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【ミニセミナーを覗く】「ソケットリフトなら粘膜はドーム状に持ち上がる」と思っていませんか?――講師が描いたのは、教科書の図とは違う「湯呑み型」だった

【ミニセミナーを覗く】「ソケットリフトなら粘膜はドーム状に持ち上がる」と思っていませんか?――講師が描いたのは、教科書の図とは違う「湯呑み型」だった

歯槽頂からオステオトームで上顎洞底を押し上げると、粘膜はドームのように広く持ち上がる。教科書や雑誌によく描かれるこの図について、1Dの「25分間」ミニセミナー「サイナスリフト 症例選択と基本テクニックを超解説」の講師は「こんなふうには上がらない」と言い切る。実際には湯呑みのように細く持ち上がり、粘膜は常に張りつめている。だから移植材を詰めすぎない、上げすぎない。本稿では、この「湯呑み型」の話を軸に、窓を開ける位置や移植材の扱いについて講師が語った内容を、編集部の解釈と分けて整理する。2つの術式と、使い分けの線講師はまず、サイナスリフト(上顎洞底挙上術)を、上顎洞底の粘膜を剥離・挙上し、できたスペースに移植材を入れて、骨量の足りない上顎臼歯部にインプラントを埋入できるようにする処置と定義する。歯槽頂から入る方法はソケットリフトやオステオトームテクニックとも呼ばれ、もう一方は上顎洞の前壁に窓を開けるラテラル法(側方開窓法)だ。編集部が確認したところ、側壁を開窓して移植する方法の報告として1980年のBoyneとJames(J Oral Surg 38巻)、歯槽頂からオステオトームで挙上する方法として1994年のSummers(Compendium 15巻)が文献データベースに収載されている。使い分けについて、スライドは歯槽頂テクニックを既存骨高径5mm以上、側方開窓テクニックを4mm以下に適用するとしている。この線引きは、同じ講師のセミナーを紹介した1Dの過去記事「サイナスリフトの基礎知識と起こり得る偶発症」でも取り上げている。根拠の1つとして、編集部はオステオトームに骨移植材を併用する方法の多施設後ろ向き研究(Rosenら、Int J Oral Maxillofac Implants 1999年14巻)の要旨を確認した。101人174本で、治療前の骨の高さが5mm以上なら残存率は96%以上、4mm以下では85.7%だった。短期の後ろ向き研究で、器具や移植材は施設ごとに異なる点には注意したい。窓を開ける位置は、骨の厚さと隔壁で決める講義の前半を占めるのは上顎洞の解剖で、そこから講師が引き出すのは「どこに窓を開けるか」という実践的な判断だ。スライドには、側壁の骨の厚さは1〜2mmで、もっとも厚いのは第一大臼歯から第二大臼歯の上あたりと示される。講師によれば、骨が薄ければすぐに上顎洞粘膜が透けて見えて開窓しやすいが、厚いところでは粘膜が確認しにくく、そのまま削り進めて穿孔させてしまうことがある。後方には動脈が走る領域もあるため、できれば前方寄りで開窓する方が安全でやりやすい、というのが講師の勧めだ。もう1つの判断材料が隔壁である。スライドには、隔壁は主に第二小臼歯から第一大臼歯の間に見られることが多いと書かれている。講師は、隔壁があると窓を2つ開けなければならないこともあり、粘膜を剥がすときには隔壁の頂上で破れやすいと注意する。CTで隔壁の位置と高さを確かめてから開窓の位置を決める、という順序が大切だという。講師はあわせて、上顎洞底は鼻腔底より下がっていることが多く、パノラマ上で別の骨の影を洞底と取り違えると、骨があるつもりで埋入して洞内に突き出してしまう、と診断の落とし穴にも触れる。教科書の図のようには上がらない、「湯呑み型」の粘膜上顎洞粘膜(シュナイダー膜)は、スライドにあるとおり上皮・粘膜固有層・骨膜からなる。講師は、骨膜に骨を作る細胞があるからこそ、挙上してできたスペースに骨ができてくると説明する一方、鼻の粘膜と同様の構造でありながら弱く薄く破れやすい、とも言う。そのうえで講師が警告として語るのが、ソケットリフトでの粘膜の上がり方だ。オステオトームで押し上げた粘膜は、教科書の図のように幅広いドーム状には上がらず、湯呑み茶碗のような形で細く持ち上がる。講師はスライド上にその形を手書きで描いて示す。こう上がると粘膜は常に緊張しているので、移植材を入れては押し込むことを繰り返すうちに、だんだん薄くなって破れてしまうことがある。そこにインプラントを埋入すれば、さらに破ける可能性も出てくる。講師の結論は「詰めすぎない、上げすぎない」だ。どこまで上がるかについて、講師は既存骨の高さと同じくらいしか上がらないと言われている、と紹介するが、これは講師が挙げる目安であり、編集部は原典を確認していない。編集部の解釈を添えると、ドーム状の図を前提にすると「まだ入る」と感じて移植材を足したくなる。湯呑み型を前提にすれば、押し上げるほど余裕がなくなっていく、という逆の感覚で手を止められる。術者の頭の中にある図そのものを置き換える話として読める。生着しない最大の原因は、既存骨に残った移植材講師がインプラントが生着しない最大の原因として挙げるのも、ソケットリフトの手順に関わる。本来インテグレーションさせたいのは、元からある自分の骨の部分だ。そこに移植材のかけらが付いたまま埋入すると、時間が経ってもくっついていないことがある。だから、既存骨だった部分に移植材が付いていないことを確かめてから埋入する、と講師は言う。移植材そのものについて、スライドは自家骨・他家骨・人工骨を単独または混合で使え、移植材料の違いによる成績は不明としている。講師自身は、腸骨の採取は患者の負担が大きく、顔面の骨とは骨のでき方も違うとして勧めず、患者の負担を考えれば人工骨を使うのが一番よいのではないか、という考えを示す。これは講師の見解として受け取ってほしい。本稿で扱わないこと講師は上顎洞の容積や移植量、隔壁の出現率、粘膜の厚さ、線毛運動の速さ、トラップドアの扱いと粘膜穿孔の関係を示す論文、手術の成功率などにも触れるが、スライドで確認できない数値や、原典を確認できていない報告は扱わない。抜歯後に上顎洞が拡大していくことから、抜歯が必要なら骨が吸収する前にインプラントを検討したいという講師の考えや、上顎洞と歯根の位置関係の分類、合併症への対処は、セミナーの続きで扱われる。手術の適応や術式の選択は、個々の症例の検査結果と最新の文献にもとづいて判断してほしい。元動画を見る【サイナスリフト】症例選択と基本テクニックを超解説(2023年12月15日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
11分前
【ミニセミナーを覗く】「回転が速いほどよく削れる」と思っていませんか?――40万回転のタービンと20万回転の5倍速、講師が分けたのは速さではなくトルクだった

