これまで有効な治療法が無かった疾患の治療が可能になるなど、失われた組織を取り戻す「再生医療」が脚光を浴びている。
歯科医療も例外ではなく、特に歯周治療分野では盛んに再生医療の日常臨床への応用がされつつある。
歯周治療における再生治療の実際や今後の展望について、本記事では解説する。
歯周炎の進行により、歯周組織は破壊されていく。近代歯科医学が創始されてから、破壊された歯周組織を再生しようと、多くの研究者が挑戦を続けてきた。
1976年、Melcherはある仮説を提唱した。「歯根膜由来細胞が歯周外科手術後の歯根面に増殖した場合に、歯周組織の再生が起こる」という理論だ。
そのおよそ5年後、Melcherの仮説をベースとしたNymanらが、遮蔽膜を用いた歯周組織の再生治療を編み出し、初めて新付着を獲得することに成功した。
日常臨床で行われている歯周組織再生治療には、骨移植術、GTR法、エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)の3つが挙げられる。
それぞれの術式について、簡単に解説を行っていこう。
骨移植術は、歯槽骨の欠損部に骨移植材を充填することにより歯周組織の再生を図る術式である。
骨移植材には自家骨、他家骨、異種骨、人工骨といった種類がある。ゴールドスタンダードとして用いられるのは自家骨であるが、侵襲性や採取部位に課題を残している。
米国においては、他家骨である脱灰凍結乾燥骨(DFDBA)が普及しているが、感染症や倫理的観点から日本では認可されていない。
異種骨としてはウシ焼成骨が使用されている。また、ハイドロキシアパタイトや三リン酸カルシウムに代表される人工骨も臨床で用いられている。
Stahlらは、クエン酸やテトラサイクリンで歯根面を脱灰させ、象牙質のコラーゲン線維を露出させることで、周囲組織の間葉系細胞のセメント芽細胞への分化を促進し、セメント質を再生する方法を提案した。この方法は動物実験では効果を上げたが、臨床研究では結果を出せていない。
また、歯根面をEDTAで脱灰させ、そこにEMDを適用する方法をHeijlらやhammarstormらが提案した。
GTR法は、歯槽骨の欠損部に遮蔽膜を設置することで、歯根膜由来細胞だけを選択的に誘導し、歯周組織を再生するという発想だ。
臨床での難易度や複雑な骨欠損への応用などの課題を残しているが、適応症を的確に選択すれば予知性を持った結果が得られる。
GTR法により再生した歯周組織は、セメント質の構造や歯根膜のコラーゲン線の走行が正常とは異なっているという報告もある。Araujoらはこれについて「
GTRはGuided Tissue Repairの略なのでは」と指摘をしている。
歯周組織再生治療は、歯周治療の臨床レベルを押し上げるポテンシャルを秘めている。
現在は歯周組織の再生量や適応症の狭さなどの課題が山積しているが、それらを解決していくことにより、歯周治療は大きく変わっていくことだろう。
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Melcher AH.On the repair potential of periodontal tissues.J Periodontol.1976;47:256-60
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Nyman S,Lindhe J,Karring T and Rylander H.New attachment following surgical treatment of human periodontal disease.J Clin Periodontol.1982;9:290-6.
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Parashis A, Andronikaki-Faldami A, Tsiklakis K. Clinical and radiographic comparison of three regenerative procedures in the treatment of intrabony defects. Int J Periodont Rest Dent. 2004;24:81-90.
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Stahl S,Slavkin HC,Yamada L and Levine S.Speculations about gingival repair.J Periodontol.1972;61:395-402.
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特定非営利活動法人 日本歯周病学会『歯周病患者における再生治療のガイドライン』2012.