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【ミニセミナーを覗く】「咬合平面はカンペル平面に平行なら正解」と思っていませんか?――講師が見せた「顔が曲がって見える」義歯

【ミニセミナーを覗く】「咬合平面はカンペル平面に平行なら正解」と思っていませんか?――講師が見せた「顔が曲がって見える」義歯

咬合平面はカンペル平面とほぼ平行にする。補綴の基本として覚えている先生は多いはずだ。1Dの「25分間」ミニセミナー「【咬合再構成】初学者のための考え方と咬合器を用いた実践法」の前半の最後に、講師はある義歯の症例を示す。装着されていた義歯の咬合平面は、フェイスボウで見るとカンペル平面にほぼ平行で、講師の言葉では補綴学的には何も間違っていない。それでも患者は、顔が曲がって見えると言って作り直しを希望していた。そこへ至るまでに講師が積み上げる、咬合再構成の前提を、スライドと自動字幕で確認できた範囲で整理する。デジタルの前に、アナログの基礎講義の冒頭のスライドには「Analog before Digital」と書かれている。講師自身、フェイススキャナーや口腔内スキャナーを臨床で使っていると言う。そのうえで、デジタル機器を使えば難しい咬合治療が簡単になる、顎位の決定が楽になる、というわけでは決してない、というのが講師の考えだ。カメラのような身近な機械なら初心者ほどデジタルが楽だが、咬合に関しては逆だと講師は言う。デジタルの利点を引き出すにも、土台になるアナログの知識と技術が要る。講師はまた、顎位の決め方や咬合論には現時点で統一見解がないとして、講義の内容はあくまで現時点の自分の考えだと断っている。本稿もその前提で読んでほしい。講師が示す咬合治療の流れは5段階だ。咬合治療の診断と分類、上顎(咬合平面の診断と決定)、下顎(咬合高径と適正下顎位の決定)、治療計画の決定と確定的歯科治療、補綴装置製作。前半部分で扱われるのは、主に最初の2つである。顎位を変えるのか、変えないのか最初の診断で講師が問うのは、全顎的な治療が必要かどうか、言い換えれば顎位を変えるかどうかだ。スライドには、修復治療の分類とBeckerの分類が挙がる。Beckerの分類のスライドでは、既存の咬頭嵌合位(MIP)を採用して顎位を変更しない場合として、単冠、少数歯のクラウンブリッジ、少数歯の部分床義歯、少数歯のインプラント補綴が並ぶ。中心位(CR)を採用して顎位を変更する場合は、総義歯、支台歯形成後に咬合接触が失われる・安定しない場合、大規模な部分床義歯で残存歯の咬合接触がない・安定しない場合、適正な咬合高径で咬合接触がない場合、咬合挙上が必要な場合だ。講師は、日常臨床の大部分は前者にあたるのではないかと見ている。その例として示されるのが、上顎の欠損で噛めない、前歯がよく外れる、左上の奥歯がときどき腫れて痛む、という3つの主訴の症例だ。検査で歯根破折も見つかったが、既存の咬頭嵌合位は安定していた。スライドのキーポイントは「既存の顎位に調和した欠損補綴治療」。欠損部はインプラントで補ったが、咬合関係は基本的に変えていない、と講師は言う。一方で、重度の歯周病があり咬合高径も下がっていそうな患者を前にすると、どうやって顎位を決めるか、という方法に意識が向きやすい。講師はその前に診断を置く。スライドには、異常なのか、どの程度異常なのか、異常と判断する理由は何か、という3つの問いが並ぶ。正常と異常を分ける基準を持ったうえで、はじめて歯科治療に介入する、というのが講師の順序だ。フェイスボウトランスファーで、何が見えるようになるか咬合再構成が必要と判断したら、講師はまず上顎、つまり咬合平面の診断と決定から始める。石膏模型を作り、フェイスボウトランスファーを行う。スライドでは、フェイスボウによって2つの後方基準点と1つの前方基準点からなる平面で位置づけられた上顎模型を咬合器に付着する一連の操作、という専門用語集の定義が引かれている。講師が挙げる効果は2つだ。1つは、生体の開閉口路軸と咬合器の開閉口路軸が一致(実際には近似)すること。模型が正しい位置に付着されていないと、下顎の開閉口路が一致せず、咬合器上では適正に見えても口腔内では早期接触が生じたり、調整量が増えたりする、とスライドは説明する。もう1つは、咬合器ごとに決まっている基準平面と、目の前の患者の咬合平面との関係が、咬合器上で見えるようになることだ。さらにスライドには、下顎を中心位で付着しておけば、切歯点で10mm程度の開閉口であれば下顎は蝶番運動のみとされ、その範囲内なら咬合器上で咬合高径を変えて作った補綴装置も口腔内に適応できる、という説明がある。講師は、これによって咬合器を使った間接法で咬合再構成ができると言う。この数値はスライドが引く文献に基づく講師の説明で、本稿では原典を確認していない。カンペル平面を基準に、ずれの量を見る基準平面は咬合器によって異なり、主なものにカンペル平面やフランクフルト平面がある。講師が臨床で使っている半調節性咬合器は、カンペル平面を基準にしたものと、正中矢状面を基準にしたものの2つだという。カンペル平面基準を選ぶ理由として、講師は、咬合平面がカンペル平面とほぼ平行とされていることを挙げ、スライドでは学会のガイドラインや書籍、論文の記述を引いている(本稿では原典を確認していない)。咬合器の上弓がカンペル平面を表しているので、上弓を見ながら仮想咬合平面を設定できる、と講師は言う。症例は、右下のブリッジが痛む、噛み合わせが悪くて噛みにくい、という40代の女性。ブリッジは約5年前に他院で装着されたもので、検査では支台歯に歯根破折があった。少数歯欠損で咬頭嵌合位は安定しているため、顎位は変えない治療になる。それでもフェイスボウトランスファーを行い、カンペル平面基準の咬合器に模型を付着すると、既存の咬合平面がカンペル平面に対して大きく傾いていることがわかった。講師によれば、その逸脱量は口腔内を肉眼で見た印象よりずっと大きかったという。対合歯が挺出し、咬合平面が乱れたままブリッジが装着されていた。挺出していることはパノラマや口腔内写真でもわかるが、どの程度かを判断するのは難しい、と講師は言う。スライドに書かれた要点は「異常か正常か」「どの程度異常か」の2つだ。術後は、可能な限りカンペル平面に平行になるよう咬合平面を是正して欠損補綴を行った、と講師は説明する。カンペル平面に平行でも、顔が曲がって見える義歯冒頭の義歯の症例は、この流れの最後に置かれている。患者は、今の義歯だと顔が曲がって見えるとして作り直しを希望していた。上顎の義歯は約3年前に作ったものだという。口腔内写真だけを見ると目立たないが、顔貌に合わせると咬合平面がかなり傾いて見える。ところが、カンペル平面基準のフェイスボウを装着して見ると、その咬合平面はカンペル平面にほぼ平行だった。スライドの文字は「咬合平面はカンペル平面にほぼ平行」。講師はここで、なぜこうなったのかを考えなければならないと言い、理由として、後方基準点に使った外耳道の高さに左右差があることを挙げる。YouTubeで公開されている前半部分は、ここで終わる。編集部の読みとして、この症例が示しているのは、基準平面に平行という条件を満たすことと、患者の顔に調和していることが、いつも同じにはならないという点だ。フェイスボウトランスファーで咬合器上に見えるようになるのは、選んだ基準平面との関係である。その基準点自体に左右差がある患者では、何を基準に咬合平面を決めるかをもう一段考える必要がある。どう判断するかは、講義の続きで扱われる。本稿で扱わないこと講師の名前や経歴、医院の規模、紹介された書籍、スライドに写る咬合器の製品名は扱っていない。修復治療の分類の名称と各クラスの内容は、スライドの表記と自動字幕で十分に確認できなかったため採っていない。10mmという数値や、ガイドライン・論文の記述は、スライドに示された講師の説明として記載し、原典では照合していない。症例の詳しい処置内容(インプラントの本数や骨造成の方法など)も、自動字幕の聞き取りが不確かな部分は載せていない。本稿は講義内容の整理であり、実際の診断や治療方針は、各自の判断に基づいて行ってほしい。元動画を見る【咬合再構成】初学者のための考え方と咬合器を用いた実践法(2024年4月11日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
7時間前
【ミニセミナーを覗く】「試適の後は、そのまま装着」と思っていませんか?――講師がまず挙げるのは内面の汚染除去