【ミニセミナーを覗く】「回転が速いほどよく削れる」と思っていませんか?――40万回転のタービンと20万回転の5倍速、講師が分けたのは速さではなくトルクだった

エアタービンはおよそ毎分40万回転、5倍速コントラは毎分4万回転のモーターを5倍に増速して20万回転。1Dの「25分間」ミニセミナー「5倍速コントラ 何が良いの?形成のポイントは?」で講師が示すスライドの数字だけを並べると、速いのはタービンの方だ。それでも講師は、精密な形成で5倍速の出番が増えている理由を、回転数ではなく「トルク」で説明する。本稿では、講師が語った内容と、編集部の解釈とを分けて整理する。講師が最初に確かめる、「タービン」と「5倍速」の構造の違い講師は東京都練馬区で開業する歯科医師で、医院では保険診療も行っているが、自身はセラミック修復が診療の中心だと自己紹介する。卒業後はしばらく大学病院に残っていたといい、当時から5倍速コントラはあったものの、今のように誰もが使う環境ではなかったと振り返る。自身も最初はエアタービンと等速のコントラで毎日の治療をしていたという。今でもタービンを使わないわけではない、と講師ははっきり言う。そのうえで講師が聴き手に投げるのが、タービンと5倍速の構造の違いを明確に答えられるか、という問いだ。タービンという言葉はもともと水車のように、流体のエネルギーを羽根車の回転に変えるものを指す。歯科のエアタービンは、ユニットの先のコンプレッサーで作った圧縮空気がホースを通ってヘッドに届き、カップ状の羽根車に当たってバーを回す。講師はこの回転を「およそ40万回転」とし、30万〜50万回転と言われる中で40万回転前後が多い、と説明する。一方の5倍速コントラは、風で回るのではない。ユニット側のモーターが回り、その回転がシャフトとギアを通じてヘッドに伝わり、バーを直接回す。講師は、ハンドピースを差し込むときにうまくはまらず、少し回すとパチンと収まることがあるのは、モーター側とハンドピース側の羽根の位置が合っていないからだ、と身近な場面に引き寄せて説明する。メーカーの中には、ハンドピースよりモーターの方が重要だと言うところもあるほどだという。「5倍」はギアの比で生まれ、ヘッドの大きさとも引き換えになるなぜ5倍になるのか。講師の答えはギア比である。同じ大きさの歯車どうしなら、片方が1回転すればもう片方も1回転する。大きさ、つまり歯の数が違えば、大きい歯車が1回転する間に小さい歯車は何回も回る。これが増速だ。5倍速コントラでは、根元の大きな歯車の回転を先の小さな歯車に渡すことで、毎分4万回転のモーターの回転を5倍にし、20万回転を生んでいる。スライドにも「40,000 r/min × 5 → 200,000 r/min」と示される。ただ、ギアとシャフトという「物」を中に入れる以上、5倍速コントラのヘッドはどうしても大きくなる、と講師は言う。タービンは中を空気と水が通るだけで、重要なのはヘッドの羽根車なので、それ以外を小さく作れる。講師は、最後臼歯の遠心や親知らずの分割のように奥で使うことを想定して首を曲げた型も紹介しつつ、中に収める部品の大きさに制限されるため、こうした型では5倍に届かない増速比になっているものもある、と付け加える。速く回るタービンと、止まらない5倍速講師がこの回でいちばん強調するのが、トルクの違いである。トルクとは、ある軸のまわりに回転させようとする力のモーメントのことだ。スライドにはエアタービンと1:5コントラを並べて「TORQUE」と大きく書かれている。講師の例えは扇風機や風車だ。風で回っている羽根は、指でピタッと止められてしまう。風で回るタービンも同じ理屈で、負荷がかかると回転が落ちる。これに対して、モーターの回転がギアでそのまま伝わる5倍速は、ぐっと押し当てたぐらいで止まることはない。講師は、回転数はタービンの方が非常に速いが、力をかけてずんずん進んでいくのは5倍速の方だ、とまとめる。そこから講師は、使い分けの考え方を示す。大きく素早く削って切削効率を上げたいならタービン。一方、粘るような金属の除去などは、タービンでやると途中でパチパチとはぜたり、バーが噛んで止まったりしやすい。5倍速ならトルクがそのまま伝わり、止まることなく削れる。講師は特定の器具を一律に勧めているわけではなく、目的に応じて選び分けるという話として語っている。編集部の解釈を添えると、「回転数が高い=よく削れる」という見方は、負荷がかかったときに回転を保てるかという視点が抜けやすい。カタログの最高回転数だけで器具を比べる前に、何を、どれだけの力で削る場面なのかを先に考える、という順序の話として読める。精密な形成を崩すのは「発熱」と「軸ブレ」後半で講師は、切削器具の問題点として「発熱」と「軸ブレ」の2つを挙げる。スライドもこの2語だけを大きく示す。精密な切削では慎重にやらなければならないことが多く、削れば歯は少なからず熱を持つ。そして器具の軸がぶれることが、非常に大きな問題につながるという。講師が例に出すのは、上顎第一大臼歯の修復を依頼された症例だ。広い範囲にコンポジットレジンが詰められ、何度も欠けたり物が挟まったりするので何とかしてほしい、という相談だった。以前ならクラウンの形成をしていたと思う、と講師は言う。しかし材料や技工・接着の精度が上がった今は、歯質をできるだけ残す方針を取り、頬側の咬頭は落としつつ、隣の歯との距離が非常に近い部分も削りすぎないようにして、ジルコニアによる部分被覆の修復を選んだ。患者が金属を入れたくないと希望していたことも理由に挙がる。ここで講師が「ポイントは動画ではなくマージンライン」と念を押すのが印象的だ。余分なところを削らない形成は、全周を削るクラウンの形よりマージンラインが複雑になる。形成の線が波打つのは構わないが、その線自体ががたついていたり、チッピングしていたりすると、修復物がぴったり合うマージンはできず、すべてが台無しになる。だから器具や道具、テクニックが問われる。物自体がぶれたら意味がない、と講師は言う。発熱と軸ブレにどう対処するかの具体的な話は、セミナーの続きで扱われる。講師の立場と、本稿で扱わないこと講師は冒頭で、海外メーカーの5倍速コントラについて、時々PRなどに出ていると自ら断っている。セミナーの中でもメーカー名や製品の画像が登場するが、本稿では製品名・メーカー名は扱わず、構造と使い分けの考え方に絞った。また、セミナーで示される回転数や増速比は、講師がスライドで示した代表的な値である。実際の仕様は製品ごとに異なるため、使用する器具の数値は各製品の添付文書で確認してほしい。講義冒頭で示される小臼歯の症例は、使われた材料の説明が製品名とあわせて語られるため、本稿では取り上げていない。元動画を見る【5倍速コントラ】何が良いの?形成のポイントは?(2023年12月15日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
1日前
【ミニセミナーを覗く】「患者は健康になりたいはず」と思っていませんか?――難しいTBIで講師が外した前提は、「望む」と「努力する」の違いだった

