”業界タブー”に挑戦。デンタルシステムズの創業秘話と革新的ビジョンとは?

”業界タブー”に挑戦。デンタルシステムズの創業秘話と革新的ビジョンとは?

1D編集部
2023年2月24日
第2回目の今回は、岩室社長がデンタルシステムズ株式会社にどのようなビジョンを描かれ、どのような思いで日々製品を作られているのかに注目してお話を伺いました。

デンタルシステムズ株式会社 代表取締役 岩室圭一社長

1D編集部 ユースケイシカワ(以下、イシカワ):今回のインタビューでは、ぜひ社長のお人柄の部分を掘り下げて参りたいと思います。早速ですが、社長はなぜこのようなお仕事をしようと思ったのか、デンタルシステムズさんの創業のきっかけを教えてください。


岩室 圭一 社長(以下、岩室社長):私は元々、一点モノのシステムを受託して作る注文生産型の会社でSEでした。毎回違うシステムを作れるというのは楽しかったのですが、「自分が作ったものが蓄積されて財産にはなっていってないな」と感じていました。

せっかく苦労して作り上げたのに一度使えば終わりというのはとても悲しくて、たくさんの人に使ってもらいたいという想いが段々強くなったんです。


そこで「パッケージ製品を作りたい」と当時の会社の上司に何度も伝えたんですが、「売る人やメンテナンスをする人が必要であるから、今は考えられない」という意見しかもらえませんでした。そこで段々と、自分が目指す方向性が会社と違うな。という感覚になり、そこの会社を飛び出しました。


その後、同業の知人と自分が実現したかったパッケージや紙のものを電子化する電子ファイリングの仕組みを作るようになりました。今ではクラウド化とも言われ電子化が当たり前のようになっていますが、当時その時代には、先駆けすぎて周囲の理解を得られず、なかなか売れませんでした。


そんな時、たまたま知り合いから「歯科のレセコンを一緒に作ってみないか」というお誘いがあったのです。しかし私の場合、「歯科ってなんだろう?」「レセコンってなんだろう?」という状態でした。そんなスタートでしたので、開催されていたデンタルショーに行ってみることにしたのです。


そこで「このシステムで300万もするのか…!?」と思うほどレセコンが高額で販売されているのを知りました。私から見れば、そのシステムよりももっと良いモノを作れるぞ!という代物だったのです(笑)

イシカワ:コンプレイセンシーの時代ということですね(笑)

岩室社長:そうです、そうです。だから「もっと良いものを作れば売れる!」と私の中で心が奮い上がりました。


ただ私は歯科業界の知識が全くなかった。作るからには勉強しなければならず、知り合いの歯科医師に教えてもらいながら歯科治療の流れや仕組みを猛勉強して、そこからどっぷり浸かっていきました。そこからデンタルシステムズ株式会社としての幕開けとなったのです。
歯科に対する様々な情報を取り入れながら自分が納得できるレセコンを作れたのは良かったのですが、その束の間、次は営業をどのように行うかという問題が出てきました。


同業他社の多くは、歯科のディーラーさんと一緒に販売しています。しかし、新参者がみんなと同じことをやっても絶対に勝てない、仕入れてくれるわけがないという途方もない状態でした。しかし私は、他者と全く違った売り方をしようと考えた結果…直販しかない!と思い立ったのです。


また、当時のレセコンというビジネスモデルは、6年ごとに買い換えを推奨していました。しかし私は、大した違いはないのにも関わらず、買い換えるのは絶対におかしいと感じていました。


そのようなビジネスモデルを覆すために、「レセコンを一度購入したら、システムのメンテナンスを毎月の保守料のみで行います!永久に使って頂けます!」というデンタルシステムズ株式会社にしかできない新しい形態で売り出していきました。


やはり最初は全く相手にしてくれなかったのですが、私たちの考えをわかってくれる先生たちがポツポツと現れてきて頂けました。その時は本当に感動しました…。


しかし次は、現在使用している他社製品から弊社のレセコンに切り替える際に、データの引き継ぎができないためなかなか売れないという壁にぶつかりました。私は何とかこの問題を解決しようと、最低限どのような必要な情報があれば移行できるのか?ということを、歯科医師の先生と徹底的に話し合いました。


