NCCLとはNon-carious cervical lesionsの略語であり、直訳は非齲蝕性頚部病変である。 その名称からも、⻭頚部に発生する齲蝕を原因としない硬組織欠損(疾患)であることがわかる。
NCCLの定義を理解するため筆者は名称の語源を辿り、各年代のNCCLに関する代表的な論文*に記されている定義やその引用元を調べてみることにした。その結果、Non-carious cervical lesionsという名称は1992年、Grippoによって最初に使用されていることがわかった。ただし、この時の略語はNCLであった。
*筆者による独断的抽出、全文取得可能なものに限る。1994年、Levichは文中において、「セメント-エナメル境(CEJ)での硬組織の損失」と前置きしたうえでNon-carious cervical lesionsという名称を使用している。後に、BaderはLevichの言葉を引用し同様の定義を記載。その2年後の1998年、Lyttleらは「齲蝕を原因とせずCEJに位置する硬組織が失われることを特徴とするNon-carious cervical lesions」と定義している。
では、1992年にGrippoがNon-carious cervical lesionsという名称を使用する前にはこのような疾患はなかったのか。これには⻑い歴史があり、NCCLに関して1700年代初頭より侵食(1728,Fauchard et al.)や摩耗(1907,Miller et al.)という言葉で表現されてきた。また、Harrisらは、「侵食」の定義の中で頚部におこる象牙質過敏症(CDH)についても後に言及している(1849,Harris et al.)。
NCCLの原因論は1900年代より約100年に渡り、侵食と摩耗またはその両方かで議論されることとなる。そして、1991年Grippoらは新たな原因論として、咬合によるストレスが集中する⻭頚部領域におこる微細構造の喪失をabfractionと定義している。
NCCLの原因に関しては現在でも議論は続いており、傾向の強弱はあるものの多因子によっておこる疾患であると筆者は考える。詳細な原因論に関して、今回は割愛させていただきたい。
WSDとは日本で保険用語としても使用されている。この馴染みの深い略語の総称はWedge Shaped Defectである。 直訳すると、くさび状欠損。この名称に関しては「⻭頚部に発生するくさび状の欠損」という理解が多くの⻭科医師にはあると考える。
しかし、NCCLの形態はくさび状のものだけではないため、正確な用語としては混乱を招く恐れがある事から、注意が必要である。では、NCCLにはどのような形態があるのだろうか。
NCCLの形態を理解するためには、欠損形態を把握する必要があり、十分な理解のためには各形態的構成要素に名称を割り振る必要があった。筆者個人による独断的な命名ではあるが、本記事では以下の通り呼称することとする。
現在、NCCLの形態について報告している最新の論文では皿型、U型、くさび型、V型、そしてこれらが複合する混合型の5形態が報告されている(2020.Peumans et al.)。
この分類基準の基となっているのがLevitchによるレビューである。 彼らは、「形態的特徴と病因論との関連」について報告しており、これらの形態的な特徴によって NCCLの形成に関わる主となる病因を把握できる可能性があることが示されている(1994.Levitch et al.)。記載されている「形態的特徴と病因論との関連」は以下の通りである。
前述した通り、NCCLの原因に関しては多くの要因が複合的に影響し成り立つものであり、 成因はもちろんの事、成り立ち、進行スピードなどは未だ明らかになっていない。しかしながら、多くの⻭科医院ではNCCLの処置方法として充填処置が第一選択となっているのが事実である。
NascimentoはNCCLの修復治療によって進行を抑制できるといった証拠がないことから、その発生、進行プロセスの把握は時期尚早で不必要な治療介入を避けることができると述べており、欠損部最大深さ1mm未満の浅いNCCLに関しては侵襲的な処置を計画する前に少なくとも6ヶ月は経過観察を行う必要があると報告している(2016.Nascimento et al.)。
本記事を読んでいる方も感じているように、NCCLに対する充填処置は対症療法でしかないのである。極論ではあるが、充填を行ったが故に齲蝕を発生させてしまうといった可能性も考えられるためNCCLに対する侵襲的な治療介入には慎重に判断をしていただきたく思う。
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