【ミニセミナーを覗く】「患者は健康になりたいはず」と思っていませんか?――難しいTBIで講師が外した前提は、「望む」と「努力する」の違いだった

何度伝えても歯を磨かない患者に、TBI(歯みがき指導)をどう続けるか。1Dの「25分間」ミニセミナー「ムズかしいTBIの攻略法とは?」で講師が最初に崩すのは、指導のテクニックではなく、指導する側の前提である。患者は誰でも健康でいたいと思っている。そこまではその通りだが、健康のための努力を惜しまないかと言えば、そうでもない。この2つを同じものとして扱うと、難しい患者ほど指導がこじれる、という見立てだ。本稿では、講師が語った内容と、編集部が補った確認・解釈とを分けて書く。「ハードモードなTBI」とはどんな場面か講師は、臨床に週3〜4日立ちながら、医院のシステムづくりやスタッフ教育の手伝い、講演の仕事もしていると自己紹介する。歯科衛生士向けの雑誌での10年間の連載を、2冊の本にまとめているという。この回のお題が「ハードモードなTBI」だ。講師が挙げる場面は具体的である。重度の歯周病なのに何度言っても磨かない患者。10歳で、来るたびに厚いプラークが付いている子ども。「難しくてね」とごまかす人、聞いているふりをする人、腕を組んで早く終わらないかという空気を出す人、歯みがきの話はいいから治療しろと怒り出す人、威圧的で攻撃的な人。1日に1人でもこういう患者に当たると、1週間ぐらい引きずることもある、と講師は言う。講師自身がいちばん苦手だというのは、何を言われているのかわからない場面だ。痛いはずのないミラーで「痛い」と言われる。前回はローリング法で磨けと言われた、と言われるが、そんな指導をするわけがない。院長の前でそれを言われるのが最悪だ、と笑いを交えて話す。毎回説明している歯ブラシの使い方に、初めて聞いたような反応が返ってくる。答えの出ない謎は、聞き流して次の患者へこうした謎に出会ったとき、講師は理由を真剣に考えるのをやめ、聞かなかったことにしてスルーすると言う。長い経験の中で、それが正解だと思っている、という。理由は2つ挙がる。考えても答えは出ないこと。そして、答えらしきものを導いたところで、それを説明すれば患者が納得するわけではないことだ。たとえば、ミラーの冷たさを痛みと感じたのかもしれないと推測できても、冷たさについて説明を始めたところで、患者が「なるほど」となるわけではない。講師は、新幹線の車内販売で、注文と違うお菓子を渡されて同行者3人で首をひねった、という旅先の話も添える。問いただすこともできるが、苦笑いして次に行く。ハードモードのときに大事なのは次に行くことで、聞き流す・スルーする・忘れるというのは、ハードモードのTBIの中で一番大事なことかもしれない、と講師はまとめる。健康でいたい人が、努力を惜しまないとは限らないそのうえで講師が確認するのが、冒頭の前提である。患者はみんな健康でいたいと思っている。これはイエスだ。だが、健康のための努力を惜しまないかと言えば、そうでもない。人はみな健康になりたいはずで、そのための努力をするべきだ、と考えてしまう歯科関係者は多い、と講師は言う。患者の側の例も挙がる。80歳だから歯みがきもお金のかかる治療もいらない、という人。たばこは死んでもやめない、という人。薬をたくさん飲んでまで長生きしたくない、という人。歯科の側が、年を取った今だからこそ頑張りましょうと熱く語ること自体は悪くないが、そこに患者のニーズがない、という指摘だ。講師は聴き手にも問いを向ける。患者には定期的なメンテナンスが大事だと言っているが、あなた自身は人間ドックに行っているか、自分の口のメンテナンスをきちんとしているか。思っていることと、言っていることと、やっていることは同じとは限らない。磨かない患者も、その意味では私たちと同じだ、というのが講師の論理である。「中の下でいい」患者には、深追いせずに気持ちよく帰すでは、健康は「中の下」でいいと考えている患者にはどうするか。講師の答えは、深追いしないことだ。「今日もお掃除しておきましょうね」と言って、気持ちよく帰ってもらう。数か月に1回の清掃で健康が保てるわけではないことは承知のうえだ、と講師は言う。それでも、行くたびにうるさく言われるのが嫌になり、メンテナンスに来なくなるほうが患者にとって良くない。通っていれば早期に見つけられるものもあるかもしれない。孫に口が臭いと言われたのをきっかけに、歯周病と言われたことを思い出し、ちゃんと磨こうと思う日が来るかもしれない。講師は、難しい患者ほどこちらの価値観を押し付けるとうまくいかないと言い、それぞれの患者が望む健康をサポートする、という言い方をする。1本も歯を失いたくない人もいれば、あと10年自分の歯で噛めればいいという人も、たばこはやめないという人もいる。その望みの範囲で、少しでも助言をしていく。編集部の解釈を添えると、これは「指導をあきらめる」話ではなく、通院が続くことを優先順位の上に置く判断と読める。どこまで踏み込むかは患者ごとの判断で、講師の経験に基づく考え方である。子どもの歯みがきは、何のためにするのか後半で講師が取り上げるのは、母親から受けることの多い質問だ。子どもが歯みがきをさせてくれない。逃げ回る子を押さえつけ、ギャン泣きの中で磨く。夜になるとお互いに嫌な時間になる。講師はここで、そもそも子どもに歯みがきをする必要がどこにあるのか、から見直そうと言い、WHOとFAOの報告書「食事・栄養・慢性疾患予防」(2003年)を示す。スライドには「口腔衛生とう蝕予防との明確な相関関係を示す強力な根拠はない」とあり、講師は、う蝕のリスクを高めるのは砂糖の量と頻度、下げるのはフッ化物の使用だと書かれている、と説明する。講師は1986年のWHOの見解にも触れているが、編集部では原典を確認できていないため、本稿では扱わない。この報告書(WHO Technical Report Series 916)について、編集部が巻末の根拠一覧で確かめた範囲では、う蝕のリスクを高める要因として遊離糖の「頻度と量」、下げる要因としてフッ化物が挙げられており、どちらも根拠の強さは最上位の「確実」に分類されている。一方、「良好な口腔衛生・プラークがないこと」は、歯周病のリスクを下げる要因として挙げられている。歯みがきが不要だという意味ではなく、う蝕に対して何が効くのかを分けて考える材料として読むのが妥当だろう。この先、子どもへの具体的な対応にどうつながるのかは、セミナーの続きで語られる。元動画を見る【歯科衛生士必見】ムズかしいTBIの攻略法とは?(2024年9月26日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年10月17日
「歯科助手はすぐ辞めるもの」で、また求人を出していませんか?――対談が先に整えたのは、入職1日目と、点数の付かない仕事の先

「歯科助手はすぐ辞めるもの」で、また求人を出していませんか?――対談が先に整えたのは、入職1日目と、点数の付かない仕事の先

歯科助手が定着しない、という悩みは珍しくない。1Dの対談動画「歯科助手の離職率を劇的に下げる新人教育の秘訣」は、聞き手の歯科医師の「歯科助手って、めっちゃ辞めない?」という一言から始まる。対談が離職の理由として挙げるのは、本人のやる気の問題だけではない。入ってすぐの教え方と、続けた先の見通しという、医院の側で用意できる2つの仕組みである。本稿では、出演者が語った内容と編集部の整理とを分けて書く。題名の「劇的に下げる」は動画の表現で、ここに挙げる方法で離職が減るという保証ではない。辞める理由は、入ってすぐと、続けた先にある聞き手は、自分が勤める医院の職場環境は良いと思っているが、それでも在籍中に歯科助手が何人も入れ替わったと話す。離職率が高いのは肌で感じている、という。組織の運営に携わっているもう一人の出演者が挙げるのは、入職前のイメージと実際の仕事のずれだ。白衣を着た華やかなイメージで入ってくるが、実際の仕事はそれとは違い、レセプト請求のような事務も含まれる、と言う。加えて、歯科助手の多くは特に強い志があって業界に入ってくるわけではなく、そういう人のマネジメントは難しい、とも話す。聞き手はトピックを2つに分ける。1つ目は、なんとなく入った人がすぐに辞めてしまうこと。未経験で業界がわからないのに、医院は忙しくて現場で教える余裕もない。2つ目は、続けても将来が見えにくいことである。2つ目から読む:歯科助手には「点数」が付かない順番を入れ替えて、先に2つ目を見ておく。この回で、医院経営の側から見て最も具体的なのがこの部分だからだ。聞き手は、一般の会社なら勤め続ければ昇給していくが、歯科助手は難しい、と問いかける。もう一人の出演者の答えは、構造の話だった。ベースアップはあってもそれほど大きな金額にはならない。歯科助手には算定がなく、アシストについても点数が付くわけではない。だから院長から見ると、歯科助手は院長の労力を減らしてくれる存在という文脈でしか収入に結びつかず、キャリアアップがしにくい、という説明である。聞き手も、売上を上げていなければ昇給にはつながらない、と言い換える。そのうえで出演者が示す出口が、患者への説明を担う役割だ。自費の治療や矯正、補綴について患者に説明する人がいれば院長にとって重宝されるし、院長はその時間を診療に充てられる、と言う。聞き手は、トリートメントコーディネーター(TC)を例に、歯科助手として入り、一定できるようになったらTCを目指す、という院内の道筋を用意すれば辞めないのではないか、とまとめる。ここには留保も付いている。出演者は、歯科医師や歯科衛生士の知識は使うべきで、その労力は治療や予防処置に充てるべきだとしたうえで、歯科助手には一定の知識を与えることが前提だと言う。聞き手も、「ジルコニアがいいですよ」と勧めることではなく、治療したことやこれから治療することを説明するのが大事だと念を押す。売り込み役を育てるという話ではない、と読むのが妥当だろう。1つ目に戻る:入職1日目で完結させる1つ目の、すぐに辞めてしまう問題について、もう一人の出演者が最初に挙げるのはマニュアルである。院長が消毒のやり方などを口頭で教え、その人が辞めてまた同じ話を繰り返す、というのはよくあることだと言う。一度、動画でも文書でもいいので作ってしまえばいい、という提案だ。ただし、何を載せるかが問題になる。聞き手は、歯科助手向けの分厚い仕事の本を「これ読んどいて」と渡しても読まないだろう、と話す。もう一人の出演者は、歯の本数のような知識は知らなくても大した話ではなく、実務で使うもの、つまり片付けと準備があればいいと言う。聞き手が一番最初に強く教えるのは、ここは汚い、ここはきれい、という区別だ。汚れたものを素手で触るのは本人のリスクになる、と理由を添える。清潔と不潔の扱いは医院ごとに違うので、細部まで共通にはできないが、基本の考え方は教えられる、という。教える形として対談が勧めるのは動画である。必要な知識だけを短く見せれば、教える側はいちいち付きっきりにならずに済み、本人もわからなくなったら何度でも見直せる。聞き手は、入職1日目を研修の時間にして、その1日で完結させましょう、と言う。教材の費用は医院が持つ聞き手がもう一つ強調するのが、教材を誰が負担するかである。参考書を自分で買うように言われることがあるが、働いている側からすれば、その日はマイナスになる。だから教材は医院で用意し、院長が時間を取って見せてほしい、そこは徹底してほしい、と話す。もう一人の出演者は、モチベーションがあれば自分から勉強していき、歯科衛生士学校に進む人も多いと言い、それを補助している医院もあると続ける。聞き手は、そういう流れが生まれるといい、と受け止めている。2つの仕組みを、求人の前に置いてみる編集部として整理すると、この回の2つのトピックは、時間軸の前と後ろにあたる。前は、入職1日目に何を、どの順番で、誰の負担で教えるか。後ろは、点数の付かない仕事を続けた先に、どんな役割と処遇があるか。どちらも、辞めた人の代わりを探す前に、医院の側で用意しておけるものである。1Dでは歯科衛生士の採用を、勤務の終わる時刻と昇給の道筋から考える記事も出している。歯科助手の場合は資格職ではない分、入口の教え方と、院内での役割の作り方がより直接に効いてくる、というのが対談から読み取れる違いだ。いずれも出演者の経験と見立てに基づく話で、自院にそのまま当てはまるとは限らない。元動画を見る歯科助手の離職率を劇的に下げる新人教育の秘訣(2025年5月15日公開)
1D編集部
2026年10月16日
「保険診療だから潰れない」と思っていませんか?――対談が挙げた倒れ方は、売上ではなく院長の手元から始まっていた

