発達に遅れがあったり、何かしらの障がいがある子どもは十分なコミュニケーションをはかることが困難なことも多い。そのため、一般歯科医院では健常児と同様の歯科処置などを行うことは難しいと思われている。
重度の障がいがあれば、一般の歯科医院で患者に混じって処置をすることは難しいが、グレーゾーンや軽度の障がいがある子どもに対しては、歯科医療従事者が知識を深め、特徴を知ることで一般の歯科医院で行える処置も少なくない。
また心疾患や他の合併症を有するケースも多く、日々の生活のなかで口腔内を清潔に保つこと、またそのためのメンテナンス方法などを得ることは本人たちにとっても大切なことである。
実際、そのような子どもや保護者は、特別に難しい処置ではなくても気軽に何でも相談でき、信頼できる歯科の専門家として何かしらの支援を期待していることも多い。
できるだけ小さな頃から歯科医院にかかることにより、歯科医院の雰囲気やスタッフにも慣れ、口腔内を触られることを嫌がらなくなってくる。歯磨きの練習もでき、処置に必要な様々な器具にも慣れることができるなど、こまめに歯科医院に通院することのメリットは大きい。
そのような子どもに定期検診を行うにしても、障がいの程度、個々の理解度などにより対応法も異なり、日常で行う歯磨き自体が困難なことも多く見られる。
また、患児のみならず、保護者への指導も非常に重要になってくる。
自閉症スペクトラム(ASD)では視覚情報の方が理解しやすいという特徴があるが、発達に障がいのある子どもは視覚的に誘導すると、スムーズにいくことも多い。これは文字情報や聴覚情報は脳でいったん視覚情報に置き換えて判断していると考えられ、その方が分かりやすいとされてる。視覚による刺激は直接的にインプットされるため、言葉を理解していない状態でも入りやすい。
もっとも基本的な方法が絵カードや写真を用いたものである。伝えたい内容を絵カードや写真で示しながら、同時にことばで補足説明をすると、自閉症スペクトラムや知的障がいがある子どもにも理解しやすくなる。
①声かけは少なめに、ことばは短くシンプルに肯定的で具体的な説明をする。
②見通しがもてるようにする(はじめと終わりの明示をする)流れと手順を予告し、予定どおりに実行する。
③静かなところで説明する音が大きなところや人が多くガヤガヤしているところでなく、余計な刺激のない集中できる環境でおこなう。
歯科医院に訪れる子どもたちの不安を強くする要因に、歯科医院特有の音やにおいがある。特に音や振動、感触などは視覚的に伝えることはできないため、視覚情報である絵などに機械の音などを文字で補足することも一つの手である。マンガのように、絵にキュイーンと音がする、ゴリゴリするなどと文字で補足すると分かりやすい。
音は、歯科医院で発生する機械音を録音しておくと、家で歯科受診の練習ができたりと役立てることができる。
歯科医院で使用するデンタルミラーやピンセット、エアーやバキュームなどは障がいの有無に関わらず、ほとんどの子どもたちにとっても馴染みのないものばかりである。これらを使用するときに過敏な反応を示したり、恐怖体験などが過去にあった子どもには脱感作の必要がある。このとき、「少しずつ、弱いものから、離れたところから」Tell-Show-Do(TSD)を行いながら脱感作を行う。
自閉症スペクトラムの特徴として、特定の音や光、においや味、感触を好んだり、嫌がったりする傾向があるが、歯科医院の絵や写真カードだけでは伝わらない特有の刺激に対する不安や恐怖、過敏反応を取り除くためにも視覚情報とともに実物を用いたリハーサルも大切な学習のプロセスである。
小さくて軽いため、手軽に持ち運びができ、いくつもの場面をあらかじめ設定しておくことができる。その日の予定に合わせて、必要なものをタッチパネルで選択し、順番に並べることもできるなど電子機器を用いることのメリットは大きい。
上記のことは一例に過ぎないが、何かを工夫したり、別の非言語的なコミュニケーションの手段も持って対応していくことで、お互いのコミュニケーションが円滑になり、一般の歯科医院でもできることが多くなる。
ホームケアのみでの清掃には限度もあり、定期的に短い間隔で受診することで、口腔内の問題悪化を防ぐこともできる。
大規模な病院ではできない密で細かな対応ができる点においても、地域の中で一般の歯科医院の果たすべき役割は大きい。
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