【ミニセミナーを覗く】「試適の後は、そのまま装着」と思っていませんか?――講師がまず挙げるのは内面の汚染除去

補綴装置を口腔内で試適し、適合を確かめたら、あとは接着するだけ。そう考えていると、見落としやすい工程がある。1Dの「25分間」ミニセミナー「【CAD/CAM】補綴物・修復物セットに欠かせないポイント」で、講師は、試適を1回した時点で補綴装置の内面は必ず汚染されている、と言う。講師がまとめのスライドで接着操作の勘所の1番目に置くのも「試適後の汚染除去」だ。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張と編集部の解釈を分けて整理する。有機のセメントで、無機の材料をつなぐ講義の内容は4つに分かれている。接着レジンセメント使用の勘所、CAD/CAMクラウン・インレー、レジン支台築造(直接法・間接法)、象牙質レジンコーティングだ。YouTubeで公開されている前半部分で扱われるのは、主に1つ目の接着レジンセメントの話である。講師はその前置きとして、有機化合物と無機化合物の違いを確認する。金属やセラミックスは無機、コンポジットレジンはレジンの部分が有機でフィラーが無機、エナメル質や象牙質は無機成分を多く含みながら有機成分も含む複合体だ。そして接着性レジンセメントは有機化合物に分類される。有機どうしをつなぐのは比較的簡単だが、接着の相手は金属やセラミックスといった無機であることが多い。割れた茶碗を家で接着して直そうとするか、と講師は問いかける。それでも診療室では、欠けた陶材焼付冠を直してほしいという要求が来る。だからこそ有機と無機を橋渡しする術式が要る、というのが講師の説明だ。その橋渡し役が、接着性モノマー、メタルプライマー、シランカップリング剤である。講師によれば、いずれもレジン側に絡みつく部分と、無機の相手にくっつく部分を持ち、後者の形の違いで呼び名が分かれる。何を塗るかは、材料で決まるスライドには、接着レジンセメントで装着する場合の冠内面処理材が整理されている。ノンシリカ系(酸化物系)のジルコニアを使ったフルジルコニアクラウンにはMDPやホスホン酸系モノマー。シリカ系の二ケイ酸リチウムのクラウンにはシランカップリング剤。ハイブリッドレジンはコンポジットレジンにシリカのフィラーが入っているので、CAD/CAM冠にもシランカップリング剤を使う、と講師は言う。歯質側の処理は、エッチング、プライミング、ボンディングの3つの要素からなる。かつてはこれを別々の液で3回行うスリーステップだったが、術者の失敗や時間、患者の負担を減らすために2ステップ、1ステップへと簡略化されてきた。講師は、いまは1ステップが主流になっていると見ている。試適した内面は、必ず汚れているCAD/CAM冠の症例で、講師は装着の流れを示す。仮着していたプロビジョナルを外して清掃し、出来上がった冠を試適してから装着する。この試適で内面は汚染されるので、どう清掃するかが接着をうまく使うポイントになる。スライドで示されるのは、MDPを配合したクリーニング剤を内面に塗ってこすり、水洗・乾燥で汚れを流してから、シランカップリング剤を塗る手順だ。ジルコニアの接着ブリッジでも、講師は同じ問いを立てる。試適後の汚染除去は、装着直前のアルミナサンドブラスト処理が第1選択。サンドブラストが使えない環境なら、クリーニング剤を使って水洗・乾燥する。ラミネートベニアについても、第1選択はサンドブラストで、次にクリーニング剤、それもなければリン酸エッチング材のリン酸を流用する方法が考えられる、と講師は言う。まとめのスライドでは、ジルコニアへのMDP処理に「厚塗り厳禁」と添えられている。編集部の読みとして、この講義で「試適後」が強調されるのは、試適が適合を確かめる工程であると同時に、接着面を汚す工程でもあるからだ。確認のための一手間が、そのままでは接着の阻害因子になる。ベニアと接着ブリッジの装着手順ラミネートベニアの試適では、主に適合を確認する。爪のような形のものなので、この段階で咬合を確かめるのは難しい、と講師は言う。支台歯形成はエナメル質内にとどめるのが基本なので、歯面にはリン酸エッチングが効く。隣の歯に余剰セメントが付かないようストリップスで保護し、気泡が入らないようセメントを一方向から押し込んで正しい位置に圧接する。スライドの手順では、はみ出した余剰セメントを綿球や小筆、マイクロブラシで除去し、ベニアの中央部に3〜5秒の仮照射をして位置を仮固定する。この段階では簡単に外れるほどの強度しかないので、隣接面のセメントをフロスで取るときは引き抜き方に注意が要る、と講師は念を押す。余剰セメントを除いたら、ベニア表面を切縁、中央部から歯頸部、近心部、遠心部の4つに分け、それぞれ10秒ずつ光照射する。ベニアは基本的に咬合接触がないように作るが、干渉がないかは最後に確認する。ジルコニアの接着ブリッジでは、講師はリン酸処理の範囲に触れる。形成した部分だけを処理すればよいと考えがちだが、スライドでは、装着面に加えて隣接部を少し越えた舌側まで処理範囲が塗られている。さらに、唇側の鼓形空隙からも接着レジンセメントを押し込むと、セメントが補綴装置を両側から挟み込むように保持し、脱落のリスクが一気に下がるように実感している、と講師は言う。これは講師自身の実感として語られている。光照射は重合収縮に配慮し、唇側と舌側からそれぞれ10秒、1つの支台装置につき合計40秒以上、というのがスライドの指示だ。光を当てても、裏側には届かないまとめのスライドは、確実な接着操作のためのリスクを2段階に分けている。ハイリスクは唾液・血液の混入とブラキシズム。中程度のリスクは、呼気に含まれる水蒸気と、完全に重合するまでの固定だ。患者は装着中も呼吸しているので、呼気の水分が接着の阻害因子になりうる、と講師は言う。固定について、講師は、光照射をしたらもう大丈夫だと思う人が非常に多いと指摘する。しかし補綴装置の裏側には意外と光が届いておらず、化学重合による硬化が重要になる。全体で40秒照射しても、それで終わりではなく、しばらくしっかり押さえておくことで脱落のリスクをかなり減らせる、というのが講師の考えだ。脱落などの失敗のリスクファクターとして、スライドにはさらに、エナメル質形成不全や酸蝕症(接着力が発揮されず脱離の危険性が高い)、重度の摩耗症(ブラキシズム)や短縮歯列(荷重が高く破損の危険性が高い)が挙げられている。適応をよく勘案したうえで補綴装置を決めてほしい、と講師は言う。前半部分の最後には、CAD/CAM冠・インレーの話の入口として、保険の請求件数の推移を示すグラフが映る。パラジウム合金の全部金属冠が減り、CAD/CAM冠がシェアを伸ばしてきた、というのが講師の読みだ。グラフの数値は一次資料で照合していないため、本稿では載せない。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、スライドや動画に出てくる製品名は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分、スライドで確認できなかった待ち時間などの数値も採っていない。光照射の秒数や処理範囲はスライドに基づく講師の方法であり、製品ごとの指示や添付文書では照合していない。本稿は講義内容の整理であり、実際の材料選択や装着手順は、各製品の指示と各自の判断に基づいて行ってほしい。元動画を見る【CAD/CAM】補綴物・修復物セットに欠かせないポイント(2024年4月10日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
1日前
【ミニセミナーを覗く】「中間サイズのファイルは遠回り」と思っていませんか?――#10から#15で先端径は1.5倍

