職場で起きるトラブル:パーソナリティ障害の患者やスタッフ

職場で起きるトラブル:パーソナリティ障害の患者やスタッフ

本吉 ひとみ
2019年12月27日

言動が極端な患者や先生・スタッフがいた場合、対応に困ってしまうことはないだろうか。それはもしかしたら「パーソナリティ障害」や「パーソナリティスタイル」があるのかもしれない。本人だけではなく、周囲も悩みを抱えることが多い。

タイプによって対応策があるので、諦めたり見捨てたりせず真摯に向き合おう。様々な人がいるので全員に同じことを同じように求めるのは難しいが、そのことを理解して一人ひとりの個性を生かした接し方や働き方ができるように環境を整えてほしい。

もしかしてパーソナリティ障害?

パーソナリティ障害とは、性格が偏った状態であるために他の人とは違った反応や行動をする精神疾患。本人と周囲が困っていることが多い。支障なく生活できている場合はパーソナリティスタイルという。パーソナリティとは心理学における人格を指す用語である。

捉え方・考え方、感情、衝動コントロール、対人関係などで問題を抱える。アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)はパーソナリティ障害を3つのグループと10のタイプに分類している。偏り方はさまざまで、複数の種類を合併している場合もある。

パーソナリティ障害は10代から成人前後までにだんだんと傾向が現れることが多い。多くは徐々に変化するが、幼い頃の古傷を再現するような出来事をきっかけに突然不安定になることもある。

検査をすれば診断がつくものではなく、過去一年間の行動や認知や感情のパターンが診断基準に該当するかで判断される。

【診断基準】
①著しく偏った心や行動パターンが2つ以上(認知、感情、対人関係、衝動コントロール)
②パターンは柔軟性がなく、生活のあらゆる場面でみられる
③苦痛が生じたり、生活や仕事がうまくいかない
④青年期から成人早期から長年にわたって続いており、そう簡単には変わらない
⑤他の精神疾患によるものではない
⑥薬物やからだの病気の影響ではない

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    パーソナリティ障害の特徴

    パーソナリティ障害に共通する症状として5つのことが挙げられる。

    ①両極端にしか考えられない
    ②ラポール形成が困難
    ③自信と劣等感が入り交ざる
    ④自分と周囲の区別ができない
    ⑤自己愛バランス

    パーソナリティ障害の特徴としては両極端に物事を捉えてしまうところである。自分の思い通りに動いてくれているうちは「良い人」で、少しでも思いと反する行動をしてしまうと「悪い人」と評価が逆転してしまう。

    2つ目にとても傷つきやすい特徴がある。通常なら笑って許せることでも侮辱されたと感じてしまい、気を病んだりしてしまう。よって、安定した信頼関係を維持するのが難しい。

    3つ目に自信と劣等感が入り交ざっている。心の奥底に自己否定感を抱えていて、その人なりの方法で代償することでバランスをとっている。自分の非を認めずに責任転嫁したり、急に自分を攻めてしまったりする。

    4つ目は自分と他人の境目があいまいになりやすい。相手が自分の一部で思い通りになるのが当たり前と思っていたり、自分の気持ちと相手の気持ちを混同させてしまうことがある。

    最後は自分を大切にする「自己愛」のバランスが悪い。人間が生きていく上で必要なことであるが、幼い頃の自己愛が満たされてなかったり、逆に過度だったり、親に愛されなかったり、見放されたりするとバランスが悪くなる。貧弱な自己愛しか持てない・いびつに肥大した自己愛を膨らませたりしてしまう。

    パーソナリティ障害は大きく分けて3つのグループがある

    ○奇妙で風変わりなグループ
    ・ジゾイド
    ・妄想型
    ・統合失調症
    他人への警戒心が強く、周囲の人と信頼関係を築きづらい。孤立的で打ち解けないのでチームワークが苦手。統合失調症に関連した遺伝的傾向。

    ○感情的で移り気なグループ
    ・境界性
    ・自己愛性
    ・反社会性
    ・演技性
    ドラマの主人公のように目立つ存在。言動が演技的・衝動的で感情の起伏が激しく自分本位で周囲が振り回されやすい。不安定な傾向がある。また、境界性パーソナリティ障害の症状である「見捨てられることの不安」から過剰に頑張ってしまい、体調を崩しやすい。一部は気分障害に関連した遺伝的傾向。

    ○不安で内向的なグループ
    ・強迫性
    ・回避性
    一見すると「ふつう」に見える。不安や恐怖心が強く、内向的で他人を優先する。目立つことや難しいことを避けるため、責任を伴う業務を断る傾向がある。自分のルールを守るあまり、効率を気にしない。神経症と関連した遺伝的傾向。

    コミュニケーションが難しい10タイプそれぞれの接し方

    さらに細かく分けて見てみよう。パーソナリティ障害は10タイプある。

    ①境界性パーソナリティ障害
    強い自己否定感とともに気分や対人関係の両極端な変動を特徴とする。リストカットや薬物の過剰使用といった自傷行為や自殺企図、過食や過呼吸などが繰り返される。特に若い女性に多く、患者さんで境界性パーソナリティ障害による薬物の使用や摂食障害があると特に口腔内に問題が起こりやすい。