そしてそのデータを移行できるように、A社はこれ、B社はこれ、といった会社ごとのデータ引き抜きツールを作れば良いといった結論になり、レセコンを作り上げるのと同じくらいパワーをかけて開発していきました。

新しいメーカーさんから出れば、それに合うように開発します。それを繰返し続けて続けて…今ではもう、日本全国ほとんど全てのメーカーさんに対応した仕組みを生み出すことに成功しています。データをある一定の標準形式にしてしまえば同じツールにできるということです。
イシカワ:なるほど…自力でHL7(Health Level 7)と言いますか、標準化するツールを作ってきたような感じですよね。30年前程は僕もあまり詳しくはないのですが、レセプト自体がデータ化して間もなかったわけですよね。本当にクラウドの先駆けとなっているのがデンタルシステムズさんの仕組みなのですね〜。でも全てのものに対応できるよう開発することは、相当困難だったのではないでしょうか?

岩室社長:そうですね。データを引き抜く作業、これは本当に苦労しました。コンピュータを紐解いたら01の羅列で、それが商品コードや点数でしかも他社製品ごとに違って無数にあるので、ある意味謎解きでした。

今はデータベース化して分かりやすくなっていますが、当時は自力で探し当てなければならないというところが難関で、膨大なデータから地道に推測して、「売るためには〇〇社のデータを引き抜け!!」と夜も寝ずに死に物狂いで作業をしていた記憶があります。


それをやったからこそ今があると思うと、頑張って良かったと心の底から感じています。
イシカワ:クラウド化をしようとしたきっかけや、クラウド化することへのこだわりは何だったのでしょうか?

岩室社長:
  • データを集中管理したい
  • ソフトウェアをサーバーから廃止したい
  • ユーザーに自由に好きな端末を選んで使用してもらいたい
の主に3つですね。そして何よりも、クラウド化した方がスピード感が全く違って非常に早いという特徴があります。より便利に先生方に使って頂きたい。そんな気持ちで取り組んできました。

実は、十数年前くらいからクラウド化したいとは思っていました。しかし、当時はクラウド化するためのツールがレセコンより高すぎて買えなかったという辛い現実がありました。


しかし転機になったのは4年前。現在のWindowsのPower4Gをクラウドに移行できるツールを持っていたある会社と出会いがありました。その時、「価格を抑えてクラウド化できるのはこれだ…!」とお宝を見つけたような感覚でした。十数年間の想いが、ここに叶ったと確信しました。


それから私は会社の全財産を投げ打ってその会社を買収し、今の子会社としました。本当に嬉しかったですね〜〜。

イシカワ:すごく運命的な出会いがあったんですね。そのようなクラウド化に強くこだわりの想いをお持ちの社長が、やりがいを感じる瞬間はいつでしょうか?

岩室社長:パッケージを作る!と意気込んで前の会社を飛び出した理由でもありますが、一番は使ってくれている先生が喜んでもらえることです。たくさんの人に喜んでもらいたいという想いだけです。


私は直接会って話すことが好きなので、昔はよく現場に行ってそのような嬉しい声をよく伺えていましたが、最近は個々でお会いするのが少なくなりましたが営業チームからそのような話を聞くとやはり嬉しい気持ちになります。


「このレセコンはいいね」「使いやすいね」「最高だね」という声を聞くだけでも、嬉しくて仕方がありません。やっていてよかった、これからもやっていこうと思える瞬間です。
イシカワ:この業界において、社長が自分で認識している使命感は何でしょうか?

岩室社長:今までタブー視とされていた、データの引き抜きやクラウド化にすることをやってきた経験から、他社がやりたがらないことをやり続ける会社で在りたいと思っています。特にこれからはDXの標準化するために、色々なことにみんなでチャレンジをしていきたいと思います。

さらに今後の構想としてあるのが、HPにも記載させて頂いていますが、クラウド上にあるデータと繋げてAIによる診断をしていくことです。AI診断こそ正確で、術者による揺らぎが全くなくなるため、標準化されるというのが非常にメリットなのです。


ちなみに現在「歯式」に関しては既に完成していているので、パノラマ画像をいれたらどのメーカーの製品でも対応できるように他社にもその仕組みをオープンにして、どこのメーカーからも情報を出せるようにしていきたいと思っています。


