この問いかけは働くスタッフへの問いかけではありません。その職場のトップである院長先生への問いかけです。
年平均して2000人近くの歯科衛生士が歯科業界から離れてしまっているということはご存知でしょうか?経営もされている院長先生なら当然ご存知ですよね。
今回は未就学児2人を抱えながらシングルマザーとして歯科医院で働き続ける歯科衛生士が、周りで起きている状況、衛生士の離職問題について声を上げていきたいと思います。
実際にやめていく衛生士の中には、歯科の仕事は魅力的だと思っている。頑張りたかったけど、辞めざるを得ない環境(出産を機に離職を求められる)、職場の人間関係が悪くてもう一度挑戦しようと思えない、など環境の問題で辞めてしまっているといった状況もあるようです。
私よりも歯科知識も豊富で、何より患者さんと向き合うことにやりがいを感じている素晴らしい歯科衛生士たちがやめていくこの業界、勿体無い!!!
歯科医師として治療と経営に日々追われている院長先生、様々な悩みをお持ちだと思います。
これら全てを解決し、自身も働くスタッフも幸せであり、患者さんへ最適な医療提供をしていきたいと思われるのは責任感のある院長先生であれば皆さん感じていらっしゃる課題ではないでしょうか。到底、雇われている身では想像もつかないような責任とプレッシャーと常に戦っていらっしゃる。
しかし、これらすべてを院長先生がお一人で実現するには限界があります。そして、結婚や出産で一時的に現場を離れるスタッフを待てる体力が医院組織自体にないため歯科衛生士はどんどん辞めていってしまう。といったことが現状にあります。
小規模組織ではマンパワー不足で経営にかなり大きなダメージを受けることになるので人員の補填が必ず必要になります。
しかし復帰後のスタッフを雇用し続けるにはさらに広範囲のマネジメントを要することとなりますのでそこまで手が回らなければ退職を余儀なくして暗黙のルールにしてしまう風潮もやむを得ないのかもしれません。
しかし今後歯科衛生士の雇用が更に難しくなると言われる時代の中で、離職問題は他人事ではなくなってきています。女性として、母親としてのプライベートの部分と仕事を通じて社会貢献し、自己成長できる自分でありたい。そう願う歯科衛生士も増えてきています。
昔のように、家庭に入って専業主婦として仕事からは一切遠のいてしまうという選択を取れる状況でなかったりします(人生100年時代)。
そのニーズを目の前にして何も対策を取らないということは、自身の医院を持続させることに対するリスクであるということ。10年後に選ばれない医院になることを選択しているということにもなります。
私自身、この医院で働き続けたいと思った理由について、離職理由にも挙げられる職場の環境(ライフスタイルに合わせられるか)や、人間関係の問題(教育、管理)の2点に対してそれぞれで考えてみました。
こちらは当初、院長がドクターとしてはほぼ一人、歯科衛生士が5人ほどの医院規模でしたがフルタイムスタッフよりも1時間半早く退勤(保育園に間に合うように退勤できる)。
急な休みでも対応できるような組織体制(そもそも院長が子育てに対する理解があるため、急な休みは仕方ないと思っている)
また受付、歯科衛生士の役割が明確であったため、DH業務に関して代役に回ってくれるDHがいる、アポイントの変更などを受付スタッフが行ってくれるといった点でスムーズに対応してもらえた。
また有給についても当たり前のように取れる。これは休みのスタッフの補填やオペレーション管理をする担当が決まっているため困らない状況を作っている。
こちらも土日の学校が休みである時間帯に母親が出勤できないこと、学校行事への参加のことを考慮して基本的に土曜日は休める体制にしようと決めた取り組みです。
また正社員の負担も考えて、なるべく土曜日休みや早上がりスタッフとの差を作らないように診療時間の変更を考えてくれている。
診療業務に関してもスキルアップの機会があり、研修や診療時間内での練習時間の確保などをしてプライベートの時間と分別ができるようにしてあります。
自身に対するセルフマネジメントができるための研修が受けられたり、コミュニケーション能力を向上させるための研修を受ける機会が多いです。
単に診療行為ができれば良いとは考えず、仕事の進め方や人との関わり方を学ぶことで、スタッフ間のトラブルも解消する力が身につきます。
プラーベートのことなど、職場のスタッフには相談しにくいことは月に1回心理カウンセラーが面談に来てくれるので悩みの捌け口がある。
また仕事に関する相談は、基本的に上司と面談の時間が月に1回はあるので、分からないことやこの先どうするべきかの相談もできるため迷いが少ない。
これらの対策は、緊急性がないためなかなか実施することが難しいと感じられるかもしれません。ただ、こういったことを実現させたい!と声にすることはできます。
院長先生がスタッフに対して教育するべき点は、自分達の医院を守るために必要なことをどうやって進める必要があるのか?ということ。そのために協力してほしいことをしっかり言葉で伝えていくことだと思います。
スタッフも解ろうとすることはできる。知らないだけ。
院長先生の考えられている頭の中の1割も伝わっていないことがほとんどだと思われて良いと思います。見ている景色も抱えている問題も雲泥の差があります。緊急性がないことに取り組む重要性は現場のスタッフには伝わりにくいものです。
それどころか、わたしたちのことを理解してくれていない、患者さんのことを考えていない、などと平気で口にするのです。けれどスタッフたちも目の前の患者さんをなんとかしたい、と考えた結果がそうした発言や行動なのです。
院長先生という立場を理解した上での発言ができないのは、それまでの教育の中でマネジメントに関する知識を得る機会がなかったためです。スタッフにもそういった学びの機会を与えて一緒に成長しようとすれば必ずスタッフはついてきます。
情報社会の中で、当たり前のことが守れている、人として尊敬できるかどうか?ということはかなり重要視された上で職場が選ばれると言います。
しかし条件、給料は分かりやすく、特に若い新人衛生士は判断力がないためにそういった内容から職場を選ぶこともあるでしょう。これによって現実に幻滅して離職する衛生士が多いということは、院長先生が選択されることに衛生士の未来も、歯科業界の未来も左右されるということです。
目先の問題や利益でなく、将来のための選択。自分が良ければ良い、ではなく業界に関わる全ての人がよくなる選択を考えられる、経営者としての院長先生が増える。
院長先生の一声で周りのスタッフの意識が変わり、組織が変わります。そして歯科業界がより良い未来に向かうことを望んでいます。