「保険診療だから潰れない」と思っていませんか?――対談が挙げた倒れ方は、売上ではなく院長の手元から始まっていた

歯科医院は安定した商売に見える。1Dの対談動画「歯科医院が倒産しないために今すぐやめるべき行動3選」でも、聞き手の歯科医師がまずそう口にする。ところが対談は、潰れる理由を患者の減少や景気には置かない。最後に画面にまとめられる3つは、無駄遣い、院長のスタンス、算定漏れだった。どれも院長が自分で変えられる側の話である。本稿では、出演者が語った内容と編集部の整理とを分けて書く。題名の「今すぐやめるべき」は動画の表現で、これだけで倒産を防げるという保証ではない。「売上の7割を国が払う商売」でも潰れる対談の入口は、歯科医院の数の話だ。聞き手は、新しく開業する医院より閉業する医院のほうが多くなっていると切り出す。歯科医師の動態や算定に詳しい出演者として紹介されるもう一人も、閉業が開業を上回るようになってきたと応じ、資金繰りに行き詰まって閉じる例もあると話す。動画では具体的な件数も挙がるが、本稿では一次資料と突き合わせていないため数字は載せない。そのうえで出演者が強調するのが、保険診療という仕組みの特徴である。売上の7割から全部を国が出してくれるビジネスモデルだ、と言う。楽勝とは言えないが、という前置き付きだ。聞き手はこれを、7割の中に原価が収まっていれば利益は出続けるということですよね、と言い直す。出演者は「処置によりますけどね」と留保する。編集部の言葉に直すと、この回の問いは「なぜ売れないのか」ではない。売上の多くが制度で支えられているのに、なぜ手元にお金が残らないのか、である。だから対談が挙げる原因は、出ていくお金と、取りこぼしているお金の両側に分かれていく。1つ目は無駄遣い、ただし「設備」と「人の置き方」の話1つ目の無駄遣いとして聞き手が挙げるのは、地域に合わない設備投資だ。むし歯がほとんどない人が集まる地域で、マイクロスコープやCTといった「三種の神器」をそろえる例を出す。無駄かどうかは人それぞれだが、と断りながらの指摘である。材料を使いすぎる話も出るが、1Dでは材料費の見直しを別の記事で扱っているので、ここでは触れるだけにしておく。対談がより時間を割くのは人の置き方だ。算定に詳しいもう一人の出演者は、自分が開業したら、と前置きして、アシストについても点数が付くわけではないと指摘する。治療の質を求めるならアシストを付けるのはいいが、経営的な観点だけで見れば、そのぶん別のユニットで予防をしているほうがいい、という見方だ。聞き手は、アシストがあれば歯科医師も楽で患者にも良いと認めたうえで、受付の自動応答や予約、自動精算機など、自動化できる部分は増えていると話を広げる。画面のまとめも「人件費というか、人の配置も考えましょう」「自動化できるところは自動化していこうよ」である。人を減らせという話ではない。誰をどこに置くと医院の収入につながるのかを、院長が一度は数えておく、という整理だと編集部は読んだ。2つ目は院長のスタンス2つ目は、人の問題を誰の問題として見るか、である。聞き手は、もう一人の出演者が先に「スタッフが悪い」と言ったことを受けて、院長側に原因があるケースも少なくないと切り返す。例に出るのは、スタッフが全員辞めてしまった医院の話だ。出演者は、その期間は点数も下がるし、最初からちゃんとしていれば全員が離職することはない、と言う。聞き手が問題にするのは、そうした院長の受け止め方である。自分は悪くないという感覚が残っていて、地震や火事と同じような口ぶりで語る、と出演者が重ねる。画面には「原因自分なのに」「客観視したら絶対おかしいですから」と出る。聞き手は、人がいなくなって困った、で終わらせず、そういうことがあった院長は改善しましょうと話す。ここで言われているのは、全員離職のような極端な例だけではない。人が定着しないとき、まず院長自身のやり方を点検の対象に入れるかどうか、という姿勢の話である。3つ目は算定漏れと、お金の使い道3つ目は収入の取りこぼしだ。算定に詳しい出演者は、立地が良ければ算定漏れだけで潰れることはないだろうと前置きしつつ、だからこそ「少しくらい取りこぼしても大丈夫」と思われているのがまずいと言う。やったことはきちんと算定する。そのためには算定を学ぶ必要があり、点数表は自分の生命線なのに、学ぶ機会がほとんどない、と続ける。聞き手も、研修医のころは本を読んでおけと言われるだけでよくわからなかったと振り返る。出演者がとくに勧めるのは、勤務医に対する算定の教育である。対談では、個別指導の前にカルテを書き換えてきたという話を聞いて驚いたという例も出る。聞き手はそれを改ざんだと切り返す。算定を学ぶことは、取りこぼしを減らすためだけでなく、適正に記録し請求するための前提でもある、と編集部は受け取った。話の最後に聞き手が加えるのが、お金の使い道だ。個人事業主の院長にありがちなこととして、何でも経費にしてしまう例を挙げる。どこまでが経費として認められるかは税務の判断で、本稿では扱わない。出演者が言いたいのはその手前で、医院で得た利益はスタッフの教育や分院展開など、医院に再投資すべきだ、という点である。目先の楽しみに使ってしまえば医院は潰れる、と画面にも出る。3つを、手元のお金で並べ直す動画の最後に画面にまとまるのは、①無駄遣いをしない、②院長のスタンスの改め、③算定漏れが無いように、の3つだ。聞き手は、接待交際費のような出費も含めて無駄遣いをせず、保険の収益の部分をもう一度勉強してほしいと締めくくる。編集部として整理すると、3つは手元のお金の出入りに対応している。出ていくお金では、地域に合わない設備と、収入につながらない人の置き方を見直す。入ってくるお金では、やった診療をきちんと算定する。そして、その差として残ったお金を、医院を強くする方向に使う。院長のスタンスは、この3つを他人のせいにせず自分の課題として扱えるかどうか、という土台にあたる。いずれも、ここで挙げた例が自院にそのまま当てはまる保証はない。それでも、売上が制度で支えられている商売だからこそ、倒れ方は外からではなく院長の手元から始まる、というのがこの回の見立てである。元動画を見る歯科医院が倒産しないために今すぐやめるべき行動3選(2025年6月5日公開)
1D編集部
2026年10月15日
「謝ったら負け」で、クレームに身構えていませんか?――対談が分けたのは、共感を示す謝罪と、責任を認める謝罪だった