    ここで注意しなければならないのは熱心に支えようとしすぎることである。すると要求がエスカレートして依存してくるので支えきれずに見放してしまうことがある。事前に限界を設定しておき、それを超えた行動をとったら決めておいた対応をとろう。うまくいかないことがあったとき、完璧でも最悪でもないありのままの状態を肯定的に受け止められるようになる。

    ②自己愛性パーソナリティ障害
    自己愛性パーソナリティ障害は、過剰な自信や願望、他人に対する尊大な態度や共感性がないタイプである。自分のことを特別と考えており、自分の利益のためなら他人を利用して犠牲にすることも。少しでも批判されると激しい怒りを覚える。プライドと劣等感が同居しているので、過剰な自信を持つことで心のバランスをとっている。

    他人を利用することを当たり前に思っているので献身的に尽くしても感謝はなく、ミスがあると責任転嫁して他人を攻撃してくる。うまく付き合うコツは、その人の偉大さを映し出す鏡となることである。本人の優れた点を映し出し、称賛することで本人の自信や信頼感が上がり、信頼関係を築くことができる。そこで控えめな助言を聞き入れてもらいやすくなる。

    ③演技性パーソナリティ障害
    演技性パーソナリティ障害は、注目や関心に対する欲求と身体的な自己顕示を特徴とするタイプ。過剰なパフォーマンスと外見で注意を引きつけようとする。過度に馴れ馴れしい態度や注意を惹くための嘘、虚栄心が強いなどもある。

    うまく付き合うコツは、外見的なことだけではなく、内面的な魅力を評価する対応をすると安定した信頼関係が作られやすい。

    ④反社会性パーソナリティ障害
    反社会性パーソナリティ障害は危険やルールを侵害することを好む傾向があり、他人の痛み無関心なため暴力などに走ることもある。

    反社会性パーソナリティ障害は、ウソをつく虚言タイプとすぐにキレる暴力タイプに分かれる。一方的に尽くすのではなく、対等な関係を築くように相手を導く必要がある。

    ⑤シゾイドパーソナリティ障害
    シゾイドパーソナリティ障害は、対人関係を避けて孤独を好む傾向がある。名望や金銭に対するう欲が少なく、責任を伴う仕事から避けようとする。喜怒哀楽の感情が乏しいため、コミュニケーションが取りづらい。

    人と関わることに喜びよりも苦痛を感じてしまうため、距離を程よくとって親しさを求めすぎないこと。本人のペースを尊重していくことが大切である。

    ⑥失調型パーソナリティ障害
    失調型パーソナリティ障害は、風変わりさや非現実的な治験を特徴とするタイプである。被害妄想を抱きやすく、人付き合いは少ない。

    接し方のコツは、本人のペースを尊重すること。否定的に捉えるのではなく、個性な点を評価する。現実的な折り合いの付け方を具体的にアドバイスしていくと能力を発揮できるようになる。

    ⑦妄想性パーソナリティ障害
    妄想性パーソナリティ障害は、親しい人さえも信じることができない猜疑心を特徴とする。傷つきやすく、そのことを執念深く覚えている。他人に対して警戒心が強く、プライバシーを知られることを避ける。他人の行動を悪意に解釈しがち。

    不用意に親しくなりすぎないこと。礼儀や約束を守り、隠し事や誤魔化しはしないようにしよう。それがあっさりとした職場となり、関係が安定する。

    ⑧回避性パーソナリティ障害
    回避性パーソナリティ障害は、責任やプレッシャーがかかる状況を回避することを特徴とするタイプである。失敗する可能性があることは避けようとする。自己評価が低く、不安や緊張感が強い。

    本人を守りすぎず、たくさん褒めてあげることが求められる。成功や失敗ではなく、チャレンジしたことを評価しよう。迷っているときには背中を押してあげ、自分にもできる実感をしてもらうことが大切である。

    ⑨依存性パーソナリティ障害
    依存性パーソナリティ障害は、自己決定が困難で、支えを常に必要とするタイプである。他人の顔色を伺い、献身的に尽くす。断るのが苦手で無理をしてしまいやすい。

    自分の意見を言えないタイプなので、相手に合わせず自分の意見を言ったときに評価をしよう。他の人の意見を押し付けすぎず、本人の気持ちや意向を伺うこと。

    ⑩強迫性パーソナリティ障害
    強迫性パーソナリティ障害は、完全主義で融通のきかないタイプである。責任感が強く、曲がったことや不道徳なことを嫌う。一旦決めたことは変えられず、いい加減なことはできない。いらないものでも捨てられないことが多い。

    自分にも他人にも厳しく妥協を許さないため、無理を強いることが多い。本人のルールを尊重しつつ、お互いの仕事の領分をはっきりさせる必要がある。不真面目な冗談は言わないようにし、礼儀正しく接することが求められる。

    職場で起きる問題

    職場で一番起こる問題は、自己愛性パーソナリティ障害の人が院長先生やチーフなど上の立場になったときである。失敗したときには怒鳴られたり、侮辱されたりすることがある。表沙汰になることに敏感なので、その場合は無理をせずに早めに周りの人に相談しよう。

