
言動が極端な患者や先生・スタッフがいた場合、対応に困ってしまうことはないだろうか。それはもしかしたら「パーソナリティ障害」や「パーソナリティスタイル」があるのかもしれない。本人だけではなく、周囲も悩みを抱えることが多い。
タイプによって対応策があるので、諦めたり見捨てたりせず真摯に向き合おう。様々な人がいるので全員に同じことを同じように求めるのは難しいが、そのことを理解して一人ひとりの個性を生かした接し方や働き方ができるように環境を整えてほしい。
パーソナリティ障害とは、性格が偏った状態であるために他の人とは違った反応や行動をする精神疾患。本人と周囲が困っていることが多い。支障なく生活できている場合はパーソナリティスタイルという。パーソナリティとは心理学における人格を指す用語である。
捉え方・考え方、感情、衝動コントロール、対人関係などで問題を抱える。アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)はパーソナリティ障害を3つのグループと10のタイプに分類している。偏り方はさまざまで、複数の種類を合併している場合もある。
パーソナリティ障害は10代から成人前後までにだんだんと傾向が現れることが多い。多くは徐々に変化するが、幼い頃の古傷を再現するような出来事をきっかけに突然不安定になることもある。
検査をすれば診断がつくものではなく、過去一年間の行動や認知や感情のパターンが診断基準に該当するかで判断される。
①著しく偏った心や行動パターンが2つ以上(認知、感情、対人関係、衝動コントロール)
②パターンは柔軟性がなく、生活のあらゆる場面でみられる
④青年期から成人早期から長年にわたって続いており、そう簡単には変わらない
パーソナリティ障害に共通する症状として5つのことが挙げられる。
パーソナリティ障害の特徴としては両極端に物事を捉えてしまうところである。自分の思い通りに動いてくれているうちは「良い人」で、少しでも思いと反する行動をしてしまうと「悪い人」と評価が逆転してしまう。
2つ目にとても傷つきやすい特徴がある。通常なら笑って許せることでも侮辱されたと感じてしまい、気を病んだりしてしまう。よって、安定した信頼関係を維持するのが難しい。
3つ目に自信と劣等感が入り交ざっている。心の奥底に自己否定感を抱えていて、その人なりの方法で代償することでバランスをとっている。自分の非を認めずに責任転嫁したり、急に自分を攻めてしまったりする。
4つ目は自分と他人の境目があいまいになりやすい。相手が自分の一部で思い通りになるのが当たり前と思っていたり、自分の気持ちと相手の気持ちを混同させてしまうことがある。
最後は自分を大切にする「自己愛」のバランスが悪い。人間が生きていく上で必要なことであるが、幼い頃の自己愛が満たされてなかったり、逆に過度だったり、親に愛されなかったり、見放されたりするとバランスが悪くなる。貧弱な自己愛しか持てない・いびつに肥大した自己愛を膨らませたりしてしまう。
パーソナリティ障害は大きく分けて3つのグループがある
他人への警戒心が強く、周囲の人と信頼関係を築きづらい。孤立的で打ち解けないのでチームワークが苦手。統合失調症に関連した遺伝的傾向。
ドラマの主人公のように目立つ存在。言動が演技的・衝動的で感情の起伏が激しく自分本位で周囲が振り回されやすい。不安定な傾向がある。また、境界性パーソナリティ障害の症状である「見捨てられることの不安」から過剰に頑張ってしまい、体調を崩しやすい。一部は気分障害に関連した遺伝的傾向。
一見すると「ふつう」に見える。不安や恐怖心が強く、内向的で他人を優先する。目立つことや難しいことを避けるため、責任を伴う業務を断る傾向がある。自分のルールを守るあまり、効率を気にしない。神経症と関連した遺伝的傾向。
コミュニケーションが難しい10タイプそれぞれの接し方
さらに細かく分けて見てみよう。パーソナリティ障害は10タイプある。
強い自己否定感とともに気分や対人関係の両極端な変動を特徴とする。リストカットや薬物の過剰使用といった自傷行為や自殺企図、過食や過呼吸などが繰り返される。特に若い女性に多く、患者さんで境界性パーソナリティ障害による薬物の使用や摂食障害があると特に口腔内に問題が起こりやすい。
ここで注意しなければならないのは熱心に支えようとしすぎることである。すると要求がエスカレートして依存してくるので支えきれずに見放してしまうことがある。事前に限界を設定しておき、それを超えた行動をとったら決めておいた対応をとろう。うまくいかないことがあったとき、完璧でも最悪でもないありのままの状態を肯定的に受け止められるようになる。