【ミニセミナーを覗く】「中間サイズのファイルは遠回り」と思っていませんか?――#10から#15で先端径は1.5倍

根管内に折れたファイルが残ったとき、どう取り出すか。そこに関心が向きがちだが、1Dの「25分間」ミニセミナー「【根管内異物】トラブル回避と除去のコツ、教えます」で、講師が最初に時間を割くのは、折らないための話だ。その中で講師が示すのが、スライドの表にある数字である。#10のKファイルから#15へ進むと、先端径は0.10mmから0.15mmへと50%増える。間に#12を挟めば、#15へ進むときの増加は25%で済む。中間サイズのファイルを使うと手順は増えるが、講師はこれを「急がば回れ」と表現する。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張と編集部の解釈を分けて整理する。除去の話の前に、「起こさない」を置く講師は講義の内容を5つに分けて示す。器具破折の発生原因とその予防、根管内異物を除去すべきか否か、除去の方法、除去後の根管充填、そしてファイル以外の異物とその除去方法だ。根管内異物の除去は偶発症への対応であり、まずそれを起こさないことが一番重要になる、というのが、この順番の理由だと講師は説明する。予防の話はさらに4つに分かれる。使用するステンレスファイルの選択、Ni-Tiロータリーファイルとモーターの選択、複雑な根管形態へのアクセス、超音波洗浄用チップの使い方である。YouTubeで公開されている前半部分で扱われるのは、このうち予防と、除去すべきか否かの判断の途中までだ。Hファイルと、伸びて曲がったファイルステンレスファイルについて、講師がまず挙げる原因はHファイルの使用だ。Hファイルは切削効率がよい一方で、根管壁に食い込みやすい。食い込んだ状態でリーミングの動きをしてしまうと、根管内で破折が起きる。そのため予防としては、Hファイルを使わず、リーミングとファイリングの両方ができるKファイルを使うことが推奨される、と講師は言う。それでもHファイルを使いたいなら、#10や#15のような細い段階では使わず、ある程度拡大した後、たとえば#30前後以降で使うといった配慮が要る、というのが講師の補足だ。2つ目の原因は、伸びて曲がったファイルの使用である。講師は、ファイルを滅菌して使い続けるうちに、スライドの写真のように伸びて曲がったファイルを使ってしまうことも多いのではないか、と指摘する。無理をすると、ちょうど伸びた中央のあたりで破断する。できる限り新しいファイルを使い、それが難しくても、使う前に曲がりや伸びがないかを必ず確認する必要がある、と講師は言う。#10から#15で先端径は1.5倍――中間サイズのファイル3つ目が、本稿のタイトルに置いた中間サイズのKファイルだ。通常のKファイルは#10、#15、#20と5刻みで並ぶが、その間を埋める#12、#17、#22といった番手のファイルがある。スライドには用途として下顎前歯、狭窄根管、緩やかな湾曲根管が挙げられており、講師はこうした場面で特にこれを使うことを勧める。理由として講師が示すのが、番手ごとの先端径と増加率の表だ。#10から#15へ進むと、先端径は0.10mmから0.15mmになり、前の番手から50%増える。その先も#20で33%、#25で25%、#30で20%と、よく使う#40までの範囲では、前の番手からの増加率が大きい。講師によれば、一度にそれだけ太いファイルを入れることになるので、根管から逸脱しやすく、レッジを作ったり、無理な力がかかったりしやすい。一方、#10と#15の間に#12を入れれば、#15へ進むときの増加率は25%で済む。表の右側、中間サイズを挟んだ並びでは、#15より先の増加率がおおむね6〜18%に収まっている(表の数値は、先端径どうしの比で編集部も計算して確かめた)。前に使ったファイルに近い太さで少しずつ拡大していけるので、過度な力をかけずに済み、レッジなどが起きにくくなり、ファイル破折のリスクも下げられる、と講師は言う。講師は、拡大のステップが増えて時間がかかるのではないか、という反論も想定している。ファイルの使用本数は確かに増える。しかし、レッジやファイル破折が起きるリスクを下げられるので、結果的には治療の効率も、患者からの信頼も上がるのではないか、というのが講師の答えだ。「急がば回れ」という言葉が使われるのはここである。Ni-Tiロータリーは、ファイルとモーターとアクセスで選ぶNi-Tiロータリーファイルについて、講師は、従来型は破折しやすい構造だったと説明する。断面の中心と回転の中心が一致し、同じ半径の位置で刃が根管壁に食い込む。切削効率は上がるが、食い込んで大きなトルクがかかると、そこを破断点として折れる。これに対し最近は、断面の中心を回転の中心からずらしたオフセットデザインや、ラジアルランドと呼ばれる形状のファイルが出ており、根管壁への接触箇所を減らして破折しにくくしている。講師はこうしたファイルへの切り替えを1つの選択肢として挙げる。接触箇所が減る分、Ni-Tiロータリーの中では切削効率はやや下がるが、手用ファイルより拡大形成は速い、という留保も添える。モーターについては、まず、各メーカーがファイルとの組み合わせで設定しているトルクや回転数を忠実に守ること。過剰に与えると破折の原因になる。そのうえで、食い込みすぎると逆回転するトルクリミット機能を持つモーターや、正逆の往復回転で動かすモーターを選ぶことが、破折の防止につながる、と講師は言う。また、Ni-Tiロータリーでも上下に動かすペッキングの動作が要るので、開口量が狭く十分にペッキングできない患者では、モーターはあまり使わないほうがよいのではないか、というのが講師の考えだ。複雑な根管形態では、湾曲・屈曲根管が典型的な原因になる。講師は、一度根管治療された歯で、屈曲部から先が触られていないまま根尖部に病変がある症例のエックス線写真を示す。このまま無理に処置するとファイルを折りやすい。そこで、歯科用CBCTで根管形態を3方向から確認し、立体的なイメージを持つことが非常に重要だと講師は言う。再根管治療では途中にレッジができていて根尖付近まで通しにくいことが多く、手用ファイルで無理に通そうとすると、その中で折れる。根尖方向へ通すための専用ファイルや、グライドパス用のNi-Tiロータリーファイルを取り入れることも予防策として挙げられる。超音波チップは、周波数と「上下に動かす」最後が超音波洗浄用チップだ。講師は、根管洗浄に超音波を使う歯科医師が増えていると見たうえで、チップも使い方を守らなければ破折すると注意を促す。まず、装置ごとに推奨される周波数などの設定に必ず従うこと。設定を上げてしまうと、あっという間に破断する。チップは先端側で折れるほど除去が難しくなる。もう1つは、チップを少し上下に動かすことだ。一か所に置いたままにすると、そこにエネルギーが集中して破折しやすい。少し上下させることで先端へのエネルギーの集中を防げ、洗浄効果も上がる、と講師は動画を示しながら説明する。講師は予防の話をこう締めくくる。どれだけ忠実に行っても、ファイルが絶対に折れないという保証はない。誰もわざと折るわけではないが、起きれば患者との信頼関係にも影響する。だからこそ、適切な使用方法と根管形成の基本に忠実であることが大事だ、という。折れたら取るべきか――6つの判断材料それでも折れてしまったとき、あるいは他院で折れたファイルが残った患者が来たとき、本当に除去すべきか。講師はその判断材料として6項目を挙げる。術者の技術、炎症の有無、ファイルが破折したタイミング、破折部位、偶発症のリスク、患者要因だ。術者の技術について講師は、知識と技術と経験から、自分が除去できるかを判断する必要があると言う。無理なら専門の歯科医師への依頼を考える。また、根管内異物の除去にはマイクロスコープがないと厳しいのではないか、除去に使う器具類が揃っているか、も判断材料になる。炎症の有無では、右上4番の根管内に異物がある症例が示される。根尖部相当に圧痛があり、垂直打診痛もある。歯周病由来の可能性も考えられるが、こうした条件からは根管内の感染が原因と考えられ、異物を除去する必要性が出てくるのではないか、と講師は言う。破折のタイミングについては、抜髄の途中で折れた場合は残髄につながる状況も考えられるので除去すべきだが、ある程度抜髄ができて根管形成の段階で折れた場合は、除去しないという選択もありうるかもしれない、という。前半部分で説明されるのはここまでで、残りの3項目と、実際の除去方法、除去後の根管充填、ファイル以外の異物の話は続きにあたる。編集部の読みとして、この講義で中間サイズのファイルが目を引くのは、破折を「運が悪かった」で片づけず、拡大のたびに先端径が何割増えるかという数字に置き換えている点だ。遠回りに見える手順が、何を減らしているのかが表で見える。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、スライドや動画に出てくる製品名・メーカー名は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。先端径と増加率はスライドの表に基づくもので、規格の原典では照合していない。本稿は講義内容の整理であり、個々の症例での器具の選択や除去の判断は、診査の結果と各自の判断に基づいて行ってほしい。元動画を見る【根管内異物】トラブル回避と除去のコツ、教えます(2024年4月4日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2日前
【ミニセミナーを覗く】「色がついたところを削れば咬合調整」と思っていませんか?――講師が最初に置く「足せない・戻せない」

【ミニセミナーを覗く】「色がついたところを削れば咬合調整」と思っていませんか?――講師が最初に置く「足せない・戻せない」

咬合紙で色がついたところを削って落とせば、咬合調整は終わる。そう考えたことのある歯科医師は少なくないのではないか。1Dの「25分間」ミニセミナー「【咬合調整】咬合の基礎知識と削合のポイント」で、講師はこの講義を「咬合アレルギー」のある歯科医師に向けたものだと位置づけ、全顎やフルマウスではなく、1本の歯をきちんと調整できることを目的に掲げる。そのうえで最初に置くのが、削合についての3つの前提だ。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。削合は「足せない」「戻せない」「相手を選ぶ」講師が挙げる1つ目の前提は、削合は歯を削るだけで、足すことができないという点だ。足して合わせたいなら、クラウンごとやり替えるか、それこそフルマウスで治療することになる。だから削合による調整は限定的なものだと分かっていなければならない、と講師は言う。2つ目は、後戻りができないこと。削るだけなので、患者から元の状態に戻してほしいと言われても戻せない。色がついたところだけを単純に調整していくのは結構怖いことになる。ここが邪魔だと分かったうえで、そこを狙って調整することが大事だ、と講師は話す。3つ目は、意外にも相手を選ぶということだ。どんな調整をしても気になって仕方がない人もいる。講師はこれを、車幅と道路の幅にたとえる。道幅が広ければ、クランクがあっても余裕を持って通れる。しかし道幅が狭いと、すぐに脱輪してしまう。この人は大丈夫かと相手をよく見たうえで行い、やりすぎればそれはそれで戻せないので、どこでやめるかがすごく大事になる、と講師は言う。顎を動かす筋肉と、ブレーキ役の筋肉講師は、咬合の基礎知識として、まず顎の運動に関わる筋肉を整理する。口を開けるときは、外側翼突筋が顎を前に出し、顎二腹筋の前腹などが後ろに引く。閉じるときは側頭筋、咬筋、内側翼突筋が締める。側方運動や前方運動、後方への運動でも、それぞれ主に働く筋肉がある。大まかに言えば、前に出るときは外側翼突筋、後ろに引くときは側頭筋だと考えるとよい、と講師は説明する。講師が付け加えるのが、拮抗筋の働きだ。主に動かす筋肉だけでは動きが急になりすぎるので、ブレーキをかけながら動くようになっている。そのため、たとえば閉じる動きのときにトラブルがあれば、緊張が出るのは主に動かしている筋肉とは限らず、拮抗筋の側に出る可能性もある。これを頭の片隅に置いておいてほしい、と講師は言う。後で触れる触診の話につながる前置きだ。第一大臼歯の形を、自分の手で描いて覚える次に講師が「すごく大事」とするのが、歯の解剖学的形態、とりわけ咬合面形態だ。中でも第一大臼歯は鍵となる歯で、これが理解できると他の歯も理解しやすい、として、講師は上下の第一大臼歯に絞って説明する。上顎第一大臼歯では咬頭頂の位置と隆線、いちばん深い窩、そこから伸びる溝。講師は、この溝が深いことを理解し、ここに対合歯が入るイメージを持っておくよう促す。下顎第一大臼歯では、隆線がないと思われがちな中央付近を、くぼんだ状態としてイメージしておくこと。上顎の咬頭がそこに入り、上が杵、下が臼のような関係になる、と講師はたとえる。溝の走り方には個人差があり、Y字型が多いが、十字型やX型の人もいる。第二大臼歯では十字型が多い、というのが講師の示すおおまかなイメージだ。調整のときに大事になるので覚えておいてほしい、と講師は言う。形態をどう覚えるかについて、講師の答えは単純だ。描いて覚えた、という。最初に描いた第一大臼歯の絵はひどいものだったと自身の絵を見せ、教科書や模型を見ながら10枚描くだけでも違い、100枚描けば周りと比べて大きな差になるはずだ、と話す。これが分かっていないとダイレクトボンディングなどもできない、とも講師は付け加える(講師の挙げる参考書籍の名前は本稿では扱わない)。咬合様式は「どこで当たっているか」の分類講師は咬合様式についても簡単に触れる。上下の歯がまっすぐ当たった状態から顎をずらしたときに、どのように当たっているかを分類したものだ、と講師は説明する。作業側で犬歯だけが当たるのか、犬歯も奥歯も当たるのか、奥歯だけなのか。作業側で当たっているときに、反対側も当たっているのか。上下のどちらの機能咬頭が当たっているのか。こうした分類がある、という。講師は、こうした当たり方が咀嚼運動に深く関わること、咀嚼のときの顎の動きは複雑で、限界運動の範囲では現れない動きがあることにも触れる。ただし今回の講義は1本の臼歯の干渉を取る話なので、ガイドの話や咀嚼運動に合わせた調整は扱わない、と線を引いている。削る前の審査――問診、動画、触診、セントリック講義の後半で講師が示すのは、自身が臨床で行っている咬合の審査だ。まず問診では、しみるのか、歯肉が腫れているのか、割れたのかといった現状を聞き、それがいつからなのかを時系列でたどる。咬合と全身の関係が疑われる訴え、たとえば肩こりがある場合も、それがブリッジを入れた後からなのか、それ以前からなのか、永久歯列が完成したころからなのかを整理しておくと、本当に咬合から来ているのかが分かってくる、と講師は言う。口腔内では骨隆起やすり減り、咬合関係を見る。講師が勧めるのが、顎の動きの動画撮影だ。顎運動の計測機器を使わなくても、正面から動画を撮れば、動きの偏りや速さの違いが比べられる。咬合の治療に入り込むときは、必ず治療前に撮り、終わった後と比べて評価する。良くなっていれば、治療がうまくいったというフィードバックが得られる、と講師は説明する。触診では、咬筋、側頭筋、耳の後ろのあたり、首を横に倒す筋肉などを触る。講師の医院では項目を簡略化しているという。講師が説明する触診の目的の1つは、治療の前の感触を患者自身に感じてもらい、終わった後に軽くなっていることを感じてもらうことだ。最後にセントリックのずれを見る。開け閉めのスタート地点がずれていれば、動き出しから無理がかかる。講師はこれを、陸上の短距離走で自分のレーンだけ少しずれた位置からスタートさせられる状況にたとえる。何度も繰り返せば、足をくじきそうになる、というわけだ。講師は、下顎をリラックスさせた状態で上の歯を前に出すように促すと下顎が下がり、その位置で噛ませる、という簡便な取り方を紹介している。編集部の解釈としては、講師が「1本の歯をきちんと調整する」話の前に、これだけの準備を置いていること自体が、冒頭の問いへの答えになっている。色がついたところは、削る候補の1つにすぎない。足せず、戻せないからこそ、どこが本当に邪魔なのかを確かめてから削る、ということだ。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、講師が紹介する参考書籍・セミナー・オンラインサロン・動画チャンネルの名前、講師が挙げる人物名は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。実際の削合の手順とテクニックは、YouTubeで公開されている前半部分には含まれていない。本稿は講義内容の整理であり、個々の患者の咬合調整は、診査の結果と各自の判断に基づいて行ってほしい。元動画を見る【咬合調整】咬合の基礎知識と削合のポイント(2024年4月2日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年11月4日
【ミニセミナーを覗く】「乳臼歯を抜いたら、すぐ保隙装置」と思っていませんか?――講師が先に確かめるのは、抜歯か未萌出か