    パーソナリティ障害はとくに深い関わりを持ったときにトラブルになりやすい。患者とはしっかり折り合いをつけることが必要である。職場内のスタッフにいる場合は、それぞれの個性を受け入れて接することが求められる。コミュニケーションが取れないと受け入れづらいこともあると思うが、パーソナリティ障害である可能性も考慮し、広い心を持つ人が増えることを願う。

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    参考文献

    『ササッとわかる「パーソナリティ障害」』岡田尊司 , 講談社, 2010.
    本吉 ひとみ
    著者/監修者
    本吉 ひとみ
    歯科衛生士
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    咬合紙で色がついたところを削って落とせば、咬合調整は終わる。そう考えたことのある歯科医師は少なくないのではないか。1Dの「25分間」ミニセミナー「【咬合調整】咬合の基礎知識と削合のポイント」で、講師はこの講義を「咬合アレルギー」のある歯科医師に向けたものだと位置づけ、全顎やフルマウスではなく、1本の歯をきちんと調整できることを目的に掲げる。そのうえで最初に置くのが、削合についての3つの前提だ。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。削合は「足せない」「戻せない」「相手を選ぶ」講師が挙げる1つ目の前提は、削合は歯を削るだけで、足すことができないという点だ。足して合わせたいなら、クラウンごとやり替えるか、それこそフルマウスで治療することになる。だから削合による調整は限定的なものだと分かっていなければならない、と講師は言う。2つ目は、後戻りができないこと。削るだけなので、患者から元の状態に戻してほしいと言われても戻せない。色がついたところだけを単純に調整していくのは結構怖いことになる。ここが邪魔だと分かったうえで、そこを狙って調整することが大事だ、と講師は話す。3つ目は、意外にも相手を選ぶということだ。どんな調整をしても気になって仕方がない人もいる。講師はこれを、車幅と道路の幅にたとえる。道幅が広ければ、クランクがあっても余裕を持って通れる。しかし道幅が狭いと、すぐに脱輪してしまう。この人は大丈夫かと相手をよく見たうえで行い、やりすぎればそれはそれで戻せないので、どこでやめるかがすごく大事になる、と講師は言う。顎を動かす筋肉と、ブレーキ役の筋肉講師は、咬合の基礎知識として、まず顎の運動に関わる筋肉を整理する。口を開けるときは、外側翼突筋が顎を前に出し、顎二腹筋の前腹などが後ろに引く。閉じるときは側頭筋、咬筋、内側翼突筋が締める。側方運動や前方運動、後方への運動でも、それぞれ主に働く筋肉がある。大まかに言えば、前に出るときは外側翼突筋、後ろに引くときは側頭筋だと考えるとよい、と講師は説明する。講師が付け加えるのが、拮抗筋の働きだ。主に動かす筋肉だけでは動きが急になりすぎるので、ブレーキをかけながら動くようになっている。そのため、たとえば閉じる動きのときにトラブルがあれば、緊張が出るのは主に動かしている筋肉とは限らず、拮抗筋の側に出る可能性もある。これを頭の片隅に置いておいてほしい、と講師は言う。後で触れる触診の話につながる前置きだ。第一大臼歯の形を、自分の手で描いて覚える次に講師が「すごく大事」とするのが、歯の解剖学的形態、とりわけ咬合面形態だ。中でも第一大臼歯は鍵となる歯で、これが理解できると他の歯も理解しやすい、として、講師は上下の第一大臼歯に絞って説明する。上顎第一大臼歯では咬頭頂の位置と隆線、いちばん深い窩、そこから伸びる溝。講師は、この溝が深いことを理解し、ここに対合歯が入るイメージを持っておくよう促す。下顎第一大臼歯では、隆線がないと思われがちな中央付近を、くぼんだ状態としてイメージしておくこと。上顎の咬頭がそこに入り、上が杵、下が臼のような関係になる、と講師はたとえる。溝の走り方には個人差があり、Y字型が多いが、十字型やX型の人もいる。第二大臼歯では十字型が多い、というのが講師の示すおおまかなイメージだ。