咬座印象とは、総義歯製作途中に生じる歪みを最終段階において修正することを主な目的として、人工歯排列や人工歯の削合も終了したろう義歯をトレーとして少量の流動性の優れた印象材を盛り、咬合させて採得する印象のことを指します。咬座印象は英語では、Bite-Seating impressionといいます。
咬座印象は、1955年頃に矢崎正方によって考案されました。
咬座印象法を取り入れた総義歯の製作手順を以下に示します。
口腔内診査
概形印象採得(一次印象)。研究用模型作製
個人トレー作製
筋圧形成・精密印象採得(二次印象)
作業用模型作製
咬合床作製
咬合採得
人工歯排列・削合
ろう義歯試適・調整
咬座印象採得(三次印象)
埋没・重合
研磨・咬合調整
義歯完成
ろう義歯の調整・試適後、術者が所定の位置に印象材を薄く盛ったろう義歯を装着し、やや強めに指圧にて圧迫します。その後軽めに開口させて辺縁形態を印象し、上下顎ろう義歯を軽く咬合させ印象材を硬化させます。
下顎ろう義歯の調整・試適後、上顎完成義歯と印象材を薄く盛った下顎ろう義歯を口腔内に挿入し、軽く2~3回咬合させます。下顎義歯の浮き上がりに気をつけ開口させ、辺縁形態を印象し、上下顎を軽く咬合させて印象材を硬化させます。
咬座印象法を用いて、上下顎共に総義歯を作製する場合、片顎ごとに義歯を完成させて行います。上下顎どちらを先に完成させるかについては、考案者の矢崎正方は、人工歯排列の許容範囲の少ない下顎義歯を先に完成させたのちに上顎を行う事を推奨しているが、材料の進歩により現在においては上下顎どちらを先に行っても差異はないとされています。
咬座印象は、義歯製作過程において生じた歪みを完成義歯と同じ人工歯排列のろう義歯を用いて印象採得する事により修正し、完成義歯の口腔粘膜や周囲筋との適合を上げて安定させる事ができます。
咬座印象の欠点は、印象回数が通常の義歯製作と比較して多いことです。また、咬座印象を用いて金属床義歯を作製する場合には特別な技工操作を行わなければならない点なども欠点です。
咬座印象と咬合印象の違いは、咬座印象は、完成義歯に近い人工歯排列をされたろう義歯を用いて咬合圧を利用し、印象採得を行う事で、床下粘膜面の適合および口腔周囲の組織と完成義歯の適合を向上させて義歯の安定を図る方法です。咬合印象は、咬合床や治療用義歯を用いて咬合圧を利用し、印象採得を行う事で床下粘膜面の適合の良い義歯を作製する方法です。このように、咬合圧を用いて印象採得を行うタイミングおよび目的に違いがあります。
考案された当初の咬座印象の主たる目的は総義歯製作時に生じる歪みを修正することでした。しかし近年は材料の進歩により、歪みが減少して来ています。そのため、近年の咬座印象は、床下粘膜および口腔周囲組織と完成義歯との調和を図り義歯の適合を上げより安定した義歯を製作することが主の目的に変化してきています。
また、近年の顎堤吸収の激しい難治症例に対しては、考案者の御子息である矢崎秀昭によって、複製義歯(コピーデンチャー)とティッシュコンディショナーを応用した「機能位咬座印象法」などが考案されています。