なぜ患者は死亡したのか、事の顛末を記すことにしよう。患者Aさんの症例は下顎左側に4本、下顎右側に1本の
インプラントを
埋入する予定だった。
Aさんの手術は13:30頃から始まった。13:54から14:30ころまでに下顎左側に4本の
インプラントを
埋入し、続いて下顎右側第二
小臼歯部の
インプラント埋入手術を開始した。下顎右側第二
小臼歯の
残根を抜去し、
不良肉芽を
除去した後に、
歯槽頂から
埋入窩の形成を開始した。
予定の直径4.1mm、長さ12mmの
インプラント体を
埋入したが、思ったとおりの
固定が得られなかった。
インプラント体は海綿骨部分で
固定できると想定されていたが、それでは
初期固定は得られないと担当歯科医は判断。そこで
舌側の皮質骨を
穿孔させ、海綿骨より強度が高い皮質骨部分を使い
固定を得ることにした。一旦
埋入した
インプラント体を取り出し、更に深くまで
ドリリングを進めた。そして
舌側の皮質骨を意図的に
穿孔させ、その上で
インプラント体を
埋入した。
インプラント体に
アバットメントを装着する段階になって、Aさんは異常な反応を見せた。
口腔底が盛り上がっている様子が見られたため、どこかで出血がおきていると担当歯科医は考え、下顎
小臼歯部の
インプラント体を取り出したところ出血を認めた。
出血部分にガーゼを当てて圧迫出血すると10分ほどで出血が止まった。そして再びこの
埋入窩に
インプラント体を
埋入した。これが致命傷となった。
Aさんは声を上げてばたつき、やがて力つきた。
経皮的動脈血
酸素飽和度(SpO2)は82~81%まで低下と記録にあることから、体内の酸素が足りなかったということがわかる。心マッサージ、人工呼吸を開始し、AEDを用いたが意識は回復しなかった。
15:20には救急車が到着。16:00に総合病院に搬送され、アドレナリンの投与が開始された。心拍は再開したものの、対光
反射、自発呼吸は消失していた。入院後も下顎右側第二
小臼歯部から出血が生じていたため、同病院
口腔外科の医師が止血を試みた。
その後血圧は低下を続け、翌日9:18頃死亡した。
東京大学での司法解剖の結果、死因は「右
オトガイ下動脈断裂による
口腔底軟部組織腫脹を原因とする窒息」と
診断された。
インプラント体が
オトガイ下動脈を破り、出血させ、
気道閉塞を起こしたということだ。
民事訴訟では和解が成立し、Aさん遺族には5,935万円が支払われた。刑事裁判では2013年3月4日に判決が出され、禁錮1年6カ月執行猶予3年の有罪判決となっている。