そうなると、全国のパノラマによるデータが知らず知らずの内にデンタルシステムズに集まってきて、それが厚生労働省の欲しがるようなビックデータとなると予測しています。このような取り組みをすることが、私がデンタルシステムズ株式会社でしなければならない、最後の使命だと思っています。
イシカワ:社長が将来思い描いている、デンタルシステムズさんとしてのビジョンをぜひ教えてください。

岩室社長:歯科版のM3のような存在となりたいですね。

イシカワ:我々の競合となってしまいそうですが…大丈夫でしょうか!?(笑)

岩室社長:ですね(笑)ただその意図は、DXの記事の時にもお伝えしましたが、一番強い想いとして色々な会社と一体化するプラットホームを建築したいということです。


私の仕事観や人生観は、最初に勤めた受託会社の社長から、物事の本質を捉えるまでのアプローチの方法問題解決力の大事さをしこたま教えられました。全てがその方の教えでできているくらい、私の真髄にあります。


歯科医療者の問題に対して、デンタルシステムズ株式会社にしかできない形態のサービスを、これからも提供していきたいと思っています。

〜番外編〜 ユースケイシカワのインタビュー感想

前回に続いて岩室社長のお人柄を掘り下げてきましたが、一言で“パワフル”だなと思いました。

自分が良いと思ったこと、世の中のためになると思ったことへの、社長自身の推進力があってこそ今があると感じます。

「常識をぶっ壊す」精神はシンパシーを感じざるをえず、一気に距離が縮まったと勝手に思いました。

岩室社長のバイタリティに倣って、僕らも全力で業界の発展に貢献していこうと、インタビューを通して再確認しました。

改めまして、岩室社長ならびにご協力いただいたデンタルシステムズの皆様に感謝申し上げます。

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1D編集部は、臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士で構成されています。歯科業界の最新ニュースから歯科医療の臨床・学術情報、歯科医療者のためのライフスタイル記事まで、歯科医療の専門家の視点で、ただしく・おもしろいコンテンツをお届けします。

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2026年1月17日
【1Dのセミナーログ】将来、豊かで安心したライフプランを描くために

