ハッチンソン歯とは、先天梅毒の三徴候(ハッチンソン三徴候)のひとつで、永久歯の上顎中切歯切縁の半月状のくぼみと、正常歯よりも小さく細い歯冠を特徴とします。ハッチンソン歯は上顎中切歯以外に、上顎の側切歯や犬歯にもみられることがあります。1863年にイギリスの医師であるJ.Hutchinsonにより発見されました。
ハッチンソンの三徴候とは、先天梅毒によって現れる3つの徴候で、
ハッチンソン歯の他に
実質性角膜炎、
内耳性難聴を伴います。
フルニエ歯(Fournier tooth)とは、先天梅毒によって引き起こされる形成不全・臼歯の咬頭発育不全の歯のことです。前歯部の歯冠形態異常であるハッチンソン歯に対してフルニエ歯は、先天性梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマの毒素が歯胚に直接影響を与えることで、臼歯部の咬頭発育不全を起こします。
フルニエ歯はエナメル質の石灰化不全により生じ、特に第一大臼歯に好発します。フルニエ歯は「ムーン歯(Moon's tooth)」「桑実状臼歯」とも呼ばれています。
梅毒とは、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による感染症のことで、母子感染(経胎盤感染)による先天梅毒と、性行為での感染による後天梅毒(性感染症)があります。発生率では後天梅毒がその殆どを占めています。
梅毒では感染後3~6週間程度の潜伏期を経て、経時的に様々な臨床症状が逐次出現します。その間症状が軽快する時期があり、治療開始が遅れることにつながります。
早期顕症梅毒 第Ⅰ期:感染部位の病変
感染後約3週間後に梅毒トレポネーマが進入した局所に、初期硬結、硬性下疳(潰瘍)が形成されます。また無痛性の所属リンパ節腫脹を伴うことがあります。無治療でも数週間で軽快します。
早期顕症梅毒 第 II 期梅毒 : 血行性に全身に移行
第 I 期梅毒の症状が一旦消失したのち4~10週間の潜伏期を経て、手掌・足底を含む全身に多彩な皮疹、粘膜疹、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛等が出現します。発熱、倦怠感等の全身症状に加え、泌尿器系、中枢神経系、筋骨格系の多彩な症状を呈することがあります。
第 I 期梅毒と同様、数週間〜数ヶ月で無治療でも症状は軽快します。早期顕症梅毒症例で髄膜炎や眼症状などの脳神経症状を示すものは、早期神経梅毒と呼び晩期梅毒の神経梅毒とは区別されます。
潜伏梅毒
梅毒血清反応陽性で顕性症状が認めらないものをさします。第 I 期と第 II 期の間、第 II 期の症状消失後の状態を主に表します。
第 II 期梅毒の症状が消失後、再度第 II 期梅毒症状を示すことがありますが、これは感染成立後1年以内に起こることから、この時期の潜伏梅毒を早期潜伏梅毒と呼びます。これに対応して、感染成立後1年以上たつ血清梅毒反応陽性で無症状の状態を後期潜伏梅毒と呼びます。
晩期顕症梅毒
無治療の場合、約1/3で晩期症状が起こってきます。長い(数年〜数十年)の後期潜伏梅毒の経過から、長い非特異的肉芽腫様病変(ゴム腫)、進行性の大動脈拡張を主体とする心血管梅毒、進行麻痺、脊髄癆等に代表される神経梅毒に進展していきます。
先天梅毒とは、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)が経胎盤性に母子感染することによる感染症のことをいいます。先天梅毒は、出生後数週以降に発症する早期先天梅毒と、学童期以降(5~18歳)に発症する晩期先天梅毒に分けられます。
【早期先天梅毒の特徴】
皮疹(バラ疹など)
肝脾腫
Parrot凹溝(放射状の口囲亀裂瘢痕)
Parrotの仮性麻痺(骨軟骨炎の痛みによる)
鼻閉
先天梅毒においては、妊娠初期に梅毒血清反応を調べ、必要があれば速やか(妊娠16~20週以前)にペニシリン投与を開始することが望ましいとされています。梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の胎内感染の有無は、出産前は羊水や臍帯血、出生後は新生児の血清から、TPHAやFTA-ABS検査で特異的IgM抗体を検出して判断します。
梅毒の治療には、ペニシリン系とセフェム系の抗生物質が有効で、感染からの経過が長いと、長期の治療を必要とします。
梅毒の予防法として、パートナー同士の感染有無の確認がまん延防止に必要です。また、不特定多数との性行為、特に感染力の強い第Ⅰ期及び第Ⅱ期の感染者との性行為を避けることが予防における基本です。