調整のときに大事になるので覚えておいてほしい、と講師は言う。形態をどう覚えるかについて、講師の答えは単純だ。描いて覚えた、という。最初に描いた第一大臼歯の絵はひどいものだったと自身の絵を見せ、教科書や模型を見ながら10枚描くだけでも違い、100枚描けば周りと比べて大きな差になるはずだ、と話す。これが分かっていないとダイレクトボンディングなどもできない、とも講師は付け加える(講師の挙げる参考書籍の名前は本稿では扱わない)。咬合様式は「どこで当たっているか」の分類講師は咬合様式についても簡単に触れる。上下の歯がまっすぐ当たった状態から顎をずらしたときに、どのように当たっているかを分類したものだ、と講師は説明する。作業側で犬歯だけが当たるのか、犬歯も奥歯も当たるのか、奥歯だけなのか。作業側で当たっているときに、反対側も当たっているのか。上下のどちらの機能咬頭が当たっているのか。こうした分類がある、という。講師は、こうした当たり方が咀嚼運動に深く関わること、咀嚼のときの顎の動きは複雑で、限界運動の範囲では現れない動きがあることにも触れる。ただし今回の講義は1本の臼歯の干渉を取る話なので、ガイドの話や咀嚼運動に合わせた調整は扱わない、と線を引いている。削る前の審査――問診、動画、触診、セントリック講義の後半で講師が示すのは、自身が臨床で行っている咬合の審査だ。まず問診では、しみるのか、歯肉が腫れているのか、割れたのかといった現状を聞き、それがいつからなのかを時系列でたどる。咬合と全身の関係が疑われる訴え、たとえば肩こりがある場合も、それがブリッジを入れた後からなのか、それ以前からなのか、永久歯列が完成したころからなのかを整理しておくと、本当に咬合から来ているのかが分かってくる、と講師は言う。口腔内では骨隆起やすり減り、咬合関係を見る。講師が勧めるのが、顎の動きの動画撮影だ。顎運動の計測機器を使わなくても、正面から動画を撮れば、動きの偏りや速さの違いが比べられる。咬合の治療に入り込むときは、必ず治療前に撮り、終わった後と比べて評価する。良くなっていれば、治療がうまくいったというフィードバックが得られる、と講師は説明する。触診では、咬筋、側頭筋、耳の後ろのあたり、首を横に倒す筋肉などを触る。講師の医院では項目を簡略化しているという。講師が説明する触診の目的の1つは、治療の前の感触を患者自身に感じてもらい、終わった後に軽くなっていることを感じてもらうことだ。最後にセントリックのずれを見る。開け閉めのスタート地点がずれていれば、動き出しから無理がかかる。講師はこれを、陸上の短距離走で自分のレーンだけ少しずれた位置からスタートさせられる状況にたとえる。何度も繰り返せば、足をくじきそうになる、というわけだ。講師は、下顎をリラックスさせた状態で上の歯を前に出すように促すと下顎が下がり、その位置で噛ませる、という簡便な取り方を紹介している。編集部の解釈としては、講師が「1本の歯をきちんと調整する」話の前に、これだけの準備を置いていること自体が、冒頭の問いへの答えになっている。色がついたところは、削る候補の1つにすぎない。足せず、戻せないからこそ、どこが本当に邪魔なのかを確かめてから削る、ということだ。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、講師が紹介する参考書籍・セミナー・オンラインサロン・動画チャンネルの名前、講師が挙げる人物名は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。実際の削合の手順とテクニックは、YouTubeで公開されている前半部分には含まれていない。本稿は講義内容の整理であり、個々の患者の咬合調整は、診査の結果と各自の判断に基づいて行ってほしい。元動画を見る【咬合調整】咬合の基礎知識と削合のポイント(2024年4月2日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
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    【ミニセミナーを覗く】「4mmくらいなら様子を見よう」と思っていませんか?――講師が見せた、治療が止まった2年間のエックス線写真