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将来、豊かで安心したライフプランを描くために――「普通の歯科医師」のお金の現実から考える、資産形成の第一歩1月の年明けは、「今年こそ将来のことをちゃんと考えたい」「このままで本当に大丈夫なのだろうか」 そんな気持ちが自然と湧き上がるタイミング。臨床や経営には真剣に向き合ってきた一方で、 お金・資産・ライフプランについては、 どこか「後回し」にしてしまっていないだろうか。今回ご紹介するのは、 今、多くの歯科医師から注目を集めているセミナー 『「普通」の歯科医師は、何歳でどれほどのお金をもらっているのか?』。この記事では、セミナー内容の一部をもとに、 歯科医師のリアルな年収・資産データと、なぜ今“金融リテラシー”が重要なのかを整理していく。歯科医師の平均年収は、実は一様ではない「歯科医師は高収入」 そう言われることが多い職業だが、年齢やキャリアによって、収入の推移は大きく異なる。セミナー内で紹介されている参考指標では、以下のような傾向が示されている。・45〜49歳:平均年収 約1,254万円・50〜54歳:平均年収 約1,085万円一見すると、50代で年収が下がっていることに違和感を覚えるかもしれない。 これは、開業タイミングで初年度に一度年収が下がるケースが影響していると考えられている。もちろん、すべての先生に当てはまるわけではない。あくまで「参考指標」にはなるが、自分の現在地を客観的に見る材料として、知っておく価値は十分にある。年代別に見る、歯科医師の資産形成の目安収入だけでなく、「実際にどれくらい資産を持っているのか」も気になるポイントではないだろうか。セミナーでは、年代別の資産目安についても触れられている。20代|貯蓄 0〜500万円奨学金返済の影響が大きく、 ほとんど貯蓄ができていないケースも珍しくない。30代|数百万円〜1,000万円台勤務医が中心の世代。 年間の貯蓄額が比較的多い先生がいる一方で、住宅購入・子育てといったライフイベントで支出も増えやすい時期。40代|1,000万〜3,000万円前後金融資産の期待値・実績は30代より増加。 一方で、教育費のピークを迎え、一時的に貯蓄が減るケースもあると報告されている。興味深いのは、「自分の子どもには歯科医師になってほしい」と考える先生が多い点。この価値観が、教育費のかけ方にも影響しているようだ。50代|3,000万〜6,000万円(人によっては1億円超)投資や資産の蓄積が進みやすい年代。ここまで来ると、若い頃の意思決定の差が数字としてはっきり表れ始める。なぜ、資産形成に差がつくのか?では、同じ歯科医師でもなぜこれほど資産に差が生まれるのか。セミナーで強く投げかけられている問いが、「日本人は、お金を働かせていない」。事実として、・日本人の金融知識はアジアで最下位レベル・1990年〜2014年の金融資産成長率米国:約4倍日本:約1.6倍というデータが示されている。金融知識の有無が、そのまま資産差として表れていると言っても過言ではない。金融リテラシーが低いことで起こる“見えない損失”お金について学ばないことは、「何もしないから安全」という話ではない。実際には、以下のような見えない損失が積み重なっていく。・節税をしないことで支払う余分な税金・資産運用をしないことによる機会損失 ・保険を学ばずに払い続けるムダな保険料 ・株式を知らないことで発生する高額手数料や損失 ・融資を理解しないことで支払う余分な利息 ・不動産知識不足による過剰な負債 ・お金の知識不足による詐欺被害 「知らなかった」だけで、本来守れたはずのお金が静かに失われていく。 これが、最も怖いリスクかもしれない。