「謝ったら負け」で、クレームに身構えていませんか?――対談が分けたのは、共感を示す謝罪と、責任を認める謝罪だった

クレームを受けたとき、歯科医院で口にしやすい言葉は2つある。「申し訳ありません」と、「こちらに落ち度はありません」だ。1Dの対談動画「クレーム患者が常連に変わる魔法の対応とは?」は、この二択のあいだに線を一本引く。謝罪には種類があり、ためらうべきでない謝罪と、慎重に扱うべき謝罪は別物だ、という線である。題名の「常連に変わる」は出演者の経験談から来た表現で、どの患者にも当てはまる結果ではない。本稿では、出演者が語った内容と編集部の整理とを分けて書く。入口は「失敗しない」という言葉への違和感対談は、以前話題になったドラマの「私失敗しないんで」という台詞から始まる。聞き手の歯科医師は、自信は大事だとしたうえで、そう言う医師が実際にいたら困ると話す。医療安全に詳しい出演者として紹介されるもう一人は、そうした台詞は医療安全をわかっていない人が口にするものだと応じる。医療安全に詳しい出演者が強調するのは、ミスをしても事故につなげない仕組みである。歯科は部位を間違えることこそ多くないが、元に戻せない処置が非常に多い、と言う。聞き手も、臨床をしていて自分が失敗しないとは思っていない、と認める。大丈夫だと言い切った後に少しでも何かあれば、大丈夫と言ったのに、と返されるからだ。聞き手はさらに、ミスがなくてもクレームは生じる、と続ける。対応を間違えなければ、苦情を言っていた患者がかえって良い評判を残すこともある、というのがこの回の出発点である。謝罪には2種類ある、と対談は言う本題で医療安全に詳しい出演者が持ち出すのが、コンフリクトマネジメントという考え方だ。そのうえで、「謝ってはいけない」とだけ覚えている人が多いが、と前置きし、謝罪には「共感表明の謝罪」と「責任承認の謝罪」の2つがあると説明する。共感表明の謝罪は、「お騒がせしてごめんなさい」「ご心配をおかけして申し訳ございません」といった言い方で、相手の大変さに寄り添うためのものだ。出演者は、この謝罪はためらうべきではないと言う。一方の責任承認の謝罪は、こちらに責任があると認めることを指す。出演者によれば、責任を認めるとそれが証拠になってしまう。だから「謝ってはいけない」と聞いて一律に口を閉ざすのではなく、どちらの謝罪を使うかで分ける、という整理になる。編集部の言葉に直すと、クレーム対応で問われているのは謝るか謝らないかではなく、何について謝るかである。なお、法的な責任や賠償の扱いは事案ごとに違う。個別の判断は、加入している賠償責任保険の窓口や弁護士に相談することになる。患者の気持ちには段階がある医療安全に詳しい出演者は、ミスを起こされた側の患者の心理は、第1段階から第5段階まで類型化できると説明する。字幕から読み取れる範囲で並べると、次のようになる。第1段階は、健康被害から回復したい。第2段階は、なぜこうなったのか、誠意ある説明がほしい。第3段階で、謝罪をしてほしいという感情が来る。第4段階は、二度とこういうことが起きないようにしてほしい。それでもこじれると、金銭による慰謝や、医療者を懲らしめたいという感情が生まれ、最終的に第5段階に至る、という。出演者は、損害賠償や裁判にまで至ったケースは、第1段階から第4段階までの対応のまずさが原因であることが多いと述べる。だから第3段階のタイミングで共感の謝罪をきちんとする、という流れになる。聞き手は、カッとなっている人を前にしたときに、気持ちが段階的に言語化されていると助かると受け止めている。この類型は出演者の説明として紹介されたもので、本稿では出典や研究の中身までは確かめていない。対談の終盤では、この流れがあらためてまとめ直される。まずミスを事故につなげない。つながったら説明をする。次に謝ってほしいという感情が来たら謝る。自分の過失であれば謝り、過失がない場合や明らかでない場合は、責任を認める謝罪が賠償につながる証拠になりうるので、謝るところは謝る形で使い分ける。そのうえで院内でちゃんと説明する、という順番である。院内の転倒も「事故」に入る謝罪の話は治療の失敗だけに限らない。聞き手が例に挙げるのは、病院の廊下で転んでけがをしたケースだ。床が滑りやすかったからだと言われることがあり、敷地内で起きたことであればケアしなければならない場面がある、と言う。それ自体は治療のミスではない。医療安全に詳しい出演者も、歯科医院の入り口の段差でつまずいたという例を重ねる。聞き手は、「知らんがな」と思うかもしれないが、と前置きしたうえで、人によっては自分が転んだだけだと受け止める人もいれば、そうでない人もいるので、先の5段階を考えて対応すべきだと話す。事故は起こりうるという前提で考えなければいけない、という指摘である。前の医院を悪く言わない、という気のつけ方後半では、聞き手が自身の臨床での経験を2つ話す。1つ目は、別の歯科医院で「この歯はもう無理だと思う」と言われ、それまで通っていたのにほうっておかれたのではないかと怒っていた患者のケースだ。聞き手の見立てでも、その歯はかなり厳しい状態だった。そこで、すぐに対応できない点については「申し訳ないね」と伝え、残すならこういう方法がある、と説明して大学病院の受診につないだ。その後は通院が途絶えて経過は見られていないが、それ以上のトラブルにはならなかったという。聞き手が気をつけたのは、「大変だよね」という共感の謝罪はしながら、前の医院の診断や対応に非があるような話はしないことだった。2つ目は、前の医院で問題行動があったと聞いていた患者が来院したケースだ。対応したのは聞き手ではない別の歯科医師だが、そのやり取りがうまくはまり、今では来るたびに菓子を持ってくるほど関係が築けて、継続して通っているという。題名の「常連に変わる」はこの経験から来ている。ただし聞き手自身、そのときの初期対応がどうだったかはわからないと断っている。そのうえで聞き手は、仮に「前の歯医者が悪かったですね」と言ってしまうと、今の医院で同じようなことが起きたときにまた怒らせてしまうかもしれないと注意を促す。医療安全に詳しい出演者が、ここで返す一言が「共感的態度ですよ」である。聞き手は最後に、コンフリクトマネジメントのように体系化された知識はあっても、それだけでうまくいかない場面もあると言い、知識を入れたうえで注意して対応してほしいと締めくくる。編集部として持ち帰れるのは、次の2点だろう。受付やチェアサイドで「謝ったら負け」と考えて言葉が止まりそうになったら、まず相手の大変さに対する謝罪を口にしてよい。そして、自院の責任や前の医院の非について言い切る言葉は、その場では使わない。元動画を見る【歯科医必見】クレーム患者が常連に変わる魔法の対応とは?(2025年6月12日公開)
1D編集部
2026年10月14日
「長く開ければ予約は埋まる」で、診療時間を決めていませんか?――開業初月の集患で、対談が最後に置いたのは開業前のエリア分析だった