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    上顎の前歯の近心に、5mmのポケットとわずかな垂直性の骨吸収。ほかの部位を先に進め、この歯は最後に回していた。1Dの「25分間」ミニセミナー「【歯周外科】チェアサイドの "勘所" はここだ!」で、講師が「オペをしないとどうなるのか」として映したのは、この患者のエックス線写真の経過だった。コロナ禍で治療が中断し、気づいたときには骨吸収が根尖の近くまで進んでいた、と講師は話す。スライドの題は「まずは、SRP後に4mmの単純な部位を、切開してみたらどうですか?」。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。最後に回した前歯で起きたこと講師の説明によれば、初診は2020年3月。上顎左側中切歯の近心に5mmのポケットがあり、垂直性の骨吸収がわずかに見られた。この程度ならこの部位は最後にしよう、と他の部位から治療を進めていたところ、コロナ禍で講師の病院も一時的に診療を縮小し、結果としてこの部位には2年ほど手をつけられなかったという。スライドには2020年3月、2021年11月、2023年3月の写真とエックス線写真が並ぶ。講師は、基本治療はそれなりに行っていたが、それでも歯石の取り残しがあったと振り返る。いちばん取れそうな上顎前歯でも、4mmを超えるところでは取り残しが起こる。スケーラーの幅や、麻酔をせずに行う痛みもあって少し手を控えてしまったことが自分の反省点だ、と講師は話す。最初の段階で再評価してもう一度SRPを行うか、前歯でも少し開けさせてもらえば、あっという間に解決できていたはずだ、というのが講師の見立てだ。講師がこの症例を「たまたま」持っていたと説明する点も重要だろう。悪くなっていくのを経過観察することは倫理的にもありえないので、オペをしないとどうなるかを示す症例はなかなか持てない、と講師は言う。講師自身の経験であり、すべての4mmの部位が同じ経過をたどるという話ではない。それでも、問題が解決されないまま「また困ったら来てください」となれば、こうした経過になりうる、というのが講師の問題提起だ。歯周外科は、なぜためらわれるのか講師はまず、歯周外科そのものがあまり行われていない現状に触れる。スライドには、歯周病分野の研究者から提供を受けたというレセプト情報(NDB)の解析が映り、SRPの算定回数に比べて、フラップ手術の算定回数がはるかに少ないことが示される。講師の見方では、どれだけ頑張っても外科まで治療を受けられる患者はごく一部にとどまる、それが日本の実情だという(スライドの算定回数は、編集部で原典を確認できていないため本稿では載せない)。ためらう理由として講師が挙げるのは、まず「オペをしても治らないのではないか」という気持ちだ。講師と同世代の歯科医師が学んだころは再生療法がなく、切除療法としてのフラップ手術では歯肉が下がり、骨はなかなか戻らない。プラークコントロールが悪くなったり咬合性外傷があったりすれば、10年、20年と予後が良いとも限らない。そうした気持ちを払拭できない歯科医師は少なくない、と講師は言う。そのうえで、ポケットを測らずにエックス線写真で大きな問題がないからと補綴処置に入っていく例も、決して少なくないと指摘する。もう1つの理由として講師が挙げるのが、学びの場とのギャップだ。専門誌やライブで紹介されるのは最先端の高度な手技が多いが、卒業後に歯周治療を専門的に学ぶ場で研修を受ける人は少ない。いざ自分でやろうとしたとき、参考にするもののレベルが高すぎるのではないか、と講師は感じている。教科書にある「治る要件」では、何が足りないのか。講師が示すのは、自身の大学で学生が使う教科書の図だ。歯周病の原因はプラーク、とりわけ歯周病原細菌であると定義されている。しかし、歯磨きだけをしていれば治るわけではない。病気が進み始めたところに、火に油を注ぐように働く「促進因子」がある、と講師は説明する。講師が挙げる促進因子は具体的だ。ブラキシズムなどによる咬合性外傷、喫煙、糖尿病。服用している薬によって唾液が減り、自浄性が落ちること。日本人を含むアジア系の人では大臼歯の分岐部にエナメル突起やエナメル真珠がしばしば見られるといった、歯の形態。そして講師が最近とても多いと感じるという、セメント質剥離。年齢とともに根尖側のセメント質が厚くなり、繰り返し力がかかるとひびが入り、ポケットがないのに下のほうで骨が失われる、という。ほかにも、ブリッジの支台歯になっている、臼歯部の欠損を補綴していないために小臼歯に力がかかる、といった要因が挙げられる。講師は、これらは学生時代に講義でも定期試験でも出てきた当たり前の知識だが、目の前の患者の口の中と重ね合わせることが十分でないために、治る要件が満たされず、外科をしても思うようにいかないのではないか、と話す。歯周外科は大切だが、それを成功させる環境づくりがすごく重要だ、というのが講師の伝えたいことだという。再生療法に「期待しすぎない」講師は、医局員の治療を見ていて気づくこととして、適応症の選択を挙げる。保険で使える再生療法の選択肢が出てきたことで、再生と聞けば治るという期待が大きくなりがちだ、と講師は言う。知識だけでは追いつけないところがある、とも。講師が示すのは、上顎第一小臼歯の近心だけに7mmのポケットが残った患者だ。基本治療は短期間でうまく進み、ほかの部位はほとんどが2mmか3mmになった。この部位は7年前にも再生治療を受けていたが、うまくいかなかったという。保険診療で紹介されてきた患者でもあり、講師は保険で使える再生剤を適用したが、1年たってもポケットはまったく変わらなかった。講師はこれを、実際には適応を超えていた、とまとめている。編集部の解釈としては、冒頭の「4mmの単純な部位から切開してみる」という提案と、この症例は対になっている。単純な部位で一歩を踏み出すこと、そして難しい部位では再生療法に過大な期待をかけず、適応を見極めること。どちらも、外科の手技そのものより前の判断の話だ。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、利益相反の開示の詳細、レセプト解析と歯科疾患実態調査の数値、症例の骨吸収の深さの数値、再生療法に用いた薬剤の名前、冒頭の症例での縫合法の詳細は扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。再生療法の適応の具体的な基準は、YouTubeで公開されている前半部分では詳しく語られていない。本稿は講義内容の整理であり、歯周外科の適応と術式は、検査結果と各自の判断に基づいて決めてほしい。元動画を見る【歯周外科】チェアサイドの "勘所" はここだ!(2024年3月29日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
    1D編集部
    2日前
    【ミニセミナーを覗く】「埋入のドリルは最初から立てる」と思っていませんか?――講師が最初にバーを横に使う理由