【ミニセミナーを覗く】「乳臼歯を抜いたら、すぐ保隙装置」と思っていませんか?――講師が先に確かめるのは、抜歯か未萌出か

左下の第二乳臼歯がない状態で来院した子ども。保護者は、このまま放っておいていいのか、何か治療が必要ではないかと尋ねる。1Dの「25分間」ミニセミナー「【咬合誘導】実践で使える知識と技術を学びましょう」で、講師が受講者に投げかけたのはこの場面だった。おそらく齲蝕で抜歯されたのだろう、それなら保隙が必要だ――そう頭に浮かんだまま、すぐ保護者に治療方針を話してよいのか。講師は、その前にやっておかなければならないことがある、と言う。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。「見守る」ことまで含む、広い意味の咬合誘導講師はまず言葉の整理から入る。咬合誘導とは、乳歯列から永久歯列に至る小児期の咬合の発育を正常に誘導する概念と方法をいう、というのが専門用語集の定義だと紹介する。そのうえで、広い意味では小児歯科の臨床で行われるあらゆる処置が咬合誘導にあたる、とも言われる。分かりにくいこの「広い意味」について、講師は小児歯科の学会誌の創刊号にある説明を紹介する。乳歯の萌出前から永久歯の咬合が完成するまでの間、歯列や顎、顔は変化を重ねる。その間、正しくあるべき姿にあるかを見守り、少しでも乱れを見つけたらその原因を追求し、除去に最善の努力を払う――という考え方だ。講師は、通常の治療と違って「見守る」ことが含まれている点に、広い意味を持たせる理由があると説明する。一方で、日常的に行われているのは狭い意味の咬合誘導、つまり装置や訓練、あるいはその併用による治療だ。講義はこちらを中心に進む、と講師は断っている。静的咬合誘導と動的咬合誘導、そして矯正との線引き講師は、狭い意味の咬合誘導を2つに分ける。静的咬合誘導は保隙とほぼ同じ意味で、乳歯を早く失った症例で、歯列にできた空隙を永久歯の萌出まで保持すること。動的咬合誘導は、歯列や咬合の発育過程に異常が認められる、あるいは予見される場合に、積極的に働きかけて改善を図ること。こちらには動的咬合誘導装置が用いられる。小児歯科の咬合誘導と矯正治療はどこが違うのか、とよく聞かれる、と講師は言う。明確な線引きが定められているわけではないとしたうえで、講師の整理はこうだ。混合歯列期に行う小児歯科の動的咬合誘導は、矯正歯科でいう一期治療と重なる、同じものと言ってよい。一方で、保隙や乳歯列期に歯の位置や咬合を変える治療、齲蝕処置や通常の外科処置などは、主に小児歯科が担う、という。重度の外科処置は口腔外科の協力を得ることもある、という留保も添えている。保護者に話す前に、確かめること冒頭の症例に戻る。講師がまず挙げるのは医療面接だ。左下の第二乳臼歯がないのは、本当に齲蝕で抜歯されたからなのか。実はまだ萌出していないだけ、という可能性もある。これは聞いてみなければ分からない、と講師は言う。抜歯された記憶があるなら、その経緯を問診で確かめればよい。前後の歯、たとえば後継の小臼歯の歯胚の状態が分かればよいので、デンタルエックス線写真でも間に合う、と講師は説明する。しかし未萌出だった場合は、それが今どうなっているのかを確かめる必要があり、エックス線画像が欠かせない。萌出できずに埋まっているなら、年齢によっては抜歯を考える必要が出てくる。その下には後継永久歯が控えているはずなので、より広い範囲の異常を予見して、パノラマなどで確認する、という。講師はもう1つ、この症例では前歯がわずかに噛み合っていない、開咬の状態も気になると指摘する。欠損した1歯だけでなく、こうしたところも含めてトータルに見て、必要な検査を行い、治療方針を決める。頭に浮かんだ装置を口にする前に、ここまでを挟むことが求められる、というのが講師の主張だ。模型で見る「歯列弓の幅」と「歯の大きさ」保隙や動的咬合誘導が必要かどうかを判断するうえで、講師が重要だとするのが診断用模型の作成だ。口の中を見ただけでも、使えそうな装置の見当はつく。しかし、その治療に本当に意味があるのか、その装置が本当に適しているのかは、模型を使った分析で確かめる必要がある、と講師は言う。乳歯列と混合歯列とでは計測する箇所が違うので、注意が必要だ、とも。計測した値は、日本人の平均的な値と比べて大きいのか小さいのかを確認する。それを記載するのがポリゴン図表で、乳歯列用と、混合歯列期のヘルマンの咬合発育段階に応じた表が準備されている、と講師は説明する。スライドの例では、歯列弓の幅が平均より狭いという所見が示される。講師が念頭に置いておくよう促すのが、個々の歯の大きさだ。永久歯の歯冠幅が平均より小さい場合は問題になることが少ない。しかし平均より大きい場合は、動的咬合誘導で歯列弓を平均程度まで広げても、きれいには並ばないことがある。予定している治療が十分な結果を得られる方法かどうかを考えるうえで、歯冠幅の確認も重要になる、と講師は言う。保隙より先に、大臼歯を戻すべき場合講義の後半では、混合歯列期に用いる歯列周長分析の手順が紹介される。第一大臼歯の近心面から、各歯の接触点を結ぶ滑らかな弧で反対側の第一大臼歯の近心面までをつなぐのが歯列周長。正中のずれ、前歯の唇舌的な傾き、第一大臼歯の咬合関係を確認したうえで、前歯の実測値と側方歯群の予測値を求め、四分の一顎ごとにスペースの過不足を数値で表す、という流れだ(予測に用いる式や表の詳細は、本稿では扱わない)。そのうえで講師は、冒頭の症例の結論を示す。第二乳臼歯を抜歯して時間がたつと、後方の第一大臼歯が近心に移動することがよく起こる。その結果、側方歯群の萌出余地が不足する。歯列周長分析でその不足が大きいと分かった場合は、保隙という選択肢ではなく、まず第一大臼歯を遠心に移動させて(リゲイン)十分な萌出余地を確保し、そのうえで保隙をする、という2段階の治療が必要になる、と講師は説明する。編集部の解釈としては、冒頭の問いの答えはここにある。保隙装置そのものが間違いなのではなく、抜歯なのか未萌出なのか、すでにスペースが失われていないかを確かめないまま装置を決めることが問題になる。広い意味の咬合誘導が「見守る」ことを含むという講義の入り口は、この確認の手順と地続きになっている。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、ポリゴン図表の数値、歯列周長分析で用いる回帰式や予測表の具体的な値は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。動的咬合誘導装置の種類や使い方は、YouTubeで公開されている前半部分では詳しく語られていない。本稿は講義内容の整理であり、個々の患者の検査・装置の選択は、各自の判断と必要に応じた専門医との連携のもとで行ってほしい。元動画を見る【咬合誘導】実践で使える知識と技術を学びましょう(2024年3月30日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年11月3日
【ミニセミナーを覗く】「4mmくらいなら様子を見よう」と思っていませんか?――講師が見せた、治療が止まった2年間のエックス線写真