自己愛性パーソナリティ障害は、過剰な自信や願望、他人に対する尊大な態度や共感性がないタイプである。自分のことを特別と考えており、自分の利益のためなら他人を利用して犠牲にすることも。少しでも批判されると激しい怒りを覚える。プライドと劣等感が同居しているので、過剰な自信を持つことで心のバランスをとっている。
他人を利用することを当たり前に思っているので献身的に尽くしても感謝はなく、ミスがあると責任転嫁して他人を攻撃してくる。うまく付き合うコツは、その人の偉大さを映し出す鏡となることである。本人の優れた点を映し出し、称賛することで本人の自信や信頼感が上がり、信頼関係を築くことができる。そこで控えめな助言を聞き入れてもらいやすくなる。
演技性パーソナリティ障害は、注目や関心に対する欲求と身体的な自己顕示を特徴とするタイプ。過剰なパフォーマンスと外見で注意を引きつけようとする。過度に馴れ馴れしい態度や注意を惹くための嘘、虚栄心が強いなどもある。
うまく付き合うコツは、外見的なことだけではなく、内面的な魅力を評価する対応をすると安定した信頼関係が作られやすい。
反社会性パーソナリティ障害は危険やルールを侵害することを好む傾向があり、他人の痛み無関心なため暴力などに走ることもある。
反社会性パーソナリティ障害は、ウソをつく虚言タイプとすぐにキレる暴力タイプに分かれる。一方的に尽くすのではなく、対等な関係を築くように相手を導く必要がある。
シゾイドパーソナリティ障害は、対人関係を避けて孤独を好む傾向がある。名望や金銭に対するう欲が少なく、責任を伴う仕事から避けようとする。喜怒哀楽の感情が乏しいため、コミュニケーションが取りづらい。
人と関わることに喜びよりも苦痛を感じてしまうため、距離を程よくとって親しさを求めすぎないこと。本人のペースを尊重していくことが大切である。
失調型パーソナリティ障害は、風変わりさや非現実的な治験を特徴とするタイプである。被害妄想を抱きやすく、人付き合いは少ない。
接し方のコツは、本人のペースを尊重すること。否定的に捉えるのではなく、個性な点を評価する。現実的な折り合いの付け方を具体的にアドバイスしていくと能力を発揮できるようになる。
妄想性パーソナリティ障害は、親しい人さえも信じることができない猜疑心を特徴とする。傷つきやすく、そのことを執念深く覚えている。他人に対して警戒心が強く、プライバシーを知られることを避ける。他人の行動を悪意に解釈しがち。
不用意に親しくなりすぎないこと。礼儀や約束を守り、隠し事や誤魔化しはしないようにしよう。それがあっさりとした職場となり、関係が安定する。
回避性パーソナリティ障害は、責任やプレッシャーがかかる状況を回避することを特徴とするタイプである。失敗する可能性があることは避けようとする。自己評価が低く、不安や緊張感が強い。
本人を守りすぎず、たくさん褒めてあげることが求められる。成功や失敗ではなく、チャレンジしたことを評価しよう。迷っているときには背中を押してあげ、自分にもできる実感をしてもらうことが大切である。
依存性パーソナリティ障害は、自己決定が困難で、支えを常に必要とするタイプである。他人の顔色を伺い、献身的に尽くす。断るのが苦手で無理をしてしまいやすい。
自分の意見を言えないタイプなので、相手に合わせず自分の意見を言ったときに評価をしよう。他の人の意見を押し付けすぎず、本人の気持ちや意向を伺うこと。
強迫性パーソナリティ障害は、完全主義で融通のきかないタイプである。責任感が強く、曲がったことや不道徳なことを嫌う。一旦決めたことは変えられず、いい加減なことはできない。いらないものでも捨てられないことが多い。
自分にも他人にも厳しく妥協を許さないため、無理を強いることが多い。本人のルールを尊重しつつ、お互いの仕事の領分をはっきりさせる必要がある。不真面目な冗談は言わないようにし、礼儀正しく接することが求められる。
職場で一番起こる問題は、自己愛性パーソナリティ障害の人が院長先生やチーフなど上の立場になったときである。失敗したときには怒鳴られたり、侮辱されたりすることがある。表沙汰になることに敏感なので、その場合は無理をせずに早めに周りの人に相談しよう。
パーソナリティ障害はとくに深い関わりを持ったときにトラブルになりやすい。患者とはしっかり折り合いをつけることが必要である。職場内のスタッフにいる場合は、それぞれの個性を受け入れて接することが求められる。コミュニケーションが取れないと受け入れづらいこともあると思うが、パーソナリティ障害である可能性も考慮し、広い心を持つ人が増えることを願う。
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