「歯科医師過剰問題」が声高に叫ばれるようになって久しい。これからの歯科医療を支える世代の歯科医師にとって、歯科医師の需給の今後の見通しは非常に気になるテーマなのは間違いないだろう。
当然ながら、今後の歯科に対する需要と歯科医師の供給を正確に予測するのは困難であり、世間では様々な説がまことしやかに囁かれている。
「歯科医院の数は現状コンビニより多く、こんなに必要ない」「人口はこれからどんどん減っていくので、歯科の仕事も減る」「そろそろ開業歯科医師が大量に引退しはじめるので、数が不足する時代が来る」。果たして正解はどこにあるのだろうか?
この問いに対して、一つの示唆を与えてくれるリサーチを紹介したい。
国立保健医療科学院 安藤 雄一氏は、「2050年の歯科医療ニーズと歯科医師受給の見通し」と題し、現在歯数とう蝕の動向に基づいた歯科医師需給予測と、予測モデルでは捉えきれない歯科医師供給の質的変化に触れ、2050年時点での見通しについて調査を行った。
2011年の歯科疾患実態調査における各年齢階級の一人平均現在歯数から2014年の社会医療診療行為別調査等を基に算出された一人平均年間喪失歯数を減じる等の手法を用いて、各年齢階級の一人平均歯数の予測値を算出した。
その結果、「8020」社会は2040年頃に到来し、2050年には「8020」が当たり前の状況になることが予測された。
歯科疾患実態調査における比較的若い成人層までのDMFT(一人平均う蝕経験歯数)の推移を確認すると、う蝕は若い年齢層から次第に減少傾向にあり、2050年にはかなり少なくなる可能性が見通せる。
受療率と疾患量の関連をみてみると、う蝕に関して最も影響を受けそうな小児(14歳以下)で受療率が概ね一定に推移しており、う蝕減少による影響は認められない。
しかしながら、青年層(15~44歳)では受療率が減少傾向にあり、う蝕減少との関連が認められる。そのうえ中年層(45歳~64歳)では受療率が概ね一定に推移しているが、高齢者層(65歳以上)では受療率の増加傾向が顕著であり、現在歯数の影響を受けている。
図5は、以上の関連を踏まえ、人口の将来予測データを加味して予測された推計患者数を年齢階級別に示し、人口の将来予測データ「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)における出生中位(死亡中位)推計」と比較したものである。
推計患者数は2017年をピークに次第に減少する傾向にあるが、患者数の減少幅は人口の予測値よりも小さいこと、また高齢者の割合が顕著に増加することなどが見て取れる。
図6のf.に注目していただきたい。こちらは図5に示された推計患者数を2008年患者調査データ」をもとに算出された歯科医師一人あたり患者数(14.1人)で除して求められた必要歯科医師数を歯科医師供給予測値(稼働歯科医師数)と比較したものである。
その結果、2040年頃には歯科医師の需要数が供給数を上回ると予測された。
今回は、今後の歯科医師の需給の予測結果として、2040年頃には歯科医師の需要数が供給数を上回るという報告を紹介した。
多くの変数が存在するが故に歯科医師の需給の正確な予測は難しく、今後さらなる調査の結果が待たれる。
これからの歯科業界を牽引していく先生方におかれては「歯科医師過剰」の文言に惑わされることなく、自らの仕事に誇りをもって日々の臨床に取り組んでいただきたい。本記事が少しでもその一助となれば幸いである。
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1. Yuichi Ando(National Institute of Public Health), Needs and Demands of Dental Health Care and Supply of Dentists: Perspectives to 2050, Health Science and Health Care 16(2):67-74, 2016