    【ミニセミナーを覗く】「埋入のドリルは最初から立てる」と思っていませんか?――講師が最初にバーを横に使う理由

    初めてインプラントを埋入するとき、ドリルを骨に当てた瞬間に先端が滑っていく。1Dの「25分間」ミニセミナー「【オペ動画で学ぶ】初心者のためのインプラント埋入術」で、講師が手術映像を止めて見せたのは、この場面だった。バーを最初から立てて使おうとすると流されてしまうので、横にしてバーの腹をしっかり当て、骨を削っていくのがポイントだ、と講師は言う。表面の硬い骨を越えるところまではラウンドバーで進め、溝が掘れてから縦に使う。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。「骨の中にネジを入れる」――最初に押さえる本質講師は、新卒の歯科医師を採用して育てる医療法人の立場から、インプラントをやったことのない歯科医師がどこでつまずくかに詳しい、と前置きする。講義のメインタイトルとして掲げるのは「研修医でもできるインプラント」。本当にできるのかとよく言われるが、自分ができるケースをしっかり見極めて、それを確実にやることがいちばん大事だ、と講師は話す。講師は、埋入の流れを短い映像でまず見せる。歯肉を切って開くと骨が出てくる。そこにインプラントを入れるための穴を開け、ネジを入れ、切った歯肉を縫って終わる。これだけ見るとシンプルで、あとはこの過程を細かくしていくだけだという。本質的には骨の中にネジを入れることなので、そんなに怖がらなくていい、と講師は言う。編集部の解釈としては、これは手術を簡単だと言っているのではなく、手順を細かく分けたときに、どの工程が何のためにあるのかを見失わないための整理だろう。講師自身が、ケースの見極めを何よりも先に置いている点は読み落とさないでおきたい。切開の前に骨を探り、継ぎ目を確かめる手術の最初に講師が挙げるのは、骨がどこにあるかを探針で確認することだ。インプラントに限らないが、探針で歯肉の上から骨の位置を確かめ、この辺りに骨があると見てから手術を始めるようにしている、と講師は話す。切開について講師が具体的に注意するのは、歯肉溝の切開と歯槽頂の切開の継ぎ目だ。この部分が切れていないことが多いので、もう一度確認し、切れていなければメスに戻る。骨までしっかり当てて切れていれば、剥離子で思い切りこじ開けなくても、歯肉溝と歯槽頂の角のところから引っ掛けるとすっとフラップが開く、と講師は説明する。剥離子は「剥がす」という名前から、ぐいぐいねじ込むイメージを持たれがちだが、切開が入っていれば力はいらない、ということだ。両刃のメスについては、口腔内から取り出すときに患者の唇を切ってしまうリスクがあるので、最初はあまり使わないほうがよい、とも講師は述べる。頬側のフラップを押さえるアシスタントも初めてのことが多いので、見やすい位置に自分で剥離子を持っていき、「ここで押さえて」と渡すのがよい、という助言もあった。バーを横に使い、深度ゲージで方向を確かめる骨の形成で講師が最初のステップとするのは、骨表面の平坦化だ。ラウンドバーで表面をならしていく。そのうえで、表面の皮質骨に穴を開けるところから始める。ここで冒頭の、バーを横に使うという話が出てくる。皮質骨の厚さは患者によって違うが、それを越えるとぐっと入り込む感触があり、そこからは海綿骨になる。そこまではラウンドバーでしっかり進めてよい、と講師は言う。講師は抜歯即時埋入の映像でも、同じ理由でラウンドバーを使っていると説明する。いきなりインプラント用のバーで削ると先端が流されるため、ラウンドバーでバーを固定するための引っかかりを作る。ラウンドバーはふだんう蝕を取るときに使い慣れているので、ストレートのバーより自由な方向に形を作りやすい、というのが講師の見立てだ。パイロットドリルでの形成では、近遠心的な方向と頬舌的な方向を、右・左・上といろいろな方向から自分の目で見てチェックすること。少し形成したところで一度深度ゲージを入れて方向を確認し、問題がなければ先へ進むこと。バーはずっと踏み込み続けるのではなく、予定の深さが近づいたらゆっくり進めること。講師はこれらを、ドリルを替えるたびに繰り返し確認する手順として見せている。インプラントを入れるときは、形成した方向と同じ方向に入るよう、垂直方向に力をかけながら回していくことを忘れないように、とも言う。なお講師は、埋入時のトルクの設定や形成の長さについて自身の値を挙げているが、機種や製品、症例によって異なるため、本稿では数値を扱わない。縫合は「単純縫合を確実に」講師は縫合について、通常のインプラントでは全層弁でフラップを開いてそれを戻すだけなので、特別な技術は必要なく、単純縫合をしっかりすることがすべてだと話す。ただ、それが意外と初めての歯科医師には難しいとして、模型で糸の巻き方と締める方向を示している。講師が添えるのは、経験が少ないうちは縫った糸が1本、2本と普通に外れてくるので、少し多めに縫っておいたほうがよい、という助言だ。1歯欠損なら近心と遠心を1本ずつ縫えばおおむね足りるが、2本だけだとどちらかが外れたときに困る、という理由だ。水平マットレスや垂直マットレスなどの縫合は、慣れてから行えばよい、と講師は言う。骨が柔らかい症例では、別の注意がいる講義の後半で講師が示すのは、上顎で骨が柔らかい症例だ。フラップを開いたら、まず中に肉芽が残っていないかを鋭匙や探針で確認する。ある症例では、ラウンドバーで上部を確認しただけで、ドリルを一度も使わずにインプラントが入ってしまうほど中が柔らかかった、と講師は話す。抜歯窩が閉鎖しきっていない場合には、こうしたこともあるという。骨が柔らかいときは、バーの回転をごくゆっくりにする。高速で削ると骨が飛んでしまうので、方向を見ながら丁寧に進める、と講師は説明する。2本を埋入するときは、1本目の位置に深度ゲージを入れたまま残りを形成すると方向を合わせやすい、という工夫も示される。さらに講師は、埋入後に確認したところ頬側の薄い骨が揺れていて、フラップを少し大きく開けてみると破折していた、という症例も見せる。このような場合は骨造成(GBR)が必要になり、骨補填材を入れてメンブレンで覆い、縫合して終えたという。編集部の解釈としては、「簡単に見える」手順の中で、骨の状態に応じて判断を変える場面がどこにあるかを示すための症例だろう。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、医療法人の規模、研修医が担当する症例数の表、使用しているインプラントの製品名、トルクの設定値や形成の長さ、縫合糸の太さなどは扱っていない。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。本稿は講義内容の整理であり、インプラント治療は症例の見極めと十分な研修のもとで行い、術式や器材の選択は各自の判断と製品の取扱説明書に基づいて行ってほしい。元動画を見る【オペ動画で学ぶ】初心者のためのインプラント埋入術(2024年3月24日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
    1D編集部
    2026年11月1日
    【ミニセミナーを覗く】「CRの時間は、詰める作業で決まる」と思っていませんか?――講師が挙げたのは形態修正と咬合調整

