【ミニセミナーを覗く】「咬合平面はカンペル平面に平行なら正解」と思っていませんか?――講師が見せた「顔が曲がって見える」義歯
咬合平面はカンペル平面とほぼ平行にする。補綴の基本として覚えている先生は多いはずだ。1Dの「25分間」ミニセミナー「【咬合再構成】初学者のための考え方と咬合器を用いた実践法」の前半の最後に、講師はある義歯の症例を示す。装着されていた義歯の咬合平面は、フェイスボウで見るとカンペル平面にほぼ平行で、講師の言葉では補綴学的には何も間違っていない。それでも患者は、顔が曲がって見えると言って作り直しを希望していた。そこへ至るまでに講師が積み上げる、咬合再構成の前提を、スライドと自動字幕で確認できた範囲で整理する。デジタルの前に、アナログの基礎講義の冒頭のスライドには「Analog before Digital」と書かれている。講師自身、フェイススキャナーや口腔内スキャナーを臨床で使っていると言う。そのうえで、デジタル機器を使えば難しい咬合治療が簡単になる、顎位の決定が楽になる、というわけでは決してない、というのが講師の考えだ。カメラのような身近な機械なら初心者ほどデジタルが楽だが、咬合に関しては逆だと講師は言う。デジタルの利点を引き出すにも、土台になるアナログの知識と技術が要る。講師はまた、顎位の決め方や咬合論には現時点で統一見解がないとして、講義の内容はあくまで現時点の自分の考えだと断っている。本稿もその前提で読んでほしい。講師が示す咬合治療の流れは5段階だ。咬合治療の診断と分類、上顎(咬合平面の診断と決定)、下顎(咬合高径と適正下顎位の決定)、治療計画の決定と確定的歯科治療、補綴装置製作。前半部分で扱われるのは、主に最初の2つである。顎位を変えるのか、変えないのか最初の診断で講師が問うのは、全顎的な治療が必要かどうか、言い換えれば顎位を変えるかどうかだ。スライドには、修復治療の分類とBeckerの分類が挙がる。Beckerの分類のスライドでは、既存の咬頭嵌合位(MIP)を採用して顎位を変更しない場合として、単冠、少数歯のクラウンブリッジ、少数歯の部分床義歯、少数歯のインプラント補綴が並ぶ。中心位(CR)を採用して顎位を変更する場合は、総義歯、支台歯形成後に咬合接触が失われる・安定しない場合、大規模な部分床義歯で残存歯の咬合接触がない・安定しない場合、適正な咬合高径で咬合接触がない場合、咬合挙上が必要な場合だ。講師は、日常臨床の大部分は前者にあたるのではないかと見ている。その例として示されるのが、上顎の欠損で噛めない、前歯がよく外れる、左上の奥歯がときどき腫れて痛む、という3つの主訴の症例だ。検査で歯根破折も見つかったが、既存の咬頭嵌合位は安定していた。スライドのキーポイントは「既存の顎位に調和した欠損補綴治療」。欠損部はインプラントで補ったが、咬合関係は基本的に変えていない、と講師は言う。一方で、重度の歯周病があり咬合高径も下がっていそうな患者を前にすると、どうやって顎位を決めるか、という方法に意識が向きやすい。講師はその前に診断を置く。スライドには、異常なのか、どの程度異常なのか、異常と判断する理由は何か、という3つの問いが並ぶ。正常と異常を分ける基準を持ったうえで、はじめて歯科治療に介入する、というのが講師の順序だ。フェイスボウトランスファーで、何が見えるようになるか咬合再構成が必要と判断したら、講師はまず上顎、つまり咬合平面の診断と決定から始める。石膏模型を作り、フェイスボウトランスファーを行う。スライドでは、フェイスボウによって2つの後方基準点と1つの前方基準点からなる平面で位置づけられた上顎模型を咬合器に付着する一連の操作、という専門用語集の定義が引かれている。講師が挙げる効果は2つだ。1つは、生体の開閉口路軸と咬合器の開閉口路軸が一致(実際には近似)すること。模型が正しい位置に付着されていないと、下顎の開閉口路が一致せず、咬合器上では適正に見えても口腔内では早期接触が生じたり、調整量が増えたりする、とスライドは説明する。