2040年問題という言葉が対談の主題に置かれます。画面に出る定義は「日本の少子高齢化や人口減少により2040年頃に深刻化すると予測される社会経済問題の総称」。出演者はまず、時間の近さを確かめます。まもなく2026年を迎える。つまり2040年まで15年を切った、と。
この話題は、歯科医院では「人が減る」つまり「患者が減る」という形で受け取られがちです。ところが対談は、そこで止まりません。減るのは患者だけではない、という指摘から始まります。
患者も減る。ただし、減り方が速いのは歯科医師のほうだ
出演者が根拠に挙げるのは、厚生労働省の
医師・歯科医師・薬剤師統計です。も
う歯科医師が減る時代ですよ、と言ったうえで、一方で患者も減るんですよ、と続けます。そのうえで置かれるのが、この記事の背骨に当たる一文です。患者の減り具合に対して、歯科医師の減り具合のほうが大きい。
理由として語られるのは、年齢構成です。歯科医師は一般の人口に比べて年齢の高い層が厚く、その層がこれから引退していく。だから歯科医師は足りなくなっていく、という順序になります。なお、動画のなかでは平均年齢の具体的な数値も語られますが、統計の数字とは一致しないため、ここでは数値としては扱いません。使えるのは「引退期に向かう層が厚い」という構造のほうです。
構造そのものは確かめられます。令和6(2024)年12月31日現在の同統計で、歯科医師の総数は103,652人。前回の令和4年調査から1,615人、率にして1.5%の減少でした。歯科医師が増え続ける時代はすでに終わっており、減少は予測ではなく、直近の調査で起きたことです。画面には「特に地方における歯科医療の安定的な提供体制が揺らぐ可能性がある」というテロップが添えられます。
対談はここから地域の話に移ります。地方はそもそも歯科医師がいない、もうできていますもんね、という短いやりとりがあり、
無歯科医地区の話が出ます。車を運転できなくなるといった事情も重なって、受療の機会そのものが失われることが起こる。もう本当にどうしようもないような状況がある、とも言われます。
この点は一次資料で確認できます。厚生労働省の令和7年度の調査(令和7年10月末日現在)で、
無歯科医地区は全国で750地区、そこに暮らす人は196,640人でした。前回の令和4年度調査は784地区・188,647人ですから、地区の数は34減った一方で、そこに住む人は7,993人増えています。地区が減ったから解消に向かっている、と読める数字ではありません。
ただし、この数字は「地方で開業すべきだ」という話ではありません。対談でもそういう勧め方はされていません。ここで押さえておきたいのは、同じ「歯科医師が足りない」でも、都市部と
無歯科医地区では意味がまったく違うということです。出演者はのちほど、東京の都心部と北海道の
無歯科医地区では、という並べ方でこの差に触れています。
「患者が減る」より先に起きるのは、「来られない患者が増える」
対談の後半に、もう一段の言い換えが出てきます。外来に来られない患者さんが絶対に増えるわけですよ、という一文です。人口が減っても、高齢の人や持病を抱えた人の割合は増える。その人たちは歯科の必要がなくなるのではなく、歯科医院まで来られなくなる。
出演者はここで、供給が足りていない領域だという見方を示します。後期高齢者や要介護の人も含めて、必要としている人の数に対して診る側が足りていない。だから放置されている患者さんがたくさんいるわけですよ、と。ここで語られているのは、需要が消えるのではなく、需要が外来という形では現れなくなる、という変化です。
なお、対談のなかで有病者の割合を示す具体的な統計は提示されていません。この部分は出演者の見立てとして受け取るのが妥当です。ただ、見立ての向きは前半の話と一貫しています。診る側が減っていくところへ、外来では拾えない患者が増えていく。
その先で出演者が使うのが「主戦場」という言葉です。居宅における訪
問診療の推進が政策のトピックになっていることに触れ、そこが主戦場になると思うんですよね、と言います。2040年になった時を想像すると、基本、主戦場は訪問ですよ、と。極端な言い方として、すべての開業医が訪
問診療に行くくらいの心持ちで、という表現も出てきます。
もちろん、若い人向けの治療も予防管理も大事だという断りは入っています。外来をやめるという話ではありません。変わるのは重心です。
そしてこの重心の移動は、医院ごとの思いつきではなく、制度の設計に沿っているというのが対談の整理です。画面には「これからの時代は
地域包括ケアシステムでしかないんですよ」というテロップが出て、すべての医療政策の根底にあるのは地域包括ケアという思想だ、と説明されます。団塊の世代が75歳以上となる2025年を目処に、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体で提供し、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるようにする。その枠組みに、歯科も参画する側として入っていくことになります。出演者が挙げる2040年以降の方策は、
地域包括ケアシステムと訪
問診療、そしてDXの三つでした。
対談の締めくくりで出演者が言うのは、この15年でしっかりと地盤を固めて、自分たちも含めて地域包括ケアに参画していかなければならない、ということでした。学生時代に覚えた用語として通り過ぎるのではなく、自院の仕事として置き直す、という意味です。
2040年という数字は遠く見えますが、15年後に自分が何歳で、そのとき今の患者が何歳になっているかは、すぐに計算できます。今の患者のうち、通院がだんだん難しくなっている人は誰か。その人が来られなくなったとき、どこへ引き継がれるのか。近隣の在宅医療や施設と、名前の分かる関係があるか。地域で誰がどこまで担っているかを知っているか。
こうした問いに答えを用意することが、訪
問診療の件数を増やすことと同じではありません。対談も、訪問を始めれば医院が安泰になるとは言っていません。言われているのは順序のほうです。診る側が減り、来られない患者が増えるという前提を先に受け入れておけば、2040年が来てから慌てずに済む。15年という残り時間は、その前提に合わせて自院の形を変えるには十分な長さで、何もしないまま過ごすには長すぎます。