“普通の歯科医師”を知ることが、将来の安心につながるこのセミナーでは、FPコンサルティング代表取締役の岡崎謙二先生が、勤務医・開業医の年代別平均年収 開業費用・借入額の実態住宅ローン・保険の考え方資産形成・投資・リスクマネジメントの基本 を、数字とデータに基づいて解説。「お金の話を誰にも聞けない」「将来が漠然と不安」そんな先生にこそ、感覚ではなく現実的な指標を持つことの大切さを伝えてくれる60分である。年明けの今だからこそ、一度立ち止まって考えてみるのはいかがだろうか?忙しい日常の中で、ライフプランや資産形成について腰を据えて考える時間は、意外と取れないもの。だからこそ、意識が前向きになりやすい“年明け”というタイミングに、一度、自分の将来と向き合ってみてはいかがだろうか。
1D編集部
2026年1月10日
【速報】令和7年度補正予算で歯科診療所に一律32万円の支援金

【速報】令和7年度補正予算で歯科診療所に一律32万円の支援金

令和7年度補正予算案が11月28日に閣議決定され、医療機関への大規模な支援策が盛り込まれた。1)厚生労働省による今回の予算案では、医療分野における賃上げと物価上昇への対応が重点項目として掲げられている。歯科診療所においても、従事者の処遇改善と物価高騰への対策を目的とした交付金の支給が決定。地域における必要な医療提供体制の維持・確保を図る施策として注目されている。*1)令和7年度補正予算案の主要施策集(厚生労働省)歯科診療所への支援は一律32万円今回の補正予算案の柱となるのが「医療・介護等支援パッケージ」だ。物価高騰や深刻化する人員不足といった医療機関・介護施設の経営課題に対応するため、総額1兆3,649億円という大規模な予算が計上されている。 内訳:医療分野に1兆368億円   介護等の分野に3,281億円医療機関・薬局に対する賃上げと物価上昇への支援には、このうち5,341億円が割り当てられた。この支援策は二つの目的を持っている。一つは医療従事者の処遇改善、もう一つは診療に必要な経費の物価上昇対策である。歯科診療所に対する具体的な支給額は、医科の無床診療所と同水準の1施設あたり合計32.0万円。内訳:賃金分(処遇改善)15.0万円、物価分(物価上昇対策)17.0万円。特筆すべきは、補助率が10分の10、つまり全額補助という形での交付となる点だ。これは医療機関が直面する喫緊の経営課題に迅速に対応し、地域医療の基盤となる提供体制を確保するための重要な措置と位置付けられている。*画像は1)より引用「国民皆歯科健診」に向けたパイロット事業も始動*画像は1)より引用補正予算案では、もう一つ注目すべき施策として、「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)パイロット事業」の推進に8.8億円が計上された。この事業は、国民の歯と口腔の健康増進を目指すもので、職域の保険者、事業主、または自治体などが主体となって実施される。具体的には、簡易な口腔スクリーニングを活用した歯科健診と、その結果に基づく受診勧奨を組み合わせた取り組みとなる。実施形態としては、一般健診と併せて行うケースや、特定健診の結果を基に対象者を選定してスクリーニングと受診勧奨を実施するケースなどが想定されており、国民の口腔衛生向上に向けた基盤整備が期待されている。◇今後の動向に注目この補正予算案は、現在開会中の臨時国会での成立を目指している段階である。交付金の具体的な交付時期、申請手続き、必要書類等の詳細については、今後の正式発表を待つ必要がある。歯科診療所の経営にとって重要な支援策となるため、続報を注視していきたい。
1D編集部
2025年12月12日
どうして私だけ。合格率9割の歯科衛生士国家試験に「落ちた」女たち

