求人票を出す。反応がない。しばらく置いて、また同じ文面で出し直す。
歯科衛生士の採用について、対談で最初に確認されるのは、この繰り返しがなぜ続くのかという点です。出演者は、採用を支援する会社は世の中にいくらでもあるけれども、歯科医療者を雇う採用はそれらと同じやり方では進まないと言います。免許を取ったうえで、あえて別の仕事を選ばなかった人だけが対象になるからです。声をかけられる相手は、最初から限られています。
出演者の一人は、自分が分院長だったころを振り返ります。衛生士がいたので採用に力を入れていなかった、求人票がたまに届いて、それをたまに見る程度だった。そのうえで、あのとき本気で採りにいっても全然採れなかったと思う、と続けます。ここから対談が向かうのは、募集の出し方ではなく医院そのものの条件です。挙がるのは、給与、勤務時間、福利厚生の三つでした。
対談はまず、
歯科衛生士の給与は安いのか高いのか、という問い直しから始まります。出演者が置く目安は初任給30万円です。四年制大学を出て上場企業に就職しても、初任給30万円なら「ちょっといい」ほうに入る。専門学校や短期大学からその水準に届く職種は、そう多くありません。入り口の条件だけを比べるかぎり、
歯科衛生士は不利な職業ではない、というのが出演者の見方です。
ここは押さえておく価値があります。応募が来ない理由を「うちは給料が安いから」で片づけると、直す場所を間違えるからです。なお実際の相場は地域や雇用形態で動きますし、動画で出演者が個人的に調べたとする数字は出典が示されていないため、本稿では金額としては扱いません。
では何が問題なのか。出演者が挙げるのは、入り口ではなくその後です。歯科医院の売上は保険診療が中心で、そこから払える給与には上限ができる。結果として、初任給は悪くないのに、そこから上がっていかない。10年働いて100円上がった、という例え方まで出てきます。出演者はこれを「昇給の制度が整っていない」ことがお金の課題なのだと整理し、給与が低いから辞めるというより、上がらないから辞めるのだと述べます。
ただし出演者は、だから一生上がらないという話ではない、とも言います。衛生士が担う処置や継続的な
口腔管理が医院の売上を生むのであれば、その分は返せるはずだ、という主張です。動画では、そうした管理を評価する算定の仕組みにも触れられます。ここは制度の要件まで説明されてはいないので、自院で使えるかどうかは一次資料で確かめる必要があります。それでも出演者の結論ははっきりしていて、衛生士の給与は上がらないというのは文化ではなく、経営と算定の設計で変えられるはずだ、まず院長が考えることだ、と言い切ります。
二つ目は勤務時間です。夜7時半、8時まで働きたい人はいない、という当たり前のところから話は始まります。出演者は自分の経験として、いまも毎週金曜日は歯科医院での勤務があり、そのあと街に出ると、明日休みの人たちが飲んでいるのを見ることになる、と話します。歯科医師として働いていたころは、それがかなり応えたとも言います。
歯科医院の週末は、一般の会社とずれています。土曜は朝が早いことが多く、衛生士は診療が終わってからも片付けが残る。同年代が休んでいる時間に働き続けるのが、この仕事の標準になっているわけです。給与の話とは別に、この負担は毎週効いてきます。求人票の文面を何度書き換えても、ここが動かないかぎり比較の土俵に上がれない、というのが出演者の見立てです。
なぜ遅くまで開けることになったのか。出演者はその経緯を、次のように見ています。地域に歯科医院が1軒しかなければ手が回らない。そこに後から参入した医院が、あそこが閉まっている時間なら自分が開けようと考える。最初は患者への配慮でもあり、経営戦略でもある。ところが隣がやっているからと対抗が始まると、診療時間を延ばす競争になる。患者の側も、8時まで開いているなら7時に行けばいいと動きます。もし全国の歯科医院が5時までしか開けていなければ、患者はその時間に合わせて来るはずだ、というのが出演者の指摘です。つまり、伸びた分のうちいくらかは、患者の必要ではなく医院同士の事情かもしれない。
これは出演者の見立てであって、検証された数字ではありません。夜の診療をやめろという話でもない点は本人が明言しています。昼間に来られる人を大事にする医院も、夜に来る人を狙う医院も、どちらも成り立つ。もったいないのは、どちらとも決めないまま漫然と遅くまで開けている状態のほうだ、というのが主張です。周囲には5時で予約を締める医院の例もあり、診療時間を短くしても売上が変わらなかったという話、求人に「早く終わる」と書くと応募が集まるという話も紹介されます。いずれも伝聞なので、確かめるのは自院の数字です。そして短縮するなら、どの時間帯の患者を手放すのかを先に決めておくことになります。
三つ目の福利厚生で、出演者が具体的に挙げるのは復職の受け皿です。産休や育休の制度があったとしても、子どもは2時ごろには帰ってきます。だからフルタイムでの復帰は現実には難しく、時短やパートでの復職が実際には多くなる。そうした枠を当たり前のものとして持っている医院なら、と出演者は言います。
歯科衛生士は離職したまま戻っていない人が多い職種で、業界としては戻ってきてほしい。その受け皿を先に用意しておけば、採用に困らなくなるはずだ、という順番です。
もう一つ、身だしなみの規定にも話が及びます。最近はネイルをしていいか、髪を明るくしていいかと相談されることが増えた。出演者は、患者も普通の人であって、自分自身も見た目を大きく変えたときはむしろ好印象だった、と話します。ネイルについては診療で手袋をする以上そもそも影響しにくい、明るい髪を禁じているのは自費中心の医院のほうがむしろ厳しい、といった具体も出てきます。世の中が多様な見た目を受け入れる方向に動いているなかで、それでも黒髪しか認めないと決めているなら、その決まりが採用に見合っているかを考えるべきだ、というのが結論です。
出演者自身は、最後に「だいぶ偏った個人の見解」と断っています。それでも三つに共通しているのは、いずれも他院の事情ではなく自院で決められることだ、という点です。求人票の文面を直す前に、何時に終わるのか、何年後にいくらになるのか、一度抜けた人が戻れるのかに、自分の言葉で答えられるかどうか。答えが去年と同じままなら、文面をどう変えても返ってくるものは同じかもしれません。