【ミニセミナーを覗く】「4mmくらいなら様子を見よう」と思っていませんか?――講師が見せた、治療が止まった2年間のエックス線写真

上顎の前歯の近心に、5mmのポケットとわずかな垂直性の骨吸収。ほかの部位を先に進め、この歯は最後に回していた。1Dの「25分間」ミニセミナー「【歯周外科】チェアサイドの "勘所" はここだ!」で、講師が「オペをしないとどうなるのか」として映したのは、この患者のエックス線写真の経過だった。コロナ禍で治療が中断し、気づいたときには骨吸収が根尖の近くまで進んでいた、と講師は話す。スライドの題は「まずは、SRP後に4mmの単純な部位を、切開してみたらどうですか?」。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。最後に回した前歯で起きたこと講師の説明によれば、初診は2020年3月。上顎左側中切歯の近心に5mmのポケットがあり、垂直性の骨吸収がわずかに見られた。この程度ならこの部位は最後にしよう、と他の部位から治療を進めていたところ、コロナ禍で講師の病院も一時的に診療を縮小し、結果としてこの部位には2年ほど手をつけられなかったという。スライドには2020年3月、2021年11月、2023年3月の写真とエックス線写真が並ぶ。講師は、基本治療はそれなりに行っていたが、それでも歯石の取り残しがあったと振り返る。いちばん取れそうな上顎前歯でも、4mmを超えるところでは取り残しが起こる。スケーラーの幅や、麻酔をせずに行う痛みもあって少し手を控えてしまったことが自分の反省点だ、と講師は話す。最初の段階で再評価してもう一度SRPを行うか、前歯でも少し開けさせてもらえば、あっという間に解決できていたはずだ、というのが講師の見立てだ。講師がこの症例を「たまたま」持っていたと説明する点も重要だろう。悪くなっていくのを経過観察することは倫理的にもありえないので、オペをしないとどうなるかを示す症例はなかなか持てない、と講師は言う。講師自身の経験であり、すべての4mmの部位が同じ経過をたどるという話ではない。それでも、問題が解決されないまま「また困ったら来てください」となれば、こうした経過になりうる、というのが講師の問題提起だ。歯周外科は、なぜためらわれるのか講師はまず、歯周外科そのものがあまり行われていない現状に触れる。スライドには、歯周病分野の研究者から提供を受けたというレセプト情報(NDB)の解析が映り、SRPの算定回数に比べて、フラップ手術の算定回数がはるかに少ないことが示される。講師の見方では、どれだけ頑張っても外科まで治療を受けられる患者はごく一部にとどまる、それが日本の実情だという(スライドの算定回数は、編集部で原典を確認できていないため本稿では載せない)。ためらう理由として講師が挙げるのは、まず「オペをしても治らないのではないか」という気持ちだ。講師と同世代の歯科医師が学んだころは再生療法がなく、切除療法としてのフラップ手術では歯肉が下がり、骨はなかなか戻らない。プラークコントロールが悪くなったり咬合性外傷があったりすれば、10年、20年と予後が良いとも限らない。そうした気持ちを払拭できない歯科医師は少なくない、と講師は言う。そのうえで、ポケットを測らずにエックス線写真で大きな問題がないからと補綴処置に入っていく例も、決して少なくないと指摘する。もう1つの理由として講師が挙げるのが、学びの場とのギャップだ。専門誌やライブで紹介されるのは最先端の高度な手技が多いが、卒業後に歯周治療を専門的に学ぶ場で研修を受ける人は少ない。いざ自分でやろうとしたとき、参考にするもののレベルが高すぎるのではないか、と講師は感じている。教科書にある「治る要件」では、何が足りないのか。講師が示すのは、自身の大学で学生が使う教科書の図だ。歯周病の原因はプラーク、とりわけ歯周病原細菌であると定義されている。しかし、歯磨きだけをしていれば治るわけではない。病気が進み始めたところに、火に油を注ぐように働く「促進因子」がある、と講師は説明する。講師が挙げる促進因子は具体的だ。ブラキシズムなどによる咬合性外傷、喫煙、糖尿病。服用している薬によって唾液が減り、自浄性が落ちること。日本人を含むアジア系の人では大臼歯の分岐部にエナメル突起やエナメル真珠がしばしば見られるといった、歯の形態。そして講師が最近とても多いと感じるという、セメント質剥離。年齢とともに根尖側のセメント質が厚くなり、繰り返し力がかかるとひびが入り、ポケットがないのに下のほうで骨が失われる、という。ほかにも、ブリッジの支台歯になっている、臼歯部の欠損を補綴していないために小臼歯に力がかかる、といった要因が挙げられる。講師は、これらは学生時代に講義でも定期試験でも出てきた当たり前の知識だが、目の前の患者の口の中と重ね合わせることが十分でないために、治る要件が満たされず、外科をしても思うようにいかないのではないか、と話す。歯周外科は大切だが、それを成功させる環境づくりがすごく重要だ、というのが講師の伝えたいことだという。再生療法に「期待しすぎない」講師は、医局員の治療を見ていて気づくこととして、適応症の選択を挙げる。保険で使える再生療法の選択肢が出てきたことで、再生と聞けば治るという期待が大きくなりがちだ、と講師は言う。知識だけでは追いつけないところがある、とも。講師が示すのは、上顎第一小臼歯の近心だけに7mmのポケットが残った患者だ。基本治療は短期間でうまく進み、ほかの部位はほとんどが2mmか3mmになった。この部位は7年前にも再生治療を受けていたが、うまくいかなかったという。保険診療で紹介されてきた患者でもあり、講師は保険で使える再生剤を適用したが、1年たってもポケットはまったく変わらなかった。講師はこれを、実際には適応を超えていた、とまとめている。編集部の解釈としては、冒頭の「4mmの単純な部位から切開してみる」という提案と、この症例は対になっている。単純な部位で一歩を踏み出すこと、そして難しい部位では再生療法に過大な期待をかけず、適応を見極めること。どちらも、外科の手技そのものより前の判断の話だ。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、利益相反の開示の詳細、レセプト解析と歯科疾患実態調査の数値、症例の骨吸収の深さの数値、再生療法に用いた薬剤の名前、冒頭の症例での縫合法の詳細は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。再生療法の適応の具体的な基準は、YouTubeで公開されている前半部分では詳しく語られていない。本稿は講義内容の整理であり、歯周外科の適応と術式は、検査結果と各自の判断に基づいて決めてほしい。元動画を見る【歯周外科】チェアサイドの "勘所" はここだ!(2024年3月29日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年11月2日
【ミニセミナーを覗く】「埋入のドリルは最初から立てる」と思っていませんか?――講師が最初にバーを横に使う理由