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歯科衛生士国家試験の合格率は、例年95%を超える。受験資格が基本的には歯科衛生士学校を卒業した者に限定されるため一概に比較することはできないが、国家試験としては合格率の高い部類に属するだろう。本記事では、歯科衛生士国家試験に不合格になった経験のある女性3名に取材を行った。今回取材に協力してくれたのは、田代さん(仮名・24歳)と斎藤さん(仮名・22歳)、そして松田さん(仮名・31歳)だ。 合格にストーリーがあるように、不合格にもそれぞれのストーリーがある。不合格後も内定先の歯科医院で歯科助手として働きながら合格を目指している人や、学費を捻出することができずに3年以上も受験を続けている人など、数字では語られないバックグラウンドがある。【あなたにおすすめの記事】> 【ルポ】歯科医師国家試験、多浪生の現実> 歯学部を放校になった「30歳・元歯学部生」の末路1年の歯科助手経験を経て合格、田代さん(24歳)の場合田代さん(仮名・24歳)は短期大学の歯科衛生士科を卒業後、2018年の第27回歯科衛生士国家試験を受験したが、あえなく不合格となった。翌年の国家試験を受験して合格し、現在は歯科衛生士として埼玉県内の歯科医院で歯科衛生士として働いている。 明るくハキハキと話す彼女の口から、不合格だった1回目の試験直後のことを語ってもらった。 「私はもともと成績があまり良くありませんでした。試験当日はプレッシャーもあって、問題を解いている最中も ”あぁ、これは落ちたな” と思いながら解いていました。試験が終わって自己採点をしてみると、やっぱり点数が足りていませんでした」。 自己採点で点数が足りなかったため、すぐに諦めがついたと田代さんは語る。すでに地元である埼玉県内の歯科医院に内定が決まっていたが、内定先の院長とも話し合い、歯科助手として採用してもらえることになった。 「翌年、自己採点で合格点を取れた時はものすごく嬉しかったですね。両親と学校の先生、院長先生にもすぐに泣きながら報告しました。あとは学校の同期にも、1年前は私のせいで合格率100%が達成できなかったので、報告しました」と当時の嬉しさを振り返っていた。 ケアレスミスで1点に泣いた、斎藤さん(22歳)の場合斎藤さん(仮名・22歳)は、2020年に行われた第29回歯科衛生士国家試験で不合格となった。斎藤さんは幼少期から介護福祉士に憧れており、高齢者と関わる仕事に就きたいと考えていた。介護職員初任者研修を取得できる高校に進学し、実際に資格も取得した。しかし夜はしっかりと寝たいタイプだった斎藤さんにとっては、夜勤の多い介護の現場に出ることは不安だったようだ。 そこで斎藤さんは、介護の資格を活かすことができる医療系の専門学校を志すようになった。歯科衛生士専門学校に進学したのは、国家試験の合格率が高くダブつくリスクが低いということも決め手だった。 斎藤さんは、自身が落ちた理由について次のように分析する。「学校での成績も悪くなかったし、模試でも合格点は到達していました。でも私はおっちょこちょいな部分があって、問題をパッと見た瞬間に、直感で回答してしまうことがよくありました。模試は難しく感じましたが、本番当日は “なんだ、簡単じゃん” と思いながら解いていました」。 しかし会場からの帰りのバスで自己採点をしたところ、点数が足りないことが判明したという。「自己採点では1点足りませんでした。普通は不適切問題が1〜2問あるので合格はできるかなと思っていましたが甘かった。本番でおっちょこちょいのクセが出てしまって、悔やんでも悔やみきれません」。 国家試験では、1点に泣いた。現在は自宅近くの歯科医院で歯科助手として働きながら、すでに来年の国家試験に照準を合わせている。 「4月中旬から勉強を始めています。国試の麗人と医歯薬の5年分の過去問を徹底的に理解して、わからない箇所には付箋も貼っています。去年は臨床現場で働かなければわからない問題がたくさん出題されていたので、今年は歯科助手として臨床現場に出ながら猛勉強をしています」。 屈辱から雪辱を目指す、松田さん(31歳)の場合今年32歳になる松田さん(仮名)は、高校を卒業後に派遣社員などを経て歯科衛生士専門学校に入学した経歴の持ち主だ。今回取材にご協力いただいた3人のなかでは最年長になる。彼女も、今年の3月に行われた国家試験で1点に泣いた1人だ。 松田さんは、歯科衛生士国家試験を実施する歯科医療振興財団に憤りを覚えている。今年の国家試験では不適切問題による採点除外が一問もなかったためだ。 「毎年、3問くらいは不適切問題になります。なのに今年は1問もない。なぜよりによって、という気持ちが正直がところです」。松田さんは、合格発表直後に不適切問題の検証を行ったという。「周りの友人に協力してもらい今年の問題を見返してみると、10問くらい不適切っぽい問題があったんです。合格基準を考え直してもらおうと歯科医療振興財団に連絡してみましたが、返事はありませんでした」。 さらに松田さんはこう続ける。「私は一度社会人を経験してから、歯科衛生士を目指しています。学校の同期と比べても努力はしていましたし、成績も態度も良かったと思います。私より成績が悪くてやる気も無い20歳そこそこの子が合格しているのに "どうして私だけが" という怒りはあります」。 合格発表日当日、松田さんは内定先の歯科医院で仕事をしていた。「自己採点の結果から、合格できるかどうかは半々だと思っていました。でも不適切問題がないという結末で、不合格に。勤務先の院長に落ちたということを伝えたら "1年間一緒に頑張ろう" とは言ってくれましたが、気持ちをリセットしたいという思いもあり退職しました」。松田さんはいま、週に4日歯科医院で歯科助手として働きながら、来年の3月に向けて勉強を始めている。不適切問題の線引きは?不適切問題の線引きに対する不満を、不合格になった受験生は持っていた。確かに、1D編集部で歯科衛生士国家試験を解いてみたところ、不適切問題の線引きが怪しいと思われる設問も無くはなかった。2019年の社会福祉士国家試験では、不合格となった受験生の声を受けて厚生労働省が問題を再検討したところ、不適切問題が覆るという出来事があった。この時には、厚生労働省が418名の追加合格を出すという結末になっている(外部リンク:厚生労働省)。ただ、歯科衛生士国家試験は一定の知識があれば合格することができる資格試験だ。合格基準もシンプルで、運の要素は少ない。不合格になってしまった人は、知識が不足しているということは否めないと思われる。歯科セミナーなら「1D(ワンディー)」で!日本最大級の歯科医療メディア「1D」では、診療に役立つオンラインセミナーを多数開催中。もっと知りたい臨床トピックから超ニッチな学術トピックまで、参加したいセミナーが見つかります。下記ボタンから、開催中のセミナーを見てみましょう!開催セミナーを見てみる
Masahiro Morita
2025年12月11日
歯学部を放校になった「30歳・元歯学部生」の末路

