直訳すると「怒りの管理方法」という意味で、自分とは違う価値観を持っている人との違いを受け入れ、自分自身の中にある怒りの感情と上手に付き合うための心理教育または心理トレーニングとして、1970年代にアメリカで生まれました。
また「怒らない」ということを目指すのではなく、怒る必要のあるものとないものに分けられるようになることを目的としています。
当初は犯罪者のための矯正プログラムとして活用されていたそうですが、時代と共に一般化されるようになり、企業研修などにも取り入れられるようになったという背景があります。
感情の中で最も攻撃性が強いと言われているのが「怒り」。実は職場の関係性だけでなく、大事な家族や友情をも壊してしまう可能性が高いことが示唆されています。
上司や先輩から言われたことが原因でイライラしてしまい、どうしようもない感情から周りの方に当たってしまっているという経験はないでしょうか?
怒りの種類の多くは、他者に精神的に追い詰めるような言葉や暴力で傷つける行為となり、最近ではインターネットやSNS上での誹謗中傷もそれに当たり、自殺につながってしまっているのが現状です。
また最も恐ろしいこととして、怒りは自傷行為にも結びつきやすいのです。例えば、無意識に髪の毛を抜いてしまう、大量の喫煙や飲酒をしてしまう、強い薬をたくさん飲んでしまう等です。
歯科で例えると、強い圧力でのブラッシングを行う、過度なブラキシズム、また過食症による酸蝕症も自傷行為として当たります。
大企業であるGoogleが行った「プロジェクト・アリストテレス」という、長期に渡って攻撃性のある感情や環境を排除したらどのようになるかを調べた研究があります。これにより、心理的安全性が保たれている職場は、圧倒的に生産性が向上するという結果が出ました。
心理的安全性とは、「組織属する誰もが非難される不安を感じることなく、自分の考えや気持ちを率直に発言できる状態」のことを言います。
それがあることによって、自己開示・自己表現・自己認識ができる、自然体の自分をさらけ出すことができる環境となります。つまり、お互いがお互いを尊重し、ネガティブな指摘も含め何でも言い合え、共通の目的のために助け合える組織となるのです。
今一度考えて見てください。あなたの医院は、歯科医師や歯科衛生士などの立場関係なく、スタッフ全員で意見を言い合い、切磋琢磨できる環境を作り出せているでしょうか?
なぜ“リーダーにこそ”なのだと思いますか?それはとても単純で、怒りというのは「上から下に伝染する」からなのです。
どういうことかというと、例えば上の立場の人に怒られたらその場では謝る人が多いでしょう。しかしその後、落ち着いて考えた時になぜ自分が怒られたのかを推理します。
すると自分のせいではなく、後輩や部下のせいでこうなったと思うようになり、関係があろうがなかろうがその怒りがぶつけられてしまう…という一連の流れが、無意識のうちに繰り返されてしまっているのだそうです。
これを、弱いものがさらに弱いものを叩いてしまう「怒りの伝染力」と筆者は定義しており、職場だけでなく家庭内でも同じようなことが言えます。わかりやすく表現すると、父→母→子→下の兄弟たち→友達や周囲の人々…。
これが患者さんへ無意識に怒りをぶつけてしまっているスタッフが1人でもいるとしたら…患者さんは2度と自分の歯科医院に来院しようとしてれなくなり、それだけでなく口コミにも最悪な評価を書かれてしまい、さらに周囲に伝播してしまう可能性も考えられるでしょう。伝染とは非常に恐ろしいですね。
ではその伝染力のある「怒り」は、どのようにしたら周りに被害を出さないように食い止められると思いますか?次回は、なぜ怒りの感情が生まれるのかと言うことから短期的・長期的にできるアンガーマネジメントのトレーニングについて、お伝えします。