【ミニセミナーを覗く】「埋入のドリルは最初から立てる」と思っていませんか?――講師が最初にバーを横に使う理由

初めてインプラントを埋入するとき、ドリルを骨に当てた瞬間に先端が滑っていく。1Dの「25分間」ミニセミナー「【オペ動画で学ぶ】初心者のためのインプラント埋入術」で、講師が手術映像を止めて見せたのは、この場面だった。バーを最初から立てて使おうとすると流されてしまうので、横にしてバーの腹をしっかり当て、骨を削っていくのがポイントだ、と講師は言う。表面の硬い骨を越えるところまではラウンドバーで進め、溝が掘れてから縦に使う。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。「骨の中にネジを入れる」――最初に押さえる本質講師は、新卒の歯科医師を採用して育てる医療法人の立場から、インプラントをやったことのない歯科医師がどこでつまずくかに詳しい、と前置きする。講義のメインタイトルとして掲げるのは「研修医でもできるインプラント」。本当にできるのかとよく言われるが、自分ができるケースをしっかり見極めて、それを確実にやることがいちばん大事だ、と講師は話す。講師は、埋入の流れを短い映像でまず見せる。歯肉を切って開くと骨が出てくる。そこにインプラントを入れるための穴を開け、ネジを入れ、切った歯肉を縫って終わる。これだけ見るとシンプルで、あとはこの過程を細かくしていくだけだという。本質的には骨の中にネジを入れることなので、そんなに怖がらなくていい、と講師は言う。編集部の解釈としては、これは手術を簡単だと言っているのではなく、手順を細かく分けたときに、どの工程が何のためにあるのかを見失わないための整理だろう。講師自身が、ケースの見極めを何よりも先に置いている点は読み落とさないでおきたい。切開の前に骨を探り、継ぎ目を確かめる手術の最初に講師が挙げるのは、骨がどこにあるかを探針で確認することだ。インプラントに限らないが、探針で歯肉の上から骨の位置を確かめ、この辺りに骨があると見てから手術を始めるようにしている、と講師は話す。切開について講師が具体的に注意するのは、歯肉溝の切開と歯槽頂の切開の継ぎ目だ。この部分が切れていないことが多いので、もう一度確認し、切れていなければメスに戻る。骨までしっかり当てて切れていれば、剥離子で思い切りこじ開けなくても、歯肉溝と歯槽頂の角のところから引っ掛けるとすっとフラップが開く、と講師は説明する。剥離子は「剥がす」という名前から、ぐいぐいねじ込むイメージを持たれがちだが、切開が入っていれば力はいらない、ということだ。両刃のメスについては、口腔内から取り出すときに患者の唇を切ってしまうリスクがあるので、最初はあまり使わないほうがよい、とも講師は述べる。頬側のフラップを押さえるアシスタントも初めてのことが多いので、見やすい位置に自分で剥離子を持っていき、「ここで押さえて」と渡すのがよい、という助言もあった。バーを横に使い、深度ゲージで方向を確かめる骨の形成で講師が最初のステップとするのは、骨表面の平坦化だ。ラウンドバーで表面をならしていく。そのうえで、表面の皮質骨に穴を開けるところから始める。ここで冒頭の、バーを横に使うという話が出てくる。皮質骨の厚さは患者によって違うが、それを越えるとぐっと入り込む感触があり、そこからは海綿骨になる。そこまではラウンドバーでしっかり進めてよい、と講師は言う。講師は抜歯即時埋入の映像でも、同じ理由でラウンドバーを使っていると説明する。いきなりインプラント用のバーで削ると先端が流されるため、ラウンドバーでバーを固定するための引っかかりを作る。ラウンドバーはふだんう蝕を取るときに使い慣れているので、ストレートのバーより自由な方向に形を作りやすい、というのが講師の見立てだ。パイロットドリルでの形成では、近遠心的な方向と頬舌的な方向を、右・左・上といろいろな方向から自分の目で見てチェックすること。少し形成したところで一度深度ゲージを入れて方向を確認し、問題がなければ先へ進むこと。バーはずっと踏み込み続けるのではなく、予定の深さが近づいたらゆっくり進めること。講師はこれらを、ドリルを替えるたびに繰り返し確認する手順として見せている。インプラントを入れるときは、形成した方向と同じ方向に入るよう、垂直方向に力をかけながら回していくことを忘れないように、とも言う。なお講師は、埋入時のトルクの設定や形成の長さについて自身の値を挙げているが、機種や製品、症例によって異なるため、本稿では数値を扱わない。縫合は「単純縫合を確実に」講師は縫合について、通常のインプラントでは全層弁でフラップを開いてそれを戻すだけなので、特別な技術は必要なく、単純縫合をしっかりすることがすべてだと話す。ただ、それが意外と初めての歯科医師には難しいとして、模型で糸の巻き方と締める方向を示している。講師が添えるのは、経験が少ないうちは縫った糸が1本、2本と普通に外れてくるので、少し多めに縫っておいたほうがよい、という助言だ。1歯欠損なら近心と遠心を1本ずつ縫えばおおむね足りるが、2本だけだとどちらかが外れたときに困る、という理由だ。水平マットレスや垂直マットレスなどの縫合は、慣れてから行えばよい、と講師は言う。骨が柔らかい症例では、別の注意がいる講義の後半で講師が示すのは、上顎で骨が柔らかい症例だ。フラップを開いたら、まず中に肉芽が残っていないかを鋭匙や探針で確認する。ある症例では、ラウンドバーで上部を確認しただけで、ドリルを一度も使わずにインプラントが入ってしまうほど中が柔らかかった、と講師は話す。抜歯窩が閉鎖しきっていない場合には、こうしたこともあるという。骨が柔らかいときは、バーの回転をごくゆっくりにする。高速で削ると骨が飛んでしまうので、方向を見ながら丁寧に進める、と講師は説明する。2本を埋入するときは、1本目の位置に深度ゲージを入れたまま残りを形成すると方向を合わせやすい、という工夫も示される。さらに講師は、埋入後に確認したところ頬側の薄い骨が揺れていて、フラップを少し大きく開けてみると破折していた、という症例も見せる。このような場合は骨造成(GBR)が必要になり、骨補填材を入れてメンブレンで覆い、縫合して終えたという。編集部の解釈としては、「簡単に見える」手順の中で、骨の状態に応じて判断を変える場面がどこにあるかを示すための症例だろう。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、医療法人の規模、研修医が担当する症例数の表、使用しているインプラントの製品名、トルクの設定値や形成の長さ、縫合糸の太さなどは扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。本稿は講義内容の整理であり、インプラント治療は症例の見極めと十分な研修のもとで行い、術式や器材の選択は各自の判断と製品の取扱説明書に基づいて行ってほしい。元動画を見る【オペ動画で学ぶ】初心者のためのインプラント埋入術(2024年3月24日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年11月1日
【ミニセミナーを覗く】「CRの時間は、詰める作業で決まる」と思っていませんか?――講師が挙げたのは形態修正と咬合調整

【ミニセミナーを覗く】「CRの時間は、詰める作業で決まる」と思っていませんか?――講師が挙げたのは形態修正と咬合調整

臼歯の2級窩洞を、保険の限られた時間でコンポジットレジン修復する。時間を詰めたいとき、まず急ぎたくなるのは充填そのものかもしれない。1Dの「25分間」ミニセミナー「「保険 × 高速」でCR修復を行うテクを伝授します」で、講師が時間のかかる場所として挙げたのは、別のところだった。雰囲気でレジンを盛っていくと、時間を取られるのは形態修正と咬合調整だという。だから講師は、充填の前に歯の形をよく見て、咬頭そのものより咬頭と咬頭の間の溝をつくるイメージで積んでいく。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。時間がかかるのは、詰めた後だったスライドに映る講義のタイトルは「GPのための保険適応CRテクニック」。講師は冒頭で、どこがポイントで時間を短縮できるのかを考えたいと話す。講義の中で講師が繰り返すのは、手を速く動かすことではなく、迷わない形に持っていくことだ。前歯でも臼歯でも、できるだけ単純な窩洞に持っていき、その道筋に沿って充填すれば時間を短縮できる、と講師は言う。そのうえで講師がはっきり指摘するのが、時間を食う工程だ。自分の雰囲気でレジンを盛っていくと、何に時間がかかるかというと形態修正と咬合調整だ、と講師は話す。逆に、もともとの歯の形に沿って積めば、咬合調整はごくわずかな時間で済む。ここを短くすれば、臼歯の修復はさらに短時間になるはずだ、というのが講師の見立てだ。編集部の解釈としては、講師の言う「高速」は充填操作の速さではなく、後戻りの工程を減らすことに重心がある。以下では、その前提となる接着の話から、充填の組み立て方、残る課題までを順に見る。接着が、窩洞の形を変えた講師が最初に振り返るのは、歯質への接着がもたらした変化だ。金属修復のために2級窩洞を形成する場合、外形はう蝕の大きさや対合関係などで決まり、そこに予防拡大、つまり外形線を自浄域まで広げる考え方が入ってくる。講師はスライドの図で、隣接面側の拡大が必要になる窩洞を示す。一方、コンポジットレジン修復なら、う蝕を除去し、窩洞の外形をなめらかな曲線に整えれば窩洞形成は終わる、と講師は説明する。金属修復では除去しなければならない、支えのないエナメル質も残せる。外開きの箱形の形態も要らない。講師はこれを、歯科医師にとっても患者にとっても大きな恩恵だと位置づける。スライドには「接着システムの変遷」として、第1世代から第8世代までの流れが道のように描かれ、最後にユニバーサルアドヒーシブが置かれている。講師はトータルエッチングに始まり、プライマーの開発、エッチ&リンス、セルフエッチングを経てユニバーサルアドヒーシブへ進化してきたと整理し、いまはこれらを使い分けられる時代だと話す。窩洞を単純にする考え方は前歯でも同じだ。講師は前歯の破折症例で、模型上のモックアップからシリコーンガイドをつくり、口蓋側の壁(バックウォール)を先につくる手順を示す。バックウォールができれば、あとは象牙質の色を調整するペーストを置き、その上にエナメル質のペーストを置いて積み上げていくだけで、想定した形ができあがる、と講師は言う。若いころのけがで折れた前歯の修復が外れた症例では、外れた修復物をもとにシリコーンガイドをつくってバックウォールを再現し、隣在歯との接触はセクショナルマトリックスとウェッジでつくってから仕上げている。この症例は講師の経験として紹介されたもので、その後の経過年数は本稿では扱わない。エナメル質と象牙質は、同じようにはくっつかない講師は、エナメル質を対象にした接着では、リン酸エッチングがゴールデンスタンダードだと話す。スライドには「リン酸エッチングの効果」として、表層の除去(清掃作用)、粗造面の形成、接着面積の増加、表面自由エネルギーの向上(ぬれ性)、レジンタッグの形成(投錨効果)が並ぶ(除去される厚みの数値もスライドにあるが、編集部で原典を確認していないため載せない)。講師はさらに、エナメル質の最表層は構造のはっきりしない層でエッチングパターンができにくいため、最表層を一層だけ削ってからエッチングする操作があると説明する。削る量はごくわずかでよい、というのが講師の説明だ。象牙質はより複雑だ。講師によれば、象牙質は有機質と水分に富み、内部に象牙細管があって、その中には組織液が入っている。細管はエナメル質に近いところでは細く数も少ないが、歯髄に近づくほど数が増え、径も太くなる。う蝕による変化の影響も受ける。こうした一様でない象牙質に均一に接着させるのは難しい技術だったが、2ステップのセルフエッチングシステムで培われた機能性モノマーの技術が、いまの高い接着耐久性につながっている、と講師は言う。臨床の手順として講師が勧めるのは、エナメル質だけを選択的にリン酸エッチングするセレクティブエッチングだ。小さな窩洞ではする場合としない場合があるが、2級窩洞や大きな1級窩洞では勧める、と講師は話す。そのとき象牙質にはできるだけリン酸エッチング材が付かないよう注意する。ユニバーサルアドヒーシブについては、機能性モノマーが鍵で、水の含有量は製品によって大きく違い、重合方式が異なる製品もあるため、組成と性質をよく知って使う必要がある、とも付け加える。咬頭ではなく、咬頭と咬頭の間の溝をつくる講義の中心は、臼歯の充填の組み立て方だ。講師がコンポジットレジンを選ぶ理由として挙げるのは、操作性に加えて、不透明性と透明性のバランス、そして研磨性だ。研磨性は非常に重要だと講師は強調する。講師が示す1級複雑窩洞の症例では、セレクティブエッチング、水洗・乾燥、アドヒーシブの塗布の後にライニングを行い、まず頬側にレジンペーストを置いて頬側の面を立ち上げる。こうして1級複雑窩洞を1級単純窩洞の形に変える。そのうえで、咬頭を1つずつ、レジンを入れて形を整え、光を当てる、を繰り返して充填を終える。このとき講師が勧めるのは、咬頭をつくるというより、咬頭と咬頭の間に溝をつくっていくイメージだ。もう1つのポイントは、咬頭の内斜面に沿わせること。隆線をつくるのではなく、隆線と隆線の間に溝をつくり、溝を中心に考える、と講師は繰り返す。それによって、もともとあった形に戻す「原形態の回復」が可能になるという。もとの形はもうないのだから戻せない、と言われればそうだとしか言えない、と講師も認める。そのうえで講師は、2つの手がかりを挙げる。1つは、その歯の一般的・標準的な解剖学的形態をイメージすること。もう1つは、咬頭の内面はそれぞれの歯が持っているので、それに沿わせることだ。充填の前にじっと見ていると歯の形がだんだん見えてくるので、その形に合わせて内斜面に沿わせて積んでいけばよい、と講師は言う。冒頭で触れた形態修正と咬合調整の時間は、ここで決まる。重合収縮と摩耗は、まだ残る課題講師は、接着が進んでもまだ解決できていないのが重合収縮だと話す。接着していない自由な状態なら、光を当てるとレジンは中心に向かって収縮しようとする。しかし窩洞の中に接着の弱いところがあると、強いところに引かれ、弱いところにはギャップができる。エナメル質にしっかり付いた側へペーストが寄っていくこともある。光の方向に向かって収縮するという話は、伝説的なところもある、と講師は付け加える。エナメル質に強く付いた場合には、逆にエナメル質側に亀裂が入ることもある。講師は、レジンを含浸させる処置で亀裂を埋めれば問題はないと言われている、と伝聞として紹介する。重合収縮は、エナメル質の微小な亀裂、辺縁の微小漏洩、歯髄への刺激の原因にもなりうる。これを減らすために行われている方法として、講師はフロアブルレジンによるライニングと、斜めに積んでいく積層充填を挙げる。もう1つの課題として講師が示すのが摩耗だ。直接咬み合う部分が減っていくことに加え、食物などでフィラーが脱落して全体が減っていく。大きなフィラーがあると、そのフィラーだけが抜けて摩耗が大きくなる。そこで細かいフィラーを使い、操作性と光の拡散性を補うためにクラスターを組み合わせる、といった工夫が進み、細かいフィラーを高密度に充填できるようになって、摩耗にも良好な予後が期待できるようになってきている、と講師は話す。講師は最後に、臼歯部の修復の長期経過を示し、研磨面がほとんど変わっていないことに注目してほしいと述べる。ただし、対合歯としっかり咬み合っていることや、患者の咀嚼のパターンも関係するだろう、と講師自身が留保している。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、講師が使うコンポジットレジンや接着材の製品名、象牙細管の密度や直径などスライドや字幕に出てくる数値のうち編集部で原典を確認していないもの、症例の経過年数、患者の留学先での治療の話は扱っていない。接着システムの各世代が登場した年代も、自動字幕の聞き取りが不確かなため載せていない。間接修復で使うコンタクトキュア(タッチキュア)の話も講義に含まれるが、本稿は直接修復に絞った。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。本稿は講義内容の整理であり、材料の扱いは各製品の添付文書に従ってほしい。元動画を見る「保険 × 高速」でCR修復を行うテクを伝授します(2024年3月22日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年10月31日
【ミニセミナーを覗く】「CRを速くするには手を速く」と思っていませんか?――講師が削るのは形態修正と咬合調整の時間

