近年、健康志向やダイエット志向が広がりを見せ、世の中には低カロリーやカロリーゼロ、シュガーレス、ノンシュガーなどをうたった商品があふれている。
歯科で注目すべきはシュガーレスやノンシュガー、無糖、砂糖不使用などの表示であるが、明確な基準を理解できているだろうか。
今回は、時代の流れにより基準が制定されてきた背景も交えながら考えていきたい。
このような表示が始まったときは法的には明確な基準はなく、各メーカー独自の判断でなされていたため、消費者の混乱を招く恐れがあった。
そこでこれらを統一するため、平成7年、栄養改善法上に「栄養表示基準制度」が設けられた(平成14年の栄養改善法廃止に伴い、現在は健康増進法に移行している)。
この規定により、「シュガーレス」「ノンシュガー」「無糖」「糖類ゼロ」などの糖類を含まない旨の表現は、
食品100gもしくは飲料100mLに対し、単糖類または二糖類の糖類が0.5g未満であれば表示可能ということになった。
まず、糖類と糖質との違いについてである。糖類と糖質は言葉では少しの違いであるが、とても大きな違いがある。
三大栄養素のひとつである炭水化物は糖質と食物繊維からできている。つまり、「糖質」とは「炭水化物から食物繊維を除いたもの」の総称であり、単糖類(ブドウ糖や果糖など)、二糖類(ショ糖、麦芽糖、乳糖など)、多糖類(オリゴ糖など)、糖アルコールなどがある。
そして「糖類」というのは単糖類、二糖類の総称である。
単糖類:その名のとおり、最小の単位の糖であり、消化せずにそのまま吸収できる。
二糖類:乳糖などは最小単位の糖が2つ結合したもので、ブドウ糖(グルコース)とガラクトースからなる。またショ糖(スクロース)はブドウ糖(グルコース)とフルクトースからなる。
単糖類、二糖類の糖類が規定の範囲を満たしている場合、何を入れて甘みを出したりしているのだろうか。
現在使用されている甘味料は、大別すると、糖質系甘味料と非糖質系甘味料の2種類に分けられる。
配糖体系:ステビア、グリチルリチン
アミノ酸系:アスパルテーム
化学合成系:アセサルフェームK、サッカリン
このなかでオリゴ糖や糖アルコール、スクラロース、非糖質系甘味料には、口の中の細菌に利用されない、あるいはされにくい性質を持つものが多く、う蝕になりにくい機能を挙げたチューインガムやキャンディ、歯磨き剤にも使用されている。
特に、糖アルコールの一種であるキシリトールは砂糖と同程度の甘さがあり、他のう蝕を起こす糖で補わずとも十分な甘みをつけられるためよく用いられている。
「糖類を含まない旨」を示す表示でなくとも、通常よりも糖類を控えた商品も多くあるが、栄養表示基準によると以下のように決まりがある。
そして、
「甘さひかえめ」などは栄養表示基準にも基準はない。
これは、甘さというのは味覚に関する表示であり、栄養表示を目的としたものではないためである。甘さなどは個人によっても異なり、糖類の量を示す指標にはならない。
多くの場合は、そのメーカーの通常の製品よりも糖類の添加量を少なくしていることを表しているが、特定の基準はない。「甘さ控えめ」は「糖類控えめ」とは限らず、紛らわしい表現となる。
上記のことより、ノンシュガーやシュガーレスなど糖類を含まない旨の表記があるからといって、カリエスリスクがないわけではない。
キシリトール入りと大きく表示されているお菓子でも、商品によってはう蝕を起こすものも含まれているものもある。キシリトールそれ自身にう蝕を起こす能力がないだけであり、う蝕の発生を防ぐ作用があるわけではないため、一概にキシリトールが含まれている商品を患者にすすめてはならない。
また、う蝕の誘発性という意味では含有成分からだけでは判断が難しい。
成分は同じでも形状によって歯垢 pHへの影響は異なるため、成分表示だけでは「歯に安全」、「う蝕になりにくい」というような判断もできない。このことから歯にとって安全であるかどうかの判定は、成分でなく食品全体としてなされなくてはならない。
日本で食品全体としてテストを行っているのは、厚生省が行っている特定保健用食品と、国際組織であるトゥースフレンドリー協会が認定した「歯に信頼マーク」付きの食品だけである。
以上のことをよく理解した上で、患者への適切な指導を行っていかねばならない。