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歯科医師国家試験の合格率は、下げ止まりの状況が続いている。厚生労働省が新規参入歯科医師を削減する動きもあるなかで、各歯学部は合格率の維持、そして優秀な学生の確保に頭を悩ませている。歯科医師国家試験が難化しているしわ寄せは、各歯学部の教員陣、ひいては在籍する歯学部生に及んでいる。臨床実習を含む現実味のないコア・カリキュラムのなかで、詰め込み型の教育を強いられているのが現状だ。多くの歯学部では、学生が在籍できる年数に限度がある。最大で12年間在籍できる歯学部もあれば、1学年につき1度の留年しか許されていない歯学部もある。勉強や実習に付いていけず、在籍限度を超えてしまった歯学部生に待ち受けているのは「放校」と呼ばれる事実上の追放処分だ。1D編集部では、今年で私立歯学部を放校になった「元・歯学部生」に取材を試みた。彼はこの春から地元である東北に帰り、歯科とは関係のない道へ進む。自分に合う職業を探す、ゼロからの再スタートを切ることになる。本記事が、歯学部が構造的に抱える教育上の欠陥に対する問題提起になれば幸いである。「ただただ、両親に申し訳ない」「至らぬ点もあるかと思いますが、本日はよろしくお願いします」。90度に近いお辞儀をして、彼は取材会場に現れた。鈴木さん(仮名)は見るからに真面目そうで、とても礼儀正しい印象の男性だ。彼は今年で31歳になる。2月中旬に発表された進級判定で留年が確定し、大学規定の在籍限度を超えてしまった。教授陣や大学事務にも掛け合ったが、なすすべなく放校という処分を受けた。「この数年間、こうなるかもしれないということは感じていました。今はまだ放校になった実感はありませんが、ただただ、両親に申し訳ないという気持ちでいっぱいです」。淡々とわれわれの質問に答える彼の表情は、勉強や実習の重圧から解放され安堵しているようにも見えた。叶えられなかった夢、守れなかった約束歯科医師になることを約束された人生だった。両親はともに歯科医師で、東北地方の地方都市にユニット10台を超える規模の歯科医院を経営している。1日に訪れる患者数も多く、地元住民から信頼されている歯科医院である。そんな両親の間で生まれ育ち、小学校の卒業文集には「お父さん、お母さんのような歯医者さんになりたい」という夢を書いた。中学・高校は地元で1番の進学校に通い、推薦入試で関東地方にある某私立歯学部に入学した。「子どもの頃から、自分は歯科医師になるものだと確信していました。歯学部での勉強はやればできるだろうという自信もあったので、まさか自分が放校になるなんて微塵も考えていませんでした」。歯科医師の資格を取り、臨床家として経験を積んだ後に両親が経営している歯科医院を継ぐーー。順風満帆に思えた彼の歯科医師としての人生は、歯学部入学後すぐに暗転することになる。「放校確定」までの顛末歯学部に入学した彼を待ち構えていたのは、休むことを許されない歯学部のカリキュラムだ。「歯学部での勉強は、想像していた以上に過酷でした。推薦入試で入学した私は、ほとんど受験勉強をしていなかった。朝が得意ではないということも相まって、1年生の冬には成績も出席も足りないという状態になりました」。人間関係のトラブルもあり、彼は1年生で留年することになる。翌年はなんとか2年生に進級したが、2年生でも留年。その後も毎年のように留年を重ね、5年生から6年生に上がることができず、あえなくタイムオーバーとなった。「歯学部に殺される」という危機感彼には、現在の歯学部の教育に対して主張したいことがある。それは、歯学部での評価方法が成績のみに限定されており、努力や人柄を無視しているということだ。「鬱になり学校に来れなくなったり、最悪の場合には自殺した人も出ています。人格的に素晴らしい人や才能がある人も、歯学部に入ると殺されてしまう」と憤る。さらに、歯学部が歯科医師国家試験の予備校と化している点についても指摘する。「大学側の目的は、国家試験の合格率。学生のことを合格率のパーセンテージとしか見ていません。合格率を上げて、大学の権威を保つということしか関心が無いのだと思います」と続ける。おわりに歯科医師になる資質がない者は、歯科医師になるべきではない。国民や患者に対する責任があるからだ。歯科医師国家試験は、基本的資質を有さない者を弾く機能として、重要な役割を担っている。しかし、弾かれた者にも人生がある。毎年、十数名の「歯のことを10年以上勉強した何でも無い人」が誕生しているのだ。資質を有さないと思われる者には、歯学部低学年時から他のキャリアを提案するなどの大学側の仕組みが必要である。さらに言えば、現在の歯科医師国家試験の合格率偏重の歯学教育は、本当に国民や患者のためになっているだろうか。歯学部が「予備校化」したことで、本来研究や臨床という役割を担うべき大学教員のリソースが国家試験対策に奪われ、本来あるべき大学としての機能を失っていないだろうか。われわれにも正解はわからないが、歯学部が抱える教育上の諸問題は、国民の健康な生活のために、もっと議論されるべきテーマである。※個人特定防止の為、内容やプロフィールを一部脚色しています。
1D編集部
2025年12月8日

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