【ミニセミナーを覗く】「CRを速くするには手を速く」と思っていませんか?――講師が削るのは形態修正と咬合調整の時間

コンポジットレジン修復を速く終えたいとき、まず短くしようとするのはどこだろうか。1Dの「25分間」ミニセミナー「「保険 × 高速」でCR修復を行うテクを伝授します」で、講師が時間のかかる場所として挙げたのは、レジンを盛る作業そのものではなかった。雰囲気でレジンを盛っていくと、時間を取られるのは形態修正と咬合調整だ、と講師は言う。そこを短くすれば臼歯部の修復はさらに短時間になるはずだ、というのが講義の軸になっている。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。削る量を決めていたのは、修復物の都合だった講師が最初に示すのは、接着が臨床にもたらした最も大きな利点だ。従来の2級窩洞の形成では、う蝕の大きさや対合関係に加えて、外形線を自浄域に置く「予防拡大」が外形を決める要素の1つになり、隣接面の部分を広げる必要があった。コンポジットレジン修復であれば、う蝕の部分を除去し、窩洞の外形全体を滑らかな曲線に整えれば形成は終わる、と講師は説明する。さらに講師は、従来の修復では除去しなければならなかった部分のエナメル質を残せること、外開きの箱形の形成も不要になることを挙げる。接着によって、削る量の基準が「修復物を保持するため」から「う蝕を取り除くため」へと移った、ということだ。講師はこれを、歯科医師にとっても患者にとっても大きな福音だと表現する。時間を縮めるのは「単純な窩洞」と「先に作る壁」では、どうすれば修復の時間が縮むのか。講師が繰り返すのは、複雑な窩洞をできるだけ単純な窩洞に持っていくという考え方だ。前歯でも臼歯でもこれを考えるべきで、その道筋に沿ってレジンを充填していけば時間の短縮が可能になる、と講師は言う。前歯の破折症例で講師が示す手順は、こうだ。印象を採って模型上でワックスアップをし、シリコンガイドを作る。エナメル質だけを選択的にエッチングし、水洗・乾燥の後に接着材を塗布する。このときエナメル質はエッチングされているので、エッチングパターンを壊さないようにそっと塗るという。そしてシリコンガイドを使って舌側の壁(バックウォール)を作る。この壁ができれば、あとは色調をコントロールするペーストとエナメル質用のペーストを積み上げていくだけで、想定した形ができあがる、と講師は話す。講師が紹介するもう1つの破折症例は、高校生のころにスキーで歯を折り、20年以上もっていた修復物が昼食中に外れたという患者だ。外れた修復物をもとにシリコンガイドを作り、バックウォールを作った後、隣在歯との間に隔壁とくさびを入れて接触点を作り、隔壁を外して唇側にペーストを盛り、形態修正と研磨で終える。講師の経験として語られる症例で、その後も外れずに経過している、という。臼歯部でも考え方は同じだ。講師は1級の複雑窩洞の症例で、まず頬側にペーストを置いて壁を作り、複雑窩洞を1級の単純窩洞に変える。そこから咬頭を1つずつ、レジンを入れて光を当てる作業を繰り返していく。2級窩洞や大きな1級窩洞では、エナメル質だけを選択的にエッチングすることを勧める、とも述べている。咬頭を作るのではなく、咬頭と咬頭の間の溝を作るこの講義で講師が最も具体的に語るのが、充填のときの形のイメージだ。目標は咬頭を作ることよりも、咬頭と咬頭の間の溝を作っていくこと。そしてもう1つが、それぞれの咬頭の内斜面に沿わせることだという。講師は、これによって元あった形に戻す「原形態の回復」が可能になり、これが保存修復における形態付与の大きな原則だと説明する。元の形はもうないのだから元には戻せない、と言われれば、そうですねと言うしかない、と講師は認める。それでも、たとえば下顎第一大臼歯なら標準的な解剖学的形態をイメージすること、そして咬頭の内面はそれぞれの歯に残っているので、そこに沿わせること。そうすれば咬合調整はごくわずかな時間で済む、と講師は話す。充填の前に歯をじっと見ていると形がだんだん見えてくるので、その形に合わせて内斜面に沿わせていく、という助言も添えている。編集部の解釈としては、ここが講義タイトルの「高速」の中身だろう。手を速く動かすことでも工程を省くことでもなく、最初から元の形に近いものを盛ることで、後の削り直しを減らす。時間を縮める場所を、充填の後工程に見ている点が、この講義の特徴といえる。速さの前提にある接着の仕組み講師は、こうした手順を支える接着の仕組みにも時間を割く。接着システムは、1970年代のトータルエッチングから始まり、3ステップ・2ステップのエッチアンドリンス、セルフエッチング、シングルステップを経て、現在多く使われるユニバーサルアドヒーシブへと進化してきた、と講師は整理する。エナメル質については、リン酸エッチングがゴールデンスタンダードだという。スライドには「リン酸エッチングの効果」として、表層から10μmを除去(清掃作用)、粗造面の形成、接着面積の増加、表面自由エネルギーの向上(ぬれ性)、レジンタッグの形成(投錨効果)の5つが示される。講師はさらに、エナメル質の最表層は構造の異なる層でエッチングパターンができにくいため、最表層を一層削除してからエッチングする操作がある、と説明する(講師はこの層の厚みにも触れるが、スライドで確認できなかったため本稿では数値を載せない)。象牙質は有機質と水分に富み、象牙細管の中にも組織液があり、深さによって構造が一様ではない。う蝕による変化も加わるため、一様に接着させるのは難しかったが、セルフエッチングシステムで培われた技術が高い接着耐久性につながっている、と講師は言う。ユニバーサルアドヒーシブは製品によって含まれる水の量や成分、重合方式が異なるため、組成と性質をよく理解して使う必要がある、という指摘も添えられる。間接修復では、ユニバーサルアドヒーシブをプライマーとして使い、レジンセメントと接触したところから重合が進む機能が、脱離しにくさにつながる重要な点だと講師は述べている。まだ解決していない、重合収縮と摩耗講師は、コンポジットレジン修復の弱点にも触れる。まだ解決できていないのが重合収縮だという。接着していない状態で光を当てると、レジンは中心に向かって縮もうとする。窩洞の中に接着の弱いところがあれば、強いところに引かれて弱いところにギャップができる。エナメル質にはしっかり付いていても、今度はエナメル質の側に亀裂が入ることもある、と講師は説明する。こうした問題を減らすために行われているのが、フロアブルレジンによるライニングや、斜めに積み重ねていく積層充填だという。もう1つは摩耗だ。講師は、直接咬み合う部分だけでなく、食物などによって表面のフィラーが取れて減っていくことを示し、大きなフィラーが脱落すると摩耗が大きくなると説明する。細かいフィラーを高密度に充填する技術が進み、摩耗の問題にも良好な予後が期待できるようになってきた、というのが講師の見立てだ。講義の終盤では、約10年経過した臼歯部の症例を示し、研磨性が良好だったことに注目してほしいと述べる。ただし講師自身が、これは対合歯がしっかり咬合していることや、その患者の咀嚼のパターンも関わっていると思う、と留保している。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、症例に使われた製品名、講師が挙げたエナメル質最表層の厚みや象牙細管の比較、レジンセメントの厚みなど、スライドで確認できなかった数値は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。動画のタイトルにある保険診療での具体的な算定や材料の選び方は、YouTubeで公開されている前半部分では詳しく語られていない。本稿は講義内容の整理であり、個々の症例での術式の選択は、各自の判断と最新の製品情報に基づいて行ってほしい。元動画を見る「保険 × 高速」でCR修復を行うテクを伝授します(2024年3月22日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年10月31日
【ミニセミナーを覗く】「禁食の人は、食べられない人」と思っていませんか?――講師が映したのは、8か月食べていなかった人の内視鏡