「長く開ければ予約は埋まる」で、診療時間を決めていませんか?――開業初月の集患で、対談が最後に置いたのは開業前のエリア分析だった

「開業初月から予約が埋まる」。1Dの対談動画は、題名だけを見ると広告の打ち方を並べる回に見える。実際に挙がる策は3つで、1つ目がオンライン、2つ目が地域に出ていく活動、3つ目が開業前のエリア分析だ。ただし3つは同じ重さで語られているわけではない。前の2つは開業後も続けて手直しできるのに対し、3つ目は開業してからでは動かせない前提に関わる。そこで対談が繰り返し退けるのが、「長く開けていれば患者は来る」という考え方である。本稿では、出演者が語った内容と、編集部が読み取った整理とを分けて書く。題名の「パンパン」は出演者の表現で、どの医院でも初月が埋まるという保証ではない。最初に置かれるのは、初月の重さ話の入口は歯科ではなく、出演者の会社の近くに開店した飲食店だ。オープン時に「シャンパン1杯無料」をうたっていた。新しく開いた飲食店には人が並ぶことがある。一方で、都心のように家賃が高い激戦区では、気づくとなくなっている店も少なくない。出演者はこれを「歯科医院にも言えることではないか」と持ち出す。もう一人の出演者が応じるのは、新規開業時の内覧会の文化だ。内覧会は「スタートダッシュのためにある」と言い、理由として「家賃も変わらない」ことを挙げる。だから最初から立ち上がった方が経済性はいい、という見立てである。編集部の言葉に直すと、初月の集患は宣伝の出来栄えより、固定費が走り出す時期にどれだけ患者と接点を持てるかの問題として語られている。1つ目と2つ目は、「やる」と「ちゃんとやる」の差1つ目のオンラインについて、対談が挙げるのはGoogleマップ上の医院情報だ。動画では「Googleマイビジネス」と呼ばれている(現在の名称はGoogleビジネスプロフィール)。出演者の一人は、店を探すときはGoogleマップを使うと言い、登録して内容を埋めているかどうかで「全然違う」と述べる。理由は単純で、周りがちゃんとやっていないから、という。画面のまとめも「まずはオンライン登録して内容を埋めることが重要」で、最後の振り返りでは「『やる』だけじゃなくて『ちゃんとやる』」と言い直されている。SNSについては、出演者の評価が分かれる。地域の人に向けた発信ならリコールには結びつくという意見がある一方、バズらせて新患を獲得するという使い方には距離を置き、むしろ採用には効きそうだという声が出る。口コミの扱いや再生数の追い方は1Dの別記事で扱っているので、ここでは「オンラインは開業後も手入れを続ける土台」と受け取っておけば足りる。2つ目の地域密着型の策として挙がるのは、内覧会、地域の新聞や掲示板といったアナログな広告、地方での地元企業のテレビCM、企業などへ出向く歯科検診、訪問先の施設でスタッフ向けに開く講習会、地域でのセミナー活動だ。出演者は、こうした活動で「あの歯医者さん」という認知が得られ、「セミナーやってた先生だ」という信頼にもつながると話す。ここでも成果の数字は示されていない。語られているのは、患者になる前の地域の人と顔を合わせる場面を、開業する側から作れるということだ。3つ目だけは、開業してからでは遅い対談が「めちゃくちゃ重要」と位置づけるのが、最後の開業前の話である。開業する場所はエリアを考えて決めるはずだが、改めてそのエリアにどんな層が多いのかを見て、診療のメニューを考えておく。出演者は、これが開業前にできているかどうかで「初月の初速というのは全然違う」と言い、もう一人の出演者は「開業してからエリア変更ってできないので」と重ねる。具体例として、大きなターミナル駅の周辺なら時間を長めにとって行き来する人を取る、という考え方が示される。出演者の一人は、以前分院長を務めた医院の前院長の判断も紹介する。ベッドタウンで、山手線沿線の駅が近く、そこから少し外れて家賃が安い場所だったため、仕事終わりに来る人が多いと見た。周りの歯科医院が木曜休みばかりだったので木曜を開け、土日も診療する。そうすれば周りに溢れて来られない人たちが来るから、ちゃんと埋まる、という考え方である。これは出演者が見聞きした一医院の経験談で、同じ条件がそろわない場所にそのまま当てはまるものではない。エリアの見方としては、ファミリー層が多い場所、大学が近く学生が多い場所も挙がる。ファミリー層を狙うなら朝から17時で閉めてもいい、ともう一人の出演者は言う。画面のまとめは「どんな診療スタイル、営業時間にしていくか戦略を立てる」だ。「長く開ける」は戦略にならないここで対談がはっきり否定するのが、とにかく長く診療しようという発想だ。出演者の一人は「『長く診療しよう』というのは」と切り出し、「これはもう戦略じゃない」と言う。もう一人も、無駄だと応じる。出演者の一人は、アルバイト先の例を出す。曜日によって診療時間がまちまちで、夜遅くまで開けている日もあるが、その時間帯は特定の患者のためだけに開けているような状態になることがある。全体で見れば、ずっと長く開けていたら多分無駄だが、遅い時間でもいいというスタッフがいるから成り立っている、という説明だ。画面のまとめは「長くやれば良いってもんじゃない」である。時間の決め方は採用にも跳ね返る。経営効率だけで言えばエリアに応じて短くも長くも決めればよく、9時〜17時の医院は歯科衛生士にとってありがたいと感じる人も多いのでは、という意見が出る。もう一人の出演者は「エリアによりますけどね」と留保を付けている。編集部の読みでは、診療時間は集患の数字と人の集めやすさの両方に効く設計であり、患者の多い時間帯を見ずに延ばすと、どちらにも効かない時間が残る。開業前に、院長が書き出せること対談の3つの策を時期で並べ直すと、オンラインと地域の活動は開業後も続けて磨けるが、エリアと、そのエリアに合わせた診療時間・メニューの組み立ては開業前に決める比重が大きい。開業準備のなかで、次の3つは物件の資料と地図があれば紙に書き出せる。ひとつは、そのエリアで多い層は誰か。通勤の途中に寄る人か、子どもを連れた家族か、学生か。ふたつめは、その層が来られる時間帯に、周りの歯科医院が開いているかどうか。みっつめは、その時間に誰が働くのか。長く開ける案は、最後の問いに答えられて初めて現実的になる。いずれも、ここで挙げた例が自院にも当てはまる保証はない。それでも、開業してからでは動かせない前提を先に確かめておけば、初月に何を広告するかを決める材料にはなる。元動画を見る歯科医院の開業初月から予約が埋まる|地域No.1集患戦略(2025年6月19日公開)
1D編集部
2026年10月12日
「技工士が減るのは技工所の話」で済ませていませんか?――対談が最後に指したのは、医院から出ていく紙の指示書だった

「技工士が減るのは技工所の話」で済ませていませんか?――対談が最後に指したのは、医院から出ていく紙の指示書だった

「技工士がいなくなるのは本当か」。1Dの対談動画は、この問いを正面から立てる。司会の石川氏の答えは短い。「本当だと思いますね」(263秒)。ただし、すぐに「先10〜15年は必要なくなることはないんではないかと思うんですよ」(275秒)と続ける。減ることと、要らなくなることは別の話だ、という整理である。この話題は、歯科医院の側では「技工所の人手の問題」として聞き流されやすい。だが対談をたどると、論点は途中から発注する側、つまり歯科医院の仕事のやり方へ移っていく。本記事では、確かめられる数字と出演者の見立てを分けながら、その移り方を追う。減り方と年齢は、統計で確かめられるAI企業を運営する松岡氏は、技工士の数は「もう明らかに減っているんですよね」(91秒)と言い、高齢化が進んでいること、65歳以上が「5人に1人」という状況(123秒)、新規参入が減っていること(127秒)を挙げる。この部分は一次資料で確認できる。厚生労働省の令和6年衛生行政報告例によれば、2024年末の就業歯科技工士は31,733人で、前回(2022年末)から1,209人、率にして3.7%減った。年齢階級別では65歳以上が19.3%で最も多い区分になっている。「5人に1人」という言い方は統計と合う。入口の側も細い。歯科技工士国家試験の合格者は、2025年2月実施の回で684人(受験者733人)、2026年2月実施の回で722人(同792人)だった。一方、対談に出てくる平均年齢、免許保有者数と歯科医師数の比較、養成校の過去の校数といった数字は、今回は照合しきれなかったため本文では使わない。確かなのは、働く人が減り、その年齢層が上に厚いという構造のほうである。「いなくなる」と「仕事がなくなる」は違うでは、技工の仕事そのものはなくなるのか。石川氏の見立ては、需要は「それほど変わらない」(307秒)というものだ。理由として挙げるのは臼歯部の2級修復で、難易度が高く、コンポジットレジンの耐久性を考えると間接修復が望ましいと言われている(291〜299秒)。だから間接修復を担う技工士は必要になる、という順序である。これは出演者の臨床上の見解として受け取っておきたい。同時に、石川氏はAIとデジタルが技工の工程を大きく変えうることも認める。デジタルで印象を採り、院内でミリングまで済ませる1日治療の例(323〜339秒)、咬合面のデザインを3次元モデル上で組み立てられること(347〜355秒)。そのうえで、触った感覚を再現する部分は技工士の手作業に残るだろう、とも述べる(451〜459秒)。置き換わる工程と残る工程を分けて考えよう、という立場だ。減る理由は、技工所の努力不足だけではない松岡氏が強調するのは業界の構造である。仕事の源泉は「患者が歯科医院に来ること」であり(387秒)、技工所は「ある種下請けのような位置関係」(391秒)に置かれる。売上の上限が決まっているため、薄利多売にならざるを得ない(395〜399秒)。技工所は約2万件あり(407秒)、長く働くしかなく、高齢化で新しい機材も入れられない(411〜415秒)。歯科技工所の数は先の統計で20,278か所なので、「約2万」は実数とほぼ一致する。その先の見通しとして、松岡氏は二つの方向を挙げる。職人気質の技工士が付加価値の高い自費の補綴物を熟練の技で作る道と、機材を導入できる大型の技工所に集約される道だ(467〜481秒)。どちらに進むかは予測であり、確定した話ではない。医院の側の実感も語られる。石川氏は勤務先で一人で営む技工所に依頼しているといい(171秒)、新しい設備投資は「なかなか出来ないんですよ」(179秒)というやりとりが続く。CAD/CAM冠が中心になれば、医院としては別の技工所を検討したくなるのが現場の感覚だ、とも話す(187〜199秒)。依頼先が設備を更新できないことが、医院の選択を変えていく。ここに発注側の判断が入り込んでいる。医院から出ていく紙が、技工所の手間になっている対談の終盤、松岡氏は「歯科技工指示書って未だに紙じゃないですか」(527秒)と切り出す。石川氏も「僕は未だに紙ですから」(539秒)と応じ、複写式の用紙に書いて渡していると話す。その用紙は技工所が作って用意し、管理もしなければならない(551〜559秒)。松岡氏はこれを「明らかなDXの余地」(563秒)と呼ぶ。ただし、指示書だけを電子化しても意味がない、とも言う(595秒)。画面には「それらが全部つながったときにDXの価値が生まれる」(599秒)というテロップが出る。石川氏の言い換えでは、予約台帳、カルテ、傷病名、技工指示が連携すれば、形成の記録から「来週7番のインレーセット」「納品」までがつながる(615〜627秒)。だからアポイントまでデジタル化しないと意味がない(631秒)。技工所が減る話は、医院の予約と記録の仕方の話に着地する。院長が先に確かめられることここからは編集部の整理である。対談は、技工所を選べば解決するとも、デジタル化すれば技工士不足が止まるとも言っていない。言っているのは、技工の受け手と出し手が同じ流れの両端にいる、ということだ。そう読むと、医院で先に確かめられることがある。いま依頼している技工所は、誰が担い、何年先まで続けられる体制か。納期や再製作のやりとりに、医院側の紙や電話が何回挟まっているか。指示書に書いている情報は、カルテや予約の記録とどれだけ重複しているか。いずれも、技工所に問い合わせる前に院内で数えられる。技工士の数が減る流れを、一つの医院が変えることはできない。それでも、受け手が減るなかで「出す側の手間」を減らすことは、医院が自分で決められる範囲に残っている。元動画を見る歯科技工士がいなくなる!?【AI×デジタル】で激変する歯科業界(2025年7月3日公開)
1D編集部
2026年10月9日
「歯科医師の年収は上がる」を、自分の年収の話として聞いていませんか?――対談が挙げる3つの理由は、確かさの段階が違う