もう1つは、咬合器ごとに決まっている基準平面と、目の前の患者の咬合平面との関係が、咬合器上で見えるようになることだ。さらにスライドには、下顎を中心位で付着しておけば、切歯点で10mm程度の開閉口であれば下顎は蝶番運動のみとされ、その範囲内なら咬合器上で咬合高径を変えて作った補綴装置も口腔内に適応できる、という説明がある。講師は、これによって咬合器を使った間接法で咬合再構成ができると言う。この数値はスライドが引く文献に基づく講師の説明で、本稿では原典を確認していない。カンペル平面を基準に、ずれの量を見る基準平面は咬合器によって異なり、主なものにカンペル平面やフランクフルト平面がある。講師が臨床で使っている半調節性咬合器は、カンペル平面を基準にしたものと、正中矢状面を基準にしたものの2つだという。カンペル平面基準を選ぶ理由として、講師は、咬合平面がカンペル平面とほぼ平行とされていることを挙げ、スライドでは学会のガイドラインや書籍、論文の記述を引いている(本稿では原典を確認していない)。咬合器の上弓がカンペル平面を表しているので、上弓を見ながら仮想咬合平面を設定できる、と講師は言う。症例は、右下のブリッジが痛む、噛み合わせが悪くて噛みにくい、という40代の女性。ブリッジは約5年前に他院で装着されたもので、検査では支台歯に歯根破折があった。少数歯欠損で咬頭嵌合位は安定しているため、顎位は変えない治療になる。それでもフェイスボウトランスファーを行い、カンペル平面基準の咬合器に模型を付着すると、既存の咬合平面がカンペル平面に対して大きく傾いていることがわかった。講師によれば、その逸脱量は口腔内を肉眼で見た印象よりずっと大きかったという。対合歯が挺出し、咬合平面が乱れたままブリッジが装着されていた。挺出していることはパノラマや口腔内写真でもわかるが、どの程度かを判断するのは難しい、と講師は言う。スライドに書かれた要点は「異常か正常か」「どの程度異常か」の2つだ。術後は、可能な限りカンペル平面に平行になるよう咬合平面を是正して欠損補綴を行った、と講師は説明する。カンペル平面に平行でも、顔が曲がって見える義歯冒頭の義歯の症例は、この流れの最後に置かれている。患者は、今の義歯だと顔が曲がって見えるとして作り直しを希望していた。上顎の義歯は約3年前に作ったものだという。口腔内写真だけを見ると目立たないが、顔貌に合わせると咬合平面がかなり傾いて見える。ところが、カンペル平面基準のフェイスボウを装着して見ると、その咬合平面はカンペル平面にほぼ平行だった。スライドの文字は「咬合平面はカンペル平面にほぼ平行」。講師はここで、なぜこうなったのかを考えなければならないと言い、理由として、後方基準点に使った外耳道の高さに左右差があることを挙げる。YouTubeで公開されている前半部分は、ここで終わる。編集部の読みとして、この症例が示しているのは、基準平面に平行という条件を満たすことと、患者の顔に調和していることが、いつも同じにはならないという点だ。フェイスボウトランスファーで咬合器上に見えるようになるのは、選んだ基準平面との関係である。その基準点自体に左右差がある患者では、何を基準に咬合平面を決めるかをもう一段考える必要がある。どう判断するかは、講義の続きで扱われる。本稿で扱わないこと講師の名前や経歴、医院の規模、紹介された書籍、スライドに写る咬合器の製品名は扱っていない。修復治療の分類の名称と各クラスの内容は、スライドの表記と自動字幕で十分に確認できなかったため採っていない。10mmという数値や、ガイドライン・論文の記述は、スライドに示された講師の説明として記載し、原典では照合していない。症例の詳しい処置内容(インプラントの本数や骨造成の方法など)も、自動字幕の聞き取りが不確かな部分は載せていない。本稿は講義内容の整理であり、実際の診断や治療方針は、各自の判断に基づいて行ってほしい。元動画を見る【咬合再構成】初学者のための考え方と咬合器を用いた実践法(2024年4月11日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。