歯科界のトップを走るドクターに仕事の極意を学ぶ「一流ドクターの仕事術」。第2回のインタビューは、神奈川県伊勢原市で開業している医療法人社団つじむら歯科医院、辻村 傑先生にインタビューしました。
辻村 傑(つじむら・すぐろ) 医療法人社団つじむら歯科医院理事長、T-method Institute 代表。1993年に神奈川歯科大学を卒業後、1995年につじむら歯科医院を開業。生涯にわたる全身の健康を考慮した根本的歯科治療を目指す「THP(トータルヘルスプログラム)」による予防管理型歯科医療を提供している。
ーー卒業後すぐ開業されていますが、当時を振り返ってみていかがですか。
歯科医師になり、2年間がっちりと勉強して、すぐに開業しました。当時は、1日で100人以上の患者さんを、1人で診療していました。ただ、ひたすら数を捌けば良いかというと、そうでもない。結局、自分の治療が患者さんの口腔内に残らないんですよね。ヘタすると、再び同じ歯を削ってお金を貰ったりする。
それがすごく嫌で、歯科医師という仕事を辞めようかと悩んでいた矢先、私以外のスタッフが全員辞めてしまいました。当時のスタッフが、患者さんについて蔑んだようなことを言ったんです。それが気に入らなくて、お昼に全員呼び出して、話し合いました。しかし分かり合えず、「もう君たちとは仕事できない、荷物をまとめて出ていってくれ」と。1日100人診療している時代だったので、どうするんだと(笑)。
ちょうどその直後、北欧型の予防歯科に出会いました。きちんと検査をして、リスクをコントロールすれば、疾患の再発を減らすことができる。繰り返しの治療を必要としない、理想的な歯科医療を提供したいと思い、予防歯科に舵を切りました。
私自身は、補綴も形成も大好きです。ただ、補綴物を口腔内で機能させるためには、きちんと口腔内の細菌叢をコントロールして、患者さんをストック型でメンテナンスしていくことが、実は何よりも重要なんですね。
それからはスタッフにも恵まれ、今では当院の離職率はほとんどゼロです。多くのスタッフが10年以上、勤務してくれています。離職率がゼロになると、スタッフそれぞれがスキルを高めることができるので、患者さんに還元できる価値が増えます。
2〜3年でスタッフが入れ替わるような歯科医院では、スタッフ教育も医院経営もうまくいかない。当院では、スタッフ教育に重きを置いています。先に教育を提供することにより、職業観も向上し、離職率が下がっているのではと感じています。
ーー日本の歯科医療が抱える最大の課題は、何だと思いますか。
現在の日本の保険制度では、3年目の若手歯科医師と、30年目のベテラン歯科医師の治療が、同じ点数で計算されますよね。ところが海外では、腕の良い歯科医師は、高い単価を貰うことが当たり前になっています。
日本の保険制度にメリットがあることは疑いありませんが、この仕組みでは歯科医療者個人の技術・スキルにお金をかけることが難しくなりますよね。自費診療であれば、保険診療の3倍、4倍の患者満足度を得なければなりません。だから自然と、自分のスキルを研鑽しようという意識が働く。
ーー保険制度が、ある意味でボトルネックになっている。
海外の歯科医師と比べても、日本の歯科医師はすごく器用で、高い技術を持っています。しかし、保険制度に縛られすぎている側面も、否定できないのではないでしょうか。当院では、ほとんどが自費診療ですし、半数以上が市外からの患者さんです。
開業した直後は、地域に根付いて保険診療をする必要があるかもしれません。しかし、自分やスタッフのスキルが上がった時、自費診療に切り替えて、より良い歯科医療を追求した方が、医院も患者さんもハッピーなはずです。自費診療で、歯科医院はどんどん良くなると思いますね。
極端な話ですが、保険医なんて「歯科医師免許取ってから10年まで」という決まりを作ってしまえば良いんです。そうすれば、自然とみんなが自己研鑽する。
ーー自費に切り替えない医院が多いのは何故でしょうか。
セミナーや勉強会で良い治療を学んだとしても、それを臨床に活かすための歯科医院のシステムが無いことが多いですね。歯科医療者の学びは、患者さんに還元して初めて意味をなします。せっかくコストをかけて得た知識を、現場に活かせないシステムは非常にもったいないと思います。
良い治療を自分やスタッフが学んだら、それを患者さんに提供できるような歯科医院のシステムが、必要なのではないでしょうか。開業して数年経ったら、そのシステム作りに力を入れることをおすすめします。
ーー良い医療を追求する先生の原動力は、どこから来るんですか。
すべての患者さんに対して、最良の医療をプレゼンテーションしなければならないという思いがあります。私は、自分の人生をかけて仕事をしています。来て頂いた患者さんに、ベストなものを提供したい。患者さんには便宜抜髄して保険のブリッジは入れるのに、自分の家族にそれはできない、なんてことはおかしいと思います。
ありがちなのは、自費診療について説明する側が、申し訳なさそうにしてしまうこと。最良のものを、患者さんに素直に説明できていません。そもそも「保険か自費か」という二項対立自体が間違いです。「その患者さんにとって、何がベストなのか?」をプレゼンテーションすれば良いだけです。スキルがあり、患者さんに最良の医療を提供したいという思いがあれば、自然と自費率は上がっていくはずだと思います。
ーー先生の理想の歯科医院って、どのような医院ですか。
自分が行きたくなる歯科医院、ですね。簡単に言うと、身体に良くないものは使わない。当院に来てもらえばわかりますが、ホルマリンのニオイがしないんですね。滅菌方法も、使っている薬剤も、治療を待っている時間も、「自分が患者だったらこの歯科医院を選ぶか」を問いかけて選んでいます。
ーー理想を実現するために欠かせないツールはありますか。
患者さんの情報を整理することは重要です。普通のカルテではなくて、患者さん個人ごとにシートを作っています。そのシートに、患者さんの価値観やニーズ、家族構成、パーソナリティなどを書いて管理しています。当院は担当制になっていますが、患者さんのおもてなし・ホスピタリティには欠かせないツールになっていると思います。
当院では、THP(トータルヘルスプログラム:根本的歯周病治療)を提供しています。THPとは、歯周病のリスクを極限まで低減し、管理することで、全身の健康を守る診療のシステムです。10年以上にわたり研究・開発し、患者さんに応用してきました。自分が実現したい医療をプログラム化し、他の医院でも応用可能にしたことで、現在は全国で50件の歯科医院にTHPが導入されています。これを100医院まで伸ばすことが当面の目標です。
スタッフ教育や自分のスキルアップもそうですが、良い歯科医療を提供するために、もっとチャレンジすべきではないでしょうか。開業したら、同じことをし続けずに変化していく主体性が重要です。自分の経験年数に応じて、提供できる価値の質を上げるためのチャレンジをして頂きたいと思います。
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