「歯科医師の年収は上がる」を、自分の年収の話として聞いていませんか?――対談が挙げる3つの理由は、確かさの段階が違う

「歯科医師の年収は今後上がっていきます」。1Dの対談動画は、この言い切りから始まる。出演者は110秒の時点で「上がります!」と答え、そこから理由を3つに整理していく。画面の左上にも「歯科医師の年収が上がる3つの理由」という見出しが出て、以後は「歯科医師・診療所の減少」「患者数・歯科医療費は減らない」「歯科医療の市場拡大」と小見出しが切り替わっていく。ただ、この話を自分の手取りの予想として受け取ると読み違える。3つの理由は、同じ強さの根拠で支えられているわけではない。統計で確認できるもの、割り算の結果として出てくるもの、まだ文書の段階にあるもの――性質の違う3つが並んでいる。本記事では、どこまでが確かめられる話で、どこからが見通しなのかを分けて読む。「上がる」と言われているのは、誰の、どの数字か動画が最初に片づけるのは、「上がる」の主語である。出演者は「インフレだからではないですね」(120秒)と断ったうえで、「令和6年度の診療報酬改定で収載されたんですけど」(125秒)「それは勤務医とか歯科衛生士とか歯科助手さんとかの話ですよね」(135秒)と続ける。賃上げを目的に新設された評価料はあるが、それは院長自身の収入の話ではない、という整理だ。ここは一次資料で確かめられる。令和6年度診療報酬改定で新設された歯科外来・在宅ベースアップ評価料について、厚生労働省保険局医療課の説明資料は、賃上げの対象となるのは「主として歯科医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。)」だと明記している(令和6年度診療報酬改定と賃上げについて)。歯科衛生士・歯科技工士・歯科業務補助者などの賃金を引き上げるための点数であって、開設者である歯科医師は制度上その対象に入らない。制度としてすでに「上がる」仕組みが用意されているのは、スタッフの側である。「歯科医療者の年収は上がっていく」(115秒)という言い方と「自分の年収が上がる」という受け取り方の間には、一段の飛躍がある。動画の3つの理由は、その飛躍を埋めるために置かれた議論だと読むと構造がつかみやすい。一つめ・担い手が減る――確認できる部分と、確認できない部分一つめの理由として画面に出るのは「歯科医師・歯科診療所の減少」(205秒)である。出演者は「『医師・歯科医師・薬剤師統計』という統計があるんですけど」(250秒)と資料名を挙げ、「歯科医師数でいうと2176人とか」(255秒)「だいたい歯科医師の2%ぐらい減ってるんですよ」(260秒)と述べる。この数字は照合できる。厚生労働省の令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計で、歯科医師数は105,267人、前回調査から2,176人・2.0%の減少。平均年齢53.0歳という点も「歯科医師の平均年齢って約53歳とかで」(285秒)という発言と合う(令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況)。さらに、動画公開(2025年8月)より後に出た令和6(2024)年の同統計では、歯科医師数は103,652人、前回比1,615人・1.5%の減少だった(令和6(2024)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況)。減少は続いているが、減り方は前回より緩んでいる。歯科診療所も、動画で語られた「今6万5千件台とかに突入したんですよ」(280秒)という水準をすでに下回り、医療施設動態調査の令和8(2026)年7月末概数で64,975施設である(医療施設動態調査)。「減っている」という向きは、一次資料でも確かめられる。一方、同じ箇所には確認できない話も混ざっている。出演者は「高齢化」と「女性歯科医師の増加」を合わせて「ダブルパンチ」(334秒)と呼び、女性歯科医師は男性と比べて「稼働率がちょっと下がるんですよね」(331秒)と述べる。ここには調査も出典も示されず、性別による働き方の差を前提にした推測になっている。本記事ではこの主張を採らない。統計で確認できるのは頭数の減少までで、「稼働量」がどう動くかは、それ自体が別に検証を要する論点である。二つめ・分母が減っても、分子が減らないなら二つめの小見出しは「患者数・歯科医療費は減らない」(215秒)。人口が減れば患者も減るのだから差し引きゼロではないか――「ニーズ側が減ったらトントンじゃね?」(400秒)という当然の反論に、出演者はこう答える。「人口の減りに対して歯科診療所に訪れる患者数って」「割と一定なんですよね」(410~420秒)。「患者数の絶対数は減るんですけど」(415秒)、「要は一人当たりの平均点が上がっているみたいな」(425秒)状態で、「トータルで考えると」「予算や医療費みたいなところは変わらない」(460~470秒)という見立てである。背景として挙がるのは、歯科医院が「健康な人も来るっていう場所になりつつある」(430秒)という変化だ。治療のためだけでなく、予防や管理のために通う人が増えれば、来院一人当たりの点数は上がる。分子にあたる歯科医療費が横ばいで、分母にあたる担い手が減るなら、「相対的に年収は上がるじゃんって話ですけど」(475秒)という結論になる。割り算そのものは筋が通っている。ただし出てくるのは全体の平均であって、個々の医院の数字ではない。出演者はこのあと「1990年代頭とかぐらいの水準になるんですよ」(485秒)「バブル末期ぐらいの水準になる」(495秒)と時期まで挙げるが、その試算の中身は示されないため、本記事では水準の話は扱わない。自院に引き寄せるなら、問われているのは「患者が何人来たか」ではなく「一人当たりで何をしているか」のほうである。三つめ・市場の拡大は、まだ点数ではなく文書の段階にある三つめの小見出しは「歯科医療の市場拡大」(570秒)。根拠として挙がるのは、「先々月ぐらいに公表された」(565秒)「『経済財政運営と改革の基本方針2025』」(570秒)、いわゆる骨太の方針である。そこに「いわゆる国民皆歯科検診みたいなもの」(580秒)が含まれており、歯周病と全身疾患の関連について「エビデンスが出てきてるってことは明らかじゃないですか」(590秒)と続く。ただし出演者自身が「僕も見てないのでちょっと分からないですけど(笑)」(535秒)と置いているとおり、この三つめは文書を読んだうえでの説明ではなく、報じられた範囲での見通しとして語られている。編集部で確認した範囲では、「経済財政運営と改革の基本方針2025」は令和7年6月13日に閣議決定されており(内閣府)、その歯科関連の記載として日本歯科医師会は「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた具体的な取組の推進」「歯科医師の不足する地域の分析等を含めた適切な配置の検討を含む歯科保健医療提供体制の構築と強化」などを引用している(日本歯科医師会)。方針に位置づけられていること自体は確かめられる。ただし、方針に書かれることと、点数が付くことと、実際に収入が動くことは、それぞれ別の段階である。一つめが統計の話、二つめが割り算の話だったのに対し、三つめはまだ文書の話にとどまる。出演者が「多分しれっとフェードアウトするんじゃないか」(530秒)という可能性にも触れているとおり、ここは確定した話として数えないほうがいい。「上がる」を、待っていい話として読まない動画の結論は、意外と威勢のいいものではない。「現状のパイでどうなるっていうのを予測するんじゃなくて」(645秒)「本当にでっかい施策で変えていく必要もあるぞ」(655秒)。画面には「『時代を作り上げるんだ』という主体的な努力が必要」(650秒)という大きなテロップが出る。市場が広がるかどうかは、担い手が何をするかにかかっている、という着地である。そのうえで出演者は、「小さい虫歯を見つけて削って詰める歯医者がいるので」(665秒)と言いよどみ、「『健康は口から作る』という意識で歯科医療に取り組んでほしい」(685秒)と述べる。行政の側に「歯科医師を抑制しろ」(610秒)という議論があるなかで「担い手もたくさん必要だ」(620秒)と言い返すには、その説明を日々の診療の中身で裏づける必要がある――という順番だ。これは出演者の立場からの主張であり、制度の決定を予測したものではない。タイトルは「【朗報】」で始まるが、中身は朗報の受け取り方の話だった。確かめられるのは、担い手が減っているという統計までである。その先の「だから一人当たりは上がる」は条件つきの割り算で、「市場が広がる」はまだ方針文書の段階にある。来期の計画をこの見通しの上に立てるのは早い。先に見ておきたいのは、全体の平均で起きていると言われる変化が、自院でも起きているかどうかのほうだろう。元動画を見る【朗報】歯科医師の年収は今後上がっていきます(2025年8月7日公開)
1D編集部
2026年10月6日
「紙でも回っているから」で、予約台帳を続けていませんか?――回しているのは仕組みではなく、受付に立つ人かもしれない

