全調節性咬合器fully adjustable articulatorは、平衡側顆路調節機構に加え、側方運動時の作業側顆路の調節機構を有しています。全調節性咬合器は、それぞれの顆路を生体と同じ曲線によって再現できる咬合器のことを指しています。全調節性咬合器の作業側顆路の調節機構は、平衡側顆路調節機構に影響を及ぼさない構造となっているのが特徴です。全調節性咬合器は、咬合器の分類としては、調節性咬合器の一つです。全調節性咬合器は一般的には臨床で用いられる機会は少なく、その理由として全調節性咬合器自体が高価であることと、操作が煩雑であることがその理由として挙げられます。
全調節性咬合器では、まずパントグラフなどの描記装置で側方滑走運動の記録を行います。記録された作業側顆路と平衡側顆路それぞれの運動経路について、運動方向と彎曲を再現できる機構を有しています。なお、フェイスボウトランスファーは半調節性咬合器の顎運動の記録法です。
口腔内で十分に機能する全部床義歯を製作するためには、無歯顎者の各種下顎位や顎運動を生体外で適切に再現できる咬合器の使用は不可欠です。現在、多くの咬合器が市販されており、それらは調節性や関節部の構造などにより分類されます。
現在の咬合器は顆路指導機構をもつ顆路型の咬合器であり、側方滑走運動の再現性と咬合器の操作性から、蝶番咬合器、平均値咬合器、調節性咬合器に分類されています。調節性咬合器は、咬合器の顆路機構に患者固有の顆路の再現をめざして調節性を付与した咬合器であり、その調節性の程度から半調節性咬合器と全調節性咬合器とに分けられます。全部床義歯製作には、無歯顎口腔の特殊性を考慮し、半調節性咬合器もしくは平均値咬合器が用いられる場合が多いです。
蝶番咬合器は平線咬合器とよばれるもので、一つの咬合位を再現し、その下顎位から開閉口運動のみが可能です。原則的には側方滑走運動は再現されていません。現在、多く使用されているユニティ咬合器などもこれに分類されます。
平均値咬合器は、矢状顆路角、側方顆路角、側方切歯路角、Bonwill三角、Balkwill角などの下顎運動と頭蓋形態に関する要素について、平均値を基準として製作された咬合器です。ただし、矢状切歯路角は調節できる咬合器もあります。Gysi Simplex咬合器OU型など、わが国でも数多くの平均値咬合器が製作されています。なお、平均値咬合器は側方運動も平均的な運動が再現されるようになっており、ほとんどの無歯顎患者に適応できます。
半調節性咬合器は、一般に平衡側顆路調節機構のみ有しており、矢状顆路角、平衡側側方顆路角、、切歯路角が調節できます。しかし、作業側顆路は一定の方向にしか動かず、調節はできません。半調節性咬合器のの顆路機構の調節には、通常、チェックバイト法が利用され、矢状顆路傾斜の調節が行われます。
顆路部の構造によりボックス型とスロット型に分けられます。関節窩を模した箱型の顆路構造が顆頭球を上から覆う構造のものをボックス型とよび、溝状の顆路構造のなかを顆頭球が移動する構造をスロット型とよびます。
スロット型の顆路はコンダイラー型およびアルコン型療法の咬合器にみられます。作業時に上顎部と下顎部を分離できませんが、咬頭嵌合位のずれは少なく、操作性がよいことから、全部床義歯製作に多く用いられています。
顆路調節機構が咬合器の上顎部あるいは下顎部のどちらかに存在しているかによって、アルコン型咬合器とコンダイラー型咬合器とに分類されます。
アルコン型咬合器は生体の顎関節の構造と同様に、下顎頭に相当する咬合器の顆頭球が下顎部にあり、また関節窩に相当する顆路指導機構が上顎部に設定されています。この構造から、咬合器の顆路傾斜角度を調節するためには、上顎部にある顆路指導機構の角度を変化させることになります。全調節性咬合器はすべてアルコン型です。
コンダイラー型咬合器は生体の顎関節の構造とは逆に、下顎頭に相当する顆頭球が咬合器の上顎部にあり、関節窩に相当する顆路指導機構が下顎部に設置されています。コンダイラー型では開口や垂直的顎間距離を変えると顆路傾斜が変化するという欠点があります。