する方法もある。
トータルディスクレパンシー(total discrepancy)とは、矯正治療において抜歯・非抜歯の判定に用いられるもので、治療計画立案の際にも利用される。また計算式は以下の通りである。
arch length discrepancy + cephalogram correction + spee's curve = total discrepancy
Tweedの抜歯基準に基づき、トータルディスクレパンシーの値が
と考える。
セファログラムコレクション cephalogram correction
FMIAを65°に近づけるために下顎前歯をどれだけ舌側(唇側)すれば良いかを算出した値。頭部X線規格写真上で下顎中切歯の根尖を通ってFMIAが65°になるような直線を引き、切縁部の変化量を計測し2倍する(左右のため2倍)。日本人のFMIAの平均値57°とし(FMIA - 57°)÷ 2.5 × 2 で求められる。前歯が2.5°移動するのに1mm必要なため、計算結果がマイナスの場合舌側移動、プラスの場合唇側移動となる。別名:ヘッドプレートコレクション(head plate correction)。
speeの彎曲 spee's curve
下顎の歯列を横から見たとき、その咬頭を連ね上に向かって凹湾した曲線を示す。下顎の犬歯の遠心隅角から大臼歯までと捉えるものや切歯を含めた歯列全体とするものなどがある。
トータルディスクレパンシーは、上記の通り下顎中切歯の歯軸傾斜角を変化させると、歯列弓周長がどれだけ増減するかを表したものであり、抜歯・非抜歯の基準だけでなく「歯軸傾斜角の変化に応じた歯列弓周長の増減」「顎態と調和のとれた下顎中切歯の歯軸傾斜角」を確認するためにも重要な指標である。
ディスクレパンシーには、上記のほかアンテリアディスクレパンシー(anterior discrepancy)とポステリアディスクレパンシー(posterior discrepancy)がある。アンテリアディスクレパンシーは両側第二小臼歯間の10歯のディスクレパンシーのことで、ポステリアディスクレパンシーは左右第一、二大臼歯4本のディスクレパンシーのことを指す。鋏状咬合(シザースバイト)や非抜歯矯正治療で使われる用語である。