開業資金の話は、たいてい金額から始まります。4,000万か、5,000万か、1億か。数字を並べて、自己資金がいくら足りないかを数える。
1Dの開業資金をめぐる対談は、その順番を一度止めます。動画の途中には「開業費用がかかる理由について」というテロップが入り、金額そのものより、その金額が決まる仕組みのほうに時間が割かれます。そこで出てくる結論のひとつが、都市型の医院は高くなる宿命にある、という見立てです。しかも理由として挙げられるのは地価ではなく、競争が激しいこと、そのものです。
競争が激しいほど安くなる。それが起きない市場がある
対談は、まずビジネス一般の話から入ります。競争相手が多い市場は難しい。ただし普通の商売なら、そういう場合には価格競争が起こり、競争が激しいから値段が安くなるという市場原理が働く、と出演者は説明します。
ところが歯科では、そこが違う。診療報酬は公定価格として存在するので、値段を下げるという手が最初から使えないからです。患者の窓口負担の割合も一定で、報酬の歯科点数表のテーブルがある以上、どこで開業しても同じ値段で売ることになります。
値下げが競争手段にならない市場で、競争だけが激しくなる。すると競争は、価格以外の場所へ移ります。これが以降の話の背骨です。
出演者が挙げる移り先は、設備投資です。どう差別化するかとなったとき、設備投資に競争の優位性を見出す、あるいは自費診療に向かう。銀座の一等地で開業すれば近くに何軒も歯科医院があり、うちの治療は高度でいい治療なのだと示すために、そのための高い機材を買うことになる、という順序で語られます。
具体例として口に出るのは、CTを入れれば1,000万ほどはするという話や、Class B
滅菌といった設備です。内装も、都市型ならこだわったほうが患者が来る感じがするし、綺麗なほうがいいのだから必然的に高くなる、と続きます。広告も同じで、患者の獲得コストは競争相手がいればいるほど高くなる、という説明です。
だから逆のことが起こる――値段が下がる代わりに、かかる費用のほうが上がっていく。これが「都市型の方が高くなる宿命にある」という言葉の中身です。
ここは出演者自身が、公共料金などの理屈に対する仮説が歯科医療産業にも当てはまるだろう、という言い方をしています。検証された数値ではなく構造の見立てであり、CTの金額も出演者が挙げた例であって相場の提示ではありません。
では都市と地方で、何がそこまで違うのか。対談の答えは、少し意外なところに着地します。建材費や、建物を建てるという意味では、実は都市部も地方も変わらないかもしれない、というのです。
差を生むのは、そこから先。アドオン、つまり付け足しがどれだけあるかによって変わっていく、という整理です。付け足しが少ない地方型の開業なら4,000万から5,000万で十分に良い感じにできるのではないか、と語られます。一方で都市型なら1億円も余裕でかかってくる。5,000万から1億という幅が、目処として示されます。
前提に置かれているのは、ユニット5台程度で始める場合という条件です。同じ5台でも都市型と地方型ではだいぶ違うから分けて考えたい、と出演者は言います。裏を返せば、一般的な相場だけを調べても自院の金額は出てきません。ユニットを何台置くか、そのうえで何をどこまで付け足すか。その二つが決まって初めて、数字は動きはじめます。
この二つを重ねたところに、対談で最も切れ味のある指摘が出てきます。点数表があるので売る値段はどこでも同じ。けれども土地は、港区と地方では比べものにならない。出演者は自身の地元である千葉県を引き合いに出し、タダ同然で売られているところもある、と話します。
これはある種、逆の非対称性だ、と出演者はまとめます。普通なら、高く売れる場所ほど費用も高い。歯科では売値が動かないまま、費用だけが場所で上下する。
ここから先は編集部の整理です。都市で開業するという判断は、売値が同じまま費用の高い側を選ぶ判断でもあります。その差を何で埋めるのかは、物件を決める前に言葉にしておきたいところです。患者数なのか、自費の比率なのか、診療の回転なのか。動画は回収方法までは踏み込んでいませんが、問いの形はここではっきりします。
なお対談では、地方のほうがこれから有利になるという見通しも語られます。ただし根拠として挙がる制度の話は出演者自身が伝聞だと認めているため、本記事では扱いません。
資金の集め方について、対談の立場ははっきりしています。基本は借りるのが一番ベターだろう、というものです。日本政策金融公庫からの融資もあるし、民間の銀行やローカルの銀行も貸してくれる。歯科医院という業態の安定性からお金は借りられるよね、という感覚は実際そのとおりだと出演者も認めます。補助金や助成金も、ある種お金を借りるのと一緒で、分割で払っていく形なのだから、うまく使えばいい、と続きます。医院を譲り受ける、いわゆるM&Aも選択肢のうちだ、という話も出ます。
問題はその次です。融資を受けられることと、返せることは別だ、という指摘がここで入ります。都内で1億円を借りて開業しましたとなったときに、本当に返せるのかというところが少し心配だ、と出演者は言います。
開業直後は、判断が鈍りやすい局面でもあります。最初は銀行口座にたくさんお金があるので大丈夫に見える。けれども初月、2か月目、3か月目と残高は減り、赤字になる可能性もある。そこから患者を集め、関係性をつくり、長期的に管理していければ経営は安定する、というのが対談で示される道筋です。
これは、うまくいけばこうなるという筋道であって、そうなることの保証ではありません。むしろ読み取るべきは、借入額を決める時点では、返済が始まったあとの数か月分がまだ存在していない、ということのほうです。
自己資金をいくら貯められるかは、開業資金の問いの一部でしかありません。値下げできない市場で、どこまで付け足すのか。その付け足しを、いくらで借りて、何年で返すのか。金額を調べる前に決まっているべきなのは、この順番のほうです。
本記事は1D公式YouTubeの対談を要約・再構成したものです。見出しは逐語引用ではありません。金額や設備の例は出演者の発言に基づくもので、相場や制度の提示ではありません。具体的な準備方法は、動画の論点をもとに編集部が整理しました。