診療の途中で受付の電話が鳴る。受付に人はいない。衛生士は患者の口の中に手を入れている。結局、手を止められる誰かが出る。それが院長のこともあれば、その日いちばん経験の浅いスタッフのこともある。
1Dの対談動画「歯科医師の仕事を劇的に減らすためのDX3選」は、予約・顧客管理、受付と電話対応、教育という三つの領域を順に扱います。ただ、製品を三つ並べた回ではありません。出演者が冒頭で「ただ単にデジタル化するんじゃないぞ」という話だと前置きし、世の中の変化と歯科の現場との「乖離を埋めるべく」三つを用意したと言うとおり、通っているのは道具の話ではなく、誰の時間が何に使われているかという話です。ここでは、その視点から三つを読み解きます。
「手が空いている人」が、毎回同じ人になっていないか
対談がいちばん具体的になるのは、電話の場面です。出演者は、自分がアルバイトをしている歯科医院では人が少なく、電話が鳴れば自分も出ると言います。誰も出られない状況になれば、衛生士が出ることもある。そして「クソ無駄なわけですよ、あんなの」と言い切ります。
無駄だと言われているのは、電話応対という仕事そのものではありません。処置の途中にいる人間が手を止めて受話器を取る、という割り当てのほうです。電話番という役割が誰にも振られていないと、その仕事は「そのとき手が空いていた人」に落ちます。そして医院の中で手が空きやすい人は、たいてい毎回同じ人です。
これは出演者自身の勤務先での経験談であり、医院一般の実態を測った調査ではありません。ただ、自院に当てはめて確かめることはできます。今週、診療を中断して電話に出たのは誰で、何回だったか。その回数を数えている医院は、あまり多くないはずです。
出演者は同じ場面で、この状態は「患者さんとしても良くないし」とも言い添えます。ここは見落とされやすい指摘です。
人手の話は、たいてい院内の負担として語られます。スタッフが疲れる、院長の時間が削られる。けれど電話が鳴っている瞬間、待たされている人は二人います。処置を中断された目の前の患者と、呼び出し音の向こうで待っている患者です。手の空いた人が出るという運用は、この二人のどちらを待たせるかを、その場の成り行きで決めているのと同じことになります。
対談が示す方向は、電話対応をAIに置き換えて「無人化」することでした。出演者はこれを「DXにもっと近づく」踏み込みだと位置づけています。ここからは編集部の整理ですが、置き換えを検討するかどうかにかかわらず、誰がいつ出るのかを決めること自体は、道具を入れなくても動かせる部分です。
「漏れが怖い」で人に戻す前に、確かめられることがある
自動で電話を受ける仕組みに対して出てくる反応も、対談は先回りして取り上げています。「アポ漏れ怖いから、もう人がやった方がいいです」。これに対する出演者の答えは、「やってみてください」でした。
説明されている仕組みは、電話が来たら通知が届き、用件を尋ねる、という範囲にとどまります。留意しておきたいのは、対談が示しているのはここまでだという点です。導入した医院で予約の取りこぼしが何件減ったといった数字は出てきません。効果が測られて示されたのではなく、試す価値があると言われている段階の話です。
そう読むと、判断の仕方も変わります。入れるか入れないかではなく、どこまでなら任せて確かめられるかを決める。時間外だけ、特定の用件だけを任せ、取りこぼしが起きたかどうかを人が見る。対談の「やってみてください」は、その意味でなら自院の手順に置き換えられます。
三つのうちどこから手を付けるかについて、対談は明確です。予約と顧客の管理は「DXの一丁目一番地」であり、画面のテロップも「顧客・予約管理のDX化は最優先でやるべき」と示します。理由として挙がるのは、変えた効果を実感しやすい領域だという点です。
同時に、出演者は移行の難しさも認めています。今のやり方に慣れているほど、従来のままのほうが楽だと感じてしまう。だから移行は「もう『エイヤ』でやるってことしか」ない、という言い方になります。踏ん切りの問題として語られているわけです。
そのうえで対談には、導入が終わったかどうかを測る一文が置かれています。「紙からデジタルに置き換えただけではDXって呼ばない」「デジタルによってオペレーションが変わらないと」。つまり、システムが入った日ではなく、これまで人がやっていた手順のどれかが実際になくなった日が、区切りになるということです。入れたのに忙しさが変わらないと感じるなら、確かめるのはこの一点になります。
三つ目は教育です。ここで対談の視点は、院長個人からスタッフ側へ移ります。画面には「セミナーに行かなくても勉強できる時代になった」とあり、出演者は院長側の目線では自分が学ぶことよりも、スタッフに何をどう学ばせるかの話になると整理します。衛生士がどう立ち回るとよいのか、歯科の知識がまったくない人が最初に見るべき基本的な内容は何か、といった具合です。
そのうえで「『何を学ぶか』が大事なわけですよ」と続きます。見られる本数が増えること自体は、ここでは価値として扱われていません。何を選んで渡すかが院長の仕事として残る、という整理です。
期待される結果として、対談はリコールが戻るようになる、勤務医や衛生士が自費の治療を担えるようになる、といった例を挙げます。これらは見通しとして語られたもので、学習を提供すれば得られると保証されたものではありません。ただ、教育を「受けさせたかどうか」ではなく「誰が何をできるようになったか」で見るという測り方は、そのまま自院に持ち込めます。
予約管理、電話対応、教育。扱う場面は違いますが、対談が三つに共通して当てているのは、決まった担当のないまま誰かが引き受けている仕事です。電話は手の空いた人が取り、予約台帳は書ける人が書き、勉強は本人のやる気に任されている。何を買うかを考える前に、自院で担当の決まっていない仕事を書き出してみる。減らせるかどうかの判断は、そこからのほうが具体的になります。
本記事は1D公式YouTubeの対談を要約・再構成したものです。見出しは逐語引用ではありません。「」内は動画の画面字幕の表記に沿っています。電話やAIの運用に関する具体的な進め方は、動画の論点をもとに編集部が整理しました。