    【ミニセミナーを覗く】「CRの時間は、詰める作業で決まる」と思っていませんか?――講師が挙げたのは形態修正と咬合調整

    臼歯の2級窩洞を、保険の限られた時間でコンポジットレジン修復する。時間を詰めたいとき、まず急ぎたくなるのは充填そのものかもしれない。1Dの「25分間」ミニセミナー「「保険 × 高速」でCR修復を行うテクを伝授します」で、講師が時間のかかる場所として挙げたのは、別のところだった。雰囲気でレジンを盛っていくと、時間を取られるのは形態修正と咬合調整だという。だから講師は、充填の前に歯の形をよく見て、咬頭そのものより咬頭と咬頭の間の溝をつくるイメージで積んでいく。本稿では、スライドと自動字幕で確認できた範囲で、講師の主張・経験と編集部の解釈を分けて整理する。時間がかかるのは、詰めた後だったスライドに映る講義のタイトルは「GPのための保険適応CRテクニック」。講師は冒頭で、どこがポイントで時間を短縮できるのかを考えたいと話す。講義の中で講師が繰り返すのは、手を速く動かすことではなく、迷わない形に持っていくことだ。前歯でも臼歯でも、できるだけ単純な窩洞に持っていき、その道筋に沿って充填すれば時間を短縮できる、と講師は言う。そのうえで講師がはっきり指摘するのが、時間を食う工程だ。自分の雰囲気でレジンを盛っていくと、何に時間がかかるかというと形態修正と咬合調整だ、と講師は話す。逆に、もともとの歯の形に沿って積めば、咬合調整はごくわずかな時間で済む。ここを短くすれば、臼歯の修復はさらに短時間になるはずだ、というのが講師の見立てだ。編集部の解釈としては、講師の言う「高速」は充填操作の速さではなく、後戻りの工程を減らすことに重心がある。以下では、その前提となる接着の話から、充填の組み立て方、残る課題までを順に見る。接着が、窩洞の形を変えた講師が最初に振り返るのは、歯質への接着がもたらした変化だ。金属修復のために2級窩洞を形成する場合、外形はう蝕の大きさや対合関係などで決まり、そこに予防拡大、つまり外形線を自浄域まで広げる考え方が入ってくる。講師はスライドの図で、隣接面側の拡大が必要になる窩洞を示す。一方、コンポジットレジン修復なら、う蝕を除去し、窩洞の外形をなめらかな曲線に整えれば窩洞形成は終わる、と講師は説明する。金属修復では除去しなければならない、支えのないエナメル質も残せる。外開きの箱形の形態も要らない。講師はこれを、歯科医師にとっても患者にとっても大きな恩恵だと位置づける。スライドには「接着システムの変遷」として、第1世代から第8世代までの流れが道のように描かれ、最後にユニバーサルアドヒーシブが置かれている。講師はトータルエッチングに始まり、プライマーの開発、エッチ&リンス、セルフエッチングを経てユニバーサルアドヒーシブへ進化してきたと整理し、いまはこれらを使い分けられる時代だと話す。窩洞を単純にする考え方は前歯でも同じだ。講師は前歯の破折症例で、模型上のモックアップからシリコーンガイドをつくり、口蓋側の壁(バックウォール)を先につくる手順を示す。バックウォールができれば、あとは象牙質の色を調整するペーストを置き、その上にエナメル質のペーストを置いて積み上げていくだけで、想定した形ができあがる、と講師は言う。若いころのけがで折れた前歯の修復が外れた症例では、外れた修復物をもとにシリコーンガイドをつくってバックウォールを再現し、隣在歯との接触はセクショナルマトリックスとウェッジでつくってから仕上げている。この症例は講師の経験として紹介されたもので、その後の経過年数は本稿では扱わない。エナメル質と象牙質は、同じようにはくっつかない講師は、エナメル質を対象にした接着では、リン酸エッチングがゴールデンスタンダードだと話す。スライドには「リン酸エッチングの効果」として、表層の除去(清掃作用)、粗造面の形成、接着面積の増加、表面自由エネルギーの向上(ぬれ性)、レジンタッグの形成(投錨効果)が並ぶ(除去される厚みの数値もスライドにあるが、編集部で原典を確認していないため載せない)。講師はさらに、エナメル質の最表層は構造のはっきりしない層でエッチングパターンができにくいため、最表層を一層だけ削ってからエッチングする操作があると説明する。削る量はごくわずかでよい、というのが講師の説明だ。象牙質はより複雑だ。講師によれば、象牙質は有機質と水分に富み、内部に象牙細管があって、その中には組織液が入っている。細管はエナメル質に近いところでは細く数も少ないが、歯髄に近づくほど数が増え、径も太くなる。う蝕による変化の影響も受ける。こうした一様でない象牙質に均一に接着させるのは難しい技術だったが、2ステップのセルフエッチングシステムで培われた機能性モノマーの技術が、いまの高い接着耐久性につながっている、と講師は言う。