【ミニセミナーを覗く】「禁食の人は、食べられない人」と思っていませんか?――講師が映したのは、8か月食べていなかった人の内視鏡

くも膜下出血の後、誤嚥性肺炎を2度起こして胃瘻になり、初診まで約8か月、口から食べていなかった69歳の女性。1Dの「25分間」ミニセミナー「【摂食嚥下障害】正しい評価と訓練法を学びましょう」で、講師が最初の症例として映したのは、この人の初診時の内視鏡検査の映像だった。バナナもお粥も、飲み込んだ後の喉はきれいだった。スライドの経過図には「初診時 直接訓練可能レベル」、そして「3ヵ月後 完全に常食摂取可能」と書かれている。食べてはいけない状態に置かれていた人が、食べられない人だったとは限らない。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。8か月、口から食べていなかった人の内視鏡スライドの症例報告によれば、患者は69歳の女性で、原疾患はくも膜下出血。ADLは部分介助のレベルだった。発症後に誤嚥性肺炎を2度起こしたため経口栄養から胃瘻になり、その後肺炎はない。主訴は「口から栄養を摂りたい」で、初診は発症から約8か月後。それまで系統だった嚥下リハビリは行われていなかった、とスライドにある。講師は初診時の内視鏡映像を流しながら説明する。バナナは潰れていて、咀嚼できない人ではないと分かる。飲み込んだ後も喉に残っていない。お粥のほうは、食べ物が喉の片側からしか入ってこないが、これは口や喉の麻痺ではなく、姿勢が傾いていたために食べ物が片側を伝っていただけだという。講師の見立ては、嚥下の機能としてはそれほど悪くない、というものだった。それでも講師は、8か月食べていない人に「明日から食事をどうぞ」とはしなかったと話す。少しずつ食べる練習から始め、1週間後に再び訪問して練習がうまくいっていることを確かめ、そこから練習ではなく食事に切り替えていった。3か月後の映像では、喉の動きが初診時より大きく速くなり、固形物も、とろみのない液体も問題なく飲み込めている。スライドの経過図には、胃瘻を抜去し、フォローアップでも異常がなかったことが示されている。講師がこの症例を出したのは、結果が良かったからではないという。当時は在宅で嚥下のリハビリをすることがほとんどなく、始めなければずっと禁食のままだったかもしれない。しかも初診時の時点ですでにうまく飲み込めていたのだから、時間とともに改善していた人が、そのまま置かれていた可能性がある。歯科が摂食嚥下の患者に関わるのは入院中より退院後、在宅や施設に移ってからのことが多い、というのが講師の問題意識だ。食べる機能と、栄養の摂り方が合っていないでは、ほかの患者も同じように置かれているのではないか。講師が次に示すのは、自分たちが訪問診療で診た患者の初診時の内視鏡検査の結果を、後輩がまとめたグラフだ。スライドでは、現在の栄養摂取方法と、検査から見て妥当な栄養摂取方法を線で結び、「低すぎた例」と「高すぎた例」に分けている。講師の説明では、初診時に禁食だったのに食べる機能が残っている人と、普通の食事を食べていたのに食形態を調整しないと危ない人が、それぞれまとまって見られたという。この集計は学会発表として示されたもので、編集部では原典を確認できていないため、人数や割合は扱わない。続けて講師は、在宅で診た2人の初診時の映像を並べ、どちらが悪いかを問う。片方は送り込みも飲み込みも速い。もう片方は飲み込めていないだけでなく、食べ物が気管に入り、咳で出し切れずに再び吸い込んでいる。実際には、悪いほうの人が口から食べていて、良いほうの人が「食べてはいけない」とされたままだった、と講師は明かす。講師は、食べる機能と栄養の摂り方が合っていない人がたくさんいるのに、そこを置いたまま口腔ケアや嚥下の練習だけをするのは違う、と話す。前からやっているから続けている訓練、前からそう決まっているから続けている禁食。講師はこれを、長く持っているものを手放せなくなる「保有効果」の例として挙げ、臨床に持ち込まないよう注意を促す。冒頭の症例でも、練習がうまくいっているからといってそのまま練習を続けるのは違い、うまくいっていることに加えて、患者自身が上向きになっている感じがつかめたら次へ進むタイミングだ、と講師は言う。薬の飲み方に、食べる力のヒントがある講師は薬にも目を向ける。スライドに並ぶのは、口から食べるのは無理と言われているのに薬はまったくむせずに飲んでいる人、逆に経口摂取が無理なのに薬は口から飲ませて吸引している人、25種類もの薬を飲んでいる人の例だ。前者について講師は、薬を口から飲めているなら何も食べられないことはないだろうと述べる。後者については、その薬が必要なら剤形を調整したり飲み方を工夫したりする手伝いをすればよい、という。もう1つは、副作用が連鎖した例だ。パーキンソニズムの薬の副作用で口の不随意運動が出て、それを抑える薬で口腔乾燥が出て強い不安症状が出て、その薬でさらに口腔乾燥が悪化して眠れなくなり、睡眠薬が出て味覚異常も出た――とスライドにある。講師は、味覚がおかしいから次の薬、ではなく、日常生活を改善して薬を減らせないかを考える人がいないと、もとはどんな人だったのか分からなくなるほど薬で変わってしまう、と話す。そのうえで講師が「覚えてしまってほしい」とするのが、食べることに影響しやすい4つの副作用で、スライドには「口腔乾燥」「錐体外路症状」「筋弛緩・傾眠」「食欲低下」と示される。講師の臨床の印象では錐体外路症状がいちばん多いというが、これは講師の診ている患者層にもよる、と本人が留保している。編集部で厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月)を確認したところ、薬剤によって起こる老年症候群の1つとして食欲低下が挙げられ、6種類以上の服用で有害事象が増えるというデータが紹介される一方、剤数よりも中身が大事だとも書かれていた。嚥下機能の障害がある場合に剤形の変更を考えることにも触れられている。検査は2つ。それでも「ないと進めない」わけではない摂食嚥下障害の精査は、エックス線透視を使う嚥下造影(VF)と、内視鏡を使う嚥下内視鏡検査(VE)の2つだと講師は整理する。そのうえで、VFやVEは摂食嚥下の分野ではよく使われる略語だが、医学のほかの分野では別の意味で通じることもあるので、相手に通じる言葉で話す必要がある、と付け加える。講師はこの2つを良い検査としつつ、限界にも触れる。検査は何口か飲んでもらってうまく飲めるかを確かめるもので、その日の状態による違いや、食事の後半にうまくいかなくなるといったことまでは分かりにくい。細かいところは分かるが、細かいところが分からなければ進めない患者ばかりではないので、検査がなければできないと思う必要はない、と講師は言う。もちろん検査がないと難しい患者もいる、という留保も添えている。放っておいて良くなる人もいる講義の終盤で講師が示すのは、脳血管障害の後に摂食嚥下障害がどのくらい起こるかの報告だ。スライドには複数の報告が並び、講師は、どの報告でも早い時期には多いが時間がたつと減る、と要約する。スライドの1つ目に挙がる、片側の大脳半球の脳卒中を対象にした1989年の報告について、編集部で論文の要旨を確認したところ、発症48時間以内に意識のある患者357人を調べ、片側半球の脳卒中の30%近くに当初は嚥下の困難があり、嚥下に問題があった生存者の多くで、1週目の終わりまでに障害が解消していた、とあった。スライドに書かれたその後の時点ごとの割合と、ほかの報告の数値は、編集部で原典を確認できていないため載せない。講師は、こうした経過を知っていれば、冒頭の、カツ丼まで食べられるようになった人はこのパターンだったのかと腑に落ちるはずだ、と話す。いまの状態が禁食でも、この人は回復していきそうな人なのか、そうでないのか。そこを見ようとすることが、講師の言う「メタ認知」、つまり状況を俯瞰して見ることにつながるという。編集部の解釈としては、目の前の指示や食形態をいったん脇に置き、経過と現在の機能を並べて見直す、という姿勢が講義全体を通した主張だろう。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、講師が作成・運営に関わる情報サイトの詳細、訪問診療の後輩がまとめた集計の人数、脳血管障害の報告のうち原典を確認できなかった数値、症例の薬の具体的な名前は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。動画のタイトルにある訓練法の具体的な内容は、YouTubeで公開されている前半部分には含まれていない。本稿は講義内容の整理であり、個々の患者の評価や食事の開始は、主治医をはじめとする関係職種と相談して判断してほしい。元動画を見る【摂食嚥下障害】正しい評価と訓練法を学びましょう(2024年3月19日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
1D編集部
2026年10月29日

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