こういう活動をしていると学生から悩み相談を受けることが多いのですが、圧倒的に多いのは過去問との付き合い方です。
「まだ過去問を解いていないんですけど、いつから始めた方がいいですか」
「過去問を覚えてしまったので、いまは教科書を読んでいます。それじゃだめですか」
これまで様々な相談を受けてきたのですが、根本的に学生が勉強をしていて戸惑うのは過去問との付き合い方。ということで、今回はぼくなりに考えている過去問との付き合い方のご紹介をさせていただきます。
(この内容はこれまでの連載(特に
3回目)を読んでいることが前提として書かれています。まだ未読の方は先にそちらをご覧ください。)
知識の習得に至るまでには未知→不出→可出の3つの段階がありました。
しかし、こんなふうに3つでキレイに分けることはできないと思います。
例えば新たな資格と取得するために勉強を始めたとします。始める前は、その資格についての知識はほとんど未知です。
勉強を始めると未知の割合が減り、不出と可出が増えていきます。ある程度勉強を続けていると、未知はかなり少なくなります。不出と可出の知識でほとんどになると思います。
単元によっては得意なところも出てきて、ほとんどの知識が可出になっていることもあるかもしれません。
ここで質問です。どの段階で過去問を解き始めるのが良いのでしょうか?
ぼくは勉強を始めて未知の割合が減り、不出と可出の割合が増えてきた段階で過去問を始めるのが適切がと考えています。
よく「いきなり過去問から取り掛かるのが最速である」という話を耳にします。ぼくも最初の頃はそう考えていたので、学生にはどんどん過去問を解けとアドバイスしていました。
転機が訪れたのは、歯学部4年生にCBT対策として個別指導をしていたときでした。その学生は学校の勉強についていけず留年を繰り返していて、今年ダメだったら大学を辞めなければいけない…という状況でした。
そうした学生に対してぼくは、CBTの問題集をとにかく解いてくださいと指導していました。……いま思えば相当酷なアドバイスです。
なぜかというと、その学生は歯科に対する知識全般が未知の状態でした。4年生を複数回留年しているので歯科に対する知識が未知なんてありえないと予想をしていたのですが、個別指導中にいくつか質問をしてみると「知らなかった」と答えることが多かったのです。
どうしてそんなことになっているのか疑問に思い、これまでの学生生活について質問をしてみました。すると、「進級試験前に、先輩からもらった試験の過去問を丸暗記してこれまで乗り越えてきた。大学の講義はほとんど聞いていない。バイトで忙しく、講義中は眠ってしまうことが多い。」とのことでした。
なるほどーと思いながらも知らないことが多い理由がわかったところで、指導方法を思い切って方向転換してみました。未知が多すぎると、問題集を解いて解説を読んでもその内容が理解できない。そんな状態で過去問を解いたとしても効率が悪いと思ったからです。

そこで一から基本的な内容を講義しました。家での勉強も、教科書や参考書を読んで理解するようにしてもらいました。難しい内容については、ぼくが用意したプリントを読むように伝えました。
この方向で指導するようになってしばらくすると、その学生は未知が減り、不出が増えてきました。質問したときの受け答えがずいぶんと変わってきたのです。この段階まで来ると過去問演習をしても大丈夫だと思い、過去問をどんどん解くように伝えました。
初めは「まだ出来る気がしません」と乗り気ではなかったのですが、解き始めてみると「問題の正答率は低いけど、解説を読んでも意味がわかるようになってきた」と喜んでいました。そしてどんどん過去問を解き進めることが出来るようになり、成績も大きく向上しました。
この経験から「過去問をどんどん進めろ」という学習方法は間違いではないのだけど、解像度が低い指導方法だなと考えるようになりました。
つまり未知が多い状態では、教科書・参考書を読む、講義を聞く>過去問演習が学習効率が高く、不出や可出が多い状態では過去問演習>教科書・参考書を読む、講義を聞くが効率が良いと考えるようになりました。
教科書を読むことや講義を聞くことは、時間がかかります。しかしまだ何も知らない状態では、問題演習をするよりも集中的に勉強(理解する)をしたほうが長い目で見たとき成績が伸びやすくなるのです。
では不出、可出が多い状態で過去問演習をせず、ずっと教科書や参考書を読んでいるとどうなるでしょうか?これを実践している学生は、意外と多いです。
そしてこの方法をとっている学生には2タイプいます。成績がよくないタイプと、全国模試で1~2桁とるほど優秀なタイプです。後編に続く…。
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