臨床の手順として講師が勧めるのは、エナメル質だけを選択的にリン酸エッチングするセレクティブエッチングだ。小さな窩洞ではする場合としない場合があるが、2級窩洞や大きな1級窩洞では勧める、と講師は話す。そのとき象牙質にはできるだけリン酸エッチング材が付かないよう注意する。ユニバーサルアドヒーシブについては、機能性モノマーが鍵で、水の含有量は製品によって大きく違い、重合方式が異なる製品もあるため、組成と性質をよく知って使う必要がある、とも付け加える。咬頭ではなく、咬頭と咬頭の間の溝をつくる講義の中心は、臼歯の充填の組み立て方だ。講師がコンポジットレジンを選ぶ理由として挙げるのは、操作性に加えて、不透明性と透明性のバランス、そして研磨性だ。研磨性は非常に重要だと講師は強調する。講師が示す1級複雑窩洞の症例では、セレクティブエッチング、水洗・乾燥、アドヒーシブの塗布の後にライニングを行い、まず頬側にレジンペーストを置いて頬側の面を立ち上げる。こうして1級複雑窩洞を1級単純窩洞の形に変える。そのうえで、咬頭を1つずつ、レジンを入れて形を整え、光を当てる、を繰り返して充填を終える。このとき講師が勧めるのは、咬頭をつくるというより、咬頭と咬頭の間に溝をつくっていくイメージだ。もう1つのポイントは、咬頭の内斜面に沿わせること。隆線をつくるのではなく、隆線と隆線の間に溝をつくり、溝を中心に考える、と講師は繰り返す。それによって、もともとあった形に戻す「原形態の回復」が可能になるという。もとの形はもうないのだから戻せない、と言われればそうだとしか言えない、と講師も認める。そのうえで講師は、2つの手がかりを挙げる。1つは、その歯の一般的・標準的な解剖学的形態をイメージすること。もう1つは、咬頭の内面はそれぞれの歯が持っているので、それに沿わせることだ。充填の前にじっと見ていると歯の形がだんだん見えてくるので、その形に合わせて内斜面に沿わせて積んでいけばよい、と講師は言う。冒頭で触れた形態修正と咬合調整の時間は、ここで決まる。重合収縮と摩耗は、まだ残る課題講師は、接着が進んでもまだ解決できていないのが重合収縮だと話す。接着していない自由な状態なら、光を当てるとレジンは中心に向かって収縮しようとする。しかし窩洞の中に接着の弱いところがあると、強いところに引かれ、弱いところにはギャップができる。エナメル質にしっかり付いた側へペーストが寄っていくこともある。光の方向に向かって収縮するという話は、伝説的なところもある、と講師は付け加える。エナメル質に強く付いた場合には、逆にエナメル質側に亀裂が入ることもある。講師は、レジンを含浸させる処置で亀裂を埋めれば問題はないと言われている、と伝聞として紹介する。重合収縮は、エナメル質の微小な亀裂、辺縁の微小漏洩、歯髄への刺激の原因にもなりうる。これを減らすために行われている方法として、講師はフロアブルレジンによるライニングと、斜めに積んでいく積層充填を挙げる。もう1つの課題として講師が示すのが摩耗だ。直接咬み合う部分が減っていくことに加え、食物などでフィラーが脱落して全体が減っていく。大きなフィラーがあると、そのフィラーだけが抜けて摩耗が大きくなる。そこで細かいフィラーを使い、操作性と光の拡散性を補うためにクラスターを組み合わせる、といった工夫が進み、細かいフィラーを高密度に充填できるようになって、摩耗にも良好な予後が期待できるようになってきている、と講師は話す。講師は最後に、臼歯部の修復の長期経過を示し、研磨面がほとんど変わっていないことに注目してほしいと述べる。ただし、対合歯としっかり咬み合っていることや、患者の咀嚼のパターンも関係するだろう、と講師自身が留保している。本稿で扱わないこと講師の名前と所属、講師が使うコンポジットレジンや接着材の製品名、象牙細管の密度や直径などスライドや字幕に出てくる数値のうち編集部で原典を確認していないもの、症例の経過年数、患者の留学先での治療の話は扱っていない。接着システムの各世代が登場した年代も、自動字幕の聞き取りが不確かなため載せていない。間接修復で使うコンタクトキュア(タッチキュア)の話も講義に含まれるが、本稿は直接修復に絞った。自動字幕で聞き取りが不確かだった部分も採っていない。本稿は講義内容の整理であり、材料の扱いは各製品の添付文書に従ってほしい。元動画を見る「保険 × 高速」でCR修復を行うテクを伝授します(2024年3月22日公開)このミニセミナーはセミナーの前半部分です。続きは1Dプレミアムで視聴できます。
    1D編集部
    2026年10月31日

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