「紙でも回っているから」で、予約台帳を続けていませんか?――回しているのは仕組みではなく、受付に立つ人かもしれない

予約システムの話は、たいてい「便利そうだ」から始まります。1Dの対談動画「【歯科医院】予約システムを絶対導入すべき理由」は、そこから入りません。画面の章立てテロップで最初に出るのは「導入しない医院がある理由」です。導入を勧める回でありながら、対談はまず、入れていない医院の側の理屈を言葉にするところから始めます。
対談が先に説明するのは、メリットではなく「入れない理由」
出演者が挙げる理由は、意外なほど単純です。「紙の予約台帳で回っちゃっているからですよね」「回るからいっかみたいな」。実際、紙の台帳でも「回るっちゃ回るじゃないですか」と対談は認めます。そのうえで、入れない側の言い分として「いらないって思っている人も」いること、規模が小さければ「そんなに経営インパクトはないので」と判断されること、そして「めんどくさい」「分かんない」という感覚が残ることを並べます。
ここは記事として重要なところです。導入しない理由が「知らないから」ではなく「困っていないから」だと整理されると、検討の問いが変わります。問うべきは「便利かどうか」ではなく、今の台帳で回っている状態が何によって成り立っているか、になるからです。
紙でも回る。ただし、回しているのは誰か
対談はその答えを、笑いながら一言で言います。「歯科助手さんや歯科衛生士さんが頑張ってるから」。後半でも「スタッフがみんな取ってくれていると思うんですけど」という言い方が出てきます。つまり紙の台帳が回っているのは、台帳の性能ではなく、人が差分を吸収しているからだ、という見方です。これは出演者の解釈であって、何かの調査で示された結論ではありません。それでも、院長が自院を点検するときの問いとしては具体的です。
もう一方の軸は、人が頑張っても残るものです。出演者は「先生ちょっとこの前のやつ漏れてましたよ」と言われた経験を挙げ、前日や「もう1週間前とか」の連絡は「紙じゃできないので」と述べます。「僕も絶対忘れちゃうんで」という自分の患者としての感覚も添えられます。期待されているのは、来なかった人を責める仕組みではなく、「来ていなかった人がリマインドによって来る」という取りこぼしの回収です。待たせ方や遅刻への対応は、この回では扱われません。
「ペーパーレス」と「DX」は違う、と対談は線を引く
中盤で、対談は自分たちの話に注釈をつけます。画面には「ペーパーレスとDXはちょっと違う」という言葉が出ます。紙をやめて画面に置き換えただけで「何の連携もできない」なら「それDXって言わなくない?」「それじゃあんまり意味ないですよね」というわけです。
では何が違うのか。対談が例に出すのは、予約に「何の治療をしたとか」の記録が紐づく状態です。気をつけたい患者に「カルテにマークとかつけていた」、しかも「隠語にしている」という院内の工夫が語られ、それを人の記憶や符丁ではなく、いわゆるサブカルテや患者管理(CRM)として持つ、という整理になります。出演者は「その考え方は結構一般企業だと当たり前」だと言い、連携が生まれると「新しい提案ができるみたいになった」と続けます。
もっとも、ここで言われる「提案」は自費の販売の話にも触れています。本記事はその是非には立ち入りません。記録が次回の判断材料になる、という範囲で読むのが妥当なところです。
おすすめの製品は出てこない。出てくるのは機能の条件
この回のもう一つの特徴は、具体名を出さないことです。出演者は「ここでおすすめの予約システムみたいな」話はしない、と明言します。理由も率直で、「角が立つし」「これがいいとかって全部見比べたことないし」。代わりに示されるのが、章立てテロップで「これは外せない必須機能」と見出しのついた条件です。
挙がるのは三つの方向です。患者情報と「顧客管理的に連携ができるもの」。大きなテロップで出る「LINEでリマインドできる機能はあるべき」。そして、ホームページにウェブ予約の入口がある場合に、空いている枠を含めて「予約状況を一括管理できる機能があると良い」こと。最後の点について出演者は「アポ帳が患者側からも見える」状態だと言い換えます。加えて、選ぶ側の留保も置かれます。「あんまり使いにくいものを導入したくないじゃないですか」「コストバランスは考えるべきだと思うんですけど」。
製品名が出ない以上、この回は比較表の代わりにはなりません。使えるのは、自院が何を解決したいのかを先に決めるための項目として、です。
費用の話は最後に出てくるが、回収の計算は示されない
費用に触れるのは終盤です。出演者は月々の負担感に言及したうえで、「計算はできないですけど」と前置きし、患者側の使い勝手の向上まで含めれば「十分元は取れそうですけどね」と述べます。前半でも「投資に対してそこまでの不利益性はなさそうですよね」という言い方が出ますが、同時に、規模が大きくなければ回収できるかどうかが変わる、という指摘も置かれています。
本記事では、この回で挙がる金額も普及率の数字も書きません。金額は出演者がその場で口にした体感で、回収の計算は本人が示していないと述べているためです。普及率についても、出演者自身が「民間の調査しかないんですけど」「公式的な統計ではないんですけど」と断っており、調査名も年次も示されません。確かめられるのは数字ではなく、順番のほうです。紙で回っているなら、まず誰の手数でそれが成り立っているかを見る。そのうえで、前日の連絡と記録の引き継ぎを人の記憶から外せるか考える。製品を見比べるのは、その後でも遅くありません。
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元動画を見る(2025年8月14日公開)
1D編集部
2026年10月5日

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