現代において「児童虐待問題」は社会問題としてかなり大きく取り上げられている。
歯科業界においても親が子どもに無関心で歯科治療を受けられない、もしくは意図的に親が子どもを歯科治療へ行かせないなどの虐待を行う「口腔ネグレクト」はご存じだろう。
そして小児人口が減少しているにも関わらず、親から「口腔ネグレクト」を受けている子どもの数は年々増加の一途をたどっている。
そこで今回は歯科業界における虐待「口腔ネグレクト」にフォーカスしていく。
口腔ネグレクトを受け、心身ともに困難な状況におかれている子どもたちに歯科に携わる人間として自分には何が出来るのか。今一度考えるきっかけとなったら幸いだ。
すべての発育発達に関する基礎を作り出す乳幼児期。口腔機能の獲得や発達を促すためには乳児期の正しい生活習慣や生活環境がとても重要な土台となる。
そして乳児期からの基礎を発展、そして維持、向上、健康に対しての自律心を育てる学童期。最後に、学童期までに獲得してきたスキルを基盤にした自己管理が求められる青年期。
乳幼児期から青年期までの正しい口腔管理を実践していくことは決して容易なことではなく、家庭環境や子ども自身の意識や捉え方によって生涯の口腔寿命、健康寿命が大きく左右される。
そして子どもの口腔異常を見逃し、放置することが機能喪失や感染症へとつながっていき、乳児期から青年期までの発育発達へと深刻な影響を与えてしまう。
つまり子どもの多発性う蝕や重度の歯肉炎、外傷などの口腔異常の影には口腔ネグレクトの影が潜んでいるケースが多いのだ。
口腔異常のみから虐待を断定することは極めて難しい。けれど口腔異常を通して家庭環境や育児環境、人間関係などを推測することで、現在子どものおかれている状況の背景が見えてくるのではないか。
研修で歯科医師として虐待について学ぶ機会は多少あったものの、直接的に虐待について学ぶ機会はほぼなかっただろう。
多くの医師は虐待を医学的問題ではなく社会的問題として捉えてしまい、医師が介入すべき問題ではないと位置付けていることが更なる問題を引き起こすことに繋がってしまうことが少なからずある。
まずは歯科医として口腔状態から子どもの口腔ネグレクトを疑うという意識や捉え方を常に持ち続けながら臨床していくということが早期発見の第一歩となるのではないだろうか。
さらに子どもの口腔内だけではなく親の口腔内、経済的要因、育児能力や時間的余裕などの要因を慎重に照らし合わせていくことが必要不可欠だ。
そして歯科だけでは到底すべての問題解決は困難であるため、歯科が橋かけとなり子育て支援や行政のサービスと連携して親密に関わっていくことが非常に重要である。
口腔ネグレクトは直接的に現れるのではなく、間接的に発見されるケースが多いため、親が行政や子育て支援などの社会とつながることで事前に虐待を防げることも少なくはない。
口腔内環境は子育ての環境や生活習慣、親の関わり方などを間接的に表す指標となる。
つまり重度のう蝕や歯周病を確認した場合には口腔ネグレクトとして疑い、環境や原因を探っていくフローが必要不可欠だ。
虐待に関して高い意識を持ち、口腔ネグレクトに対しての捉え方を習慣づけることが口腔ネグレクト単体ではなく、家庭内での虐待のすべてに気づくことができるきっかけとなるのではないだろうか。
歯科に携わる人間として虐待を社会的問題ではなく医学的問題と捉え、歯科を通して多くの子どもたちを救えるきっかけを見つけることが極めて重要な役割と考える。
2022年12月30日(金)、ワンディー株式会社代表取締役であり歯科医師の松岡周吾によるセミナー「口腔の健康の社会的決定要因」が開催される。
社会歯科の視点からマクロ的な歯科医療の問題と健康格差、ポピュレーション・ストラテジーについて語る60分となっている。
1Dプレミアム会員なら無料で視聴できるので、ぜひ参加していただきたい。